水利権の知識で何ができるか?(2003.2.2 大阪講演資料)


2003.2.10掲載

水利権の知識で何が出来るか?
 【資料編】
渡辺 寛(ナギの会/辰巳の会)

河川法と水利権の基礎知識
1)河川法とは何か
 @明治河川法から昭和河川法へ
  1)新憲法による国民の権利義務に関連し、河川管理方式の近代化
    広域水資源開発、国の一元管理
     (自治体首長は法定受託事務として河川管理者となる)
  2)区間主義から水系一貫管理へ
    財政負担、治水事業の計画的整備体制づくり
    工事実施基本計画→工事実施基本計画・河川整備計画
  3)利水関係規定の整備
    治水中心から利水との調整規定を入れる必要性。
  4)ダム防災に関する規定整備
    水害発生原因にダムがあり、ダム設置と操作規定入れる必要性。

 A河川とは何か
  本来自然に存在し無目的なもので敷地と流水(伏流水を含む)をさす。社会的には公共用物としての機
  能と目的をもつ。

 B河川の使用とは何か
  河川は行政主体によって公衆の共同使用に供される。河川管理者は災害の発生を防ぎ、被害軽減のため
  管理し、適正に利用されるよう管理する。河川管理者は国であるが、法定受託事務として2級河川は県
  知事にある。

2)水利権とは何か
  @成立に由来する分類――
    許可水利権
    慣行水利権
  A使用目的による分類――
    潅漑(農業)用水利権
    工(鉱)業用水利権
    水道用水利権
    発電用水利権
    養魚用水利権
    その他(融雪用など使途によるもの)
  B権利の安定性による分類――
    安定水利権
    豊水水利権
    暫定水利権
    暫定豊水水利権


河川の使用の種類
@一般使用(普通使用・自由使用)
 使用になんら権利が生じない自由な使用。(例:家事用水、洗たく、水泳、遊漁……)

A許可使用
 河川使用で社会的効用が十分発揮されるよう、河川管理者は公物警察権と公物管理権に基づき、一定の自由使用を禁止している。特定の者に禁止を解除し使用するもの。権利は発生ない。(例:船の係留、家畜の放牧、汚水の放流……。(河川法29条)

B特許使用
 公物管理権により、特定のものに特別の使用権を設定し使用を認めるもの。財産の形成と関わるため、権利が発生する。流水占用、土地の占用、土石採取。(例:農業用水、水道、工業用水、発電…。)
 権利を書面に固定する。(河川法23条=流水占用、24条=土地占用、25条=土石採取)しかし、農業用水の水使用の実態は慣行的に使用されている。これを水利権の二重性という。

C習慣上の使用権に基づく使用
 使用が社会的に正当なものとして承認されることにより成立する公物使用権による使用。特許をうけたものとみなす使用権。慣行水利権。迷の変化に即応して合理的に対処可能。(河川法87条)

