最近の金沢市内で進められている箱モノ開発を「内発的発展論」の延長・具体化としてとらえる方がおられる。
金沢市のまちづくりを内発的発展論で説明できるのだろうか?
この内発的発展論は、元は先進国と第三世界の対立の克服、あるいは第三世界の復興と発展のための糸口として提起されてきたものだが、その手法は、深刻な公害問題を経た日本の都市問題解明にも応用され、1992年の国連環境開発会議(地球サミット・ブラジルサミット)で提唱された「持続可能な開発」とともに一般にも知られた。しかしこの用語は「持続可能…」と比べて最近ではあまり聞かれなくなっていたが、金沢市の開発行政をこの用語を使って解説される方々が登場したり、ましてやイタリアのボローニャ市を引き合いに出しての絶賛ともなると、「はて、そうだったっけ?」と首を傾げながら、「内発的発展論」を誤解しているのではないかと思う。
行政担当者には大変ありがたい応援団ではあるが、北陸新幹線着工で狂乱状態にある金沢市内の開発を 「内発的発展論」
から検証するためにも、まずこの理解から進める必要があろう。
本棚からホコリをかぶった資料を引っぱり出してきた。
内発的発展論のメモを作っておこう。(ボローニャ関連サイトも後掲)
◆『もう一つの発展−いくつかのアプローチと戦略』
(ダグ・ハマーショルド財団 1977)
経済成長優先型の「歪んだ発展」に対する「もう一つの発展」を提唱
「もう一つの発展」と「内発的発展」は同義と考えられる。
(1) 基本的必要に関連している(Need-oriented)。
これは、発展目標が、物財の増大にあるのではなく、物質的・精神的な人間の基本的必要を充足することに向けられることを指している。とりわけ、
今日人類の大多数を占める被支配・被抑圧大衆の衣食住、教育、衛生等の基本的必要を満たすことが課題である。発展の究極の目標は、すべての人間が、自己表現、創造、平等、共生等の必要、そして自分で自分の運命を決める必要を充足していくことにある。
(2) 内発的である(Endogenous)。
これは、自ら主権を行使、自らの価値観と未来展望を定めるような社会の内部から起こってくる発展のあり方を指している。このような発展は必然的に単線的なものではありえず、したがって普遍性を主張することもないから、自ずとそれぞれの経済社会単位の歴史的・構造的状況に応じた複数の発展パターンとならざるをえず、また、そのような発展のあり方の複数性の尊重を意味している。
(3) 自立的である(Self-reiant)。
内発性の基盤は自立性である。すなわち、それぞれの社会の発展は、その自然的・文化的環境の下で、まず当該社会構成員のもつ活力を生かし、その経済社会のもつ諸資源を利用する形で行われるべきである。このことはもちろん、アウタルキー的自給論やブロック化を意味するのではなく、リカード派の国際分業論のように他者・他単位のもつ諸資源を当初から自己の経済成長にくみ込んでいくような発展のあり方が、必然的に国内外における支配−従属関係を導くことにたいする警戒心を示している、と理解されるべきである。自立的経済の形成は、国民経済レベル、国際経済レベル("集団的自力更生")で行われうるが、その根幹は、かつてケアリが指摘したように、地域経済の自立性にある。
(4) エコロジー的に健全であること(Ecologically sound)。
支配的な経済成長優先型の発展では環境保全の側面がしばしば無視され、子々孫々の世代が享受すべき環境資源、生態系を破壊して、将来世代ばかりか現在世代の貧困化をも導くことが多い。もう一つの発展では、地方的な生態系に将来世代の利用にたいする配慮を加え、現在世代と将来世代が共に環境資源から最大の利益を得つつ、これを合理的に利用する方向がはかられる。それは同時に適正技術を用いつつ、あらゆる資源にたいして社会成員のすべてが公正な利用機会を保障されることを意味している。
(5) 経済社会構造の変化が必要であること
(Based on structuralransformation)。
社会成員のすべてが自分に影響するような意思・政策決定に関してこれに参加し、また、自ら管理することができるためには、しばしば、社会関係、経済活動やその空間的な分布、また権力構造等の面での改革が必要である。これは、農村、都市から全世界に至るまで同じことがいえるので、こうした経済社会構造の変化なくしては、もう一つの発展は決して達成されないだろう。
◆鶴見 和子 『内発的発展論へ向けて』1980
内発的発展とは、目標において人類共通であり、目標達成への経路と、その目標を実現するであろう社会のモデルについては、多様性に富む社会変化の過程である。共通目標とは、地球上のすべての人々および集団が、衣・食・住・医療の基本的必要を充足し、それぞれの個人の人間としての可能性を十分に発現できる条件を創り出すことである。それは、現在の国内および国際間の格差を生み出す構造を、人々が協力して変革することを意味する。
そこへ至る経路と、目標を実現する社会の姿と、人々の暮らしの流儀とは、それぞれの地域の人々および集団が、固有の自然生態系に適合し、文化遺産(伝統)に基づいて、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に創出する。
地球的規模で内発的発展が展開されれば、それは多系的発展となる。そして、先発後発を問わず対等に、相互に手本交換をすることができる。
◆西川 潤 『内発的発展論の起源と今日的意義』1989
(1) 内発的発展論は、欧米起源の資本蓄積論、近代化論のバラダイムを転換し、後者の経済人像に代え、全人的発展という新しい人間像を定立している。したがって、利潤獲得や個人的効用の極大化よりは、むしろ、人権や人間の基本的必要の充足に大きな比重がおかれる。
