森づくり目的税創設へのコメント

掲載 2006.10.18

石川県の「これからのいしかわの森づくりと森づくりの税案」に対する県民意見の募集(パブリックコメント)へ次の意見を出した。

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はじめに
この委員会は、部会を含め13回の会議が開かれているが、一度も開催についての事前案内がない。いわば県民から傍聴などを許さぬ状況で会議が続けられていた。通常、こうした委員会開催について、ホームページ上の「記者発表資料」として情報を提供しているが、森づくりの検討委員会は、県民が直接議論に接する機会がまったくないという異常な状況であった。
また、森林管理課のホームページで検討委員会の議事要旨が掲載されていたが、本来の議事録ではないため、議事録の提供を求めたところ、担当者から「議事録は作っていない。テープもとっていない。会場でメモをとりそれを議事要旨としてまとめたもの」という返答があった。後日、情報公開条例にもとづく公文書請求したところ、議事録が公開された。なお、現在でも議事録そのものはホームページ上に掲載されていない。
以上のように、この検討委員会の運営は異常なものばかりである。
また、パブリックコメントを案内するホームページから「いしかわの森づくり検討委員会」資料へのリンクがなく、一般の方は、基礎的な資料を入手するのはきわめて困難である。こうした点でも担当部署の不親切は批判されても仕方がないものである。

意見1
◆これは「詐欺的手法」による制度悪用であり、反対である。

昨年度決定した「石川県行財政改革大綱」に森林整備のための新税創設をうたっているにもかかわらず、第1回委員会では、委員の質問に対して農林部長は、「まったく白紙だ」と答弁していた。
しかし検討委員会の経過をみると、執拗に「新税創設」の方向に議論を誘導するもので、「白紙の状態」で議論が進められたとはとうてい言えないものである。
つまり結論を出すために検討委員会という制度を悪用した「詐欺的手法」と考えられる。

意見2
◆行政の自己反省のない森林整備についての議論はおかしい。

責任を県民に向けるような今回の新税新設は本末転倒である。検討委員会の議論のほとんどは「森林の現状」と「整備に費用がかかる」ということであった。これはこの検討委員会の議論を経るまでもなく、森林を知る方々の常識である。また多くの公的団体、市民団体などが限られた条件の中で粉骨砕身の努力が重ねられてきたことでもある。
しかし一向に改善しない原因は、この森林荒廃の大きな原因が国家レベルの森林政策や森林の土地所有のあり方にあって、地方自治体や市民県民の少々の努力では解決しないという問題を抱えている。
それに、これも言い古されたことでもあるが、林道建設などが森林の奥深くまで続けられ、森林荒廃に拍車をかけてきた。まさに不要不急の公共事業が森林荒廃を助長し拡大した側面も否定できない。
また、高度成長時代に拡大した、いわゆるリゾート開発、ゴルフ場開発などが挫折、放置されたところも多く、森林荒廃の原因にもなっている。
こうした行政自らが深く関わった過去の森林での事業や施策についての反省が必要であるが、今回の森づくり検討委員会の議論にはこうした視点がまったくない。真の荒廃の原因を隠して森林の荒廃一般を議論しても県民の理解は得られないと思われる。

意見3
◆森林整備の財源確保と新税創設は本来別のことである。

森林整備に多額の費用がかかることについては同意するものであるが、この費用の財源と新税創設は、本来、関係のない話である。
つまり、知事の決断と議会の承認だけで新税創設は可能であり、森づくり検討委員会なるものはまったく必要のないものである。
こうした本来の議論の場は議会である。議会で予想される安易な新税創設なるものへの批判や説明責任を回避するために検討委員会なるものをつくり、「委員会で結論を出した」という茶番のような話である。議会からのチェック機能が働くためにも議会に説明すべきである。検討委員会の提言なるものを持ち出す必要はまったくない。

意見4
◆県財政の分析や検討がまったくおこなわれていない。

常識的に思うのは、必要と思われる県の施策がある場合、県の財政からの捻出を考える。ところが、この森づくり検討委員会では、県の財政についての分析や検討がまったくない。ただ一直線に新税創設への結論を導くだけの議論である。
国の総務省の指針でも、戦略的予算配分がうたわれ、不要不急の支出を抑えることが示されている。今回の財源議論には県財政分析が必要不可欠であると思われるが、参加されている委員に財政の専門家はいない。議論も皆無である。
議論の大前提が狂っているから、議論が成り立っていない。真に森づくり、森林荒廃を解決しようとするなら、これまでの議論を白紙に戻していただきたい。

意見5
◆市民アンケートはまさに誘導による我田引水で、無責任である。

このアンケートの設問だけを見ても、新税創設を是とする結論は見えてこないのであるが、この結果から、新税創設の合意があると結論づけたのは、横暴以外のなにものでもない。
設問を見ると、
(1)森林一般に対する県民の親しみ感と整備についての確認
(2)維持管理への参加協力、その度合い
(3)協力への費用負担意識
等がならんでいるものの、すべて一般的な設問であって、これをもって新税創設を結論づける根拠とはとうていなり得ないものである。
なぜ、率直に、県の行財政大綱にうたった新税創設について直接問うことをしなかったのか。きわめて欺瞞的で、我田引水的結論である。
この同じ回答結果から「新税創設は不可能であり、県民合意は得ていない」という結論を導くことも可能である。

意見のまとめ
今回の森づくり整備の提言とパブリックコメントへのシナリオには、最初から「新財源創設の結論」が書かれており、委員会の議論の中心であった「森づくり整備方針づくり」が「財源新設」にすり替わっていることがよくわかる。両者は本来まったく別のことである。
整備費用と財源問題を議論するには、石川県の財政やムダ、戦略的分野への予算再配分、全国でもトップクラスの公共事業依存体質など、過去の財政政策の総点検が不可欠である。そういった税や財政分析に関わる基礎的議論がないままに新税創設を決めるのは本末転倒である。
大綱にある「受益者は県民一般だから新税」の論理が通れば、「少子化対策」「町づくり」「新幹線整備」「河川整備」「ダム建設」など、ありとあらゆることに目的税が作られる道を開くことになる。
こうしたことに「検討委員会」なる少数者のお手盛り提言は、行政の無能無策の証明でしかない。

追記――
なお、これを機に前向きに石川の森づくりのあり方を考えるとするならば、次の措置や議論が必要だと思う。
(1) 森林についての「御用学者ではない専門家」の参集を得て、財源論議と切り離した議論がまず必要である。
(2) 10年、20年、50年、100年など、長期的視野にたった整備水準の程度や具体的な姿を提供する必要がある。
(3) それぞれの整備の段階における必要な費用規模を科学的に算出する。
(4) 会計事務所などの協力で県の財政分析を行い、不要不急の公共事業の洗い出しや財政の見直しをおこなう。
(5) それぞれが国の施策や補助行政と不可分一体であるため、国への制度改善や批判など森林整備のための行動を行うこと。

―― 以上 ――  


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