流水の占用とはどういう意味か。
  河川の流水を排他的に使用すること。その使用と両立しない他人の行為の存在を認めない。
  それによって利益をうける。

水利権とは何か。
 所有権ではなく流水の占用権。物権。公法の制限を受ける私権。優先的効力と物上請求権をもつ。売買、譲渡、信託…もある。
【水利権の存続期間】
 期間が設定される。通常10年、発電などは30年。半永久的に存続すべきものとして設定され、占用目的がなくなった場合に水利権は廃止される。期間の設定は遊休水利権を排除する機会を河川管理者に与えるもの。
【慣行水利権の定義】
 定義=一定の者が一定の流水使用(取水ないし利水)を反復継続し(習慣)、その慣行が社会的に承認されることによって成立する権利。
 河川法成立2年以内に届出書の提出を行政指導。期限は昭和42年3月30日。しかし届出のない慣行水利権は多い。
【専用水利権、余水水利権、共用水利権】
 水利権の成立経過で決まる。新田開発など上流の水利権でも余水水利権となり下位の水利権となる(古田優先の原則)。使用の実態によって、専用、余水、共用の水利権となる。
【河川法成立時の争点】
 新規利水(発電など)は農業用水や慣行水利権に割り込む必要があり、新たな水争いの場となるため、全国知事会や農業団体は反対。農林省は微妙な態度。発電など新規水利権は権原(権利の発生した原因)を守る責任がある。
【慣行水利権の現代性】
「慣行は絶えず変動する社会経済的諸条件に依拠。旧態依然たる権利ではなく今日的現代的問題である」
【遊休水利権】
許可を受けていても放置されている状態の水利権。許可当初から変更や不要になった場合に発生。「権利の上に眠る者を保護することになるばかりでなく、他の緊急に必要な水利使用を排除し、望ましい水利秩序を乱す」と国は明快な見解を示している。
【水利権の競合】
 河川管理者には調整責任がある(法38条以下)
 関係河川使用者へ通知義務。同意を得る。意見の申し出。損失補償。制限…。一般に、水利権取得の時期の順番によって優先順位が決まる。
【河川改修と慣行水利権】
 旧建設省と旧農林省では見解が微妙に異なっている。
 建設省の意見=慣行水利権について、かんがい面積、必要水量等その内容を明らかにするとともに、機会を得てできるだけこれを許可水利権に切り替えること(河川局長通達「水利現況の把握」)
 農林省の意見=河川改修に関連して農業用の取水施設が改修されるような場合は単なる取水施設のみに関係するもので受益地区の水使用を伴うものではなく、慣行水利権を許可水利権に切換える必然性はない(農業水利研究会「土地改良事業のための河川協議の実務」)

遊休水利権とは何か?
@ 未開発水利権
A 未利用水利権

【資料】遊休水利権に関する件
   (昭和25・3・14各知事宛河川局長通牒)
 標記の件に関しては、日頃種々御配慮を煩わしているが、発電その他の目的のため水利使用の特許を受けたにも拘わらず水利使用をなすに必要な諸設備をなさず又はなし得ないため折角の水利権が活用されないまゝの状態にあるもの(遊休水利権)が全般的に見てかなり多数あり、ために円滑なる電源開発等の障害となっている事例が少なくない。これが発生するに至った原因については種々は事情が挙げられるのであろうが、主戦後再び電源開発が強く叫ばれ、これが基盤をなす発電用水利権が経済的社会的に高く評価されるに至った今日、速やかにかゝる未開発水利権を整理し、併せて利水行政確立の基礎を築くことが緊急と考えられるので、慈今左記要領にてこれを整理する方針で進みたいと思うから予め御含み置き願いたい。
(最終決定は関係各省と協議する予定)尚戦災その他の事情のため中央地方を通じ水利権台帳が極めて不備のまゝ放置されている現状にあると思われるので今回これを整理いたしたく、差当り貴県関係分としては別記地点が一応遊休水利権に該当すると考えられるので、これが自由の及びこれに対する意見を別記様式により調整の上至急報告されたい。
別記
一 遊休水利権の発生した原因を個々に究明し水利権設定の際における命令書条項を厳格に適用して当然失効すべき水利権はこの際執行処分として台帳から抹殺の措置をとること。
 右に該当するものとして次の場合がある。
 a 水利権設定後所定の期限内に工事の実施認可の申請をせざるもの。
 b 水利権設定後所定の期限内に工事に着手しないもの。
二 工事実施認可申請に対し管理者より認可の処分なく今日に至っているものがあるが、この際内容を検討して至急認可不認可の処分をなすこと(本省に稟伺中のものは当方にて緊急に措置する方針である)。
三 工事実施途次にて中止したものについては継続実施の意志がある程度客観的に証明されるものは、竣功期限伸張のの手続をとられ意志なきものはこの際水利権を取消し、残存物件の措置をすること。
四 遊休水利権の期限伸張は原則として認めない。但し最近に開発の見込みありと証せられるもののみにつき関係省と協議の上暫定的に例外措置として短期間(1−2年)条件附に伸張を認めること。

