「その都度廃棄した」という虚言

掲載 2006.6.26


石川県知事のスケジュール管理資料が不存在とされた件で異議申立をおこなった。
情報公開審査会に諮問され、理由説明書が届いた。以下の文書はそれに対する反論である。
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2006.6.26
石川県情報公開審査会 御中

請求者 渡辺 寛  


理由説明書への反論および意見書


はじめに
 「知事は、県民によって直接選挙され、県を代表し、県の事務全般について統轄し、県政の総合性、一体性を維持する権限と責任を任されている」と請求者は理解している。
 よって、知事は、他の執行機関を総合的に統一し調整する機能をもち、また、仕事を処理していく上で必要な組織、職員の身分などについて、総合的な調整を行う権限が知事に与えられているため、その日々の多忙ぶりは、様々な媒体で紹介され、秘書課におけるスケジュール管理の困難さについて余りあるものと想像される。
 「知事のスケジュール管理資料不存在」の理由説明書を拝読し、以下のとおり反論のため意見書をまとめた。

1 先に公開された文書について
 まず、理由説明書(1)で、平成17年12月7日付けで公開決定されたという「知事の動き」なる文書は、知事の対外的なイベント参加情報であって、知事の職務上の行動(スケジュール)のごく一部に過ぎないもので、おそらく副知事など代理者にも務まる性質のものである。これをもって知事のスケジュール管理のすべての資料と主張するのは、本末転倒である。
つまり、知事の公的職務の重要性から考えるとき、いかに日程の調整などが難しくとも、その行動のほとんどすべては県民に公開されなければならない本来の基礎情報である。
 またホームページ上で誰でも見ることのできる情報は、ホームページ作成担当者に渡される起案段階の情報と考えられるため、公文書に当たらないと理解し、その事実を指摘して受け取りを拒否したものである。その後改めて「組織共用文書を含む」ことを書き入れ、「知事のスケジュール管理のための資料」を平成17年12月8日公開請求したものである。

2 「手帳」について
 理由説明書によれば、知事のスケジュールを調整、確定するために、
@庁内各課又は庁外から行事の案内や面会などの依頼がある。
A行事名、場所、日時などを日程担当者が個人の手帳に記載する。
 とのことであるが、肝心のこの「手帳」についての具体的な説明が抜けている。
 「手帳」に記入することは、まず初歩的な作業としても、管理には、その後の調整や優先順など政治的実務的な判断が必要である。こうしたあとに初めてスケジュールとして完成するものであろう。またこの「手帳」への記載や、様々な調整、判断も付け加えられた資料は、情報公開条例第2条の公文書の定義による「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」あるいは「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有している」公文書そのものである。
 知事の様々な日程管理の重要さは、秘書課の組織的利用のためのものであることは、他県の知事の例からも推測できる。
 (別紙にて4件の資料を紹介する。これが最低レベルのスケジュールというものであろう。最低レベルというのは、来訪者や肩書きなどを考慮して消されたという意味で、元の日程表には記載されているはずである。(別紙=「高知県知事の日程」「同 特別秘書の記録」、愛媛県「知事秘書まるごと5日間体験レポート」、静岡新聞「トップの素顔」)。

3 「手帳」とパソコン使用について
 次に「手帳」が実際にどのように日程担当者に使われているかについて考えてみる。
 10年も昔ならば、この文面から想像する「手帳」は、あるいは手帳そのものであったかもしれないが、現在ではパソコンが日程担当者に支給され、日常的に使われている。また各課にもパソコンが常備され、ネットワークで結ばれている。
 こうした状況を考えると、日程担当者へ「依頼」される情報は、庁内電子メールで送られることも多いと思われる。よって「手帳」は電子的に担当職員が記録、管理し、「週間予定」や「日毎の日程」の作成がおこなわれていると思われる。
 また、こうした一連の作業は、常識的にはパソコンの「スケジュール管理ソフト」の中で整理されているはずである。
 分刻みのスケジュールと言われる知事の多忙さを考えると「鉛筆ナメナメ手帳への記載」というレベルではなく、ごく普通に「パソコンソフトへ打ち込まれている」はずである。
 この「手帳」がどういうものかの説明には、秘書課に導入されているスケジュール管理用パソコンソフトの仕様を説明することが不可欠である。その上で、日程担当者がどのように情報をまとめ、管理し、修正、更新し、プリントアウトし、知事、副知事、秘書課関係職員に配布しているかを明らかにする必要がある。

