金沢市の工業用水水利権は遊休水利権。
これは違法ではないか?! …検討内容



 直感的に思うのは、工業用水事業は行政が行う営利事業だから、水道や発電事業、競馬事業などと同じく、特別会計を組んで、独立採算でやらなければいけない。これは私の直感だけではなく、資料や地方自治法などを見ながら、確信となった。まとめてメモしておく。

 まず、秋田市の大王製紙誘致への「補助は違法」とした第1審判決から出発します(秋田地方裁判所・97年3月21日判決)。
以下、判決要旨の冒頭部分。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
 地方公営企業法17条の3により、秋田県の一般会計から秋田県工業用水道事業会計(特別会計)に対して行う本件補助は、大王製紙との覚書、県議会の動向、埋立工事関係の進捗状況に照らせば、その実施が相当確実さをもって客観的に推測される。
 本件補助は、ダム建設、未売水の状況、受水企業誘致の必要性等の補助を必要とするに至った理由に照らすと一面では合理性を認め得るが、本件補助の目的が、同法が要請する地方公営企業における独立採算制、受益者負担及び料金決定の諸原則から大きく乖離した本件負担価格12円50銭を達成させることにあることに加えて、本件補助の期間、金額、態様及び諸効果、受水企業の負担能力等の検討結果をも総合考慮すると、ダムの給水能力のうち大王製紙等使用分30万トン分の水道事業専用施設費について発行した企業債の支払利息分の補助及び収支差分についての一時借入金の支払利息分のほじょについては、「特別の理由」を認めることができず、違法であるから、差し止めるのが相当である。

 ―――――――――――――――――――(引用おわり)――
これによって、つぎのことが分かります。
 1) 事業は「地方公営企業法」によって行っていること。
 2) 同法で、事業は独立採算、受益者負担の原則がある。
 3) 補助、借り入れの「特別の理由」は認められない。

次に、現行の金沢市特別会計条例の第1条をみる。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
第1条 地方自治法第209条第2項の規定により、次の各号に掲げる特別会計と当該各号に定める目的のため設置する。
(1) 市営地方競馬事業費特別会計 地方競馬事業
(2) 市街地再開発事業費特別会計 市街地再開発事業及び同事業に係る精算
(3) 土地区画整理事業費特別会計 土地区画整理事業及び同時業に係る精算
(4) 公共用地先行取得事業費特別会計 公共用地の先行取得事業
(5) 工業団地造成事業費特別会計 工業団地造成事業
(6) 農村下水道事業費特別会計 農村下水道の建設及び管理
(7) 住宅団地建設事業費特別会計 住宅団地建設事業
(8) 駐車場事業費特別会計 駐車場事業

 ―――――――――――――――――――(引用おわり)――
 とあり、また、
 地方公営企業法第17条による特別会計として、ガス事業、水道事業、病院事業、発電事業、工業用水道事業などの特別会計を設置しています。

 以上は現行条例です。ここに出てくる工業用水道事業は、森本のテクノパークのこと。犀川ダムでの工業用水事業ではない。
 今問題の犀川ダム建設時の工業用水事業はどうなったか? この条例は昭和39年に施行されています。

 施行当時の条例を見せてもらった。これは議会事務局にある。
 すると「犀川総合開発事業費特別会計 犀川総合開発事業」として、特別会計を組むように定めている。
また、地方財政法第6条による特別会計として、簡易水道費、と畜場費、観光会館費などがあります。

これが、犀川ダムが完成した時(昭和42年)条例を改正し、「犀川総合…会計」を削除している。削除したけど、水道や発電などは別途特別会計を作り、工業用水事業だけが分離して特別会計から削除された。

ここまでで、いろいろな法律が登場した。
根拠となる法律の条文を順次見ていきます。

まず、地方自治法第209条。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
 普通地方公共団体の会計は、一般会計及び特別会計とする。
 2 特別会計は、普通地方公共団体が特定の事業を行なう場合その他特定の歳入をもつて特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合において、条例でこれを設置することができる。

