愛知県河川堤防緊急強化検討会報告書

第1編 愛知県河川堤防強化基本方針


2004.8.29 掲載


第1編 愛知県河川堤防強化基本方針

1. 概 要

 平成12年9月11日から12日にかけて、愛知県内では台風第14号及び秋雨前線の影響により未曾有の集中豪雨に見舞われた。県内の河川は軒並み水防警報が発令され、県管理の新川・天白川などでは、危険水位(計画高水位)を超える過去最高の水位を記録し、8河川10箇所において県管理河川堤防が決壊したのをはじめ、県下ほぼ全域で645箇所の河川施設が被災した。また名古屋市をはじめ愛知県内の広範囲で浸水被害が発生し、被災住家は床上浸水約2万6千9百棟、床下浸水約4万1千棟に達した。

 また公共交通機関においても、運転見合わせとなった鉄道等は、JR、名鉄、近鉄、名古屋市営地下鉄など23路線にのぼり、なかでもJR東海道本線は約71時間、名鉄名古屋本線が約55時間と長時間にわたり不通となった。高速道路は、東名・名神・中央・東名阪自動車道において一部通行止めとなり、一般国道(直轄管理)も9路線23箇所において冠水等により通行止めとなった。さらに電気・ガス・水道などのライフラインも被災するなど、昭和34年の伊勢湾台風以来の大規模な被害となった。

 そこで、愛知県では、今回の豪雨における河川・河道の水理・水文状況及び河川堤防の土質状態等を調査・把握し、それを踏まえた今後の河道整備の課題と堤防復旧補強工法を検討することを目的に『愛知県河川堤防緊急強化検討会』(委員長 辻本哲郎 名古屋大学大学院教授)を設置し、平成12年10月5日に第1回、11年29日に第2回、12月27日に第3回、平成13年2月19日に第4回の検討会を開催した。第1回から第3回にかけては、名古屋市西区内の新川左岸堤防の破堤状況を調査・検討し、その破堤機構の推定とともに堤防復旧・強化の基本方針について審議し、平成13年2月16日に中間報告を発表した。また、第3回と第4回に、天白川を始めとして他の河川の被災状況と堤防復旧・強化の基本方針および愛知県河川堤防強化基本方針について審議した。本報告書は『愛知県河川堤防緊急強化検討会』として、のべ4回の検討会の審議結果を踏まえ、愛知県河川堤防の強化基本方針等を取りまとめたものである。

2.被災の経過

(1) 愛知県内の状況
 日本海をゆっくりと南下した秋雨前線は、9月10日21時には東北地方から山陰沖の日本海沿岸に停滞し、その後12日にかけて、日本列島上で南北振動を繰り返した。一方、9月3日15時、サイパン島の東の海上にあった熱帯低気圧は台風第14号となった。その後、11日9時には大型で非常に強い勢力を保ちながら、南大東島の南南東約120キロの海上をゆっくりと北西に進んだ。東海地方には10日夜から台風の東側に広がる雨雲がかかりはじめ、11日には台風から暖かく湿った空気が多量に流れ込み、前線の活動は著しく活発になった。

 11日昼過ぎから三重県で激しい雨が降り始め、夕方から夜遅くにかけては、愛知県内各地で記録的な雨が降った。発達した雨雲は三重県南部から愛知県西部に次々と流れ込み、愛知県の激しい雨は12日の明け方まで続いた(図1−1、1−2)。

 この豪雨において名古屋地方気象台が観測した11日未明から12日までの降雨量は、「名古屋」で総降雨量567mm、時間最大雨量93mm、「東海」で総降雨量589mm、時間最大雨量114mm、また、愛知県所管の雨量観測局である「阿久比」では総降雨量622mm、時間最大雨量93mmを記録した。これらは、名古屋地方気象台における年間総降水量約1,535mmの1/3にも達し、明治24年の統計開始以来最大の記録となった(図1−3)。

  図1−1 9月11日21時現在の天気
  図1−2 9月11日19時現在の「ひまわり」の画像
  図1−3 愛知県等雨量線図(総雨量)

(2) 河川の被災状況
 今回の豪雨により、県内の河川では、一級河川庄内川を始め、木曽川、矢作川、豊川において洪水予警報、水防警報が発令され、県管理河川の一級河川庄内川水系新川、一級河川矢作川水系矢作古川、二級水系日光川においても水防警報が発令された。また、新川(名古屋市西区あし原町地内)をはじめ県管理河川8河川10箇所での破堤やその他、溢水および内水の影響により、名古屋市を始めとする広範囲の地域で被害が発生し、愛知県内の浸水被害棟数は床上浸水26,945棟、床下浸水41,123棟であった。特に、庄内川、新川、天白川では既往の最高水位を越えるなど、河川施設への被害も大きく全県で645箇所(うち県管理河川476箇所、市町村管理河川169箇所)の河川施設が被害を受けた(図1−4,1−5)。

