田中精一・石川県土木部長への証人喚問
1951(s26)年10月22日 第012回国会行政監察特別委員会議事録より
○篠田委員長
これより公共事業費をめぐる不正事件について調査を進めます。
ただいまお見えになつておられる証人は田中精一君ですね。
○田中証人
田中精一でございます。
○篠田委員長
あらかじめ文書をもつて御承知の通り、本日正式の証人として証言を求めることに決定いたしましたから、さよう御了承ください。
これより公共事業費をめぐる不正事件について証言を求めることになりますが、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人に証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。
宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言が証人または証人の配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士、弁護人、公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務上知つた事実であつて、黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。
では法律の定めるところによりまして証人に宣誓を求めます。御起立を願います。
宣誓書の朗読を願います。
〔証人田中精一君朗続〕
宣誓書
良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
○篠田委員長
では宣誓書に署名捺印してください。
〔証人宣誓書に署名捺印〕
○篠田委員長
これより証言を求めることになりますが、証言は証言を求められた範囲を越えないこと、また発言の際はその都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておるときはおかけになつていてよろしいですが、お答えの際は御起立を願います。
証人が石川県の土木部長に就任されたのはいつですか。
○田中証人
私が就任いたしましたのは、昨年の五月二十一日に金沢市に到着、ただちに就任いたしました。
○篠田委員長
昭和二十五年度の国庫補助木橋補修工事として、工費百五十万円をもつて天狗橋の補修工事に着手するに至つた理由、及び工事の進行状態について述べてください。
○田中証人
ただいま申し上げたように、私赴任いたしまして、天狗橋補修工事の実施されておることは、この事件発生後において承知いたしたのであります。国庫補助工事として成立して起工の運びまでは主管課長が代決執行いたしておりましたので、まだ現実についてこれを知る機会を得なかつたのであります。
○篠田委員長
そうすると、天狗橋を百五十万円をもつて補修工事をすることになつたのはいつですか。
○田中証人
それはやはり他の工事と同様に、前年度年度末においてそれが内定したものと想像いたします。
○篠田委員長
三月末までの間ですね。
○田中証人
ええ。
○篠田委員長
その後、この問題についてあなたは相談を受けなかつたのですか。何か報告は受けなかつたのですか。予算は前の年の三月末までにきまつておつたとして、工事に着手して――あるいはまだ計画しておつたのかもしれぬけれども、あなたが五月の二十一日に赴任をしたときには、事務的な報告は何も受けておらなかつたのですか。
○田中証人
何も受けておりません。
○篠田委員長
あなたの方でも聞いておらなかつたのですか。
○田中証人
聞いておりません。そういうものがあることを全然承知しておりませんし、またそういう補修工事等のごときものは他にも多々あるので、土木部長にこれを一々報告するということは、平常の場合はまずあまりないものと私は承知いたしております。
○篠田委員長
国庫補助をもらつた場合でも土木部長は知らないのですね。
○田中証人
土木部長の在任中におきまして国庫補助をもらつたもの、それから国庫補助に漏れたものについては、これは主務省から通知がございますから、これを十分閲覧して承知すべき建前になつております。
○篠田委員長
前任者の時代にもらつた予算であるから、あなたは知らぬというのかね。
○田中証人
そういう意味ではございません。私が赴任いたしました当時は、その年の他の事件のために、土木部内が陣容その他機構の面を相当改変しなければならないという内部的事情に忙殺せられまして、従つて町村を視察する、もしくは工事一つ一つ等について検討を加えるという余裕を持ち合せておらなかつたのであります。
○篠田委員長
最初の予算については、あなたが今言つた通りだろうと思うが、それで、九月三日のジエーン台風によつてどういう損害を受けたか。それはあなたは御存じですか。
○田中証人
これも承知いたしておりません。ジエーン台風直後は、あの風の方向その他からいつて、大体において能登半島地区が一番甚大な被害を受けたということを聞きまして、当時私は県議会の土木委員一行と能登半島方面の内浦海岸の視察に参りました。それ以外は、現地を見て歩く適切な時間も得ませんでしたので、見て歩きませんでしたし、一つ一つの工事の被害程度についても報告を受けておりません。自分としても承知いたしておりません。
○篠田委員長
そうすると、ジエーン台風というのはあなたが土木部長になつてから起つた台風ですか。
○田中証人
そうです。私赴任後の九月三日の台風でありまする
○篠田委員長
そのジエーン台風でどういう被害を受けたか、あなたは知らぬわけかね。
○田中証人
これは、被害を受けてから大体半月くらいの間には、各土木出張所で、各担当の技師が被害状況の大体の見込みをつけて、何箇所で幾らの被害を受けているといういわゆる被害報告というものを出して参ります。そうすると、これを災害の主管課におきまして集計をとつて、ただいまでは建設省の方へ災害報告をなすことになつております。まず第一回は総額どのくらい、その次には何箇所でどのくらいという報告が出張所から参りまして、その報告については私一応了承いたしておりました。
○篠田委員長
そうすると、天狗橋がジエーン台風によつて被害を受けた、その復旧費として一千万円の国庫補助金を要求するに至つたその経緯についてもあなたは知りませんか。
○田中証人
天狗橋というものは、ただいまでこそ事件化しましたから非常に私たちの印象に深く残つておりますが、当時私どもとしましては、そういうような他の場所の工事等と同様に、計画内容、金その他についても特に関心を払つて聞くこともいたしません。従つて一千万円というものの内容については特別私は承知いたしておりません。
○篠田委員長
あなたは土木部長ではないですか。
○田中証人
土木部長でございます。
○篠田委員長
一千万円の国庫補助といえば相当大きなものだ。少くとも土木部長が、それに対して内容も検討しなければ、実際に現地に行つてもみない。現地に行かなかつたということについては理由があるかもしれないが、内容も検討しておらなければ、そういうことも知らないということは一体どういうことですか。
○田中証人
御承知の通り、数百箇所にわたる災害箇所につきまして、土木部長が一々被害状況等を確認いたすことはなかなかむずかしいことであります。それで、土木出張所の第一線の技師が、その持ち合せる能力によつて大体どのくらいかかるという報告をし、その報告に基いて事務的にこれを主務省に連絡いたします。そうしてあとは、今度は主務省の災害査定実査というものがございまするが、このときに、各主務省の技師、技官が現地の被害状況を見て、適切か否かを査定してくださる。こういう建前になつておりまするので、被害を受けた当時においては、府県の土木部のしきたりもありまして、ただいま申し上げたように、土木部長が各箇所について被害状況を確認して、厳格にこれに検討を加えてその適否を出すということはやり得なかつたし、またやつておらないのがしきたりになつておるように了承いたしております。
○篠田委員長
数百箇所の被害箇所について、全部土木部長に行けと言つても無理な話であるし、またそういうことをやつていないということは常識でわかる。しかし、数百箇所全部が一千万円の国庫補助を要求しているということはない。一千万円の国庫補助を要求するということは、相当大きな被害がなければならぬ。ジエーン台風によつて一千万円以上の国庫補助の要求をした箇所は石川県にどのくらいありますか。言つてごらんなさい。
○田中証人
ただいま記憶しておりません。
○篠田委員長
そうすると君は何も知らないということになるが、それでもよいのか。第一線にまかせると言つても、土木部長は第一線の役人ではないか。土木部長というものは一体どういう立場にあるか、それを君の見解から言つてごらんなさい。
○田中証人
お答えいたします。ただいま申し上げたように、当時の第一線の工事の一つ一つについては、他のいろいろな事務的な要務がございまするので、確認するというようなところまで監督をするということはとうてい不可能と存じます。
