〔主文〕
 
「被告は,志賀原発2号機を運転してはならない。」

掲載 2006.3.24

初の原発差し止め判決 《金沢地裁/志賀原発2号機》
―― 国の耐震基準を超えた地震が現実に発生している ――

判決を傍聴に行ってきた。歴史的な判決の場だった。
希望者200人ほどが集まったが、傍聴券は20枚余。抽選にもれたが、原告団から傍聴券をいただき入廷。
午前10時。静かに判決の言い渡しが始まった。裁判長の「主文 被告は、志賀原発2号機を運転してはならない。」との言葉に一瞬空白のような時間が流れる。ほんの1秒程か。傍聴席の一角から拍手が起きた。直後、記者がバタバタと出ていった。
最大のポイントは、原発近くを走る断層(邑知潟断層帯)で発生する地震と安全性についての国の基準の関係。
被告・北陸電力は「国の耐震基準」をクリアしており問題なしと主張したが、昨年8月に発生した宮城県沖地震で女川原発で観測された加速度は国の基準を越えていた。
こうした事実をふまえ、裁判は当初予定された最終公判を延長し、被告・北電に反証の機会を与えたが、北電は一般論を述べるだけだった。そもそも国の基準が現実と乖離しているので、一私企業が反証できるはずがない。
この「国の基準と現実との乖離」は、ダム問題でも同様であろう。この論理で考えると、想定される「辰巳ダム事業差し止め訴訟」は、勝訴確実 (^_^)v
なんせ辰巳ダム計画についての県の説明は、「国の基準に沿っていて、専門家も同意」としか言っていないのだから……。

弁護団からいただいた「判決骨子と判決要旨」を以下に紹介する。
赤字部分が重要なポイント箇所。

◆朝日新聞ニュース
◆3・24判決を前に(朝日新聞マイタウン)
◆毎日新聞石川ニュース
◆共同通信
◆原子力資料情報室(CNIC)


           判   決   骨   子

平成11年(ワ)第430号志賀原子力発電所2号機建設差止請求事件,平成18年3月24日

判決言渡
原告:堂下健一ほか134名,被告:北陸電力株式会社

〔主文〕
 被告は,志賀原発2号機を運転してはならない。

〔理由〕
@環境権は,志賀原発2号機の運転差止めを裁判所に請求する根拠とはならない。

A本件請求が認容されるためには,原告らが人格権を侵害される具体的危険があること,即ち,許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険があることを主張立証する必要がある。

B被告による志賀原発2号機の耐震設計には,i直下地震の想定が小規模に過ぎる,A考慮すべき邑知潟断層帯による地震を考慮していない,B原発敷地での地震動を想定する手法である「大崎の方法」に妥当性がない等の問題点があるから,被告の想定を超えた地震動によって本件原発に事故が起こり,原告らが上記被ばくをする具体的可能性があることが認められる。これに対する被告の反証は成功しなかったから,上記の具体的危険があると推認すべきである。

Cプルサーマルが実施されるのが志賀原発1号機なのか2号機なのか確定していない現状では,プルサーマルが危険か否かに関する判断を示す必要はない。

DABWRの危険性,その他の原告らの主張は,抽象的に過ぎるか,立証が不十分であり,いずれも採用できない。     

以 上   


          判   決   要   旨

平成11年(ワ)第430号志賀原子力発電所2号機建設差止請求事件,平成18年3月24日判決言渡

原告:堂下健一ほか134名,被告:北陸電力株式会社

           主        文

 被告は,志賀原子力発電所2号原子炉を運転してはならない。

           理        由

1 当事者
 志賀原子力発電所2号原子炉(以下「本件原子炉」という。)は,石川県羽咋郡志賀町赤住地内で被告が運転する改良型沸騰水型軽水減速軽水冷却型原子炉(ABWR)であり,熱出力約393万キロワット,電気出力約136万キロワットである。東京電力柏崎刈羽原子力発電所第6号機及び第7号機が本件原子炉に先行するABWRである。
 原告らの居住地は,石川県,富山県を中心に,東は福島県から西は熊本県まで16都府県にまたがり,本件原子炉から最も遠い者で約700キロメートル離れている。

2 判断の前提となる一般論
(1) 差止請求の根拠
  個人の生命,身体及び健康が現に侵害されている場合,又は侵害される具体的な危険がある場合には,その個人は,その侵害を排除し,又は侵害を予防するために,人格権に基づき,侵害行為の差止めを求めることができる。
  原告らは,差止請求の根拠として「人が健康で快適な生活を維持するために必要な良き環境を享受し,かつ,これを支配し得る権利」である「環境権」も主張するが,このような権利ないし利益が実体法上独立の差止請求の根拠となり得るとは解し難い。