  図1−4 愛知県浸水実績図と県管理河川破堤箇所
  図1−5 愛知県河川施設災害箇所

3.河川整備の基本的考え方

 安全で潤いのある県土づくりの重要な構成要素である河川の整備にあたっては、災害の防止・軽減、河川空間及び河川水の有効な利用、環境保全の総合的な観点が不可欠である。
 このため、洪水による災害の防止・軽減にあたっては、太古以来の度重なる河川の氾濫により形成された濃尾平野等の沖積平野に多くの人口及び資産が集積していることを踏まえ、河川流域の人々が安全で、安心して暮らせる生活の場の確保及び経済社会基盤の安定的な発展を実現できるよう、長期的な視野で計画的に河川を整備することが必要である。さらに、一定規模の洪水による災害を防止するだけでなく、それを超える規模の洪水が生じた場合においても、河川の整備のみならずハード・ソフト施策の組み合わせにより被害を最小限に止めることが重要である。
 中小河川は、一般的に河川の規模、本支川、上下流のバランスや想定氾濫区域の大きさ、被害規模などから大河川に比べて整備の対象としている計画規模が小さい河川が多く、計画規模を上回る洪水に見舞われる潜在的危険性が高く、また財政的な理由などにより整備途上であることが多いこと等から、計画規模以下の洪水によっても氾濫する可能性が高いという特徴を有する。 したがって、中小河川の整備にあたっては、減災に向けて、限られた財政事情のもとに、過去の洪水災害と現在の整備状況及び背後地の土地利用状況等を踏まえ、河川の特性に応じて、調節池等の洪水流量低減策や、河道掘削や築堤などの流下能力の向上確保策などの治水対策を適切に組み合わせて、流域との連携のもとソフト施策(情報伝達、水防、避難等)とも併せ強力に推進することが肝要である。

4.愛知県河川堤防強化基本方針

(1) 堤防強化の基本的考え方
 河川堤防は、洪水が沿川地域へ氾濫するのを防御する極めて重要な治水施設であり、一定の氾濫を許容する霞堤を除けば、連続した盛土構造物となっているのが一般的である。特に、低平地に人口、資産の集積が多い県内にあっては、河川堤防は根幹的な治水対策として嵩上げ、拡幅等による補強を繰り返しながら現在に至っている。
 これらの河川堤防の強化・補強にあたっては、前述した河川整備の基本的考え方のもとに実施することとなるが、実施にあたっては以下の事項を基本とする。

 @ 今回の東海豪雨災害による被害状況と河川整備、堤防整備の状況を適切に捉え、各種の災害復旧制度を活用して将来に手戻りの少ない堤防強化を実施する。
 A 強化が実施される堤防は、計画高水位以下の洪水に対して破堤しない構造とするとともに、これを超える洪水に対しても粘り強い構造とすることを目標とする。
 B このため、従来の堤防形状を重視するのみでなく、堤防に求められる安全性能、すなわち耐浸透、耐侵食及び耐越水機能について所要の安全水準が確保されるよう設計を行う。
 C さらに、今回緊急的な強化が実施されない区間の堤防については、今後の河川整備計画に応じて、同様な考え方のもと、適宜強化を実施し、水系としてバランスのとれた河川整備を目指す。
 Dなお、現状の技術水準において、土で造られた河川堤防に絶対の安全性を求めることは困難であることから、その補填として水防活動が担う役割は大きく、そのために光ファイバー等により水防情報を提供するシステムの拡充を図り、堤 防の安全性を高める。
 E河川の持つ豊かな生態系や地域の風土をはぐくむ役割に注目し、生物の生息・生育環境、地域の景観など河川環境に配慮することとする。

 また、住民の避難時に資するように情報の共有・伝達等の整備も併せて実施し、洪水に対する減災に努めるものとする必要がある。

(2) 各河川における堤防整備方針
 今回の災害と河川堤防の整備状況から、県内の被災河川を次の3タイプに捉え、各々の河川において適切な堤防の強化、補強を実施することが望ましい。
・タイプ1:人口・資産の集中地域を流れ、堤防整備が早くから実施されてほぼ概成しており、周辺の土地利用もこれを前提に進んでいる河川で、今回の洪水により大規模な被災があった河川である。新川の災害がこれにあたり、河川激甚災害特別緊急事業により現堤防の強化を図る。
・タイプ2:人口・資産の集中地域を流れ、河川改修を本格的に実施している最中に、未改修区間において今回の洪水により被災した河川である。天白川の災害がこれにあたり、河川激甚災害特別緊急事業により河道改修計画にあわせて堤防の強化を図る。・タイプ3:上記に含まれない河川で、今回の洪水により局所的に破堤が生じた河川。災害復旧事業等により、堤防の局所的な強化を図る。


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