しかしながらその県の土木事業の持つて行き方、つまり根本的な方針、あり方、こういうものについては、第一線の各土木出張所の所長以下技師等に対してその指針を与え、そうして円満に行政の運営を運ばしめるということに重点を置いて、私としては考えて参つたのであります。
○篠田委員長
土木部の根本方針、あるいはあり方、それを第一線に指示して円満なる行政の運営を期すると言うが、石川県の土木部の根本方針、あり方とは一体どういうものですか。それを言つてごらんなさい。
○田中証人
これはなかなか多岐にわたつておりまするから、私が赴任いたしましたときの必要性から申し上げますと、その以前におきましては、各土木出張所の職員の気持がきわめて不安定でばらばらになつていたというような点から、まず職員の気持を安定せしめて、所管事務に対して専念するように指導してまとめて行かなければならぬということが、まず当面私としては考えられたのでございます。それからその前に起つたいろいろな事件に関連いたしまして、たとえば工事の執行上の問題についてどうあるべきかということについて検討いたしました。それから土木部内の機構、それから事業の執行方法、こういつたような面、それから職員の配置転換等の問題、こういうような面について私は実は忙殺されておつたのであります。それで各課の事務分掌規程の改廃、それから事業の執行方法、つまり請負工事執行方法その他出張所員の、先ほど申し上げたような心構えのあり方、こういうものについて具体的に一つ一つ改変指導を加えて参つたのでございます。
○篠田委員長
だから、根本方針とかあり方とか、心構えといわれるのは、どういう根本方針が石川県にはあるのか。普通の官吏や公務員以外のあり方とか、根本方針というものがあるのかないのか、それを聞いておるのです。特に君が一千万円の工事費も見ることができない。現地について見ないばかりでなく、予算の内容についても詳しく見ることができないというほどその根本方針やあり方について苦心を払わねばならぬということは、一般公務員、地方公務員というもののあり方以外に何か石川県には特別の根本方針があるのかないのかということを聞いている。
○田中証人
石川県に特別の根本方針があるとは申し上げたのではないので、私が赴任いたしました当時の現況から、私はむしろそういう方面に重点を置いて考えておつた、かように申し上げたわけであります。
○篠田委員長
気持が不安定でばらばらであつたというのはどういう理由ですか。
○田中証人
これはこの前、二月の事件がございまして、職員は一般に非常に不安定な気持であるかのごとく私は見受けました。
○篠田委員長
二月の事件というのはどういうのですか。
○田中証人
これは私の赴任前でございますから、内容につきましては承知いたしておりませんが、いまだに解決を見ないように承知いたしております。
○篠田委員長
その内容は知らないのですか。
○田中証人
私は申し上げかねます。
○篠田委員長
その内容を知らないで、君はその対策を講じたのか。
○田中証人
事件の内容につきましては、私の赴任前のことでございますから……。
○篠田委員長
事件が君の赴任前であろうとなかろうと、その事件で職員の気持が、皆ばらばらになつておつた、それを直そうとして苦心したのでしよう。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
それなのに内容がわからなかつたら……。
○田中証人
若干推定いたしておりますが、何分赴任前のことで、ここで私は申し上げかねます。
○篠田委員長
赴任前のことは言えないということですか。
○田中証人
確信をもつて申し上げかねます。ことに今まだ司直の取調べ中にも属しておりますし……。
○篠田委員長
司直の取調へ中なら、なおさらあなたはわかつているはずですが……。
○田中証人
私から申し上げかねます。
○篠田委員長
申し上げかねるというのは、君自身の判断か、それとも何か申し上げかねるということについて、特別な法律的な根拠があるのか。
○田中証人
私は内容にタツチしておりません。私の赴任前のことで、もしここで申し上げてかりにも誤つたことを申し上げるとさしさわりが出ると思いますから、遠慮させていただきます。
○篠田委員長
遠慮させることができないと言つたらどうする。
○田中証人
どうも想像に属することは……。
○篠田委員長
想像じやないでしよう。二月の事件があつて、その事件のために石川県の土木部の公務員の気持がばらばらになつておる。それを君が直そうと思つて根本方針とかあるいは土木部の吏員のあり方について一生懸命指導した。ばらばらになつた原因がわからないで君自身が指導できるわけがないでしよう。原因はわかつているのでしよう。詳しくわからないでも、大体どういう事件であつたかという大体の程度で……。
○田中証人
大体ならば申し上げます。これはつまり汚職事件という名のもとに扱われておりまして、多数の土木職員が退職するような事情に立ち至つた。
○篠田委員長
どういう汚職事件ですか。
○田中証人
これはその内容は……。
○篠田委員長
すでに司直の手に移つておるならば、内容は新聞にも出ただろうし、後任土木部長としてその事件は知つておるだろう。
○田中証人
内容についてはちよつとここで確信をもつて申し上げるようなことはわかりません。
○篠田委員長
あなたの知つているだけのことを言つてごらんなさい。どういう筋合いの事件であつたか……。
○田中証人
何か予算流用問題に関しているように……。
○篠田委員長
予算の流用問題で汚職事件が起つて、そのためにいろいろまだ司直の取調べ中でもあり、気持がばらばらになつておる。それをあなたは直そうとした。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
それであれば、その次に来るべき予算というものについては、あなたは厳正な立場において慎重にこれを取扱わなければならない……。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
しかるに職員の心構えだけ訓示しておる。ところが何ら予算について目を通しておらぬ。
○田中証人
これはお言葉ではありますが、今の災害検査申請額についてお前は目を通しておらぬというような御指摘のように承知いたしますが、これは先ほどもちよつと申し上げましたように、被害額の認定と申しますか、これはやはり末端技術者がこれを長年の経験から、被害区域が幾らで金が幾らという推定のもとにこれを県に出して参りまして、総計をとつて主務省に検査の申請をする、こういうのが災害工事の事務的な慣例になつておるのであります。
従いまして金の本ぎまりになりますのは、災害査定官が現地を査定して、その第一線の地方技師の認定いたしましたその額の適否が、初めてそこにはつきりきめられるという、一つの主務省の関門がございますので、私どもといたしましては、水害を受けたときはただいま申し上げましたような、そういう長年の慣例に従つてやつておりますので、今御指摘になりましたように、決議予算の執行に対するほどの注意は、私どもとしてはしきたり上やつておらないことは事実であります。
○篠田委員長
そうしますと、あなたのところに災害復旧に関する予算が来るときは、慣例によつて末端機関から来る。それであなたはその慣例によつて執行するときには、主務省の関門を通るから、その執行については厳正にやるけれども、予算を要求する場合には慣例によつて盲判を押しておる、こういうわけですか。
○田中証人
執行については、そういう意味じやございません。これは査定という一つの関門がございますので、申請したものについては、結論的には厳正な正しい線が出て来る。こういうことになつております。
○篠田委員長
だから正しい線が出るまでは、あなたは黙つて慣例に従つて判を押しているわけですか。
○田中証人
そうでございます。
○篠田委員長
末端機関というのはどこの辺まで末端機関ですか。
○田中証人
これは土木出張所長が、各地方を担当しておりますいわゆる方面主任というものがおりまして、これが自分の受持つておる区域内に発生した災害について、ただちにただいま申し上げましたような概算報告をし、それから査定設計もつくつて、これを出張所でとりまとめてそれを本庁に出して来る。こういう慣例になつております。
○篠田委員長
そうしますと、土木出張所というものはあなた方から見れば末端機関であるかもしれない。だけれども県から要求した場合に、国庫補助なら国庫補助金というものを要求する場合に、直接の責任者はたれがなるのですか。
○田中証人
ただいま申し上げたのは、検査を申請することになつておる、国庫補助金の請求は、査定が確立いたしまして、査定金額がきまつてから、それから国庫補助金を請求することになつております。
○篠田委員長
それじや損害の査定はたれがするのですか。
○田中証人
これは建設省から特命を受けた建設省の技官がこれを査定してくれることになつております。
○篠田委員長
だけれども大体ジエーン台風の被害――天狗橋の被害が幾らあるということの要求というか、それを査定する者がおるのでしよう。
○田中証人
それはただいま申し上げた……。
