情報公開条例の「附則」は悪魔の呪文




情報公開条例の盲点(金沢市の場合)
―― 永年保存文書が公開されない?? ――


 金沢市の情報公開条例は、10年前の平成3年に成立した。全国でも早くできたので、当時話題になったものであるが、実際この制度を利用して分かってきたことがある。
 以下「附則は悪魔の呪文」として詳しく書いたが、ポイントを先に書いておく。
 金沢市の情報公開情報公開条例は次の問題点が含まれている。

 1 公開対象となる公文書は、平成3年7月以後のものに限られること。
 2 その根拠は、条例の附則の経過措置の条項による。
 3 対象文書以外のものは、情報提供として、実施機関からサービス提供される。
 4 この提供に対しては、請求者の救済措置はない。たとえ黒塗りでも異議申立などは出来ない。
 5 2001年4月に条例は改正されたが、経過措置の附則条項は変更されなかった。
 6 現在でも、金沢市の情報公開条例によって公開される公文書は永年保存文書であっても、平成3年7月以後のものに限られている。
 7 石川県(平成7年施行)も、同様の附則による経過措置があるが、1年ごとに過去の文書を5年間分整理し、公開の対象文書とし、2001年4月以後、過去すべての永年保存文書は公開対象となっている。

 こうして考えると、平成3年におかしなことが起こっていたはずだ。
 この条例が施行された7月時点では、公開対象の公文書がないことになるのだ。施行以後に文書に限るのだから、この時点で対象文書はまだ作られていない。条例が施行されたのに、公開対象の公文書が一つもないなんて! おかしなことだ。
 2001年4月1日、国の情報公開法が成立し、各地で一斉に請求され、2000件を越えたと伝えられるが、金沢市の場合どうだったのか、昔の報道や、請求件数などを調べて見たいと思っている。
 附則条項は、悪魔の呪文のように思えるのだ。

 以下のものは、金沢大学経済学部のニューズレターの情報公開問題特集のため依頼されて書いたものである。
 《= CURES NEWSLETTER 地域経済ニューズレター 2001.5.30 No.57 =》



金沢市情報公開条例 附則は「悪魔の呪文」
 ―――――――――――――――――
― 行政とは疑ってかかるもの、常に監視すべきもの ―
(堀田善衛『ミシェル城館の人』より)

渡辺 寛(ナギの会代表)

 少々アタマに来ている。乱暴な言い方なのだが、言わずにおられない。金沢市の情報公開条例のことである。
 金沢市の情報公開条例は平成3年3月に成立し、同年7月に施行された。全国でも比較的早く成立したので当時話題になったものである。ちなみに石川県の情報公開条例は平成6年9月成立、翌7年4月施行である。
 今年度、国の情報公開法が施行され、初日の4月2日、全国で2500件を超える請求があったようだ。法律で行政情報の定義なども明確にされた流れを受け、金沢市も石川県も条例を改正し、公開対象となる行政情報を、「組織共用文書や電子情報」などにも広げているし、「市民の知る権利」や行政の「説明責任」などを明記した(金沢市条例)。それはそれで大変結構なことなのであるが……。

 なぜ私はアタマに来ているか。少々おつき合い願いたい。
 犀川の治水や利水の現状を調べたいと思い、2月某日、犀川から取水されている多くの農業用水や発電関係の公文書請求のため、金沢市の窓口に出向いた。所定の用紙に書き込んだとき、窓口の職員から「公開対象となるのは、条例施行後の平成3年以後のものになります」と言われた。「詳しくはインターネットで条例を見て下さい」と。 家へ帰って条例を読んでみるが、施行前の公文書が公開対象にならないというのがよく分からない。施行前のものであっても行政情報に変わりはないので、公開の対象のはずではないのか。窓口の職員の言葉を思い出した。「フソクに書いてあります」と言われたのだった。「フソク」が「附則」だと気が付くのにかなり時間がかかった。条例の最後尾に一行の「附則」が書いてある。

    ………………
 (行政情報の公開に関する経過措置)
 2 この条例に基づく行政情報の公開に関する規定は、この条例の施行の日以後に作成し、又は取得した行政情報について適用する。
    ………………

