万葉集に詠まれたミズアオイ

ミズアオイは万葉集にナギとして4首詠まれている。



 当時は、水葱(なぎ)と呼ばれ、歌の内容から、食用に栽培もされていたことも分かる。
 独特の花の色を染めに使用していたこともわかってくる。
 葉や花の独特の色と形が歌になる。真夏から晩夏に、このような紫の花を咲かせる花は少ないので、目立つ存在である。その特徴から求愛の歌として詠まれたものだろう。

 しかし、花期が終り、種子の熟成期間に入、枯れ出すとボロボロの枯れた状態になる。花の美しさに比べ、万葉集にたった4首しか登場しないのは、あるいはこの汚さが嫌われたからかもしれない。(ミズアオイと違ってオニバスは万葉集に登場しない。)

歌の中に出てくる言葉

植子水葱(うえこなぎ)=ミズアオイが栽培されていた証拠となる言葉。
水葱(なぎ)=ミズアオイの古名である。
子水葱・子葱(こなぎ)=ミズアオイより小さい。万葉時代は両者は区別されていなかったようである。

 なお、ナギがミズアオイと呼び方が変わったのは、おそらく江戸に入ってからだと思われる。ハート型の葉の特徴と徳川の紋章が似ているためだ。
 万葉集以後、他の和歌集や現在までいくつか詠まれているので、その時代と呼び名を検証することでミズアオイと社会の関係が想像できる。それは別ファイルで紹介する。
                      (渡辺 寛@ナギの会)

春霞 春日の里の植子葱 苗なりといひし枝はさしにけむ
 はるがすみかすがのさとのうえこなぎ なえなりといひし えはさしにけむ

 意味 春日の里に植えた水葱はまだ苗だということであったが、今は枝ものびて食べられるようになったでしょうね。
 本意 あなたはもう成人になったでしょう。私の妻になってほしい(求愛の歌)

上毛野 伊香保の沼に植子葱 かく恋ひむとや種求めけむ
 こうずけのいかほのぬまにうえこなぎ かくこいむとやたねもとめけむ

 意味 上毛の伊香保の沼に生えている水葱を私は植えておいて、その美しさに心を悩ましている。こんなに恋しく心をいためようと種を求めたのではなかったのだが。
 本意 あなたに恋い焦がれている。こんなはずじゃなかったのに(求愛の歌)

苗代の 子水葱が花を衣に摺り 馴るるまにまに何かかなしけ
 なわしろの こなぎがはなをいにすり なるるまにまにあぜかかなしけ

 意味: 苗代に混じって生えている水葱の花、その花を着物に摺りつけ着馴れるにつれてどうしてこうも可愛いくてならないのであろうか
 本意 ちょっと手を出した女の一人だったが、情が移ってしまった。
    (男の勝手でしょ? これをもらった女性は怒ったかも)

醤酢に 蒜樢き合とて鯛願ふ 我にな見えぞ水葱の羹
 ひしおすに ひるつきかとてたいねがふ われになみえぞなぎのあつもの

 意味: ひしおすにノビルをつきこんだ和え物と鯛を食べたい思っている私に、見せつけてくれるな。水葱の吸い物なんか!
 本意 ??(ミズアオイが一般的に食されていた証拠となる歌)

不味かったミズアオイ料理
 最後の歌をヒントに、「では実際に食べてみよう」という会を持ったことがある。「レッドデータブックの水草を食べてもいいのか……」なんてワイワイ言いながら天ぷら、みそ汁、ゴマ醤油和え……いろいろメニューを揃えた。
 しかし、参加者一同、評判はイマイチ。いずれもおいしくなかった。まったく風味がない。「味もそっけもない」のである。
                       (渡辺 寛@ナギの会)