○篠田委員長
それは土木出張所でしよう。
○田中証人
土木出張所の方面主任が自分の所管のものについて、ただいま申し上げたような、そういう原案を作成して県に提出する慣例になつております。
○篠田委員長
慣例上そうなつておるかもしれぬが、そうするとそれをあなたが国家に対して要求するわけなんですか。
○田中証人
検査を申請するのです。
○篠田委員長
検査を申請するといつたつて、被害がなければ要求する必要かない。あなたの方でそれだけの被害があるということを責任を持つて申請するわけでしよう。
○田中証人
そういうことになります。
○篠田委員長
その責任者はだれですか。
○田中証人
やはり県ということになるだろうと思います。
○篠田委員長
そうすると県は土木部の問題だけじやない、いろいろな問題を扱つておるでしよう。
○田中証人
ええ。
○篠田委員長
土木事業に関する限りの責任者はだれですか。
○田中証人
土木行政につきましての責任者は、土木部長が責任を負うことになつております。
○篠田委員長
その土木部長が何も知らないで盲判ばかり慣例に従つて押して来て、それであなたは責任を果したと言えるのですか。
○田中証人
盲判とおつしやいますけれども……。
○篠田委員長
内容を知らなければ盲判じやないか。
○田中証人
これは事実盲判です。慣例として土木災害工事はそういうふうに扱われておることに承知しております。
○篠田委員長
慣例だけ尊重して、あなたは新しい土木部長としてそこに何らの努力もしないし、創造もしないし、改善もしないということであれば、何のためにあなたは根本方針だとか、あり方だとか、機構だとか、人員の配置だとか、気持の不安定を訓示するとか、どういう立場においてあなたはそれを訓示したのですか。
○田中証人
これはまた言葉を返すようですが、災害の検査申請のごときものは、先ほども申し上げたように、部長が一々確認することはできませんので、結局土木事業の執行は部下の信頼の上に立つて……。
○篠田委員長
部下の信頼の上に立つということはいいことですが、しかしそうしていて現に汚職事件があつた。そうでしよう。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
そういう汚職事件があつておそらくあなたの前の土木部長は引責したんじやないですか、やめられたんじやないですか。
○田中証人
そうだと思います。
○篠田委員長
そのあとにあなたが来たのでしよう。
○田中証人
ええ。
○篠田委員長
だからそこの土木の建直しについてあなたは一生懸命努力されたのでしよう。
○田中証人
ええ。
○篠田委員長
そうしたら慣例だけ守つておつたんじや何にもならない。
○田中証人
災害の検査申請に関する限り一々土木部長がこれを確認してやるということは不可能事でございます。
○篠田委員長
だから数百箇所のものを全部見まわれというのではない。千万円の橋の要求というものは石川県にジエーン台風で何箇所あつたか。一千万円も国庫補助を申請しなければならぬような大きな被害は、石川県にジエーン台風で何箇所ありましたか。
○田中証人
箇所は記憶いたしておりませんが……。
○篠田委員長
大体何箇所……。
○田中証人
はつきり覚えておりませんが、三、四箇所はあつたんじやないかと思います。
○篠田委員長
一千万円以上の要求をしたのが三、四箇所ある……。
○田中証
人 はあ。これははつきり申し上げかねますが、そのくらいあつたんじやないかと思います。
○篠田委員長
三、四箇所あつたとしても、石川県は狭いのですから、自動車でぐるつとまわつて見ればわかりそうなものですが、それも慣例に従つてまわつて見ませんか。
○田中証人
慣例でなくて、それは私が先ほど申し上げたように、まわる時機が得られなかつたのです。
○篠田委員長
それほど忙しい――根本方針のあり方だとか、気持の不安を直すとか、機構とか、人員の配置をやつたというのは、何箇月かかつてやつたのか。
○田中証人
私としては現実今申しましたようなそういう環境にございましたので、各土木出張所にあいさつまわりをようやくしたところで、まだまわる時機を得られなかつたのです。
○篠田委員長
君が赴任されたのは五月二十一日でしよう。ジエーン台風は九月三日でしよう。大体その間三箇月以上、四箇月近い期間があるのに、その期間中君は所員の訓示だとか、機構いじりをやつて、そうしてそれで三箇月間暮したわけですか。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
そうであればこれはしかたがない。それはそれでよいとして、大体あなたの仕事のやり方はわかつたからよいが、それではあなたは道路課長及び金沢土木出張所長が通謀の上天狗橋を四分の三以上損傷する、そういう計画を実行したことを知つておりますか。
○田中証人
これは全然そういうことは聞いておりませんし、事件後においてそういううわさを聞きましたが、全然そういうことは承知いたしておりません。
○篠田委員長
そうすると課長と所長といえばこれはあなたの直接の部下だ……。
○田中証人
課長は直接の部下です。
○篠田委員長
出張所長というのはその下の部下だね。
○田中証人
はい。
○篠田委員長
しかし土木部から見たら幹部じやないか。そういう人間が一体橋を四分の三こわそうという計画をしておる。そういう相談にもあなたは乗らなかつたのか。
○田中証人
そういうことは承知いたしておりません。
○篠田委員長
検査報告もしていない……。
○田中証人
そういう報告は全然受けておりません。
○篠田委員長
それでは君は部下に対して一生懸命訓示をしておるけれども、部下はあなたに何も相談しないということになるね。
○田中証人
そういうことになるかもしれませんが、全然受けておりません。
○篠田委員長
それでは君は浮いておるということになるが、それでいいのか。
○田中証人
そういうことはございません。執行の一々について詳細の報告は受けておりませんけれども……。
○篠田委員長
少くとも百五十万円でもつてやろうと思つた橋を、四分の三こわして一千万円の国庫補助をとろうという、そういう問題について課長と所長だけでもつて相談をして橋をこわすということは、普通の常識ではあり得ないではないか。
○田中証人
私は課長と所長が橋をぶちこわす相談をしたということは考えられないとただいまでも思つております。従つてその話も聞いておりません。
○篠田委員長
そうすると橋はだれがこわしたのか。
○田中証人
これは私としては全然わかりません。今検察庁てその点について取調べ中かと存じます。
○篠田委員長
取調べ中かと存ずると言うが、あなたはそれじや検察庁から呼ばれておらぬのだろうね。
○田中証人
いいえ、当初に証人として出頭して供述いたしております。
○篠田委員長
取調べ中かと存ずるということはどういうことかね。
○田中証人
まだ引続いて取調べ中であると考えられます。
○篠田委員長
それではあなたは実際問題については何も知らぬと言うのか、そう承知していいですか。
○田中証人
実際問題については知らないということに御了承願つて間違いございません。
○篠田委員長
そうするとあなたは土木部長という責任をどこで果しておるのか。土木部長というのは土木部では偉いかもしれませんが、国民から見れば少くとも土木一切の責任を持つて知事を助けておる、こういう土木部長というふうに解釈するのだが、その土木部長が仕事の内容について何も知らない、そう承知してもらつてさしつかえないということは、あなたみずからの土木部長の責任をどこで果しておるか。
○田中証人
天狗橋がたまたま大きな事件化しましたからでございますが、たとえば小さい百万円ないし百五十万円の仕事については、土木部長が不在の場合には主管課長がこれを代理執行するというようなこともできることになつております。そうしてこういう事件化されない場合であつたなら、ただいまの金で百五十万円ぐらいの修繕工事ですと、そういうような執行工事をするのも決して違法でもないわけです。こまかいものについては私の承知しないのも多々あるのが現状でございます。
○篠田委員長
こまかいものについてというが、一千万円の国庫補助を要求するというような橋の修繕が、あなたの考えではこまかいと思つておるのですか。
○田中証人
いいえ、ただいま申し上げましたのは、百五十万円程度ぐらいまでの補修工事のごときものは、土木部長の不在中は主管課長が代理執行することになつております。かように申し上げたわけでございます。
○篠田委員長
それではお聞きしますが、天狗橋というのは金沢からどのくらい離れておりますか。
○田中証人
時間にして自動車で大体一時間半ぐらいでございます。
○篠田委員長
自動車で一時間半ぐらいの距離、そうすると先に百五十万円の補修工事をやろうとしたのが、ジエーン台風によつて千万円の国庫補助にかわつた、そうなつて来ると相当これは大きな問題だと思うのですが、しかも石川県がそういうのをほおかむりして――車で一、二時間の距離をふつ飛ばそうという気持はなかつたのですか。
○田中証人
そういう気持はありませんで、ほかの点で多忙でございました。