(2) 立証責任等
  本件において原告らは,本件原子炉の運転により,原告らが規制値(以下「許容限度」ということがある。)を超える放射線を被ばくする具体的危険があることを主張立証すべきである。
  原告らが,被告の安全設計や安全管理の方法に不備があり,本件原子炉の運転により原告らが許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証した場合において,被告が,原告らが指摘する具体的危険が存在しないことについて,具体的根拠を示し,かつ,必要な資料を提出して反証を尽くさないときは,上記具体的危険の存在を推認すべきである。
  原子力安全委員会の安全審査の結果は,原子炉施設の安全設計の基本方針に妥当性に欠ける点がないかを審理するに当たって重要な資料となるが,安全審査を経ているからといって当該原子炉施設の安全設計の妥当性に欠ける点がないと即断すべきものではなく,問題点ごとに,安全審査においてどこまでの事項が審査されたのかを個別具体的に検討して判断すべきである。

3 諸般の事情の総合考慮による差止めの可否
 被告による本件原子炉の平常運転をもって,原告らに対する人格権侵害行為と評価することはできない。被害の種類・程度・地域性,代替エネルギー(天然ガスや再生可能エネルギー,省エネ)の問題,原子力発電の必要性の問題や核燃料サイクル全体にわたる問題等の,原告らか差止請求の根拠となる旨主張する事情を考慮しても,その結論は変わらない。

4 過去の事故例からみる事故の危険性の主張について
 スリーマイル島原発事故やチェルノブイル原発事故が生じたからといって,本件原子炉で同様の事故が発生する具体的可能性があるとはいえない。志賀原発1号機や先行ABWRを含む我が国の原子力発電所において,多数の異常事象が生じているからといって,直ちに本件原子炉施設に周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくするに足りる放射性物質の放出をもたらすような事故が発生する具体的可能性があるとはいえない。
 被告が本件原子炉施設の応力腐食割れ対策に当たって依拠する原子力安全・保安院の「原子力発電設備の健全性評価について−中間とりまとめ−」の考え方は,特段不合理な点があるとは認め難いから,本件原子炉において,応力腐食割れを原因とする事故が発生する具体的可能性があるとはいえない。
 被告が予想していない時期に,予想していない場所で減肉を原因とする本件原子炉施設の配管の破断が生じる危険は否定し難いが,これによって,本件原子炉施設の周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があるとはいえない。

5 ABWRの危険性の主張について
 ABWRの固有の危険性,すなわち,@インターナルポンプを採用したことによる金属片の発生・流入の危険,同ポンプの停止に伴う炉内不安定性の増大の危険,同ポンプ取付部の破損の危険等,A改良型制御棒駆動機構を採用したことによる危険,BECCSが縮小されたことによる危険,C定期検査が短縮されたことによる危険,D高燃焼度燃料を採用することによる危険等の主張については,これらによって事故が発生する具体的可能性についての立証が不十分である。

6 多重防護の有効性
 @ボイド効果の逆転,A多重防護の考え方自体の無効性,Bヒューマン・エラー,C保守管理の不十分さ,D異常発生の検知の不十分さ,EECCS配管の共倒れ,F想定不適当事故に起因する本件原子炉施設の危険性等の主張については,原告らの主張が抽象的に過ぎる。
 また,G出力振動,H炉内圧力・水位の異常,I制御棒挿入の遅さ,J逃がし安全弁の開固着,Kスクラム失敗,LECCSの有効性欠如,M原子炉格納容器及びその付属施設の脆弱性に起因する本件原子炉施設の危険性等の主張については,これらによって事故が発生する具体的可能性の立証が不十分である。

7 MOX利用の危険性
 被告は本件原子炉施設においてプルサーマルを実施するか否かをまだ決めていないのであるから,プルサーマルが原因で原告らの人格権が侵害される具体的危険があるということはできない。
 原告らとしては,被告が本件原子炉施設においてプルサーマルを実施することを決めた段階でプルサーマルの危険性を理由とする本件原子炉の運転差止請求をすれば足りる。

8 地震・耐震設計の不備
(1) 被告の本件原子炉施設の耐震設計が妥当であるといえるためには,本件原子炉施設の運転期間中に大規模な活動をして敷地に影響を及ぼし得る震源断層に対応する地表地震断層をもれなく把握していることと,直下地震の想定が妥当なものであること,松田式,金井式及び大崎スペクトルを主要な理論的支柱とする基準地震動の想定手法(大崎の方法)が妥当性を有することが前提となる。

