資料紹介

森 實 著
「水 の 法 と 社 会」
―治水・利水から保水・親水へ―




2004.2.15 掲載

 この著作に巡りあったのが4年前。石川県立図書館にあった。ざっとよんで、様々な刺激を受け、古書店で見つけて購入した(1999.12.29)。隣県の富山出身ということもあり、一度訪ねたいと思って法政大学へ連絡をとったところ、前年1998年8月に死去されていた。62歳という若さであった。
 1960年代以後、水利権の研究が本格的に進められていない中、研究の空白期を埋める貴重な先生だったはずである。

 著書「水の法と社会」の最後の「むすび」に次のようにある。
「農業水利(権)は、それを規定する社会経済的諸条件の変化に対応して、自らも不断に変容しているのである。農業水利(権)は守旧的固定的である、という固陋な思想は、右の事実を認識しない独断にすぎない。」
 この著作は、渡辺洋三著「農業水利権の研究」とともに、水利権を考えるための基礎的資料であろうと思い、以下、目次を紹介する。(渡辺)


森 實(もり・みのる)
(著作から引用)
 1936年富山県に生まれる。59年法政大学法学部卒業。64年同大学院私法専攻博士課程修了。
 主な論文「わが国漁業制度における慣習から権利への過程」(「法政志林」62巻2号)、「事実たる慣習と慣習法」(「民法学の基本問題」上)、ほか。


 水の法と社会 ―治水・利水から保水・親水へ―
  著 者  森 實 (もり みのる)
  出 版  法政大学出版局
  初 版  1990.11.20


◆目次◆


第一章 農業水利権の法的諸問題
  はじめに 1
  一 水利権の法源と慣行水利権の不合理性
   1 慣行水利権の淵源
   2 他種水利権の生成
   3「不合理」な慣行水利権と新たな慣行水利権の生成
   4 慣行水利権の「保守性」と合理化
  二 慣行農業水利権の現代的構成
   1 慣行農業水利権の意義
   2 慣行水利権の許可水利権への切換え
   3 慣行農業水利権の主体と水利施設所有権
   4 農業水利権の法的性格と譲渡性
   5 慣行農業水利権の消滅
  三 現代農業水利紛争の特質
   1水利紛争解決手段としての和解・調停
   2 紛争当事者・紛争要因の多様化
 四 農業水利権の地域性、農業水利権と漁業権の競合
  1 農業用水の地域性
  2 田園風景の変貌
  3 環境用水権と親水権
  4 農業水利権と漁業権の競合
 むすびにかえて

第二章 新たなる水利権の生成 ――親水水利権・克雪水利権
  はじめに
  一 親水水利権とその債権的性格
   1 親水指向の高まり
   2 いわゆる地域用水と慣行農業水利権の柔軟性
   3 債権的水利権
   4 親水水利権の債権性
   5 遊休水利権の時効取得
   6 親水水利権の生成
  二 克雪水利権の生成について
   1 克雪のメカニズム
   2 克雪用水路および用水源
   3 克雪対策の諸動向
   4 克雪用水権と利水制度
   5 慣行水利権の克雪利用
  むすび

第三章 慣行農業水利権の解体
  はじめに
  一 慣行農業水利権の法的性格
   1 許可水利権の発生と慣行農業水利権
   2 物権法定主義と農業水利権
   3 慣行農業水利権の機能
  二 水利法の立案
   1 水利法の必要性
   2 統一的水利法の試み
   3 改正河川法の成立
   4 河川法改正要綱案と慣行農業水利権
  三 河川法改正と農林省
   1 河川法改正と農林省の態度
   2 要綱案から法案へ
  四 農業水利の合理化
   1 農業水利合理化論の背景
   2 都市化過程における農業水利
  五 農業用水合理化対策事業
   1 農業用水の合理化と河川管理政策
   2 合理化実施地域
   3 農業用水合理化事業と行政監察
   4 農業用水転用の意味
  むすび

第四章 溜池水利権の解体
  はじめに
  一 溜池の機能
  二 溜池の潰廃――地域開発と農地の宅地化
  三 溜池の所有名義――農民的権利の所有形態
  四 表示名義と財産区
  五 旧慣使用権・財産区財産の管理・処分
   1 地域開発と旧慣使用権の変更
   2 財産区について
  六 農業用溜池の観光利用
  七 溜池関係判例抄
   1 溜池堤塘上の農作物・農作物・工作物の設置
   2 溜池の涸渇と水利権の消滅
   3 農地改革による溜池の買収・売渡
   4 溜池の潰廃と水利共同体の消滅
   5 附――水利共同体の所有財産の名義
  むすび

第五章 治水・利水の政策と法と歴史
 第一節 法体制準備期の治水政策
  はじめに
  一 法体制準備期の治水政策と法
   1 明治初期の治水政策と法
   2 区町村制の変遷と地方税
   3 当時の水利権
  二 河川法の制定
   1 治水費の国庫補助政策
   2 河川法案の審議
   3 河川法の目的と性格
  むすびにかえて
 第二節 法体制確立期の利水政策と法
  はじめに
  一 明治期水利関係法規
  二 農業水利組織の再編――水利組合条例
   1 水利団体の市町村からの分離
   2 水利組合条例の意義
   3 水利組合条例の改正――水利組合法の成立
  三 土地改良政策と農業用水権
   1 耕地整理法の制定
   2 耕地整理法の内容
   3 耕地整理法の部分的改正
   4 土地改良制度の確立――耕地整理法の全面改正
  むすび
 第三節 法体制再編期の利水政策と法
  はじめに
  一 耕地拡張政策――開墾助成法の成立
   1 法案の内容
   2 開墾助成法の背景
   3 法案の審議
   4 開墾助成法の実施
  二 発電水利権の生成
   1 水力発電の生成
   2 国策としての水力発電
   3 水力発電と河川行政
  三 各種の水利法案
   1「水利法案」(大正八年、内務省土木局私案)
   2「農業水利法案」(大正九年、農商務省案)
   3「発電水力法案」(昭和四年、逓信省案)
  むすび

第六章 河川法案審議における流水占用料
  はじめに
  一 農業水利権不信論
  二 旧河川法の制定と流水占用料
  三 新河川法と流水占用料
  むすび

第七章 現代水利紛争の諸類型
  はじめに
  一 農業水利相互間における交渉調整事例
   1 新田開発と既存農業水利
   2 農業水利施設をめぐる交渉事例
  二 治水と利水――河川管理と農業水利権
   1 河川改修に伴う利水施設の撤去と兼用工作物の新設
   2 河川改修に伴う井堰の改築と慣行農業水利権の切替え
   3 砂利採取による河床低下と慣行農業水利権
  三 他種水利と農業水利
   1 開田のための新規取水と発電水利
   2 ダム建設による稲への冷水被害
   3 発電所建設と新規農業取水に伴う水利権の切替え
   4 農業用水の上水道への転用
   5 下水道と農業水利権
   6 工業用水への転用とその代替井戸
  四 工場等の排水による農業用水の汚染
  五 農業用排水路変更と内水面漁業
  六 土地改良区の組合費賦課徴収
  七 用水路敷等の所有権の帰属
  むすび

戦後水関係主要判例
水利権関係主要文献
索引



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