○篠田委員長
多忙でというが何が……。
○田中証人
これは一々御説明いたしかねます。先ほど申し上げましたように災害工事に対する私たち土木技術者の考え方、あり方というものが、結局査定の関門においてこれが正しい線かどうか、こういうことがわれわれの頭にございますので、今御指摘なさるようなさほどに私たちは考えておらないのが事実でございます。
○篠田委員長
そうすると関門まではどなたが文書をつくつてもさしつかえないと思つているのですか。
○田中証人
いいえこれにはおのずから線がございまして……。
○篠田委員長
あなたは判を押している。
○田中証人
押しております。
○篠田委員長
それはどういう責任において押しているのか。
○田中証人
これは結局災害検査申請につきましては建設省で内規がございます。この内規によつて申請するということを各係員が了承しておるものということを信頼いたしまして、その検査資料、総計表には捺印をいたしました。
○篠田委員長
それでは次に聞きますが、一千万円の国庫補助を要求した仕事が、そういう不正事件のために国庫補助がなくなつた。そこであなたの方ではそれを県費によつて単独にこれを復旧した。かけかえてそれが総工費四百七十万円ででき上つておる。国庫補助だけで一千万円なければできない橋が、県でかければ四百七十万円ででき上る。これはあなたはこのときも行つてみなかつたか。
○田中証人
これはその復旧ができてから今年度行つて実態を見て参りました。
○篠田委員長
それではその国庫補助が、事件が起つてなくなつたときにも天狗橋には行かなかつたのかね。
○田中証人
天狗橋には行きません。そのときは私は病気でずつと休んでおりました。
○篠田委員長
何病気……。
○田中証人
外科手術を受けましてずつと休んでおりました。
○篠田委員長
そうするとジエーン台風の後一箇月の十二月二日になつて百五十万円の請負工事に中止命令を出したのは知つていますか。
○田中証人
これも主管課において選考いたしましたので、事件後において中止命令を出しておることを承知いたしました。
○篠田委員長
あなたは判を押しておらぬかね。
○田中証人
押しておりません。
○篠田委員長
あなたが判を押していない。部長も知らぬ、知事も知らぬということですか。
○田中証人
むろん知事は知らぬと思います。
○篠田委員長
そうすると石川県というところは知事も土木部長もおらなくとも工事はできるというふうに解釈していいのか。
○田中証人
これは取扱い事項によつて知事までの判をとらなければならないものも、部長までの判をとらなければならないものもあります。これはおのずから内規できまつておりますが、部長まで判をとらなければならないものにありましても、軽易なものによりましては主管の課長が代行することになつております。この事件は百五十万円くらいのことでございますから、主管課長が代行したと考えております。この中止命令については、これは主管課長限りで土木出張所長限りの命令ができるものと承知しております。
○篠田委員長
補助金申請に対する跡始末はどうなつておりますか。一千万円の補助金を申請したのでしよう。
○田中証人
これは補助金の申請はいたしておりません。検査申請をいたしたものでございます。
○篠田委員長
検査の申請というものは、それが通れば補助金がもらえるわけでしよう。
○田中証人
もらえることになるわけです。
○篠田委員長
もらえることになるわけですと言つたつて、検査申請は補助金をもらうためにやるのではないか。工費がたとえば一千万円なら一千万円かかるということが確定すれば、そのうちの何分の一かは災害補助がやれるということになつているんじやないか。
○田中証人
それが七百万円いりますか八百万円いりますか、その検査の結果査定金額を確定いたしますと、その確定金額に対して、うち国庫補助金幾らというものを別途々々請求をすることになるわけです。
○篠田委員長 そうするとまだ国庫補助は要求していないのですか。
○田中証人
国庫補助の要求はいたしておりません。建設申請だけした。
○篠田委員長
検査申請が通れば国庫補助がついて来るでしよう。書類の問題は別として、実際問題として災害費は何千万円なら何千万円の災害復旧をやるということをあなたの方で申請して、それを本省が認めれば当然国庫補助がついて来るじやないか。
○田中証人
査定金額がきまると国庫補助がついて来る。
○篠田委員長
査定金額がきまつたら国庫補助がついて来るでしようが。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
大きく申請するというのは、たくさんな国庫補助がついて来るからそうしたのでしよう。そうでなければこわす必要はないでしよう。
○田中証人
その辺の事情はわかりませんが……。
○篠田委員長
わからない、わからないじや何もわからないじやないか。
○田中証人
こわすとか何とかいうことについては全然私ども存じません。
○篠田委員長
たれがこわした。
○田中証人
それはわからない。ただいま検察庁で取調中でわかりません。
○篠田委員長
わからなければわからないでいいが、それではこの橋をこわした直接の責任者は検察庁で調べている。それについて死人ができていますね。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
けが人もできていますか。
○田中証人
そうです。
○篠田委員長
死人は何人できて、けが人は何人できたか。
○田中証人
私の承知しておりまするのは、通行人が一人即死したそうでありますが、重傷者の中で一時間くらいたつてからさらに一人死んでおります。あと……。
○篠田委員長
どういう人が死んだか。
○田中証人
どういう人とおつしやいますと……。
○篠田委員長
たとえば年齢、性別、そういうこと。
○田中証人
これはただいま記憶いたしておりません。
○篠田委員長
君は自分の責任においてやつた、この慣例はともかくとして、法律上の責任は君にあるのだ。君は土木部長として部下の失態がそれだけあつて、しかもそこで死人ができた。その死人が、男が死んだか、女が死んだか、おとなが死んだか、子供が死んだかわからないか。
○田中証人
年齢等は承知いたしておりません。
○篠田委員長
君は見舞には行かなかつたか。
○田中証人
私は見舞にも参ることができなかつた。
○篠田委員長
寝ておつたとしても、見舞に行けなかつたとしても、男か女か、おとなか子供かということくらいわからないのか。
○田中証人
死んだのは二人とも男だつたそうであります。
○篠田委員長
幾つくらい。
○田中証人
年齢はちよつと……。
○篠田委員長
おとなか子供か。
○田中証人
おとなが二人であります。
○篠田委員長
けが人は。
○田中証人 ……。
〔「知らぬ知らぬと言えといわれたわけじやないかな、宣誓しただろう」と呼ぶ者あり〕
○篠田委員長
今あなたにちよつと申し上げますが、さつきあなたは宣誓しているでしよう。「証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ」云々、今聞いているとあなたは直接の責任者でありながら何を聞いても知らぬ知らぬと言つて、当然委員会からすれば証言を拒んでおるものと見てもさしつかえないか。ほんとうにあなたは何も知らないか。
○田中証人
私は知らないことは知らないと申し上げます。知つておりますことは知つていると申し上げます。
○篠田委員長
あなたは責任者として何も知らないのか。
○田中証人
事件発生後のことについては、関係者の取調べた結果を聞いておりますことについて、ただいま記憶いたしておりますことは全部申し上げます。
○篠田委員長
全部申し上げてごらんなさい。
○田中証人
死傷者について申し上げます。これはその後関係者の報告書について申し上げます。通行人が一名即死、人夫のうち重軽傷を受けた者が十七名でございます。その事故の発生した当日の午後、重傷を受けた者のうち一名が死亡して、結局二名死亡しております。
○篠田委員長
少くも通行人にしろ何にしろ、とにかく二名も死んで、十五、六名の重軽傷が起きていることを、最初の書類に判を押したか押さぬかのいきさつは知らぬけれども、それがわからないというそんなばかな責任者というのはないでしよう。
○田中証人
これは事件後におきまして、報告書をつくつて参りました。それに基いてただいま申し上げました。
○篠田委員長
もちろんあなたが現場を見ていないということは、あなたは病気で寝ていたからわからぬだろうが、その報告書を見たらわかるでしよう。あなたはそれに基いて答えるつもりで来たのじやないですか。
○田中証人
ただ年齢等は書いておりません。年齢とおつしやつたので、ちよつとまごつきました。
○篠田委員長
やり方は非常にルーズですね。死んだ人の年齢や、男か女かぐらいは聞いておかなければまずいじやないですか。ところが今まで聞いたところによると、あなたは結局何もわからないと見てさしつかえないですか。最初の申請にあなたは判を押しているけれども、あなたのおつしやる通り盲判であつた。天狗橋がどういう状態であつたかも知らない。落ちたときにはあなたは病気中だからもちろん行つておられない。その後書類によつて報告を受けたけれども、その書類についてもあなたは責任をもつて検討されておらないように思う。年齢が書いてなくても、どういう人が死んだか、若い者が死んだか、年寄りが死んだかということは、責任者として当然関心を持つべきだと思います。
