検討委員会報告書(案)に意見提出


渡辺 寛


◆1 知人からの手紙紹介―――――――――――――――――
 もう金沢をいじくるのはやめて――、という悲鳴状態。住まいは25年前、小松に移り、そのころから金沢市内はガラガラと音を立てて、破壊されています。以前は晩年の棲家は生まれ育った金沢か、と思っていたのに、「よき金沢」は私の思い出の中だけになってしまった。変えるのではなく、どう維持するかが、都市計画の課題ではないのですか? ヨーロッパの都市を見よ! それに比べて金沢駅周辺、市内各種公園は粗大ゴミ状態!!
 目をつぶって通るしかない毎日。
 だれが犯人なんでしょうか? 山出さん? 市のお役人?
 腹が立つのは、職場が金沢なので、働いた税金がそちらへというのが、なお、許せない。この気持ち、是非金沢市に届けて……。
       ―――――――――(50代女性。職場・金沢。住居・小松)

◆2 条例化への疑問
 日本国憲法にあるように、地方自治は、民主主義の前提である。つまり、国からの関与によらず、地方の住民の意志に基づき、地域における住民生活に直接関係を持つ公共、共同の事柄について、住民自身の意志、責任及び負担によってこれを処理することで、住民自治と同義である。
 その執行者である首長は市民から選ばれ、直接市民に責任をもつ「大統領制」で運営されている。具体的な手続などは憲法をはじめ、地方自治法など諸法に規定されている。
 本市においてもこうした地方自治、住民自治の精神にもとづく様々な制度があり、今回の金沢市における「市民参画推進条例」を策定することそのものが、同義反復であり、必要のないものである。
 もし条例を制定するとすれば、本市で実施・実行されている現行の諸制度を検証・点検し、制度的欠陥、法的不備を条例で補完すべきであって、検討会での最重要な検討事項であったはずであるが、こうしたものは皆無であった。
 また「市民フォーラム」では、参加者から「時間をかけて各地域で市民から意見を聞く機会を設けるべき」との疑問が出されたが、事務局からは三月議会で議決を得て4月施行の日程を伝えられただけであった。
 そもそも条例化のための日程があらかじめ決められており、条例の本旨である「市民参画」そのものと絶対矛盾を起こしている。

◆3 金沢市行政改革推進委員会と国の地方制度調査会答申について
 市民参画推進の条例化は、2003年11月開催の第2回金沢市行政改革推進委員会の会議の中で、事務局から提起されたものであるが、その原型は「地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方税財源の充実確保に関する答申」の中で、住民自治の更なる充実方策を具体的に問題提起している。
 この審議会は、2年にわたり18回の小委員会を重ね、様々な角度から現行制度の問題点を洗い出し、具体的な施策を含め答申にまとめており、一定の重さがある。それは、本報告書に簡単に「新しい住民参加のあり方」と紹介されているだけであるが、この項目は新しい自治のあり方を提言するなかの一部でしかない。
 問題提起の中には、地方議会制度のあり方を含め、様々な提言が紹介されている。

 たとえば――
(1)住民投票制度の検討
(2)直接請求制度(必要署名数の要件緩和、請求代表者による意見陳述の機会の保障、請求代表者による意見陳述の機会の保障)
(3)住民監査請求制度・住民訴訟制度の充実(住民監査請求制度の充実、職員に対する賠償命令制度の充実、住民訴訟における訴訟類型の再構成、住民訴訟における原告(住民)の弁護士費用の公費負担の拡充等)
(4)新しい住民参加のあり方(パブリックコメント、行政評価、審議会等委員の公募、女性の登用、行政情報の積極的公開、多様な住民組織との協働関係等)

 なお、この答申では、「積極的な情報公開と、幅広く多様な意見を幅広く積極的な参加機会の拡大」と強調されているのがポイントである。
 こうした問題提起を受けたはずの金沢市行政改革推進委員会及び本検討会報告書(案)は、総花的な一般的な紹介に終わっている。

◆4 検討委員会と報告書案への疑問
 本検討会報告書(案)に多くの検討会で検討されていないものが含まれており、検討会の報告ではなく、事務局案となってしまっている。
 第3回検討会で事務局から出された「案」とパブリックコメント対象の文書は、量も内容も大幅に変更され、膨大になっているが、その変更について第3回検討会ではほとんど検討されていない。この膨大なものが検討会で議論されたように扱われているのは、市民参画という条例制定と矛盾するものである。

