2002.1.31 2005.2.3整理更新
  (NIFTY-FENVフォーラムに書いたものを若干修正)

■遊休水利権とはなにか?



遊休水利権とは何か?
 遊休水利権という用語は、法律の条文には出てこないが、国の通達や解説の中で普通に使われている。同義語として、未開発水利権という用語も使われています。
 旧建設省は、戦後復興の中で、過去の水利権の整理の方針を示し、昭和25年「遊休水利権に関する件」という通牒(通達)を各県に出しています。遊休水利権についての定義も含んでいますので、まずはこの内容を紹介しましょう。


◆遊休水利権に関する件
(昭和25・3・14各知事宛河川局長通牒)

 標記の件に関しては、日頃種々御配慮を煩わしているが、発電その他の目的のため水利使用の特許を受けたにも拘わらず水利使用をなすに必要な諸設備をなさず又はなし得ないため折角の水利権が活用されないまゝの状態にあるもの(遊休水利権)が全般的に見てかなり多数あり、ために円滑なる電源開発等の障害となっている事例が少なくない。これが発生するに至った原因については種々は事情が挙げられるのであろうが、主戦後再び電源開発が強く叫ばれ、これが基盤をなす発電用水利権が経済的社会的に高く評価されるに至った今日、速やかにかゝる未開発水利権を整理し、併せて利水行政確立の基礎を築くことが緊急と考えられるので、慈今左記要領にてこれを整理する方針で進みたいと思うから予め御含み置き願いたい。(最終決定は関係各省と協議する予定)尚戦災その他の事情のため中央地方を通じ水利権台帳が極めて不備のまゝ放置されている現状にあると思われるので今回これを整理いたしたく、差当り貴県関係分としては別記地点が一応遊休水利権に該当すると考えられるので、これが自由の及びこれに対する意見を別記様式により調整の上至急報告されたい。

別記
一 遊休水利権の発生した原因を個々に究明し水利権設定の際における命令書条項を厳格に適用して当然失効すべき水利権はこの際執行処分として台帳から抹殺の措置をとること。
 右に該当するものとして次の場合がある。
 a 水利権設定後所定の期限内に工事の実施認可の申請をせざるもの。
 b 水利権設定後所定の期限内に工事に着手しないもの。

二 工事実施認可申請に対し管理者より認可の処分なく今日に至っているものがあるが、この際内容を検討して至急認可不認可の処分をなすこと(本省に稟伺中のものは当方にて緊急に措置する方針である)。

三 工事実施途次にて中止したものについては継続実施の意志がある程度客観的に証明されるものは、竣功期限伸張のの手続をとられ意志なきものはこの際水利権を取消し、残存物件の措置をすること。

四 遊休水利権の期限伸張は原則として認めない。但し最近に開発の見込みありと証せられるもののみにつき関係省と協議の上暫定的に例外措置として短期間(1−2年)条件附に伸張を認めること。
  
「河川全集第一巻 水利権」(建設省河川研究会編)より


新たな電源開発と遊休水利権
 以上紹介したものは、戦後復興の際、あらたな電源開発等のためには、過去の未開発水利権の整理が不可欠なため出されたものと理解されます。
 この時点の根拠となる法律は旧々河川法=カタカナばかりの「明治河川法」=でした。この明治河川法は、日本の近代化のために、主に治水のための法律で、建設費用や組織を規定していました。(◆参考:法の整理と辰巳用水

 戦後復興が進み、治水中心の河川管理から新規電源開発・利水への転換が必要とされ、新しい河川法成立が昭和40(1965)年4月に施行されました。社会的要請もあったのですが、法改正の直接の動機となったのは、九州の筑後川上流に建設計画された下筌松原ダムに対する大反対運動でした。
 この反対運動=蜂の巣城の闘い=は、室原知幸氏の名ともに河川整備史に永久に残る本格的ダム反対運動の最初です。80件以上の裁判闘争を闘い、ことごとく敗訴するのですが、1件勝訴しています。これが慣行水利権侵害は違法というもの。裁判群の中核となった東京高裁まで行った工事差止訴訟は弁護団の訴訟方針の分裂で1審の敗訴が確定するのですが、司法や行政、立法、社会的にも様々な問題が投げかけられました。
 2000年夏、熊本・大分の筑後川上流にあるダム現場にも行って調べたこともあり、別コーナー「蜂の巣城紛争と室原知幸氏のこと」で紹介。

 さて、昭和40年に大改正された昭和河川法で、建設省は遊休水利権をどう考えていたか? 治水と利水との整合性を考慮した河川法ですからこの遊休水利権への態度は現在も生きる河川管理の基本です。

建設省の遊休水利権についての態度
 この河川法が成立した翌年、建設省は「逐条河川法」なる一冊の本を作ります。手引きですね。著者名は「建設省河川研究会」ですが、その前文に次のように書いてあるように建設省の見解そのものです。
 「これらの諸君(執筆者)は、河川法の立案に従事し、あるいは現にその解釈運用に当たっている人達であって、その解説については最適任の人達である」。

 この「逐条河川法」にどう書かれているか。
 「水利権を実行しない者は、権利の上に眠る者であるばかりでなく、その遊休水利権が他の緊急かつ有用な水利権の成立の障害となり、河川の有効な利用を妨げる可能性が大である……」
 このように遊休水利権についての国の見解は、現在まで明快です。考えてみれば当たり前のことです。使わない水利権が河川の上流にあれば、それを整理(廃棄)しないで、下流に新しい河川管理の工事などは考えられられないですからね。
 ということで、遊休水利権についてのご理解はいただけだでしょうか?
 こうした問題は、全国のダム建設や河川改修などの公共事業にあると思います。

遊休水利権が放置されている
 石川県金沢市の郊外に計画されている辰巳ダムですが、その上流にある既設の犀川ダムに膨大な遊休水利権が設定されており、これを廃棄し目的転用によって辰巳ダムは不必要になるわけです。
 またこうした遊休水利権に不当な税金が支出され続けているのは違法ではないか、という問題も含まれます。目的を転用すれば問題は解決するのです。
 こうしたことは、全国でも、調べると必ず出てくるのではないでしょうか。上流に遊休水利権がなくても新しい新規事業で、徳山ダムのように過大な需要見込みで不当に大きなダムが計画されていたりします。これらなど、新しい遊休水利権を生み出すことになりますね。(渡辺 寛@ナギの会)

 参考キーワード
 水利権 許可水利権 慣行水利権 遊休水利権 工業用水 工場誘致 辰巳ダム 徳山ダム 岩屋ダム 秋田市工業用水裁判 建設省河川審議会答申


水利権へ  辰巳ダムへ  トップページへ