【資料】「水利権実務一問一答」
【問】遊休水利権とはどのような状態の水利権をいうのか。
【答】遊休水利権とは、流水の占用の許可を受けているにもかかわらず、その許可に係る行為をしていない状態となっている水利権をいう。
 一つは、流水の占用がまだ開始されていないもので、流水占用を行うのに必要な施設の設置ができていなかったり、流水占用の目的を実現するために必要な要件(たとえば事業の認可)が満たされていなかったりするために起こるものである。このタイプのものを未開発水利権ということがある。
 もう一つのタイプは、一度は必要であった水利権が、その後不要になったにもかかわらず権利変更の措置が行われていないもので、流水占用の目的が消滅したり、必要水量が減少したりするときに起こるものである。
 このような遊休水利権が存続することは、権利の上に眠る者を保護することになるばかりでなく、他の緊急に必要な水利使用がを排除することになるなど、望ましい水利秩序を乱すことにもなる。
 これに対処するには、原則的には、流水占用の許可に際してその実現性を十分に考慮すること、期間の更新の申請に際しチェックすること、さらに、必要があるならば、河川管理者の監督処分として、許可の取消しや変更などを行うことが必要となる。

水利権の知識で何ができるか?
辰巳ダムの場合-----------------------
●徹底した情報公開請求による第1次資料の検討
●金沢市の工業用水は遊休水利権だった=「犀川上流に辰巳ダム1個分が空いている!」
《工業用水問題、各地で訴訟に発展!》
 秋田県が工業用水訴訟で敗訴(王子製紙進出断念/目的転用で和解)
 徳山ダム上流、岩屋ダムで遊休水利権住民訴訟
 金沢市、第2次工業団地造成を断念
●県は自縄自縛! 兼六園の水使用は違法だ!
 「潅漑期以外は兼六園へ取水する」
●辰巳用水の潅漑用水の取水量は間違い
 「潅漑に0.27t/秒。なぜ0.7t/秒か?」
・辰巳用水土地改良区の慣行水利権届出書/土地改良区組織変更申請「管理計画書」
●辰巳用水の所有権が不明「所有者の分からない用水をダムで破壊する!」
二つの裁判
 「先祖が作った道頓堀を返せ!」(大阪道頓堀裁判)
 「土地を組合に返せ!」(東京三田用水事件)
●辰巳用水に二つの水利権がある!(意外な盲点)
  専用水利権と余水水利権/慣行水利権と許可水利権
●辰巳用水と犀川七ケ用水の話
  江戸時代に確定した犀川の水使用の秩序
  秩序を混乱させている県の水利行政
  潅漑面積が激減しても水は昔のまま流れる

●激減する潅漑面積(単位:ha)

用水名 H13年
(a)
12年 11年 10年 9年 S40〜S20年
(b)
a/b(%)
寺津用水 58 58 58 58 58 120 48
辰巳用水 23 23 25 25 25 60 38
長坂用水 28 28 28 28 28 75 37
鞍月用水 129 129 129 134 145 330〜423 39〜30
大野庄用水 319 319 336 336 336 738 43
泉用水 21 28 28 28 28 134 15
中村高畠用水 57 57 57 57 57 250 22
635 642 661 666 677 1707〜
 1800
37〜35


●犀川七カ用水取決め(明治41年)
 寺津用水常水   1尺1寸  辰巳用水常水   1尺6寸
 長坂用水常水   1尺5寸  鞍月用水常水   1尺8寸
 大野庄用水常水  2尺    泉用水常水    1尺8寸
 中村高畠用水常水 1尺4寸

《水利権がわかる資料》
「農業水利権の研究」(渡辺 洋三著)
「水の法と社会」(森 實著)
「判例の水法の形成とその理念」(三本木 健治著)
「水利権」(安田 正鷹著)
「水利権」(建設省河川研究会)
「水利権実務一問一答」(建設省河川局)
「河川法資料集第1集,第2集」(建設省河川局)
「河川全集第一巻 水利権」(建設省河川研究会編)


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