2002.6.18 2005.2.3整理更新

辰巳用水の「水利権申請書類」一覧


県も、土地改良区も、ちょっと情けないぞ!

水利権に対する理解が、「双方」になかったことがよくわかる


河川法成立
 昭和40年4月1日、「昭和河川法」が施行され、農業用水の水利権を許可に切り替えるよう石川県内でも指導された。
 これを許可水利権というのだが、当時の国会の議事録を読むと、歴史的に長期間慣習的に使われ、また、自然・天候に依拠する農業のための水使用を、書面でキメキメに決めることそのものに無理があることから、全国で農業団体や全国知事会などが激しく抵抗し、河川法成立の抵抗勢力になっていた。建設省は、この慣行的水使用を、許可水利権と同等の権利とみなすことを届け出によって認めることを盛り込み(法87,88条)成立した。
(◆参考:河川法と水利権の基礎知識)

慣行水利権の届け
 辰巳用水の場合、潅漑、兼六園、都市用水にと、多面的に使用されていることや、360年以上前に作られた貴重な文化遺産であること、その管理を農業団体である土地改良区が行っていること、市や県が用水の補修にこれまで多額の費用を使っていること……等々から、許可に切り替えることが難しく、辰巳用水土地改良区は県からの許可水利権への切り替え要請に対し、慣行水利権の届出書を提出した(昭和42年3月30日)。この時期、届出書を提出した土地改良区を一覧として記す。

  土地改良区名       届出年月日      目的
 泉 用 水 土地改良区  昭和42年3月10日  かんがい
 辰巳用水土地改良区  昭和42年3月30日  かんがい、兼六園取水
 鞍月用水土地改良区  昭和42年3月30日  かんがい、防火用
 寺津用水土地改良区  昭和42年5月 2日  かんがい


 これらの用水のうち、辰巳用水以外は、慣行水利権として水利台帳に記載されており、ここに名前のない大野庄用水も水利台帳に「届出書なし」として、慣行水利権として記載されている。
 なお、石川県には、慣行水利権の届出書が約700枚、公文書として保存されている。慣行水利権調査のためすべて入手し、現在整理中=渡辺。

辰巳用水は慣行水利権として確定!
 この届出書によって、辰巳用水は慣行水利権として法的にも認められている。これですべて解決しているはずなのだが、県は、辰巳用水を許可水利権として水利台帳に記載している。
 これにはちょっとややこしい経過がある。
 主に、県の水利権の許認可事務を扱う部署で、手続きや水利権についての理解がなく、混乱を与えているのだが、辰巳用水の管理者である土地改良区の方にも、「手続き」に厳密さを欠き、混乱を拡大しているのである。
 なぜ県がこれを「許可水利権だ」としているのか? 県が根拠とする資料を整理してみた(後掲の一覧表)。


辰巳用水土地改良区の申請書類(解説)  

災害復旧工事の申請書
 表の最上段は、昭和42年に辰巳用水土地改良区が県に申請した内容で、これが初年度として、以後、更新が繰り返され、一番新しいのは、平成12年である。
 この許可申請は、災害復旧として辰巳用水東岩取水口前の頭首工を設置する建設許可と土地占用許可を求めているものである。

河川法23条(水利権申請)は不要
 本来この工事には、河川法第24条の土地占用許可と法26条による建設許可だけが必要である。災害復旧だからあるいは、現状回復の意味で、24条も26条の許可もいらない可能性もある。(これは、昨年、北陸農水局を訪ねて聞いた時「詳しくは調べなければいけないが、必要がないかもしれない、そういう工事も過去には行われている」と担当者が言っていた。)
 この工事は金沢市が災害復旧で行なっているため、申請がもし必要であっても申請者は金沢市がやるべきで、辰巳用水土地改良区が申請主体になるのはおかしい。はっきりしているのは、法23条(流水占用許可=水利権本体)は全く必要がないことである。

双方の理解不足がうんだ混乱
 通常、23条による流水占用の申請の場合、取水口やその形状など取水施設についての記載が必要である。
 こうした最初からおかしな書類が作られていて、これが混乱の元になっている。事務手続きの混乱というものではなく、水利権あるいは河川法についての基本的理解が土地改良区、河川管理者(石川県)に不足していたことがわかる。以後何度も更新されるが、その度に申請内容も、許可内容もクルクル変わり、一向に改善されない。現在に至るまで、双方の理解不足は残されたままである。

 双方と書いたが、辰巳用水土地改良区の名誉のために付け加えると、土地改良区は、辰巳用水は慣行水利権であることを一貫して主張しており、河川法88条による昭和42年3月30日に慣行水利権の届出書も提出している。この書類の提出で慣行水利権は法的にも確定していると考えており(筆者も同様)、許可か慣行かで疑念が生まれるはずのないことである。
 筆者の聞き取りでも、土地改良区の幹部は、「更新のたびに県から書類をもってくる。その都度、担当者には、辰巳用水は慣行水利権であり、23条での更新は必要ではないと、説明をするのだが、担当者は頭をさげて、書いて下さいと言う。こちらも面倒だから、好きなようにしろ、と言うんや。県がどういう処理をしようが、慣行水利権に間違いはないんだ。県が許可水利権だというなら、それは間違っている」と、はっきり説明している。