○田中証人
年齢は報告には書いてありましたが、この書類には書いてありませんので、記憶がありませんから……。
○篠田委員長
しかしあなたは、この委員会に呼ばれるときに、大体そのくらいの準備をして来られなかつたのですか。天狗橋事件について調査をするということは、あなたのところに通知が行つているはずです。そうすれば天狗橋事件に関する一切の書類を持つて来たつてあたりまえでしよう。あなたがわからなかつたら、だれか連れて来て、ここで聞くことができなくても、書類を持たすとか何とかいうことが当然あるべきでしよう。あなたは初めから知らぬ知らぬというつもりでここに来たと見られてもしかたがない。どういうことを聞かれると思つて来ましたか。天狗橋の不正事件について聞かれると思つて来たのじやないですか。
○田中証人
むろん天狗橋事件に関していろいろ聞かれるということはあらかじめ承知して参りましたが、こまかい点については、わからないことははつきりわからないと申し上げる以外にないと思つておりました。
○篠田委員長
こまかいというけれども、人が死んだり、けがをしたりすることは、こまかいことですか。それがこまかいことならば、一体大きいこととは何ですか。
○田中証人
人が死んだことはほんとうに大きな問題でありまして、私といたしましては、自分の所管の土木行政の面から見て申訳ない、今回の事件の中枢をつかさどつている者としてほんとうに申訳ないということは、私は深く念頭に置いて考えております。
○篠田委員長
一体二人死んで十五、六人もけがをしたというのを、あなたは申訳ないというけれども、申訳ないと思つているのならば、だれが死んだかということぐらい知つていなければ、申訳ないにならないではないですか。
○田中証人
年齢はここで申し上げるほどはつきりと記憶していないのです。
○篠田委員長
しかし死んだ人は二人ですよ。子供が死んだか大人が死んだかくらいは、あなたはわかつておるはずです。
○田中証人
それはわかつております。
○篠田委員長
それでは、あなたは慣例によつて判も盲判だつたし、内部の機構の問題で没頭しておつたために、実際の工事の内容は知らなかつた、こわしたのもだれがこわしたか知らない、死んだ人間もよくわからなかつたということなんだが、それで一体土木部長というものは勤まるものですか、勤まらぬものですか、普通の場合はどうですか。
○田中証人
こういう事件が出ましたので、この天狗橋というものは非常に大きく反響を呼んだ次第でございまするが、そうでなく普通の災害工事というような場合におきましては、やはり先ほど申し上げたような意味において、私たちは慣例上申請、検査については、ある程度軽く考えて参つたのが今日までのしきたりになつております。
○篠田委員長
そうするとあなたは、天狗橋事件が偶然に起つたからこれが問題になつて、おれは運が悪かつたのだ、何にも起らなければ、おれは土木部長としてあたりまえの責任を果したことになるのだ、こういうようにお考えですか。
○田中証人
そういう意味ではございません。災害工事のあり方というものの面から考えて私は申し上げました。
○篠田委員長
従来の慣例はそうであつたかもわからないが、今あなたがここに呼ばれたり、あるいは部下が司直の手によつて調べられているのだから、従来の慣例だけでは責任というものは果せないものであるということを、この事実によつてあなたはお考えになりますか、なりませんか。これからもやはり従来の慣例によつてあなたは仕事をして行きますか。
○田中証人
これから当然改めなければならぬ事柄が出れば、むろん改めて行かなければならぬということは考えております。
○篠田委員長
天狗橋事件に対するあなたの土木部長としての責任は、十分お果しになりたと思いますか。従来の慣例に従つておつたのだ、たまたま事件が起つたのは、おれの運が悪かつたのだというように感じておられますか。それとも自分のやつておることはまだ十分責任を果しておらなかつたというふうに感じておられますか。私はあなたの今ここでの心境を聞いておる。
○田中証人
どういう意味でしようか。
○篠田委員長
事件にならなければこれでよかつたのだ、たまたま事件になつたので、こういうところへ呼ばれたり、あるいは司直の手が伸びているというふうにあなたはさつき言われているわけです。そうすると事件になつたことは運が悪かつたというふうに考えられるか。あるいは自分たちのやり方が十分でなかつたからこういう事件を引起したのだというように考えておられるか、どちらですかと聞いておる。もつとはつきりいえば、やつたことはあたりまえなんだが、事件が起きたのは運が悪かつたと思つているのか、事件が起きたことはわれわれのやり方が悪かつたからだというように考えておられるか、どつちなのか。
○田中証人
災害工事の取扱いについては、先ほど来数次申し上げた通りの慣行、しきたりの線に沿うてやつて参つておると思うのであります。この天狗橋事件についてもその慣行でやつて来たが、そのうちにこういう事態を惹起するような何ものかの過失なり、あるいは作為的なる何かのものがそこに加味されて、こういう結果が出たのではないかというふうにも考えられるのでありますが、まだこの結末が解明せられておりませんので、私といたしましては、何ともお答えできかねる次第でございます。
○篠田委員長
何か原因がそこにあつた、しかし結末がついておらぬから答えられないとあなたは言われるが、結末というのは法律的な結末ですよ。あなたの言われる結末というのは、検察庁なり裁判所なりの取調べが終つておらないという意味でしよう。
○田中証人
そうでございます。
○篠田委員長
法律上の責任はあなたの言われる通りであつたとしても、しかしそこに国民の公僕としての道徳上あるいは良心的なものの判断というのは別にあるのではないですか。法律的の解決がすべてを解決するわけではないでしよう。そうすると、あなたがそこにあつたと言われることの中に、何かあなたの責任は含まれておるか、おらないか。
○田中証人
これは先ほど申し上げましたが、何はともあれ私の所管する土木行政の一端からこういう不祥事件が出ましたので、これは当時天狗橋県会のときにも、私は県会を通じて県民に申し述べたのですが、自分の所管事項からこういう不祥事の出たことは申訳ないということは、県会を通じておわびいたしておきました。ただいまも、こういう死傷者の出たということに対しては、まことに申訳ない、今後こういうような事態に立ち至つた原因がわかつたならば、再びかようなことのないように、自分としては全力を尽して行かなければならぬのだというふうに考えまして、深くおわびをいたしておるような次第でございます。
○篠田委員長
深くおわびされると言われても、あなたの今までの陳述から見ると、何もおわびしたことにならぬと思うのです。死傷者が出たということも一つだけれども、そこにいわゆる大きな不正事件、最も代表的な不正事件が一つあるという問題なのだけれども、しかしこれはあなたの心境の問題だから、ここでしいて追究しませんが、あなたの今までの陳述によると、この問題に対する責任は感じておられないように考えるのですが……。
○田中証人
今申し上げましたように、私はほんとうに申訳ない事態が出たという行政上の責任は痛感いたしております。
○藤田委員
田中さんは建設省の砂防課長をされておつたことがありますか。
○田中証人
ございます。
○藤田委員
先ほど来委員長の質問は非常に詳細をきわめておりましたが、私は国費の濫費という重大な問題でありますので、多少方向をかえまして質問してみたいと思うのです。田中さんの御答弁を聞いておりますと、国会が行政全般の監督権を持つておる、われわれ今その質問権と国政調査権を発動して、土木部長たる田中さんに忌憚のない意見を聞いておる、この厳たる憲法上の事実にかんがみまして、多少司法権の活動に気がねし過ぎておるというきらいを私は感じておりますので、その点から国費問題をお聞きしてみたいと思います。
あなたは砂防課長までやつておられましたので、公共事業費の支出の実際に関しましては、相当詳しい実際家であるというふうにわれわれは想像いたしておりますが、大体建設省の補助工事に対する査定というものは、天狗橋の予算の要求と実際の工事の実施状況を見ると、これが普通の状態ではないか。つまり災害が五百万円あれば、それを水増しして要求する、検査を求めるというのが普通の常識になつているのじやないか。われわれの聞知する範囲内ではそういうことをよく見聞しておりますので、実際の砂防課長としての体験を言つていただきたいと思います。
○田中証人
ただいまの御質問は、いわゆる天狗橋一千万円要求という、そういうたぐいの水増し要求というものについての実際を話せ、かように承つたのであります。これはむしろ私から申し上げるよりは、建設省の防災関係の方からお聞取りの方が適切かと存じますが、私の了承しております範囲で申し上げます。