(2) 大規模な陸のプレート内地震であっても,地震発生前にはその震央付近に相当する活断層の存在が指摘されていなかったと言われている例やこれに相当する地表地震断層が確認されなかったと言われている例が,平成12年の鳥取県西部地震の外,相当数存在している。
  被告がした綿密な調査によっても活断層が見つからなかったからといって,本件原子炉の直下にマグニチュード6.5を超える地震の震源断層が存在しないと断ずる合理的な根拠があるとは認め難い。

(3) 政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会が平成17年3月9付で公表した「邑知潟断層帯の長期評価について」と題する報告は,邑知潟断層帯は,将来的にも全体が一つの区間として活動すると推定し,発生する地震の規模はマグニチュード7.6 程度とした。上記報告の評価内容に不備があるとは認められない。耐震設計審査指針に従えば,邑知潟断層帯による地震は,基準地震動S2として考慮すべき地震である。

(4) 地震の規模の限定なく,地表地震断層の長さから松田式を用いて地震の規模を想定するのは,想定される地震の規模を小さく予測してしまう危険がある。
  マグニチュードと震源距離から岩盤上での地震動を想定する金井式は,その元となったデータの特性と類似する一定範囲の地震動については妥当な結論が得られる可能性が高いと思われるが,その適用の限界は慎重に見定めるべきである。現実には線状である地震の発生源を点として捉える点においても,適用の限界がある。
  解放基盤表面における速度応答スペクトルを表した大崎スペクトルは,当該地震動において大崎スペクトルを超える応答速度が生じないというものではないし,データが限られていることによる限界もあり得る。
  結局,大崎の方法の妥当性如何は,大崎の方法により得られた結果と実際の観測結果との整合性如何にかかっている。
  平成7年1月17日の兵庫県南部地震の観測結果は,大崎の方法によって導き出される基準地震動が現実の地震動よりも過小なのではないかとの疑問を生じさせた。
  平成17年8月16日の宮城県沖地震(M7.2)の際,女川原発の敷地で観測された加速度は,震源が同原発により近かった明治30年の仙台沖地震(M7.4,女川原発の設計用最強地震の一つである。)が同原発の敷地に与えた地震動を大崎の方法(金井式)で想定した結果を上回った。また,同原発で観測された上記加速度は,同原発の基準地震動S2の最大加速度に達していなかったのに,基準地震動S2による設計用応答スペクトルの値を上回った部分がある。
  そうすると,大崎の方法は実際の観測結果と整合しておらず,その妥当性を首肯し難い。

(5) 大崎の方法の妥当性を首肯し難い上に,その前提となる考慮すべき地震の選定にも疑問が残るから,本件原子炉敷地に,被告が想定した基準地震動S1,S2を超える地震動を生じさせる地震が発生する具体的可能性があるというべきである。そのような地震が発生した場合,被告が構築した多重防護が有効に機能するとは考えられない。

(6) 原告らは,地震によって周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証した。これに対する被告の反証は成功していないから,地震によって周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険があることを推認すべきである。本件原子炉の増設についての原子力安全委員会の安全審査の結果は,その後,地震について生じた重要な事象(平成12年の鳥取県西部地震,平成17年宮城県沖地震等)を前提としていないから,上記判断を左右しない。

(7) 人格権に基づく差止請求が認められるためには,その侵害ないし侵害の具体的危険が受忍限度を超えて違法であることを要するところ,本件原子炉の運転が差し止められても少なくとも短期的には被告の電力供給にとって特段の支障になるとは認め難く,他方で,被告の想定を超える地震に起因する事故によって許容限度を超える放射性物質が放出された場合,周辺住民の生命,身体,健康に与える悪影響は極めて深刻であるから,周辺住民の人格権侵害の具体的危険は受忍限度を超えているというべきである。

(8) 原子力発電所で重大事故が発生した場合,その影響は極めて広範囲に及ぶ可能性がある。そして,本件原子炉において地震が原因で最悪の事故が生じたと想定した場合は,原告らのうち最も遠方の熊本県に居住する者についても,許容限度である年間1ミリシーベルトをはるかに超える被ばくの恐れがあるから,全ての原告らにおいて,上記具体的危険が認められる。
 よって,原告らのその余の主張を検討するまでもなく,原告ら全員の被告に対する本訴各請求をいずれも認容するべきである。        

以 上 


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