この通信は、本会が「水問題」を端緒に「辰巳ダム問題」にかかわり、専門部会として
「用水研究部会」を設置し検討してきましたが、その当面の結論をまとめたものです。
辰巳ダムや辰巳用水の問題は、収集した公文書から様々で新たな問題が明らかになり、
単なる「報告書」ではなく、石川県知事あての「公開質問」という形でまとめたもの
でもあります。
この公開質問以後の経過は、「情報公開ものがたり」のページの次のファイルで報告し
ているので、参考にしていただきたい。
◆重要/県へ公開質問A 2001.5
回答延期@ 2001.4.5
回答延期A 2001.7.2
県から回答 2001.8.21
◆重要/県の回答へのコメント 2001.8.21
通信は、PDFファイルとして掲載しているが、同内容をテキストファイルにしました。
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★ナギの会通信★ No14
(テキスト版 2001.3.25)
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辰巳用水は誰のもの?
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| 疑問続出の犀川の水利 |
| 辰巳用水に二つの水利権がある |
| 金沢市の工業水利権は遊休水利権 |
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(左)辰巳用水の東岩取水口。写真右手奥の黒い所。ここから水トンネルとなっている。これがダムで破壊される。
(右)取水口前の頭首工(堰)。辰巳用水土地改良区が申請していたものだった(質問3を参照)
(左)辰巳用水の水トンネル内部
(右)犀川大橋近くの大野庄用水取水口。 この左に金沢市の工業用水の取水口が作られ、 金沢港近くへパイプで水を
送る計画でした。
水利権ってなに?
水利権って、ご存じでしょうか?
河川は「公物」であるとして、水の使用には社会的ルールがあります。この使用
する権利が水利権です。河川法では「流水の占用」と表現されていますが、歴史的
な習慣を基に整備されてきたものです。
水利権は、許可と慣行の二種類があります。
許可水利権は、水の利用者が県知事に申請し、許可をもらうもの。発電などは、
特定水利権として建設大臣の認可を必要とします。
もう一つの慣行水利権は、昔から習慣的に使用され社会から認知されている水の
利用権で、多くは農業用の使用権です。どちらも「物権的権利」として守られてい
ますが、多くの水利権が競合した場合、権利が確定した順に優先権があるものとさ
れています。
この慣行水利権は、農耕が定着した中世から長い間かかって、時には激烈な水争
いを通して、社会的に定着してきたものです。中世の代表的な水争いに、和歌山の
紀ノ川支流・水無川の水争いが有名で、鎌倉中期に始まり、朝廷や高野山を巻き込
んで実に二百年以上続いた記録が残されています。石川県では手取川の七ケ用水で
多くの水争いの記録がありますし、各地で秋祭りの喧嘩祭や喧嘩御輿(みこし)と
して残されています。
そこで身近な用水、辰巳ダムで破壊される辰巳用水にはどういう権利があるのか?
兼六園の曲水を潤している水にどのような権利があるのか? を調べてみました。
また、他の水利権を調べる中で、金沢市が36年前に取得した犀川ダムによる工
業用水の水利権がまったく使われずに放置されていることが判明。これはどういう
ことなのか? 様々な疑問が浮かび上がりました。
河川法や水利権、民法の専門書を調べて1年半。現地調査に何度も足を運び、真
実に近いものに迫ることができました。
これらの問題点は、当会の私的研究の枠にとどめることなく、より広く社会的な
ものとするため、去る3月21日、河川管理者の石川県知事に公開質問しました。
●質問に出てくる河川法条文を解説すると――。
第23条は「流水の占用」を規定し、水の利用についての規定で許可水利権本体
を定める条文。
第24条は「土地の占用」を規定したもので、堰など河川の中に工作物を作ると
きの利用を定めている。
第26条は「工作物の新築許可」を規定し、工作物新築の条文。
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■公開質問状全文
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石川県知事 谷本正憲 様 2001年3月21日
ナギの会用水研究部会代表 渡辺
寛(住所・電話)
犀川の水利・用水についての質問
私ども、ナギの会の活動の一環として、これまで、辰巳ダムや辰巳用水について、
行政の公文書を入手し、様々な角度から検証してきました。
この度、犀川の農業用水や金沢市の発電事業に関わる水利権資料を検討する中で、
いくつかの奇妙な事実が浮かび上がりました。これらは、私どもの私的研究の枠を