(2) 内発的発展は、自由主義的発展論に内在する一元的・普遍的発展像を否定し、すなわち、それに伴う他律的・支配的関係の形成を拒否し、これに代えて、自律性や分ち合い関係に基づく、共生の社会づくりを指向する。人間の自律性、物化の拒否が社会や民族の自立と重ね合わされる。
(3) 内発的発展は、参加、協同主義、自主管理等、資本−賃労働、国家−大衆という、資本主義や中央集権的計画経済における伝統的生産関係とは異なる生産関係の組織を要求する。国家機構や経済運営の様々のレベルにおける労働者、生産者、利用者たちの参加、共同決定、協同管理は、資本主義、社会主義双方の経済社会の内部に協同組合セクターを育て、これらの経済社会システムにおける中央集権主義、権威主義的他律関係を緩和していく役割を果たしている。
(4) 内発的発展においては、地域レベルにおける自力更生(self-reliance)、自立的発展のメカニズム形成が重要な政策用具となる。国家、地域、都市、農村等あらゆるレベルの地域的産業連関、地域内需給の形成による地域的発展、地域的共同性の創出が、巨大開発や多国籍企業による外部からの分業設定や資源吸収、単一文化の押しつけにたいして地域のアイデンティティを守る経済的基盤となる。地域自立は同時に、住民と生態系間のバランスに支えられなければならない。生態系や環境の破壊は、住民を貧困化させ、自力更生の基盤をこわすからである。内発的発展においては開発と保全のバランスによって、時間的にも空間的にも、住民共同体が限られた地球・地域の資源から利益を得て、自らと子々孫々にいたる豊かな生活を保障していくことが計られる。このような発展は自ずと、定常型に近いものとならざるをえない。
◆宮本 憲一 『現代の都市と農村』より 1982
(1) 外来的開発と異なり、外部の大企業に依存せず、住民自らの創意工夫と努力によって産業を振興する。外来資本や補助金を導入する場合は、地元の経済がある程度発展して、それと必然的な関係を要求したときである。
(2) 地域内需給に重点をおき、全国市場や海外市場の開拓による急激な売上げの増大を最初からめざさない。まず、安定した健全な経営を実現する。
(3) 個人企業の改善にはじまり、全体の地域産業の改善へすすみ、できるだけ地域内産業連関を生みだす。また、経済振興ばかりでなく、文化、教育、医療、福祉などを総合したコミュニティづくりを行う。
◆宮本 憲一 『環境経済学』より 1989
内発的発展論の原則(4項目)
(1) 地元の技術・産業・文化を土台に、地域内の市場を主な対象として地域住民が学習・計画・経営すること。だが、地域主義ではない。大都市圏、政府との関連を無視して地域が自立できるものではない。
(2) 環境保全の枠の中で開発を考え、アメニティ福祉、文化、地元住民の人権の確立を求める総合目的を持つこと。
(3) 産業開発を特定業種に限定せず複雑な産業分野にわたるようにして、付加価値があらゆる段階で地元に帰着するような地域産業連関をはかること。
(4) 住民参加の制度をつくり、自治体が住民の意志を体して、その計画にのれるように資本や土地利用を規制しうる自治権を持つこと。
◆保母 武彦 『内発的発展論と日本の農山村』より 1996
環境・生態系の保全及び社会の維持可能な発展を政策の枠組みとしつつ、人権の擁護、人間の発達、生活の質的向上を図る総合的な地域発展を目標とする。
地域にある資源、技術、産業、人材、文化、ネットワークなどのハードとソフトの資源を活用し、地域経済振興においては、複合経済と多種の職業構成を重視し、域内産業連関を拡充する発展方式をとる。地域経済は閉鎖体型ではないため、「地域主義」に閉じこもるのではなく、経済力の集中・集積する都市との連携、その活用を図り、また、必要な規制と誘導を行う。国家の支援措置については、地域の自律的意思により活用を図る。
地域の自律的な意思に基づく政策形成を行う。住民参加、分権と住民自治の徹底による地方自治の確立を重視する。同時に、地域の実態にあった事業実施主体の形成を図る。
したがって、特産品の開発や一村一品づくりなどに限定する「狭義」の内発的発展論ではなく、地域から発展・展開する発展政策をその内容としている。
ボローニャ関連資料――
ボローニャ県公式サイト
http://www.japanitalytravel.com/banner/bologna/top.html
ボローニャ寸景
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/5769/bologna.html
ヨーロッパの歴史風景
http://www.europe-z2.com/chusei/ad1088it.html
ボローニャの休日
http://www.kyokoskitchen.com/essaysj/bolognaj.php?lang=ja
ボローニャへ行こう
http://allabout.co.jp/travel/travelitaly/closeup/CU20040328A/
美食の町ボローニャ
http://allabout.co.jp/gourmet/italiancuisine/closeup/CU20011101/
パスタポロネーゼ
http://www.kijikiji.com/gourmet/delicious/bolognese.htm
ボローニャ旅行掲示板
http://4travel.jp/overseas/area/europe/italy/bologna/bbs/
参考(~_~メ)――
「いや〜ね金沢」
http://nagi.popolo.org/kimon/iyane_1.htm
毒にも薬にもならない?金沢市民参画推進条例
http://nagi.popolo.org/jouhou/kanazawa/sankaku_jorei.htm
金沢市ホームページ
http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/index.html
|