地球サミットと私たちのささやかな経験

 ブラジルサミットの前年、1991年発足した石川環境ネットワークのことをメモしてあります。「高い理想?」を持って取り組んだネットワーク化の作業でした。このネットワークの名称は現在も続いているが、性格もスタイルも変わっている。この間、さまざまなことがあったが、別ファイルに抽象的?本質的?にまとめてある。
 以下の文章は、当時のみなさんの熱意そのままを反映しているのではないかと思う。原文のまま掲載しておきます。(渡辺 寛 niftyのフォラムに掲載したもの)

その1
(1991.12記)

 「地球サミットの危機」が叫ばれています。しかし私たちのできることは現在でもたくさんあるように思います。
 石川県で、ささやかではありますが、環境ネットワークが出来、アースディや地球サミットにむけ動き出していますが、この1年の私達の経験をまとめてみましたので、ご笑覧下さい。ご意見もどうぞ。書き出すと長くなりましたのでとりあえず《その1》を掲載します。

 今年の地球サミットが、今世紀の最大、正確には人類の進化課程での最大の転換期だとの認識は、そんなに大げさでもなく的外れでもない。国連環境計画(UNEP)のトルバ事務局長は「92年は地球を救う、たぶん最後の機会」と強調する。地球サミットの意義を言っているのだが、サミットの事務局長モーリス・ストロング氏は「"地球サミット"は何としても成功させなくてはなりません。他に選びうる妥当な道はないのです」と強調する。
 しかし、各種の報道がもたらす地球サミットをめぐる状況は、南北の対立、「先進国の代表」アメリカの消極的な態度、それに追随するかの態度をとる「金持ち」日本の姿勢……。環境問題にかかわってきた者の一人として、地球サミットの危機を肌身に感じる。

 しかし、厳しい政治状況であるからこそ、あまり悲壮になってはならないと思う。世界を相手にするのに焦っても仕方がないと思う。それだからこそ "Think Grobally, Act Locally" のスローガンを生かしたいと思う。

 各県、各地の環境を守る運動が最近富みにさかんになり、さまざまなグループが誕生し活動している。しかし私の見るところ、たしかに環境にかかわる運動ではあるのだが、地域エゴ的あるいは自己満足的な活動も少なくない。何かが欠けていると思う環境運動がたくさんある。目先の運動の目的が達成されればそれで終わり。本来なれば、その運動を通して環境運動の専門家が生まれて来なければならないのだが……。
 欠けている一つに運動を結ぶネットワーク化の作業がある。一つの目標達成のために作られるネットワークもあれば、多目的の課題のために作られるネットワークもあるが、石川県で昨年つくられた「環境ネットワーク」は従来のネットワークとはひと味違っている。“情報ネットワーク”に徹して、それ以外に目的を持たない。ただ月1回の情報誌「石川環境ダイアリー」を発行するのみである。行動提起もいっさい行わない。それを何の力にもならないと酷評する方も極小数おられる。しかし圧倒的に賛意の声がが寄せられている。

 私がこの事務局にかかわってきて感じるのは、この一見、頼りない情報ネットワークが徐々に威力を発揮してきているということだ。十一団体で出発したネットワークであるが、現在三十七団体が参加。個人参加六十名のうち団体関係者を含めると六十団体をこえる。
 過去より石川県でも様々な運動があった。しかしそれらの運動はすべで自前の力量の範囲でしか外に向かって呼びかけができなかった。話題性のある行動しか報道関係は取りあげないし、恒常的に活動を「広報」するには限界があった。この「ダイアリー」に掲載される活動によって、環境運動にかかわる互いの情報交換が実に自然に出来るようになった。様々な団体の活動、行政の環境に関する動きが一目瞭然となり、透きとおってきた。
 そうした中で私が重要だと思うのは、団体同士の連帯感が自然に生まれてきた事だ。
今まで互いに知らないことで誤解を重ね、反目し合ったりしていた団体もあったようだが自然に協力し合う雰囲気が出てきた。数年前の状況とは雲泥の違いである。
 こうしたことが出来たのも“ネットワーク”が発足時に確認した「行動提起はしない、情報のネットワーク」に徹したからに他ならない。行動はそれぞれの団体が提起し行えばよい。ネットワークは各団体の「行動」を情報として提供するだけである。分裂のしようがない。

 今、私達は地球サミットにむけ、一つの計画を準備している。
 まだ全国的には、地球サミットに対する関心は高いものの「地球の裏の会議」であって、「代表派遣」が中心の活動になっているのではないかと思う。代表を送らないところでも、ブラジル会議が終わってからの会議参加者を講師に迎えて「報告会」を計画する程度ではないかと思う。
 私達の今の構想では、この地球サミットを最大限に「利用」する事。そして単に啓蒙に終わらせないために、地球サミットの期間中、並行して「ミニ地球サミット」を開き、「アジェンダ21」ならぬ「石川の環境憲章」を作り上げようという計画。
 いくつかのテーマで作業部会をつくり、実現可能な提言としてまとめたいと考えている。こうした活動が全国的に広がれば日本の環境運動を大きく変える事になると思う。
 当然今まで環境にかかわってきた様々な団体が参加し、経済団体や企業家も加わってもらわなければならない。行政の協力も得なければならない。