たまたま昭和二十五年は全額国庫負担の扱いがなされておりましたが、平生は三分二程度の国庫補助でございます。それで被害を受けた場合、府県の直接の係官は、いわゆる原形復旧と申しますか、現実被害を受けた区域内のものを元通りに直す方法によつて、幾らかかるかということを見ます、かりにこの金が五百万円といたします。そうした場合に、そのまま元通りにやると次の出水のときにまた同じように根こそぎこわれてしまうというように技師が技術的に見た場合には、これに改良の面を加えまして、二百万円もしくは二百五十万円というものをプラスして、七百五十万円もしくは八百万円――これは一例でございますが、かような設計を立てまして検査の申請をいたします。そうして建設省の査定官の査定の場合に原形復旧五百万円というものは何の削りようもございません。
ただ改良の意味を加味した二百五十万というものに対しましては、これは最小限度の改良の程度を越えておるから百万円で十分だろう、いやこれは二百五十万円なければ再び災害を受ける、こういうふうに技術的な検討をいたすのであります。それで結局査定官が、これは原形復旧のみでたくさんだと見た場合は五百万円と査定いたします。
なお五百万円が過大であると認めたときは、これを四百万円に減額査定を受けるのであります。
それから反対に、どうしてもこれは七百万円かけなければ、元通りの復旧では二度の災害を受けるという場合には、これを七百万円の査定、いわゆる程度を越した二百万円というものを認めた査定をしてもらいます。こういうようなあり方に今日までなつておるのであります。そうして二十五年度におきましては、原形復旧の面につきましては全額を国庫負担する。その原形復旧の域を越えた額に対しましては、三分の一を地方が負担して、三分の二を国が持つという扱いになつております。
この水増しといいますか、程度を越した査定設計をこさえて検査申請するというのは、府県の立場になりますと、再度災害を受けないようにしたい、そうして町村民を困らすことのないようにという意欲の働くのは、これはやむを得ない現象かと思います。それと、一つには、技術的な見方で、府県の技師がこれは二百万円超過した仕事をやらなければだめだと見る場合、主務省の査定官が、これはそんなにかけなくてもよろしいと見るような場合があります。そしてこれは私の過去の体験から申しますと、府県の土木技術者は、少しでもいい仕事をやつて、二度と災害を受けないようにしてやりたいという意欲はどうしても働くものと思います。それでこの改良のための超過の金、いわゆる原形復旧の金にプラス・アルフアーというものが、百万円あるいは百五十万円になるということがあり得るかと思います。
○藤田委員
この点委員長からも質問があつたと思いますが、現実に天狗橋に関しましては、一千万円で検査申請をして、実際に県単が四百万円で竣工している。そうしますと、あまりに差額が大きい。これは原形復旧をされたのであるか。それとも改良費を加えて一千万円の検査の申請をされたのか。その点おわかりでしたらお伺いしたい。
○田中証人
お答えいたします。墜落後に復旧いたしましたのは、墜落橋梁の使える材料は全部これを使いまして、そうして墜落以前と同等程度の復旧をいたしました。それは金額にいたしまして、五百十五万円の予算で起工いたしたのであります。
それからやはりこの事件後において説明を聞いた結果によると、もともとこの橋は原型が非常に強度の弱い橋だつたそうで、安全荷重が大体三トン未満で、それ以上のものは危険だというような、非常に弱い橋だつたそうであります。それでこの一千万円という金は、もともとすぎ材でやつておつたものを何かひのき材を用いてこれを復旧する設計をつくつたという説明を聞いております。
それから原形は、これは大体二トンなにがし、三トン未満の荷重に辛うじて絶える程度の計算でできた橋だそうでございますが、実際はこれに二倍前後の安全率を見ておられますので、トラツクが通りましても、どうやら墜落せずに通つておつたということを聞いておりますが、この橋梁で、安全荷重というものはやはり三トン未満、さように弱い橋であつたということを承知いたしておりますので、ただいま県が五百万で起工いたしましたこの復旧も、結局その弱い規格の通りに復旧がされておりまするので、その後において復旧いたしましてからまだ日がないのですが、数回にわたつてこれに手を加えなければ危険状態にあるので、ただいまは車馬の交通どめをいたしておるように聞いております。
○藤田委員
現実のサンプルとして天狗橋が出ておりますが、類似の事件は福島、長野、石川、大阪、岡山、徳島、佐賀等の諸県に出ておりますので、われわれとしては天狗橋の問題はもちろん重大でありますが、全般の、特に国の予算の五、六分の一を占めるかかる費目の濫費を、いかにして是正するかということが、今後の大きな問題でありますので、重ねてお伺いしておきますが、この水増し問題に対して、先ほど御答弁がありましたが、現実に災害復旧の場合におきまして、国庫補助の支出金額が非常に少い、しかも継続で支出される。ために相当水増し要求をしないと、初年度において、たとえば道路の場合におきましては人畜の通行に支障のない極度の復旧をするのに予算が足らぬ。継続費として出される場合の初年度の費用をいかに多く獲得するかということが建設、農林災害の実際ではないかというふうにわれわれは想像いたしておりますが、この点忌憚ないところを、一つ田中さんの御意見をお伺いしておきたいと思います。
それからもう一つ、外部監査に関しましては、会計検査院あるいは経済安定本部、大蔵省の主計局、行政管理庁等の諸官庁が権限を持つておりますが、実際上これらの諸官庁がはたして地方自治体の補助工事等に関しまして、良心的な監査をやつておるかどうか。現実に毎年こういう問題に関しまして、関係各官庁から真剣な書類の提出を求められたり、あるいは現地の監査を受けておりますかどうか、この点もお伺いしておきたいと思います。
○田中証人
お答えをいたします。ただいま御指摘を受けましたように、府県といたしましては、この年々の災害復旧予算の確立したものにつきまして、年々の配付予算額というものは現実に非常に少いのでございます。
それで、たとえば橋のごときもの、あるいは流失した道路のようなものに対しては、どうしても府県では重点集中的にこれをやらないと使いものにならない、非常に不利不便を感ずるということはございます。しかしながらそのために特に水増し要求をするということは、私の承知いたしております範囲においては、ないかと存じますが、要するにその程度を越した――原形復旧以外に程度を越して検査申請をするというのは、やはり府県のものの立場から申しますと、先ほど申しましたように、改良の面を幾ら程度これに加味するかという判断によつて、額が相当ふくれもし、また少くもなる、これがおもな原因ではないか。私の地方の立場から考え、私の承知いたしております範囲では、さように考えられるのであります。
それから地方の財政に対する検査につきましては、地方財務局、それから経済安定本部の検査、それから会計検査院等、年間に三、四回ぐらいは財政経理の面の検査を受けております。事実地方としては応接にいとまない程度の御検査をいただいております。従いまして事務上については、かなりいろいろな角度から御検査をいただいておるように承知いたしております。
○藤田委員
最後に田中さんの御意見を伺いたいのですが、こういう問題の頻発をわれわれは目撃いたしまして感ずることは、国家財政と地方財政の配分の問題でございます。少くとも補助として国庫から地方自治体に支出されるものは、初めから地方自治体の財源として確保しておけばいいのじやないか。それを税金で国庫に納めまして、再び自治体がもらうところにいろいろな無理が生ずるのではないか。それだけの財源は府県庁並びに市町村が保持しまして、その保持した財源内で各府県あるいは市町村が創意くふうをめぐらして事業の実施に当るという、シヤウプ博士の勧告にもありましたような行き方が、むしろこういう事件の発生を阻止するのにいい方法ではないか、つまり補助というものを廃止いたしまして、その財源は地方自治体に渡すということが、日本の新しい国政ないし地方自治体のあり方として妥当ではないかと思いますが、天狗橋の事件に関連しまして、土木部長としては日が淺いようでございますが、田中さんのひとつ忌憚のないところの御意見をこの点に関して最後にお伺いしておきたい。
○田中証人
お尋ねでございますので、私の承知いたしておる範囲でお答えを申し上げますならば、事実ただいまの地方財源というものが、平衡交付金と、それから遊興飲食税といつたような限られたもので、非常に枯渇いたしておるように承知いたしております。従いまして昭和二十六年度における公共事業の執行等におきましては、地方負担の予算をどこから支出するかというようなことで相当難儀をいたしておるのが現実でございますので、御指摘をいただいたように、地方財源をある程度確立していただくということは、非常に望ましいことのように土木部長としての私も希望にたえないところでございます。