 経過措置とはなにか? 常識的に思うのは、膨大な公文書整理に費やす時間を用意したもので、整理がつき次第、順次対象を拡大していくものであろう。それ以外に考えられない。
 ところが、請求してわかったのは、条例成立から10年経った現在でも、平成3年7月以前の公文書は公開対象にならないのである。
 今年度、改正施行された条例でも、この附則は一言一句変わっていない。10年経っても経過措置のままなのである。
 私が昔の情報にこだわるのは、水利権関係の資料であることもある。利水目的の水利権申請は、半永久的な水利使用を前提にしてるため、確定した初年度の資料に重要な意味がある。「行政の継続性」を考えると、水利権に限らず、保存されているすべての行政情報が公開されるべきである。これが本来の情報公開の趣旨であろう。 職員に聞いた。「これでは条例の趣旨に反するのではないか。知る権利の侵害ではないか」と。職員曰く「過去の公文書などは公開を前提にして作られていないのです。しかし対象外の資料などは任意的に公開ができる事になっています」と。
 このことを、役人語で「情報提供」と言っている。正規の情報公開ではなく行政のサービスである。知る権利を持つ私としては納得できないのだが、それでも調べたい情報があればこれによらなければならない。しかしこのサービスで提供される資料は、正規の情報公開で得たものと比べて信頼性に疑問符がつく。そもそも、こうした附則の経過措置が全く放置されていることが大問題なのだ。
 この経過措置の不当性について3月末日、市長宛に質問状を提出したところ、4月3日付けで市長名で回答が届いた。以下のものである。


 金沢市の情報公開業務についての質問及び要請」に対する回答は下記のとおりです。
 なお、今回いただきました文書は、貴重な提言と致しまして今後の参考資料とさせていただきます。
               記
 「条例施行以前の公文書はなぜ対象外情報なのか?」について

 根拠は、金沢市情報公開及び個人情報保護に関する条例(情報公開条例)の附則第2項の規定によります。同項の規定は、文書管理の状況から過去の文書すべてを対象 とするのは、多くの労力及び費用がかかることから設けられました。
 しかし、同時に対象外文書についても、情報公開条例第16条の規定により任意公開できることとされており、その任意公開の運用に当たっては、情報公開条例の対象文書に準じて取り扱っています。


 この回答はおかしい。前段で「過去の文書は労力や費用がかかるから公開出来ない」とし、後段で「対象文書に準じて公開する」となっている。「準じて公開する」からには、既に労力や費用をかけて準備が済んでいること表明している。附則の「経過措置」の準備は終わっていると考えられるし、そもそも市民の知る権利を保証するのに、労力と費用をかけるのは当たり前のことである。今年度の改正条例で「経過措置」が解除されるべきだったのである。この附則は、まるで悪魔の呪文のように、条例の目的を氷漬けにしている。

 条例本文に「市民の知る権利」や「行政の説明義務のため」「市民の市政参加のため」と立派なことを書いたところで、附則にこの一行を入れたのでは、「姑息な情報隠しだ」との批判を受けても、やむを得ないし、この経過措置を放置してきた市長の責任は重い。欠陥を見逃した全市会議員は怠慢のそしりを免れないであろう。
 この「附則条項」について、金沢市から施行が遅れた石川県の条例はどう扱っているのだろうか。石川県の旧条例を見てみよう。

 ――――――
 附則
 1 この条例は、平成7年4月1日から施行する。
 2 この条例は、次に掲げる公文書について適用する。
  (1)この条例の施行の日以後に決裁又は供覧の手続きが終了した公文書
  (2)この条例の施行の日前に決裁又は供覧の手続が終了した公文書のうち、保存期間が永年であって、かつ、その検索に必要な資料が作成されたもの
 ――――――

 とある。どこにも経過措置とは書いてないが、(2)の項目がそれにあたる。県の窓口を訪ね、この措置について資料をもらった。『永年保存文書検索資料整備要領』というものである。
 これによると、条例施行と同時にこの要領を作り、整備を5年間で完了するとしている。毎年、条例施行前文書を5年間づつ遡って整理し、平成11年度内にすべての整理を終えるとしているのだ。また、これを県民に周知するため、毎年、公開可能文書を石川県公報に掲載している。
 ちなみに、平成12年3月21日付石川県公報に次の告示がある。

 ――――――
 石川県告示第150号
 石川県情報公開条例附則第2項の規定により、平成12年4月1日以降新たに同条例が適用される公文書は、次のとおりである。
 昭和43年度以前の公文書のうち、保存期間が永年のもの
 ――――――

 この告示によって、昨年4月から石川県では、過去のすべての永年保存文書は公開されることになった。整備は5年で完了したのである。こうした作業を経過措置というのであって、金沢市が10年たっても、「経過措置」に手をつけないのは、条例の趣旨を踏みにじっているものといえよう。一刻も早く解除措置が取られることを望むものである。

 金沢市に比べて、石川県の情報公開条例が格段に進んでいるのは明らかなのだが、石川県に少々苦情を言わせてもらえば、文書を保管・管理する各課で、知事の告示どうりになっていない実態がある。「永年保存文書」の意味をよく理解していないためであろう、重要文書が行方不明になって、市民からの指摘で右往左往している。その都度幹部職員が陳謝しても、資料整理のために人員と時間を保証しないと、担当職員に疲労が蓄積するだけである。県庁移転を2年後に控えている。今すぐ措置をしないと大量の重要文書が永久に消える。
                                       (了)



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