越え、県民、市民の生活あるいは石川県政や金沢市政と深く関わるという認識から、
河川管理者である貴職に率直におたずねし、河川行政に生かされるよう8項目の質
問としてまとめました。
なお、これらの内容は、昨今の地球温暖化と気象、水質問題ともからみ、金沢市
の治水・利水にも関係すると考えられるため、広く行政人、議会人、環境NGO、
農業関係者にもお知らせしますので、速やか(3月末日まで)に文書での回答をお
願い致します。
質問1 辰巳用水・二つの水利権について
辰巳用水の水は、兼六園に運ばれ、文字通り金沢市民、石川県民共同の財産であ
り、辰巳用水は歴史的文化財であります。
辰巳用水土地改良区が得ている用水の申請及び許可資料を見ると、「灌漑期以外
は兼六園への引用水として取水する」とあり、この記述以外に兼六園等へ流入する
水の権利関係を示す資料はありません。
そもそも、辰巳用水は兼六園・金沢城への取水のために建設された専用用水であ
り、時代を経てもその目的は現在までも変わらず、兼六園の曲水や市内の用水とし
て利用され、金沢市や石川県の景観・親水・観光などに大きな役割を果たしている
ことは、県民・市民共通の認識です。一方、辰巳用水土地改良区の水利権は、灌漑
のための私的な農業水利権であり、歴史的に見ると本来の殿様用水という専用水路
からの余水使用権と考えられます。
したがって殿様用水と称されてきた辰巳用水の水利権は、慣行水利権として確定
していると考えるのが水利権についての判例、学説からの結論です。つまり1本の
辰巳用水には2つの水利権(土地改良区の許可水利権と兼六園等への慣行水利権)
が併存していると考えられます。
この問題についての河川管理者としての貴職の見解を伺いたい。
質問2 辰巳用水慣行水利権の水利台帳への
記載と行政の責任について
現在石川県が管理する水利台帳調書には、辰巳用水について、土地改良区の農業
用水の水利権だけが記載されていますが、質問1のとおり「慣行水利権としての辰
巳用水」の記載が必要と考えられます。
慣行水利権は昭和39年の旧河川法成立により犀川が二級河川として指定された
とき速やかに届け出ることが必要だったものですが、その当時、慣行水利権につい
ての理解や、農業用水との関連についての理解が不十分であったため届け出がされ
ず、水利台帳に記載されなかったものと考えられます。届け出がなくとも、現在も
生きて使用されている水利権は慣行水利権であることは、法解釈においても明解で
す。
届け出のない慣行水利権・庄用水の例もありますので、兼六園へ流入する殿様用
水・辰巳用水を河川管理の上からも、水利台帳へ記載する必要があると考えられま
す。
こうした作業と、慣行水利権としての認識は、辰巳用水の管理作業の精神的負担
を一方的に辰巳用水土地改良区に与えることなく、県民・市民・土地改良区・行政
相互による友好的共同作業が可能になる道を開くもので、行政としての貴職の責任
は重大だと思います。
過去の事跡の調査を含め貴職の見解を伺いたい。
質問3 辰巳用水土地改良区の水利権の許認可事務について
辰巳用水土地改良区による昭和42年1月23日の許可申請資料を見ると、形式
上河川法第23、24、26条に基づく申請となっているものの、実際の内容は、
東岩取水口前の頭首工建設のための許可を申請しているだけの書類です。その後の
許可期間満了による更新申請と更新許可の内容は、混乱を極め、他の水利権許認可
書類と比べても、異質なものとなっています。
辰巳用水土地改良区からの申請は、一貫して東岩取水口前の頭首工(堰)の建設
と土地占用許可を求めています。
こうした混乱は、河川管理者側が、水利権についての理解が不十分であったため
と考えられ、貴職の責任は大きいものと思われます。
河川管理者・水利権許可者として、これらの調査に着手し、県民が納得できるう
る説明を伺いたい。
質問4 犀川上流部の犀川ダムや上寺津ダムの運用について
辰巳用水の水利権は、昭和42年以前の慣行水利権をベースにしたものであり、
既得水利権として保護されなければなりません。これは、犀川ダムや上寺津ダムの
特定水利権申請書類にも金沢市と石川県の協定で「既存の水利権に支障なきよう運
用すること」とあるように明らかです。
また、質問1のとおり慣行水利権に係る水量を考慮すると、年間をとおして、辰
巳用水土地改良区の潅漑時に必要としている以外に、必要充分な流量が保証されな
ければなりません。これらは辰巳用水取水口より上流に既設されている犀川ダムや
上寺津ダムの放流で十分可能であり、しかもこうした措置は河川法上の義務と考え
られます。現在の辰巳用水への水不足は、東岩取水口下流にある上辰巳発電所へ水
を落としていることに主原因があります。
発電事業で特定水利権許可を建設大臣から得た条件を遵守するこ
とで辰巳用水への流量は確保され、農業用水や兼六園への渇水問題は解決されます。
貴職の見解及び運用の改善について見解を伺いたい。
質問5 金沢市の工業用水道の水利権について
