この著作に巡りあったのが4年前。石川県立図書館にあった。ざっとよんで、様々な刺激を受け、古書店で見つけて購入した(1999.12.29)。隣県の富山出身ということもあり、一度訪ねたいと思って法政大学へ連絡をとったところ、前年1998年8月に死去されていた。62歳という若さであった。
1960年代以後、水利権の研究が本格的に進められていない中、研究の空白期を埋める貴重な先生だったはずである。
著書「水の法と社会」の最後の「むすび」に次のようにある。
「農業水利(権)は、それを規定する社会経済的諸条件の変化に対応して、自らも不断に変容しているのである。農業水利(権)は守旧的固定的である、という固陋な思想は、右の事実を認識しない独断にすぎない。」
この著作は、渡辺洋三著「農業水利権の研究」とともに、水利権を考えるための基礎的資料であろうと思い、以下、目次を紹介する。(渡辺)
森 實(もり・みのる)
(著作から引用)
1936年富山県に生まれる。59年法政大学法学部卒業。64年同大学院私法専攻博士課程修了。
主な論文「わが国漁業制度における慣習から権利への過程」(「法政志林」62巻2号)、「事実たる慣習と慣習法」(「民法学の基本問題」上)、ほか。
水の法と社会 ―治水・利水から保水・親水へ―
著 者 森 實 (もり みのる)
出 版 法政大学出版局
初 版 1990.11.20
◆目次◆
序
第一章 農業水利権の法的諸問題
はじめに 1
一 水利権の法源と慣行水利権の不合理性
1 慣行水利権の淵源
2 他種水利権の生成
3「不合理」な慣行水利権と新たな慣行水利権の生成
4 慣行水利権の「保守性」と合理化
二 慣行農業水利権の現代的構成
1 慣行農業水利権の意義
2 慣行水利権の許可水利権への切換え
3 慣行農業水利権の主体と水利施設所有権
4 農業水利権の法的性格と譲渡性
5 慣行農業水利権の消滅
三 現代農業水利紛争の特質
1水利紛争解決手段としての和解・調停
2 紛争当事者・紛争要因の多様化
四 農業水利権の地域性、農業水利権と漁業権の競合
1 農業用水の地域性
2 田園風景の変貌
3 環境用水権と親水権
4 農業水利権と漁業権の競合
むすびにかえて
第二章 新たなる水利権の生成 ――親水水利権・克雪水利権
はじめに
一 親水水利権とその債権的性格
1 親水指向の高まり
2 いわゆる地域用水と慣行農業水利権の柔軟性
3 債権的水利権
4 親水水利権の債権性
5 遊休水利権の時効取得
6 親水水利権の生成
二 克雪水利権の生成について
1 克雪のメカニズム
2 克雪用水路および用水源
3 克雪対策の諸動向
4 克雪用水権と利水制度
5 慣行水利権の克雪利用
むすび
第三章 慣行農業水利権の解体
はじめに
一 慣行農業水利権の法的性格
1 許可水利権の発生と慣行農業水利権
2 物権法定主義と農業水利権
3 慣行農業水利権の機能
二 水利法の立案
1 水利法の必要性
2 統一的水利法の試み
3 改正河川法の成立
4 河川法改正要綱案と慣行農業水利権
三 河川法改正と農林省
1 河川法改正と農林省の態度
2 要綱案から法案へ
四 農業水利の合理化
1 農業水利合理化論の背景
2 都市化過程における農業水利
五 農業用水合理化対策事業
1 農業用水の合理化と河川管理政策
2 合理化実施地域
3 農業用水合理化事業と行政監察
4 農業用水転用の意味
むすび
第四章 溜池水利権の解体
はじめに
一 溜池の機能
二 溜池の潰廃――地域開発と農地の宅地化
三 溜池の所有名義――農民的権利の所有形態
四 表示名義と財産区
五 旧慣使用権・財産区財産の管理・処分
1 地域開発と旧慣使用権の変更
2 財産区について
六 農業用溜池の観光利用
七 溜池関係判例抄
1 溜池堤塘上の農作物・農作物・工作物の設置
2 溜池の涸渇と水利権の消滅
3 農地改革による溜池の買収・売渡
4 溜池の潰廃と水利共同体の消滅
5 附――水利共同体の所有財産の名義
むすび
第五章 治水・利水の政策と法と歴史
第一節 法体制準備期の治水政策
はじめに
一 法体制準備期の治水政策と法
1 明治初期の治水政策と法
2 区町村制の変遷と地方税
3 当時の水利権
二 河川法の制定
1 治水費の国庫補助政策
2 河川法案の審議
3 河川法の目的と性格
むすびにかえて
第二節 法体制確立期の利水政策と法
はじめに
一 明治期水利関係法規
二 農業水利組織の再編――水利組合条例
1 水利団体の市町村からの分離
2 水利組合条例の意義
3 水利組合条例の改正――水利組合法の成立
三 土地改良政策と農業用水権
1 耕地整理法の制定
2 耕地整理法の内容
3 耕地整理法の部分的改正
4 土地改良制度の確立――耕地整理法の全面改正
むすび
第三節 法体制再編期の利水政策と法
はじめに
一 耕地拡張政策――開墾助成法の成立
1 法案の内容
2 開墾助成法の背景
3 法案の審議
4 開墾助成法の実施
二 発電水利権の生成
1 水力発電の生成
2 国策としての水力発電
3 水力発電と河川行政
三 各種の水利法案
1「水利法案」(大正八年、内務省土木局私案)
2「農業水利法案」(大正九年、農商務省案)
3「発電水力法案」(昭和四年、逓信省案)
むすび
第六章 河川法案審議における流水占用料
はじめに
一 農業水利権不信論
二 旧河川法の制定と流水占用料
三 新河川法と流水占用料
むすび
第七章 現代水利紛争の諸類型
はじめに
一 農業水利相互間における交渉調整事例
1 新田開発と既存農業水利
2 農業水利施設をめぐる交渉事例
二 治水と利水――河川管理と農業水利権
1 河川改修に伴う利水施設の撤去と兼用工作物の新設
2 河川改修に伴う井堰の改築と慣行農業水利権の切替え
3 砂利採取による河床低下と慣行農業水利権
三 他種水利と農業水利
1 開田のための新規取水と発電水利
2 ダム建設による稲への冷水被害
3 発電所建設と新規農業取水に伴う水利権の切替え
4 農業用水の上水道への転用
5 下水道と農業水利権
6 工業用水への転用とその代替井戸
四 工場等の排水による農業用水の汚染
五 農業用排水路変更と内水面漁業
六 土地改良区の組合費賦課徴収
七 用水路敷等の所有権の帰属
むすび
戦後水関係主要判例
水利権関係主要文献
索引
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