それからお許しをいただいて希望をいま一つさせていただくならば、土木事業の面で、災害予算と、それから一般改良予算とございますが、この改良予算をできるだけ増強していただくことによつて、ことに橋梁のごとき、あるいは主要府県道のごときものに対する計画的な仕事を実施いたして参るならば、いろいろなこういう災害にまつわる不自然な現象もおいおいと少くなつて参るのではないかということも考えていただければ仕合せだと思います。
○篠田委員長
山口君。
○山口(武)委員
先ほどから証人のお答えによりますと、こまかいことを聞いても証人は答えられないと思いますが、その前にちよつとお聞きいたしたいのは、証人はこの天狗橋の事件が発生した後に、この補修工事というものについて承知しておる、それまでは主管の課長に代決をさせていた、このように申しておりますが、主管の課長に代決させる前に、あなたはすでに土木部長として赴任しておる。赴任した以上は、土木部長としての任務と責任があるはずだ。そこであなたが代決させることを命令されてそうなつたのかどうか、それとも自然にそのようになつてしまつたのかどうか。これはどうですか。
○田中証人
ただいまの御質問は、つまり代決以前に土木部長が主管課長にそうなさしめたのかどうかという御質問のようでありますが、全然そういうことはございません。代決執行しておることも、私は承知しておらなかつたのでございます。これは先ほど申し上げましたように、主管課長が代決してもよろしいことに庶務細則の上において認められておりますので、おそらくそうなつておつたかと承知しております。
○山口(武)委員
それから、この天狗橋の復旧は、一千万円の計画で国庫へ補助を要求したのに、県の単独負担四百七十万円で竣工したのはどういうわけかということをあなたは先ほど委員長から聞かれたわけですが、あなたは外科手術をして休んでいて知らなかつた、このように答弁されたわけです。しかし現在病気はなおつておるようです。それほど病気は長かつたわけではないでしようから、その後において当然このことを調査しなければならないはずであります。現在はおわかりだと思うのですが、これはどのような事情ですか。
○田中証人
ただいまの御質問の内容はちよつとわかりかねますが、その復旧が、一千万円のものが四百七十万円でできたという、その理由でございますか。
○山口(武)委員
そうです。
○田中証人
お答えいたします。これは先ほどもちよつと申し上げましたが、これは墜落した橋の材料のうち使えるものは全部古い材料を取入れまして、破損もしくは滅失いたしております材料を新たに補足いたしまして、そうして原形の規格通りの復旧、いわゆる文字通り復旧いたしましたので、さように安くでき上つております。それから一千万円というものは、これはやはり事件後に私は聞いて承知したのでございますが、この契約は杉材を用いておつたが、強度が弱いので、これをひのき材にする計画であつたというように承知いたしております。そこで、ただいまの四百七十万というように原形復旧が非常に安くできたということ、それから一千万円というものは、そういうふうに質のいい材料を使うことにしたこと、かように私は承知いたしております。お含みを願います。
○山口(武)委員
そうしますと、四百七十万円で竣工したその橋というのは、竣工はしましたが材料も古い物を使つておりまして、ひのきのかわりにすぎを使つておるというような事情がありまして、あまりりつぱな復旧とは見られない、こう申せるのですか。
○田中証人
仰せの通り、これは上流下流に橋がございませんので、やむを得ずそういう程度のものを拙速主義で復旧いたしました。文字通り非常に弱いので、ただいまはやはり車馬交通制限をしておるように承知いたしております。
○山口(武)委員
一千万円と四百七十万円では、五百三十万円の差があるのですが、材料費でこれだけの違いが出ておることに間違いはないのですか。たとえばこの一千万円というのは、単に材料がよくなるところに五百三十万円もよけいかかるということ以外に、もう少し何かここに伏在しておるというような点は、あなたはその後の調査によつては見当らなかつたですか。
○田中証人
この一千万円の検査申請の設計は、墜落以前の非常に強度の弱い、腐朽頽廃して、しかも五十メートル前後のジエーン台風で揺られていたんでおつたもの、これを補修するための、まず補修すれば一年やそこらはもつだろうという意味の補修設計、これが一千万円と御承知をいただいてけつこうかと思います。それで墜落してから、拙速主義で四百七十万円で復旧いたしましたのは、人が通るにもどうにもならぬ、対岸との連絡もつかぬというような非常に難儀をいたしておる、かような実情から、最小限度、古い材料を使つて、もともと通りの形のものを復旧いたしたのでございます。
それでその一千万円との差額がどうかということにつきましては、一々材料と設計について見ないことには、数字的に御説明はただいまのところなりかねますけれども、大体において今申し上げたような、そういうような意味合いと御承知を願つてさしつかえないと思います。
○山口(武)委員
私たちの方の調査によれば、以前よりもりつぱな架橋ができておる、かようにも聞いております。この一千万円の内容というものについて、あなたは、これは単に材料の違いだけだ、こうはつきりここで断言できますか。
○田中証人
材料の質をかえたこと、それからその当時墜落以前に腐朽頽廃しておつて、さらにジエーン台風の影響を受けましたので、そのときの技術者が、この程度かえれば今後一年やそこらはもつだろうという目安のもとに、新しい材料を補給して修繕をする設計を立てた、その設計が一千万円だというふうに御承知をいただきたいと思います。
○山口(武)委員
この橋はジエーン台風によつて被害を受けていますか。
○田中証人
被害の程度はただいまわかりませんが、被害を受けておつただろうということは、はつきり私もその後の見聞によつて想像いたしております。
○山口(武)委員
あなたは先ほど、ジエーン台風の被害ということをはつきり断言しましたが今度は想像というような話です。また先ほど委員長の尋問に対しては、あまりよくその間の事情はわからないというようなことを言つていましたが、どうですか。
○田中証人
これは先ほども申し上げましたように、事件発生後においていろいろ見聞いたしました。つまり測候所長のお話では、金沢市は風速四十二メートル何がし、天狗橋の現地においては、天狗橋に直角の方向におそらく五十メートル以上の風速でこれに当つたろうということを、はつきり測候所長からも承つております。それでそういうような観点から、ある程度の被害は受けておつたろうということが想像できるのでございます。
○山口(武)委員
そうすると、あなたの言われる想像というのは単なる想像であつて、その内容についてはわからないのですね。あなたは先ほど五百三十万とか金がよけいかかつたことについて、ジエーン台風があつたり、それから材料の問題だ、こう二つ述べていたようですが、それはどうですか。
○田中証人
それは結局先ほど申しましたように、相当荒廃した橋で、しかもジエーン台風によつて被害を受けたということが想像できますので、それに対処するために、木材は結局質のいいものを使つて、そして将来一年やそこらの間は修繕をしたりせぬでも持つだろうという目安のもとに、一千万円の設計ができたものであろうということを申し上げたのであります。
○山口(武)委員
何かその点あいまいでわかりませんが、こまかいことはいいでしよう。それからあなたは先ほど委員長の質問に対して、この架橋の損傷について、道路課長及び金沢土木出張所長が通謀してやつたとは思わない、こういうように言われましたが、何を根拠として課長、所長がやつたとは思わないのですか。
○田中証人
そういう異常のことは私たちは絶対にないものという信頼を持つております。そういうような意味で申し上げたのであります。
○山口(武)委員
これはあなたに土木部長として、衆目の見るところ問題があるというより、問題にならないではないかというようなことを今あらためて念を押してお聞きしたのですが、あなたがそもそもこの石川県土木部長として参りましたときに、汚職事件があつて、そういうものを粛正するという意味をもつて就任された。そういうような空気の中へあなたが行きまして、しかも現実に問題が起つていながら、そういうことはあり得ないというくらいのことで、この委員会において重大な証言、しかも問題の中心である課長や所長が通謀して損傷をやつたとは思わないということを言つておりますが、もう少し責任を持つて答えてもらいたいと思う。課長や所長がこういうことをやつたとは思わないと言われるならば、もう少し確固たる立場から理由を述べてもらいたい。述べられないと言うならばいい。どうですか。
○田中証人
どういうことでございましようか。ちよつと御質問の要点がわかりませんので……。
○山口(武)委員
