河川法と水利権の基礎知識


2005.2.3 整理更新


農業や発電のための水利用の権利=水利権などを考えるためには、それを規定している河川法の理解から始めなければならない。素人にはなかなか大変であるが、「法律とは社会常識の体系だ」と思えばつきあえる。
とくに、辰巳ダムなど、市民から反対や疑問が出されている問題を考える場合、法律や裁判資料などの調査は不可欠だから、無理を承知でやらざるを得ない。
情報が一部の特権階級の独占物だった時代と違って、今や民主主義の時代である。また「日本語」という共通言語環境がある。その気があれば誰でも真実や真相に近づける……という希望を胸に(^○^)

そういう「希望」を胸に、以下、河川法と水利権の基礎を整理してみた。
これは、2001年10月22日企画された「フォーラム 三位一体の文化財を考える」のために作成した資料をベースにした。(2001/10/30 渡辺 寛@ナギの会)


【河川法の基礎知識】

参考資料
  「逐条解説 河川法解説」河川法研究会編著 大成出版社 1995
  「逐条河川法」建設省新河川法研究会編 港出版社 1966
  「農業水利権の研究」「同 増補版」渡辺洋三著 東京大学出版会 1954,1979
  「水の法と社会」森實著 法政大学出版局 1990
  「水利権実務一問一答」建設省河川局水政課水利調整室編著 大成出版社
  「河川法資料集第1集,第2集」建設省河川局 1966
  「水利権」安田正鷹著 松山房刊 1936
  「河川全集第一巻 水利権」建設省河川研究会編 1958


1 河川と水の利用について。

 @河川とは何か
  本来自然に存在し無目的なもので敷地と流水(伏流水を含む)をさす。社会的には公共用物としての機能と目的をもつ。

 A河川の使用とは何か
  河川は行政主体によって公衆の共同使用に供される。河川管理者は災害の発生を防ぎ、被害軽減のため管理し、適正に利用されるよう管理する。
  河川管理者は国であるが、法定受託事務として2級河川は県知事にある。


2 河川の使用の種類

 @一般使用(普通使用・自由使用)
   使用になんら権利が生じない自由な使用。
   例:家事用水、洗たく、水泳、遊漁……。

 A許可使用
   河川使用で社会的効用が十分発揮されるよう、河川管理者は公物警察権と公物管理権に基づき、一定の自由使用を禁止している。特定の者に禁止を解除し使用するもの。権利は発生しない。
   例:船の係留、家畜の放牧、汚水の放流……。(河川法29条)

 B特許使用
   公物管理権により、特定のものに特別の使用権を設定し使用を認めるもの。財産の形成と関わるため、権利が発生する。流水占用、土地の占用、土石採取。
   例:農業用水、水道、工業用水、発電…。
   権利を書面に固定する。(河川法23条=流水占用、24条=土地占用、25条=土石採取)
   しかし、農業用水の水使用の実態は慣行的に使用されている。これを水利権の二重性という。

 C習慣上の使用権に基づく使用
   使用が社会的に正当なものとして承認されることにより成立する公物使用権による使用。
   特許をうけたものとみなす使用権。慣行水利権。時の変化に即応して合理的に対処可能。(河川法87条)


3 流水の占用とはどういう意味か。

  河川の流水を排他的に使用すること。その使用と両立しない他人の行為の存在を認めない。それによって利益をうける。


4 水利権とは何か。

  所有権ではなく流水の占用権。物権。公法の制限を受ける私権。優先的効力と物上請求権をもつ。売買、譲渡、信託…もある。

 <水利権の存続期間>
  期間が設定される。通常10年、発電などは30年。半永久的に存続すべきものとして設定され、占用目的がなくなった場合に水利権は廃止される。期間の設定は遊休水利権を排除する機会を河川管理者に与えるもの。

 <慣行水利権の定義>
  定義=一定の者が一定の流水使用(取水ないし利水)を反復継続し(習慣)、その慣行が社会的に承認されることによって成立する権利。
  河川法成立2年以内に届出書の提出を行政指導。期限は昭和42年3月30日。しかし届出のない慣行水利権は多い。

 <専用水利権、余水水利権、共用水利権>
  水利権の成立経過で決まる。新田開発など上流の水利権でも余水水利権となり下位の水利権となる(古田優先の原則)。使用の実態によって、専用、余水、共用の水利権となる。

 <河川法成立時の争点>
  新規利水(発電など)は農業用水や慣行水利権に割り込む必要があり、新たな水争いの場となるため、全国知事会や農業団体は反対。農林省は微妙な態度。発電など新規水利権は権原(権利の発生した原因)を守る責任がある。

 <慣行水利権の現代性>
  慣行は絶えず変動する社会経済的諸条件に依拠。旧態依然たる権利ではなく今日的現代的問題である=森實「農業水利権の法的諸問題」より

 <遊休水利権>
  許可を受けていても放置されている状態の水利権。許可当初から変更や不要になった場合に発生。「権利の上に眠る者を保護することになるばかりでなく、他の緊急に必要な水利使用を排除し、望ましい水利秩序を乱す」と国は明快な見解を示している。


5 水利権の競合

  河川管理者には調整責任がある(法38条以下)
  関係河川使用者へ通知義務。同意を得る。意見の申し出。損失補償。制限…。
  一般に、水利権取得の時期の順番によって優先順位が決まる。


6 河川改修と慣行水利権

  旧建設省と旧農林省では見解が微妙に異なっている。

  建設省の意見=
   慣行水利権について、かんがい面積、必要水量等その内容を明らかにするとともに、機会を得てできるだけこれを許可水利権に切り替えること(河川局長通達「水利現況の把握」)

  農林省の意見=
   河川改修に関連して農業用の取水施設が改修されるような場合は単なる取水施設のみに関係するもので受益地区の水使用を伴うものではなく、慣行水利権を許可水利権に切換える必然性はない(農業水利研究会「土地改良事業のための河川協議の実務」)

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