2003.2.17掲載

解釈を変えないかぎり兼六園の水使用は違法だ
潅漑面積を直視し、河川管理を見直すべし
――県河川課の回答を批判し、再度の要請をおこなう(2003.2.17)――




 本会が平成14年5月23日に公開質問した「辰巳用水と兼六園の水使用について質問と要望」について、5カ月以上経過した11月1日、「石川県河川課」(責任者?不明)の回答があった。これに対する本会の見解をまとめ、要望を含めて、2月17日(月)、県知事へ提出、河川課の方々と議論?をした(報道関係者にも事前にファックス連絡)。

 午後1時05分、河川課会議室で竹内課参事兼課長補佐、水野課参事兼課長補佐、水政担当係長の3名が応対。関係職員2名も同席。本会から渡辺が参加。技術士の中登史紀さんが同席した。報道関係では2社が取材。

 冒頭、渡辺から以下の「回答批判・要請書」を提出し、内容を説明。「これらの問題は4年前から指摘していることで、県はこの間まったく解決へ動いていない。問題の所在は十分過ぎるほど分かっているはずだ。犀川水系河川整備検討委員会の議論の俎上にのぼることは必至であり、真剣に問題解明に向かうべきだ」と批判しました。県から見解表明はなく、「上部にあげて検討をしていきたい」と述べるだけ。事前に対策会議?を開いているはずなのだが、事態が動かない。

 中さんから苦言。「問題をぶつける先が間違っているのかもしれないなあ。あなたたちと話していても当事者という感じが全くない。一体どうなっているのか。いつもいつも上へ上げて検討していきたいだったら、来年もまた同じこと。このまま問題を放置したままずっと行くのか?」と。

 私から一言。「河川管理者として責任を果たさず、このまま放置していくなら、市民として法的請求措置を提起せざるを得ない。水問題の深刻さを直視すべきだ」
 約40分間の要請はこうして終わった。(渡辺記)

●以下は、当日提出した「要請書」


石川県知事 谷本正憲さま         2003年2月17日
                 ナギの会 代表 渡辺 寛

辰巳用水と兼六園、犀川七カ用水の潅漑について
回答に対する批判 及び再度の要請

 平成14年5月23日、質問した「辰巳用水と兼六園の水使用について質問と要望」に対して、同年11月1日、「石川県河川課」から回答がありました。農業用水の問題についての追加回答は未だありません。追加回答を待ち検討すべきのところ、既回答にも様々な問題を含んでいます。犀川水系河川整備検討委員会の議論にも反映されるべき事項もあり、追加回答を待たず、本会の見解を明らかにすると共に、法的にも必要な措置をとられることを要請します。


辰巳用水と兼六園の水使用について
 混乱は残されたままである。


質問《1、2》は、辰巳用水土地改良区と兼六園の水使用について、石川県の許可の混乱を指摘し、同時に兼六園の水使用の根拠を質問したものである。以下、県の回答の問題点を指摘し、批判するものである。

1 経過措置について
 回答で、辰巳用水は、河川法施行法第2O条第1項の規定によって昭和40年以前から「許可を受けたものとみなされた」としているが、この条文は旧法から新法への経過措置を定め、処分や許可などを当面継続させるための規定である。しかし、旧法で許可された内容を示さず「許可を受けたものとされた」では分からない。
 旧法での許可があるとすれば、昭和29年制定の石川県河川取締規則によって行われたとみられるが、これまでに県から公開された公文書には、これらの資料はない。
 回答で、ここまで言い切るには、過去の辰巳用水に関する許可等の資料を公開し、現在までの継続性を示すべきである。

2 東岩取水口前の「頭首工」工事について
 昭和42年1月23日、辰巳用水土地改良区から申請されたものは、本会が資料で詳細に指摘したとおり、内容は東岩取水口前の頭首工(堰)工事についての申請であり、しかも金沢市が行った災害復旧事業で、本来、河川法での申請は必要のないものである。
 何度も行われている「更新」資料をみても、土地改良区からの申請は、一貫して頭首工の土地占用の延長を求めているのであって、水利権=流水占用許可を求めているのではない。これについては、県も辰巳用水土地改良区から、直接はっきりと「辰巳用水は慣行水利権である」と説明を受けているはずである。混乱の責任は県にある。

3 慣行水利権届出書を無視
 回答では、昭和42年3月30日、辰巳用水土地改良区から出された慣行水利権の届出書の存在をまったく無視している。添付資料で詳細に説明したとおり、辰巳用水土地改良区は、新河川法(S40.4施行)の規定によって慣行水利権を届け出、この措置によって、辰巳用水は慣行水利権として法的にも確定している。この時期には、関連する他の用水も一斉に届け出を行い、慣行水利権として水利台帳に記載されている。辰巳用水だけが、前項のとおり主に行政担当者の「河川法についての無知」と思われる手続きで許可水利権としているのであって、河川管理者として極めて無責任である。