石川県と金沢市の共同事業・犀川ダム建設時、金沢市は工業用水の水利権として
0.46t/秒の取水権を得ています。しかしこの水は認可以来36年間取水された
ことがありません。この認可は駅西地区・港地区の工業団地開発のために許可され
たものですが、将来にわたっても工業用水として利用される事のない河川法上、典
型的な遊休水利権と考えられます。
遊休水利権は、「逐条河川法」(建設省新河川法研究会)によっても「水利権を実
行しない者は、権利の上に眠る者であるばかりでなく、その遊休水利権が他の緊急
かつ有用な水利権の成立の障害となり、河川の有効な利用を妨げる可能性が大であ
る…」と厳しく戒められているものです。従って、金沢市の工業用水の水利権の存
続は犀川全体の水利の整合性に混乱を与えるばかりでなく、違法に近いものと考え
られます。
即刻調査いただき、少なくとも次回更新時において廃棄処分されなければなりま
せん。河川管理者としての貴職の見解を伺いたい。
質問6 金沢市の工業用水水利権の破棄で 河川環境改善を
昭和40年完成の犀川ダムは、金沢市の工業用水を確保するため、総量207万
トンの水を開発し、0.46t/秒の流量が犀川ダムから排水され続けていると考
えられます。この流量は辰巳ダム建設の目的の一つである「河川維持流量」の大半
をしめるほどの膨大な流量です。
こうした問題は、かつて議論の俎上に登ったことがなく、犀川ダムで排出される
流量と金沢市の工業用水の関係、及び他の多くの水利権との関連を明確にする必要
があります。また、こうした遊休水利権の廃棄によりダム完成により既に開発され
た水の使用目的転用や運用改善により、新しい視点から犀川の河川改善に役立てる
ことが必要だと考えられます。
貴職のご判断、見解を伺いたい。
質問7 犀川ダム建設収支を明らかにし県民・市民への負担軽減を
犀川ダム建設時に費用分担(アロケーション)をしているが、建設後の収支を明
らかにし、金沢市の工業用水開発に係る費用負担がどのようになっているかの説明
をお願いしたい。これは、本来、工業用水の利用者から使用料として徴収されるは
ずのものが反故になっているため、建設費用が市民・県民へ転嫁されている可能性
のある問題で、貴職から県民・市民が納得できうる説明をされる義務があると思い
ます。
金沢市とともに共同責任のある貴職の見解を伺いたい。
質問8 厳正なる許認可事務について
ある用水で更新許可ごとに次のような記述があります。
取水量:0.034t/秒(初年度の許可量)
0.034t/分(五一年十月更新)
0.034t/日(六一年三月更新)
単位が違うことにより、現在の取水量は初年度に比べ8万6千4百分の一になっ
ています。これは、許認可事務のミスと推察されますが、こうした水利権という物
権にかかわる許認可事務において許されるべきことではありません。
貴職の見解及び対策を伺いたい。
以 上
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《ちょっと紹介》
■ナギの会の情報公開活動
98年から、水辺環境を守る視点から、犀川中流に計画されている辰巳ダム計画
を第一次資料をもとに考えてきました。
情報公開請求によって入手した数百の公文書の厖大な資料検証を経て、辰巳ダム
計画に大きな疑惑があることを明らかにしてきました。
その1 河川法第16条で義務づけられている「工事実施基本計画」なしに、辰
巳ダムが着工されており、違法の疑いがあること。
その2 昭和55年に石川県文化財保護審議会が、正式な教育長からの諮問もな
く、辰巳用水の文化財的価値についての審議を一度もせず、しかも正規の会議も一
度も開くことなく、「辰巳用水の破壊やむなし」の結論を出した経過を明らかにし
ました。
これらの問題は、県と市民団体などとの意見交換会でも県から明確な説明がなく、
県にとって辰巳ダム計画推進の足枷になっています。
辰巳ダムが河川環境の破壊を招くところから、当会では緊急的に辰巳ダム問題に
関わってきましたが、かなり専門的で緻密な作業を伴うため、ナギの会に用水研究
部会を設置し、この問題を専門的に研究してきました。
■ナギの会の活動へご参加を
ナギの会は、1994年、河北潟をベースに浅野川や犀川の水辺環境回復に寄与
するため結成されました。
これまで、レッドデータブックに記載されている水草の調査をすすめ、特に県内
のミズアオイの分布調査や、県内で一九七二年を最後に絶滅したとされているオニ
バスの種子発掘によって発芽・繁殖に取り組むため、調査を終え、発掘を予定して
います。なお、県内唯一の自生地は渡辺の自宅がある北間町の田んぼ。当地ではオ
ニバスのことをジャバスと呼んでいます。
ミズアオイについては、兼六園の放生池に繁茂していることを発見して、世に紹
介。今では放生池を訪れる植物愛好者には広く知られています。
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