「河北潟を考える会」が発足するまで



1992年の地球サミット以後、市民の間で急速に広がった、環境意識。それを反映して、様々な環境問題に取り組むグループが生まれた。石川環境ネットワークもその一つ。

こうした市民団体をNPO(非営利団体)、NGO(非政府団体)といい、地球サミットをきっかけに広く知られてきた。

河北潟の様々な問題に取り組もうと発足したNPOが、「河北潟を考える会」だった。この会が正式に発足するのは1994年6月。この会の準備から発足まで、多くの人の努力と経過があった。

それまで地道に活動していた石川県自然保護協会や、活発な自然保護で実績を持つ森の都愛鳥会は、河北潟で野鳥観察を続けていた。こうした活動と結びつき、「河北潟」が大きなテーマに浮かび上がってきた。

直接のきっかけは、森の都愛鳥会の本間会長からの問題提起で、92年9月集まりをもった。

問題提起とは、「河北潟に飛来する野鳥とレンコン生産者との共生を考えることはできないか」と、発足したばかりの石川環境ネットワークに参加するグループへのよびかけだった。

レンコン生産者から、カモの被害に対する訴えが、野鳥観察と保護で活動している森の都愛鳥会にあったという。野鳥保護、自然保護と「開発」の問題がこんな身近にもあったのだと参加者一同、頭をひねりながら考えた。

92年11月15日、現地調査におもむき干拓地でレンコン生産者の話を聞きながら蓮田を見て回りまった。蓮田には一面カモの足跡がビッシリ。傷のあるレンコンが散乱している。

河北潟干拓が行われる前、葦が広く繁った頃の河北潟を知っている方も多く、感慨深く干拓地を見て回った。

またこの時期に前後してNHKの報道で、河北潟干拓地に入植した農業・酪農生産者の経営問題がクローズアップされていた。入植したはいいが減反政策などで経営が成り立たなくなっている事、借金のため出るに出られない実態などを干拓事業にさかのぼって特集していた。

この河北潟は、自然保護、野生生物保護、生産や開発問題などあらゆる環境問題が集中する場であることを、参加者一同、思いを深くした。

その翌年(93年)10月29日、11月14日と相談を重ねた。この間、内灘町の皆さん、河北潟周辺の人、大学の先生、環境ネットワークの人たちが参加。この河北潟の問題を、身近な環境問題、くらしの問題として考えるため会発足の思いを強くしていった。

1993年12月23日、河北潟をテーマにした会の発足を確認し、当面、相談会として意見交換を続け活動のテーマ、作業分担、資料収集などを話しあった。

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話し合ったらいろんな問題が見えてきた

これまでの相談会で出された河北潟をとりまく問題を順不同で列挙してみる。

1) 河北潟や砂丘は世界的にも貴重な自然である。

2) 生態系からいっても干拓に無理があったのではないか
 ・3/4が干拓され、水門により海水の出入りする汽水湖の淡水化で生態系の大きな変化があった。

3) 飛来する野鳥が多く野鳥保護対策が必要

4) 内灘砂丘に絶滅の恐れのある野生動物が何種類もいる。
 ・放水路付近で発見された「マシコエダヒドラ」は世界でもここだけの新種でほぼ絶滅したと考えられる。どこも誰も調査をしていない。
 ・「サクラゴカイ」もこの付近では絶滅したのではないかと言われている。
 ・「イカリモンハンミョウ」は内灘町指定文化財。これも現在見られなくなっているそうです。
 ・その他、アカウミガメの産卵地でもあったし、植物でも危機的なものがあります。

5) 汚れがひどい。全国の湖沼の中でも最上位ランクにある。今年度県環境白書ではCOD(75%値)が7.3ppm である(基準値は5.0)。この数字は現在おそらく9.0ppm 以上だろう。
 ※CODとは化学的酸素要求量といい、水中の汚濁(主に有機物による)を計る単位。数値が大きいほど汚濁が著しいことを示しています。全国2番目に汚れていると報道された木場潟のCODは13.0です。

6) 河北潟は、23本の川や用水から流入する「ため池」となっている。酪農の問題。競馬場の問題、多くの市町村にまたがった広域の河川の汚濁防止対策が必要。

7) 河北潟は排水の捨て場として生活とは密接に結びついているものの、潟ごと捨てられたかのように見向きもされなくなっている。すばらしい景観を取り戻したい。

8) このまま放っておけば汚濁が一層すすむ。西部承水路ではすでに悪臭も漂っている。今すぐ対策を!

9) 子どもたちが安心して水遊びをしたくなる水質の潟にしたい。また釣りをした魚が食べれるまで水質を改善させたい。

10) 河北潟の自然と生産者が共存、共生出来るものにしないといけない。

11) 河北潟周辺あるいは流入河川周辺の開発問題が直接河北潟の水質問題に関係する。

12) 地元の住民も環境問題に関わっている人たちも河北潟の実態をあまり知らない。

13) 河北潟に関する基礎資料や環境問題の基本的知識を学び、科学的根拠に基づいた運動にする必要がある。感傷的、感情的な活動にならないようにしたい。

14) いろいろな取りくみの課題があるが、潟周辺の人や広域の人が一致して取り組むには、水問題がまず入りやすいのではないか。

15) 堤防により塩害は考えられない。水門を開放して元の汽水湖としての再生は考えられないか?

16) 県が実施している(環境白書)水質汚濁の将来予想=拡散シミュレーションを河北潟で独自に実施できないか。また水門を開放した場合や流入河川周辺の下水道や浄化槽設置状況を仮定したシミュレーションができないだろうか。

17) 公になっている各種データの学習、分析を行い独自に周辺の自然環境のデータ収集をおこなう必要があるのではないか。ずっと調査されていない絶滅の危機にある動植物の調査をしたい。イベントとしてもおもしろいのではないか。

18) 様々な立場の専門家や河北潟に詳しい人の話を聞き学ぶ必要がある。

19) 河北潟の湖水が農業用水としても使用されている。汚濁がすすむと稲作に影響を与える恐れがあるのではないか(農業用水基準がCOD6.0ppm、窒素が1.0ppm)。収量の減少をきたすとの報告もあるそうだ。現在河北潟の水を使っている地域との連携が可能。

20) 内灘町で西部承水路の水と湖水全体の水を循環させる計画があるようだ。これは汚濁を河北潟全体に拡散するだけではないか。

21) 河北潟中心部が季節により酸欠になり放水路に魚があつまる現象がある。
  湖面の上昇により大量の魚の死骸が周辺の海岸 線を埋め尽くす。この問題も解決しなければならない。

22) 内灘の崖地ではよく土砂崩れが発生しているし
  新たな宅地造成の計画もある。これが町の発展 につながるのか。町の発展とは何か?

以上の問題点や課題が出された。

河北潟の干拓工事の頃から全国的にも開発による自然破壊の嵐が吹き荒れ、各地で様々な自発的な運動が草の根の様に広がっていったが、河北潟はこうした自然保護の運動に取り残されてしまったかのように、県内で、自然保護の視点から見つめる動きはほとんどなかった。

かわいそうな河北潟……! そういう思いで、この相談会は、河北潟に関心のある多くの人の参加を期待しながら続けられ、「河北潟を考える会」の発足へと進むことになる。