 ――――――――――――――――(引用おわり)――
 以上、事業を行う場合、条例で特別会計を作ることになっている。これが「金沢市特別会計条例」の根拠である。

 次に、地方公営企業法17条を見てみます。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
第三章 財務
(特別会計)
第十七条 地方公営企業の経理は、第二条第一項に掲げる事業ごとに特別会計を設けて行なうものとする。
 但し、同条同項に掲げる事業を二以上経営する地方公共団体においては、政令で定めるところにより条例で二以上の事業を通じて一の特別会計を設けることができる。
(経費の負担の原則)
第十七条の二 次に掲げる地方公営企業の経費で政令で定めるものは、地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において、出資、長期の貸付け、負担金の支出その他の方法により負担するものとする。
 一 その性質上当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てることが適当でない経費
 二 当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行なつてもなおその経営に伴う収入のみをもつて充てることが客観的に困難であると認められる経費
 2 地方公営企業の特別会計においては、その経費は、前項の規定により地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において負担するものを除き当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てなければならない。
(補助)
第十七条の三 地方公共団体は、災害の復旧その他特別の理由により必要がある場合には、一般会計又は他の特別会計から地方公営企業の特別会計に補助をすることができる。

 ――――――――――――――――(引用おわり)――

 以上の条文が大変重要なところ。
 つまり、独立採算の原則をうたっている。特別な場合、一般会計からの出資や貸付などはあるものの、金沢市がやっているような「維持管理費の支出」はあり得ないのです。

 次に、地方財政法6条を見ます。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
(公営企業の経営)
第六条 公営企業で政令で定めるものについては、その経理は、特別会計を設けてこれを行い、その経費は、その性質上当該公営企業の経営に伴う収入をもつて充てることが適当でない経費及び当該公営企業の性質上能率的な経営を行なつてもなおその経営に伴う収入のみをもつて充てることが客観的に困難であると認められる経費を除き、当該企業の経営に伴う収入(第五条の規定による地方債による収入を含む。)をもつてこれに充てなければならない。但し、災害その他特別の事由がある場合において議会の議決を経たときは、一般会計又は他の特別会計からの繰入による収入をもつてこれに充てることができる。
 ――――――――――――――――(引用おわり)――

 これで、ハッキリしました。
 「特別の場合」、議会の議決を経て、一般会計から繰り入れる収入でまかなえるけれど、特別な場合とは「災害その他特別の事由」としており、災害に準じるような特別な場合だけです。
 ここまで何となく分かってきたから、金沢市の企画調整課に聞きました。

 「現在事業がスタートしていないので、工業用水の特別会計を組めないのは分かる。しかしその建設費や維持管理費などが、なぜ一般会計から支出されているのか。本来なら建設費や維持管理費は借入などの項目で特別会計にしておかなければいけないのではないか。特別な場合に当てはまるのか。それとも支出を可能にしている特別な法律があるのか。根拠を教えてほしい」

 夕方、企画調整課のTさんから電話があり、違法性に確信を持ちました。「根拠はありません」という返事だったからです。
 留守電に入っていた彼の言葉をメモしておきます。

お問い合わせについての回答ですが、法律上、根拠となる規定はないのですが、一般的に、普通は一般会計というものがありまして、特に法律で定める場合に、特別会計を条例で規定して定めることになっています。その廃止する際に、先ほど申しましたように根拠となる規定はないのですが、根拠という部分では昨日お渡しした特別会計条例の付則について議会の議決を経て元の一般会計に帰属すると言うのが、最後の根拠となると思います。

 付則というのは、金沢市特別会計条例改正(1967/S42.3.25)の時に付けたもの。
 ―(引用)――――――――――――――――――――
3 犀川総合開発事業特別会計に属する債券債務及び出納閉鎖後の歳計剰余金は一般会計が引き継ぐものとする。
 ――――――――――――――――(引用おわり)――
 いかがでしょう。まさにお手盛り改正である。
 当時の議会議事録をみると、与野党を含め、全会一致の議決である。

 秋田市の場合、補助は、企業誘致という部分で一面合理性を認められるが、借金の利息分の補助などは特別な理由とは認められず違法で差し止める、となっています。
 補助の中身が具体的に分からない部分もありますが、長期的な未売水で収入がなく、特別会計への一般会計からの補填の意味と思います。
 事業はスタートしてはいないけど、特別会計を作り一般会計から借入や利息補助をしています。
 金沢市と極めて似ているケースですが、金沢市は特別会計を作らず、すべての経費を一般会計から補填しています。秋田市より違法性が高いのではないか。

 ここで、問題となるのは、こうした措置が行政の裁量の範囲に入るのかどうかということ。
 様々な行政施策を執行する上で、条件が整わず、計画どおりに執行できない場合、代替的、補完的な対策をとることがあり、行政の裁量権として認められるば場合がある。
 この金沢市がとった、本来、特別会計で独立会計で処理しなければならなかった、工業用水の場合は、この行政の裁量の範囲なのかどうか、これが最大の争点となるであろう。
 この行政の裁量権についての検討は、別ファイルで準備しようと思っている。
                                  (渡辺 寛@ナギの会)


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