4 日本語の使用レベルの話は検討に値しない
 許可書文面にある「かんがい期以外は兼六園への引用水として取水する」とは、文字通りであって、回答のように「かんがい期以外においても水利用が必要であるため、通年的な取水を許可するもの」と解釈・強弁するのは、もはやまともな議論ではない。日本語の使用レベルを論ずる世界で、検討に値しない。

5 兼六園の水使用=慣行水利権の宣言を
 回答の文面のどこを見ても、兼六園の水使用の権利を説明する根拠は見あたらない。「潅漑期以外」あるいは「通年的」な兼六園への流水は、管理上の放流義務(余水の扱い)を求めているものであって、流水の受け手である兼六園の水使用の権利は不明のままである。質問《1、2》の本旨はまさに、この一点にあり、兼六園の水利権の根拠を求めたものであった。水利権は水使用の当事者に発生するものであって、他人からの放流義務に依拠するものではない。
「兼六園の管理責任者たる知事」は「河川管理者たる知事」に水使用の許可を求めるべきで、これが河川法上の規定であり義務である。こうした措置が不要となるのは、本会の指摘するとおり、唯一、辰巳用水からの水使用が慣行水利権である場合だけである。
 現在のように「辰巳用水は許可水利権である」という解釈をとり続けるかぎり、兼六園の水使用は違法と言わざるを得ない。
言い訳に苦労する必要はない、兼六園の水使用は慣行水利権であることを宣言し、その旨を水利台帳に記載しなければ、歴史的文化財・兼六園の水使用に汚点を残し続けることになる。


◆農業用水には水が垂れ流し――

潅漑面積激減と水使用について
 この項目に対する回答は、法の趣旨を繰り返しただけで、回答になっていないため、追加回答を求めた問題である。河川課担当者からも「追加回答したい。1カ月程度の猶予をいただきたい」と表明されたことであるが、年を越し3カ月半になる。
 この間、本会も潅漑面積と水使用について調査を進め、具体的に問題点を整理した。

調査結果
@犀川七カ用水といわれる7つの用水の潅漑面積は平均35%以下になっている。
A灌漑用の水使用の計算根拠は、慣行的秩序を除き、《単位水量×潅漑面積×損失率》なる単純なもので、潅漑面積に比例している。
B許可水利権の更新には法的に必要な調査はされず、初年度の許可水量が更新されている。
C一部用水の許可水利権には他の用水の同意もなく許可されている。
D慣行秩序による灌漑用の水使用も潅漑面積激減で矛盾をきたしている。

以上の問題が明らかになった。
つまり、総じて農業用水に水が垂れ流し状態であることが明らかになったのである。本来、河川管理者が河川全体の水使用を調整し、流水の適正管理を行う責任を法定受託事務として国土交通大臣から求められているはずなのであるが、こうした責任をまったく果たしていない。
 早急に、こうした問題解明に着手すべきである。

《付記》県の新庁舎が立つ場所は、鞍月用水と大野庄用水によって潅漑しているど真ん中である。この地域で潅漑面積は限りなくゼロになる。


◆辰巳用水の所有権について――

 回答書全体の中で、肯定的に評価できる唯一の部分である。行政的表現ではあるが「今後、整理してまいりたいと考えております」と。これは「調べても分かりませんでした。これから調査します」という内容として受けとめたい。
この問題は、まさに「ダム建設・辰巳用水破壊」と不可分である。このままダム建設が進むと、所有権不明のものを破壊することになる。


◆ 工業用水(金沢市、石川県)の遊休水利権問題の解決を

 この問題は緊急であり、質問・回答に含まれていないが以下の点を要請する。
 金沢市が犀川ダム建設時に取得した工業用水水利権、及び石川県が手取川ダム建設時に取得した工業用水水利権は河川法上の遊休水利権であることは明白であり、水利権破棄、貯留量の目的転用、財政措置の検討のため金沢市及び国と協議を行ない、確実に問題解決にあたること。


添付資料
1 犀川七カ用水の潅漑面積の変化(こちら)
2 中村高畠用水資料(こちら)
3 辰巳用水土地改良区「用水管理計画」(こちら)
4 辰巳用水土地改良区「申請と許可書類一覧」(こちら)
5 辰巳ダム操作規則第28条と別表(県の法規集へ)

なお、これらの資料についての詳細は、本会のホームページを参照ください。