不要な更新実務
 表の更新時の内容を見ていただきたい。若干の混乱はあるものの、申請目的を見ても、頭首工の土地占用許可だけの更新を求めているのがわかる。これに対して県は、23条をくっつけて、さも許可水利権であるかのような処分をしている。

公文書の記述の書き換え
 また、直近の平成12年も、法24条だけでの頭首工の土地占用更新申請であるが、許可書には、「23条、24条での規定で許可する」としている。現在生きている許可内容である。しかもこの時は、占用目的を「用水堰取水施設の用に供する」としているが、許可書には「潅漑用以外は兼六園への用に供する」と一行を追加している。元々「潅漑期以外は……」となっていたものが、この更新で「潅漑用以外は……」と「期」を「用」に置き換えている。これは、県によって、辰巳用水の本質を変えているのではないかとの疑念が浮かぶ。また、許可期間が10年間と異常に長い。この件について、土地改良区との同意があったのかどうか?

 ちなみにこの最後の許可書は、部内伺文書によれば、金沢土木事務所管理専門員・蔵谷弘が起案し、決済印として、野本所長、山堀次長、四木次長、足山庶務課長、彦田同係長、北間維持管理課長、?(不明)同係長の連判がある。



東岩取水口前の頭首工(堰)設置のための申請・更新の一覧

申請(更新)年月日 申請内容 取水量 占用面積 期間 備考
昭和42年1月23日 「許可申請書」
潅漑用水取水のため頭首工設置(災害復旧石張)設置
0.70t/秒 河川敷363m2 S42・6・6〜
S47・1・31
河川法23,24,26条と記載。
添付書類:水利使用に係る事業計画概要、使用水量の算出基礎、工作物の設計書、位置図、災害復旧事業補助計画書(事業主体:金沢市)、同意書(金沢市用水連合会、上ノ島用水組合)
県の処理 (川港課伺い書 1/31付)河川管理上別段支障なきものと思科されるので、これを別案により許可してよろしいか伺います。
(土木事務所長決済 日付なし)調査の結果許可して支障がないと認めます。
(土木部長通知 日付なし)別紙写しの通り許可された。(川港収第48号 日付なし)

(知事許可 2/6付)石川県指令河港第48号 河川占用及び流水占用の目的並びに方法は、潅漑用水取水のため頭首工の設置により取水する。潅漑期以外は兼六園への引用水として取水する。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。
昭和47年1月21日 法24条による「許可申請」
同上 同上 S47・2・1〜
S52・1・31
添付の別紙なし(紛失か?)
河川法24条で許可申請(継続とハンコで訂正あり)
県の処理 (土木事務所伺い書 1/22付)23,24条を消し「24条の規定に基づく」伺い。占用目的:潅漑用水取水のため頭首工の設置により取水する。
(土木部長決裁書類なし)
(知事許可 1/24付) 23,24,26条の規定で許可(県指令金収第153号)。潅漑用水取水のため頭首工の設置により取水する。取水量は0.7t/秒。潅漑期以外は兼六園への引用水として取水する。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。
昭和52年1月12日 「河川敷占用継続許可申請書」
同上 同上 記載なし 添付:既許可指令写し(添付書類なし)
県の処理 (金沢土木事務所伺い書 1/14付) 23,24条の規定に基づく許可。別案のとおり許可してよろしいか。
(土木部長決裁書類なし)
(知事許可 1/18付) 23,24条の規定で許可(県指令金収第153号)。河川占用及び工作物設置の目的並びに方法は、潅漑用水取水のため頭首工の設置により取水する。取水量は0.7t/秒。ただし潅漑期以外は兼六園への引用水として取水する。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。
昭和59年2月16日 法23,24条の「許可申請」 同上 同上 S59・4・1〜
S69・3・31
(*S69はH6)
河川法23,24条で許可申請(継続とハンコあり)
期間は、申請書ではS64.3.31まで
県の処理 (土木事務所伺い書 3/29付)「23,24条の規定に基づく」伺い。占用目的:潅漑用水取水の為頭首工の設置により取水する。
(土木部長決裁書類なし)
(知事許可 3/31付) 河川占用及び工作物設置の目的並びに方法は、潅漑用水取水のため頭首工の用に供する。取水量は0.7t/秒。ただし潅漑期以外は兼六園への引用水として取水する。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。
平成7年2月22日 法23,24条「継続許可申請」 同上 同上 H7・4・1〜
H12・3・31
占用の目的及び態様:潅漑用水及兼六園引用水取水ための頭首工
※前回許可で、期限はH6年3月に切れている!
県の処理 (金沢土木事務所伺い書なし)
(土木部長決裁書類なし)
(知事許可 4/1付) 河川占用及び工作物設置の目的並びに方法は、用水堰取水施設の用に用に供するため。取水量は0.7t/秒。潅漑期以外は兼六園への用水とする。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。
平成12年3月7日 法24条の「継続許可申請」 同上 同上 H12・4・1〜
H22・3・31
24条で申請しているが、23、24条で許可。また、占用目的に「用水堰取水施設の用に供する」となっているが、許可書には「潅漑用以外は兼六園への用に供する」を追加している。
県の処理 (土木事務所伺い書 3/15付)別紙のとおり許可してよろしいか。(別紙なし)
(土木部長決裁書類なし)
(知事許可 3/21付) 法23,24条の規定で許可する。潅漑用以外は兼六園への用に供する。取水量は0.7t/秒。河川法と県河川規則を完全遵守履行すること。


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