4 もう一つの「日毎の予定」の存在について
 以上のように考えると、先に請求者に公開したと理由説明書が主張する「週間予定」と「日毎の予定」は、秘書課で日常的に作成、使用しているものと違うものと思われる。
 つまり、配布されるプリントには、対外的なイベントには時間が当然入っているはずだし、その他、部内打ち合わせや会議、訪問者との接見など、分刻みで動いているという多忙な知事の行動に必要な参考情報も含めたスケジュールとしてプリントアウトされているはずである。
 そう記載しなければ、知事は動きようがない。公用車や随行員の手配、庁内各課との打ち合わせ、会議の開催の連絡もできない。これは組織の常識であろう。二,三の参加するイベントを記載しただけのものが知事のスケジュールという理由説明書の言い分を誰が信じることができようか。
 よって請求者に一度公開されたものとは別に、「日毎の日程」がもう一つあることは明らかである。これが知事のスケジュール管理資料の一部である。

5 再び「手帳」について
 日程担当者の「手帳」について、「公文書には該当しない」という理由説明書の主張は、まったく「不存在」の説明になっていない。
 「日程担当者個人の備忘のためのものであり」と説明するが、3項、4項で請求者が主張するように、組織として保有していることが明らかである。これに対して明確に「個人的メモ」と断定する根拠の証明が必要である。
 かりに個人の備忘、つまり個人的なメモとなれば、日々刻々変化し集積される知事のスケジュールは、この日程担当職員一人にしか把握されず、内容について他の職員は一切関知できないことになる。こうしたことは現実に想像できない。
 日程担当者の「手帳への記入」は、担当者のパソコンでおこなわれ、他の職員も利用や閲覧が可能で、知事の詳細な日程なども把握できる状況のもとでおこなわれていると考えられる。またこの「記入」は、単に事務的機械的に「メモる」だけでなく、事前に組織的な調整というフィルターを通過したものや、複数の職員や上司もかかわっている項目も多いと想像される。この「記入」そのものが組織的な職務である。その集積物が「手帳」であろう。こうした状況は誰にでも容易に推定できるもので、個人的備忘メモという主張は全く根拠を欠いている。

6 「確定したスケジュール」について
 「週間予定」「日毎の予定」について、理由説明書は「作成時点での予定であり、内容は不確定なもの」と言うが、公人たる知事の予定は単なる不確定な予定ではない。様々に調整され、その結果作られるもので、限りなく確定行動に近いものである。少なくとも「日毎の予定」は、その日の朝、変更がなければその日のスケジュールそのものである。日程、情報、メモ記入から予定、確定、行動終了し、その確定された日程の保存までの一連の流れがスケジュール管理である。
 「一定の期間業務上利用・保存するような文書ではない」ということはありえない。つまり「日毎の予定表」が「確定したその日の予定」に変わった後、当然パソコン上に書き加えられ追加更新保存されているはずである。
 紙にプリントアウトされた「週間予定」「日毎の予定」なるものは、終われば必要はなく、常識的に廃棄されることもあろう。しかし確定したスケジュールは電子的に保存されているはずである。担当者のパソコン上で走っているソフトの仕様を明らかにすることと共に、確定した知事の行動記録情報を公開すべきである。

