犀川本流から、多くの農業用水が取水されている。
特に重要な7つの用水は、江戸時代からの慣行秩序を維持し「犀川七カ用水」として運営管理されてきた。近代に入り、明治24(1891)年「犀川通七カ用水配水取扱規約」が制定され、大正8年4月11日の県指令収土第706号で、次のように確定した(表の左部分)。
用水名 |
取水口 |
|
計算取水量(m3/s) |
現行水量(m3/s) |
寺津用水 |
1尺1寸 |
0.46 |
25※(慣行) |
辰巳用水 |
1尺6寸 |
0.67 |
0.70(慣行※) |
長坂用水 |
1尺5寸 |
0.63 |
0.64(許可) |
鞍月用水 |
1尺8寸 |
0.76 |
0.76(慣行) |
大野庄用水 |
2尺 |
0.84 |
不明(慣行) |
泉用水 |
1尺8寸 |
0.76 |
0.76(慣行) |
中村高畠用水 |
1尺4寸 |
0.59 |
1.154(許可) |
※注 寺津用水の流量《25》は単位不明。
※注 辰巳用水は慣行水利権であるが、県は許可水利権としている。
以上は、鞍月用水と泉用水の「慣行水利権届出書」から知ることができる。各用水の取水量は比例計算した。
中村高畠用水に現在許可されている水利権の取水量は、1.154m3/s となっているのだが、この数字は慣行的秩序によった取水量の2倍になる。
■水利権行政の混乱
中村高畠用水の許可申請資料と土地改良区組織変更申請書から、様々な農業用水と河川管理、水利権行政が混乱している姿が見えてくる。
結論を先に示す。
その1 中村高畠用水の現行許可水量決定の根拠は一方的な計算で、過去の農業用水の慣行秩序による使用量の2倍となっている。
その2 この計算が妥当だとすれば、他の用水から同様な申請があれば許可を与えなければならず、整合性がとれない。他の用水組合からの同意書もなく、慣行秩序を破壊している。
その3 基礎量を単純に潅漑面積に乗じた水量を許可しているため、潅漑面積が激減した現在、相当量に減量しなければならず、取水口の縮小などの措置を求めなければならない。
以下、中村高畠用水の許可申請書、許可書、土地改良区組織変更申請書を検討し問題点をあきらかにしたい。
■問題ある中村高畠用水の潅漑必要量の決定計算
中村高畠用水は、大正8年1月25日に、取水量毎秒14立方尺56(約0.59m3/s)の許可を石川県から受けている。この水量は、「犀川七カ用水取決め」と符合しており、妥当な数字である。しかし同組合は、昭和38年10月16日、流水使用許可を申請し、1.154m3/s の許可を受けた。この数字は大正8年許可量の約2倍にもなる。この異常な数字はどうして導き出されたか?
もともと、大正8年の許可量は、江戸期から明治期の「犀川七カ用水取決め」に基づき、平穏に定められたはずのもので、昭和38年当時まで、潅漑面積に大きな変動はないから、この数字が犀川から潅漑用水への基本流量なのだ。
この数字の根拠は、昭和38年10月の許可申請にある。しかしこの計算は素人目にも誤っている、と思うのだ。
◆計算式
昭和38年10月の水使用許可申請書に計算式が書いてある。
概略を説明する。
@単位純用水量:0.00347t/秒
A潅漑面積:253町9反歩
両者を乗じて、
B総用水量:0.881t/秒
C損失量割増し 31%
D総使用量:0.881×1.31=1.154t/秒
要するに、
0.00347(t/秒)×253(町=総面積)×1.31(蒸発など損失)
という単純計算である。
いろいろ書いてあるが、この中の数字で、根拠不明の数字が@である。
この数字《1haあたり純用水量 0.00347m3/s》とは何か?
申請書に難しい計算式を書いてあるが、これが根拠だとすると、他の用水から同趣旨の計算式を示されれば許可を与えなければならず、水利権行政は混乱し、新しい水争いが始まることになる!!
水争いが起きないのは、潅漑用の水がそれほど必要でないためと考えられる。潅漑面積が減少し、必要以上の水が用水に取水されていることの傍証になろう。
◆中村高畠用水資料/根拠のない錯誤申請
◆水田灌漑水の収支計算の方法(整理中)
◆潅漑面積激減の状況はこちら
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