◆5 情報公開・共有と市民参加について
「3 金沢市の市民参加の手法の現状」では、10項目の手法の紹介があるが、この市民参加の手法の大前提である「情報公開と情報共有」がこのリストに入っていないのは「本検討会報告書(案)」の最大の弱点である。
 過去、企画立案段階の情報公開を求めたが、多くは「意志形成過程の情報」として拒否されている。
 手法の紹介だけでなく、積極的な情報公開と共有を進めるにあたって、過去の異議申立事例を検証し、既情報公開情報公開条例を見直し、市民参加との関連を明確にすべきである。

◆6 パブリックコメントについて
 事業が既に決定された後に市民から意見を求めるものであって、行政不信あるいは市民参加を妨げる原因になってる。過去の例では、アメリカシロヒトリ駆除の農薬散布を復活させたときパブリックコメントが試行されたが、市民からの意見に担当者の対応が、数々の手続違反を行ったが、全く検証もなく反省もなかった。
 また多くの市民はまったく知らないため、この制度に頼るのは危険であり、限定的なテーマ(広く市民が関心を持っているもの)に限るべきだと思われる。

◆7 審議会について
 各種審議会が開かれているが、過去の例では委員の多くは批判的な人士は除かれている。多様な意見が反映され得ない構成では審議する意味がない。一例をあげると、片山善博鳥取県知事が進める行政改革は「審議会には必ず批判的な委員を含める」というのがある。
 また、「金沢市における伝統環境の保存及び美しい景観の形成に関する条例」あるいは「金沢市における市民参画によるまちづくりの推進に関する条例」には、審議会が設置され、市長の責務として、必要な事業を諮問することになっているが、この審議会が機能しているとは思えない。
 一例を挙げると、金沢駅前整備事業では一度も審議会に諮問されておらず、有名無実と化している。また審議会規則には会長が独自に必要事項の審議を可能としているが、第三者的な機能を喪失している。
 こうした既存の審議会制度を抜本的にメスを入れないかぎり、真の市民参画は実現できない。

◆8「市民参画」「協働」について
 各所に登場する「協働」であるが、意味は「行政と市民が協力し一緒に働く」というもののようである。一見、肯定的で積極的なように見える。
 しかし実際の「協働の現場」は、既に行政から決められた事業の運営・活動・管理に、ボランティア的に市民を「動員」するものが多く、とても協働とはいえない。また中心的な一部特定の人間に手当が出され、とうてい行政と一般市民との協働作業とはいえない事例が目につく。
 圧倒的情報量と資金を持つ行政執行者たる金沢市と市民との間の共同作業には、行政からの情報公開をはじめとする倫理的規制と、自立・自覚した市民との緊張関係が不可欠である。これなくして真の「協働」はありえない。
 こうした面からの検証ががないため、「市民参画」「市政参画」「協働」という言葉だけが踊るだけの条例ができるだけで、地方自治・民主主義の基本理念の一部である「市民参画」という本来の意味とは異なり、行政への無批判な市民を作り出す役割を果たすのではないかと危惧する。

◆9 住民投票について
 地方制度調査会の答申にある「種々の検討すべき論点があり、引き続き検討することが必要」の文言を根拠に今条例で取り上げないとしているが、この条例の検討作業の中でこそ金沢市独自の「様々の検討」をおこなうべきものであって、最初から議論しないのは、地方制度調査会の本意を損なうものである。
 全国各地の自治体で既に住民投票を市民参画の手法として組み込んでいるところも増えている。こうした先進事例を参考に金沢市における住民投票のあり方の是非、表現の仕方が必要であったはずである。
 検討会でこの意見が出されたとき、委員長と事務局からのやりとりで住民投票について議論する機会が失われてしまった。
 住民投票を条例に盛り込むべきで、検討会で真摯な議論を要望する。
 
◆10 最後に
 条例化には様々に過去と現状の検証と、検討委員会そのものの検討検証過程が必要である。3月議会へ上程可決、4月施行という日程に捕らわれることなく、もっと自由に、もっと時間をかけ、もっと広く情報を提供し、多くの市民の目に触れるような手続こそが必要で、この過程の広がりと道理が、市民参画をすすめることにつながると思われる。
                ―――――――――――― 以上。(2005.1.28)


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