7 栃木県の答申に関連して
 この県の理由説明書全体は、過去に同様の異議申立がおこなわれ、非開示決定が妥当と判断された「栃木県情報公開審査会答申(平成13年7月3日)」にそって作られた虚偽の作文と思われる。
 つまり、栃木県の答申中、「2 本件請求に係る文書について」「3 具体的な判断」の内容は、県の理由説明書の流れにそっくりそのままである。
こうして作成された理由説明書は、知事のスケジュール管理のために日常おこなわれている実態をそのまま説明せず、虚偽を列挙するだけのもので、公文書作成に関わる刑法上の文書犯罪の可能性を含んでいる。
 この重大性は、冒頭に記したように、知事は県の事務全般について統轄し、県政の総合性、一体性を維持する権限と責任を任されている公人であるからである。
 つまり、知事は膨大な権限を持ち、様々な許認可の許可者、処分者であり、その知事の処分によって県民のほとんどすべては、直接、間接に利害関係人という立場にある。事故や事件、行政不服審査、訴訟などの一定の場面では、知事の存在や不存在の証明が必要となることはあり得る。そのためにも、知事の行動のすべてが「ホームページ用データ」だけであるとは県民誰一人ひとりとして納得するものはいないだろう。
 今回の不存在が理由説明書のとおりの事実だとするならば、石川県は危機管理に重大な欠陥があると断言せざるを得ない。悲しいことである。
 県の行財政改革を見ても、「県民の視点に立った行政運営の推進」や「組織活性化のための人材の育成・確保」「勤務評定の評価基準の公表」など多くの組織改編の施策を列挙し、効率的な行財政をうたっているが、そのリーダーシップをとるべき知事のスケジュール管理の事態が理由説明書のとおりであるはずがない。

8 電子情報管理システムについて
 県の文書管理規程では、すべての事務の処理は文書によっていることを原則とし(第3条)、第45条(電磁的記録の整理及び保管)で「電子情報の保管は、電子情報を管理するシステムにより行うもの」とあるから、知事のスケジュールについての一連の処理もこの手続きに従っているはずであり、県はこのシステムによる不存在決定の正当性を主張すべきであるが、こうした説明は皆無である。

9 「その都度廃棄」という虚言
 文書管理規程第45条第2項に「電磁的記録の保管」についての消滅や改ざんについての注意が記されている。理由説明書による「当該期間が終了した時点で不要となることからその都度廃棄している」との主張についても電子情報管理システムから説明すべきである。これは先に記した反論書第5項の「存在証明」に関わっている。つまり反論書第4項に主張したとおり「その都度廃棄はあり得ない」と考えられるからで、もし「その都度廃棄」しているならばその証明が必要である。その証明はパソコンの中級程度の知識があれば容易に削除履歴を知ることができる。請求者にもそれは可能である。
 「その都度削除している」という証明をしない弁明は、虚偽、虚言に他ならない。これは請求者の権利を侵害するものである。単なる虚言である。
審査会におかれては、秘書課らからの証明のない虚言を聞くだけでなく、担当者が使用しているパソコンを自ら調査すべきである。調査することが出来ないならば、「その都度削除している」ことを証明するためのハードディスク内の調査報告を県に求めるべきである。

10 電磁記録としての「手帳」について
 文書管理規程第3項に「電磁的記録は、その効率的な利用に資するため必要なときに直ちに取り出せるようにしておかなければならない」とある。これは日程担当者の「手帳」に該当する情報である。「手帳」が個人的備忘録であるはずがないとの請求者の主張を裏付けるものであり、同第4項の「保存期間1年未満の記録の省略」も知事の公的職責から考えるとあり得ない。

11 地方自治法と地方公務員法の趣旨にたって……
 以上、説明したように、今回の知事のスケジュール管理資料不存在の決定は、現実にも理念的にもあり得ず、理由説明書のそれぞれの主張もことごとく証明のない空文である。よって情報公開条例に第1条の「県政に関する県民の知る権利」を侵害し、「県の説明責任」を放棄し、「県民の県政に対する理解と信頼」「県民参加による公正で開かれた県政」という地方自治の本旨そのものに逆らう決定である。
 願わくば、知事を先頭に、県庁組織全体が、地方自治法と地方公務員法の趣旨に立ち返り、現在運用している文書管理システムを総点検し、情報公開条例に基づいて速やかに請求書のとおり、情報公開を実行されんことを願うものである。

          以 上  



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