 まだ日数がある。すぐに準備すればどこの地域でも可能である。地球サミットを「地球の裏の会議」にしてはならないと思う。

その2

 「地球サミット」についての紹介の前に、もう少し「石川環境ネットワーク」について書きたいと思う。
 前回、「互いの情報交換が実に自然に出来るようになった。様々な団体の活動、行政の環境に関する動きが一目瞭然となり、透きとおってきた。」「団体同士の連帯感が自然に生まれてきた」と書いた。
 ネットワークが出来て初めて知った事だが、県内に実にたくさんの環境グループがありいろんな活動をしている。石川県自然保護協会のような20年選手もあれば、出来たてのホヤホヤのグループもある。一般に、石川県内に100くらいのグループが日常的に活動しているといわれているが、それらのほとんどは互いに日常的な活動は知らず、「砂に水をまくような」孤立感と闘いながら地道に活動していた。
 変わったイベントや行政に対しての「異議申し立て」的な行動に対して新聞等もとりあげ、「世間」にニュースとして紹介されるが、そうしたことはそのグループにとっては、活動の一部にすぎない。しかし、その一部が報道される事によって、逆にその会本来の活動が誤解される事もある。報道がもたらす効果の恐さでもある。一般に「新聞等を利用しよう」と掲載されるのを歓迎するむきもあるが、こうした「穴」のある事も充分承知しなければならないと思う。
 さきにあげた「ネットワークが、自然に連帯感を生んでいる」ということを、私は「情報ネットワーク効果」と名づけたい。ある方が次のように「おたより」に書いている。「いろんな催しに参加できなくても、あーこんなのある、と思うだけでも心強かったりします」と。
 つい先日(3月1日)、「石川環境活動交流会/石川の環境は今!」が開かれた。いろんな団体が活動報告をし、石川の環境の現状を多角的に検証した。時間の関係で各分野の12団体が報告を発表したが、資料での参加も含めると24団体が報告した。その顔ぶれをみると2、3年前だったら同席は考えられない実に多彩なメンバーが集まっていた。環境問題が深刻になってきたことの反映でもあるのだが、団体のすべてがネットワークの参加団体である事をみると、「情報ネットワーク効果」のあらわれだと感じる。

 この「効果」をもたらしたネットワークの成立は、環境問題の深刻さからくる必然的な道筋であるのだが、過去の様々な市民グループの離合集散を見てきた私にとって、偶然とチャンスがうまく重なった結果と見る。
 過去、数限りない会の結成と連合がくりかえされ、消えていった。ある環境運動の重鎮が言う。「私は現在、30以上の会の会員になっている。しかしそのほとんどの会はありません」。悲しい事だと思う。

 石川のネットワークを知って「私のところでもこういうのをつくりたい」と他県から資料を求められることもある。しかし、私はあまりその成功を期待はしない。中心になっている方たちの「あせり」が感じられるからだ。当面の環境問題を解決するための多数獲得の手段にこのネットワーク化を「利用」しようとすると必ず失敗すると思う。
 私はこのネットワークが「新しい運動のかたち」と思うから、もしどこかでこうしたネットワーク化を考えておられるところがあれば、絶対に失敗してほしくはない。しばらくして休業するような事があれば、離合集散をもう一度重ねる事になる! それは「新しいかたち」に汚点を残すことになる。
 だから「あせらず、楽しく、一人に集中することなく」を時間をかけて話し合ってほしいと思う。そして前回のレポートに書いたように、「行動提起はしない。情報ネットワーク」に徹することを原則にしてほしい。

その3

 《その2》に石川環境ネットワークについて「新しいかたち」と書いたが、一言だけつけ加えると、発行する「環境ダイアリー」は実際に「新しいかたち」をしている。
 カレンダーなのです。「Act Now!」を大切にしようということで、過去の情報ではなく、未来(翌月)の環境に関する動き、団体の行動予定とかを掲載している。毎月末に発行している。このダイアリーを一番利用しているのはあるいは報道関係者かもしれない。報道関係者の方々とも「仲良く」なったことも利点としてあげてもいいだろう。報道各社へ出向いてチラシを配り歩く前に、先方から事前報道の取材を受けることも多くなってきているようだ。

【資料】 石川環境ネットワーク「よびかけ」「申し合わせ事項」
●よびかけ
 美しい山、川、緑、海 ――― 石川の自然は日本の宝です。
 わたしたちは、自然からの恵みをうけ、自然と共に生きてきました。しかし心ある多くの人々の熱意にもかかわらず急速に石川の美しい自然が壊されています。青い美しい地球を大切にしたい。その小さなピースである石川の自然を守りたい。
 Think grobally, Act locally. ――地球規模で考え、身近なところで行動する――の精神で石川県でも様々な環境保護グループが活躍しています。
私たちはこうした団体やグループ間の情報ネットをはりめぐらせ、大きく環境保護のうねりを支えたいと考えています。
●申し合わせ事項 
@ このネットワークは新しい環境団体を作るものではありません。
A このネットワークは参加環境団体および賛同する個人によって運営し、各団体の多様な活動が反映される、ゆるやかな『情報ネットワーク』として機能します。
B このネットワークは、参加団体から寄せられる活動や交流、環境情報などをまとめ月1回の『環境ダイアリー』として提供します。
C 参加費は、ネットワーク参加費団体:年2000円、個人:年1000円とします。
(会計年度は1月〜12月とします。個人とは団体とは別に参加する人をいいます。)
D 事務局として、今年1年は『地球の友・金沢』が担当します。
E 1年間の活動をつづけ、明年早々再度みんなで集まり活動を見直します。
F 必要があれば各団体に呼びかけ交流します。
●『環境ダイアリー』について 
@ 参加団体は毎月20日を締切として、翌月の行動計画や身近な入手した情報を事務局へ おくります。
A 各団体からの連絡はハガキを使用して下さい。電話はご遠慮下さい。
B 毎月25日を発行日とします。
C 参加各団体へ『ダイアリー』を発送するとともに、可能な場所に掲示します。


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