あなたは課長や所長が損傷の計画を立て、これを実行したとは思わないということを言つておりますが、あなたが信頼できるような状況ではなかつたはずです。土木部のあなたの所管のもとに動いている部下の仕事ぶりというものは、前に汚職事件があつたということでもすでに明瞭なはずです。そういう汚職事件があつた中において、あなたは手放しに所長を信頼して、課長や所長がやらなかつたということを簡単に断言していいものかどうかということなのです。
○田中証人
お答えをいたします。天狗橋をたたき落すとかなんとかいうことについて、主管課長と出張所長が通謀したと思わないか、かような御質問のように承知いたしましたが、私はそういうような大それた、橋を落すことについての通謀あるいは謀議をしたというようなことは、私はゆめにも考えておりません。これははつきりここで申し上げます。ただ災害申請をすることについては、これは災害とりまとめの主管課長がおりまして、それと各関係課長もしくは出張所長というものが当然連絡をとつて災害申請をしたということは考えられるのでありますが、橋を落すことについて謀議、通謀をしたというようには絶対に私は考えておりません。
○篠田委員長
山口君、まだほかにも質問者がありますから、簡単にやつてください。
○山口(武)委員
そうしますと、それはジエーン台風でひとりで落ちたんですか。
○田中証人
これは私は事件後において人為的、作為的に落した。つまり人力を加えて落したということは新聞紙上等にもすでに報ぜられておりますし、私もそれを見聞して承知いたしております。
○山口(武)委員
だれが落したか知らぬが、あなたのところの課長や所長はやらない、こういうわけですね。
○篠田委員長
田中証人、山口委員の質問は、落したことはあなたはつきり見て知つておるわけですね。その後見聞して知つておる。人為的に落した。しかし落したことは認めるが、課長や所長が通謀して落したということは、あなたはないということを確信しておるというわけですね。
○田中証人
確信しております。
○篠田委員長
山口君どうですか。確信の問題で、現在検察庁で取調べ中ですから、あなたの質問はそれくらいにして、あともう一人質問者がありますから、簡単にしてください。
○山口(武)委員
ここでやはり一番問題になると思いますのは、あなたは土木部長として県の工事の立場というものを明快にしていない。今話を聞いておりましても、あなたは課長や所長のことをかばつている。しかしあなたは被害者に対して見舞にすら行つていない。病気だと言つている。病気とは申しましても、死者を出している以上、しかもあなたの責任上の問題である以上、病気がなおつたらなぜ見舞に行かないか。それすらもやつていない。そういうことをやりもしないでいて、自分の課長や所長になればかばい立てする。しかも石川県の土木部にはその前にも汚職事件があつたというではないか。こういうことには目をおおうている役人としての考え方にやはり一つの根本問題があるじやないか。あなたは県会を通じておわびをしたと言つている。しかしながらこういうような事件がなぜ発生したかについてはまだ申し上げられないと言つている。事件の内容あるいは原因というものがわかつたら、再びそういう問題が起らないようにすると言つている。こういうばかばかしい、無責任な発言があるだろうか。
あなたはだれに責任を持つのだ。県民に対して責任を持つんじやないか。そういうことであるならば、こういう問題が起つただけでも、しかも汚職事件を再び起さないように任命されて行つた建前からいつても、あなたは当然県民に対してもう少しはつきりした責任を負うて、こういう汚職問題を考えられなければならなかつたと思うのですが、あなた自身知事かあるいは県民に対して辞職をして責任をとりたいというような行動あるいは申合せというものを行つたかどうか、この点についてお聞きしたい。
○田中証人
お答えをいたします。道路課長、土木出張所長を土木部長は不当に擁護しておる、かような御指摘でございまするが、私は決して不当に擁護いたしておりません。ただいまのところ私は道路課長並びに出張所長には全幅の信頼を持つておるということにほかならないのであります。それから事件が発生いたしまして死傷者の出たときは、私外科手術をして休んでおりましたが、土木部長のお見舞として、かわりに監理課長を、死傷者のお宅へ親しくお見舞を申し上げさしてあるはずでございます。それから本事件に対してお前は辞表を提出する意思がないかというような御質問でございまするが、ただいまのところさようなことはまだ考えておりません。
○山口(武)委員
これほどの問題を起しながら、まだ辞職について考えたことがないということが、すでに常識はずれだと思う。それからもう一つ、この問題を起した張本人であり、現実の責任者である道路課長、土木出張所長、これを全面的に信頼しておるというようなことを、ぬけぬけとここで言つてのけるようなあなたの態度にこそ、この問題の原因があるのですよ。この点だけ、はつきり私は言つておきたい。
○田中証人
ただいまのおしかりでございますが、天狗橋をたたき落す通謀をするというようなことは、これは殺人を謀議するようなことでありまして、そんなような大それたことは、絶対にしないものというふうに私は確信しておる、かように申し上げたのでございます。
○篠田委員長
田中君に申し上げますが、あなたの確信が、もし検察庁、あるいは裁判の結果、通謀しておるということがわかつた場合には、あなたはどうしますか。あなたは、今は架空の確信だけれども、はつきりそれがわかつたときはどうするか。
○田中証人
そういうことが確定いたしますれば、そのときは私は行政上の責任に対して決意いたすつもりでおります。
○篠田委員長
よろしい。加藤君。
○加藤(充)委員
あなたがいわゆる天狗橋墜落事件に関与し、関知した事柄について、検察庁で調べられたことがあると言われましたが、大体その点については当委員会であなたが申し述べたようなことを陳弁したのですか。
○田中証人
ただいま御質問の通りでございます。
○加藤(充)委員
あなたは欠勤したと言つているのですが、いつからいつまで欠勤して、その理由は何ですか。
○田中証人
これは墜落以前四、五日前かと承知いたしますが、水虫がもとで、これに徽菌が入つて敗血症になりまして、それで約一箇月間とじこもつて、外科手術を受けて、かたがた注射療法をとつておりました。直りましてからも、歩行困難で約半月間くらいは庁内にとじこもつて、他出はできない状態でございました。
○加藤(充)委員
それでは、だいぶ複雑な御答弁で少し混雑しましたが、墜落事件のあつた四、五日前から水虫で療養しておつた、こういうのですね。
○田中証人
水虫はずつと前からですが、徽菌が入りまして敗血症になりまして、それでたしか今日ははつきりいたしておりませんが、五、六日前と思います。
○加藤(充)委員
それで、いつまで欠勤したのですか。
○田中証人
約一箇月間欠勤いたしました。
○加藤(充)委員
全然県庁へ行かなかつたのですか。
○田中証人
県庁へ行きませんで……。
○加藤(充)委員
どこへ行つたのですか。
○田中証人
自宅で寝たきりでございました。
○加藤(充)委員
あとで聞き知つたことでいいのですが、そのころにはあなたの部下であつた土木課長や出張所長というような人たちが検察庁や警察に呼ばれておつたのですか、あなたが休んでいる間に。
○田中証人
ええ。私が休んでおる間にみな呼ばれたように承知しております。
○加藤(充)委員
あなたが警察ないしは検察庁に行つて調べられた最初の日にちは、いつです。
○田中証人
それは、私が直つて出勤してからしばらくたつてからだと思いますが……。
○加藤(充)委員
何月だつたのですか。年が明けてからですか。
○田中証人
日どりはわかりませんですが……。
○加藤(充)委員
正月済んでからか。全然そういうことを知らないのか。
○田中証人
私の随行が来ておりますから……。君知らぬか。
○加藤(充)委員
何言つておるんだ、てめえのこともわからないでどうするんだ。
○田中証人
この席で、はつきり申し上げるには……。
○加藤(充)委員
大体でいいから…。
○篠田委員長
田中君に言いますが、君は今質問を受けておる。随行が来ておるかいないか知らないが、君は委員長の許可を得ないで、そういうことを言うのはどういうわけだ。自分が呼ばれたことがわからなくて、随行がどうしてわかるか、そういう態度がすべての行政上の問題になつて来ておるのだ、自分の呼ばれたことがわからないのに、随行に聞くというような、そういう官僚的の態度があるか。しかもここは国会の委員会だ、何だい、その態度は一体。
○田中証人
申訳ありません。失礼いたしました。
○篠田委員長
君は土木部長というものは、どんなに偉いものと思つておるのか。
○加藤(充)委員
あわてないで、簡単なことだから答えてください。梅の花の咲くころか、桜の花の咲くころか……。
○篠田委員長
暮に呼ばれたか、正月に呼ばれたかぐらいのことはわかるだろう。
○田中証人
たしか十二月じやなかつたかと思います。
○篠田委員長
それでいいじやないか。
○加藤(充)委員
それからあなたが、病床におつたにせよ、おらなかつたにせよ、墜落事件についてその事故の原因というようなものの技術的な報告を受けたことがあるのかないのか、あるとすればいつごろなのか。
○田中証人
技術的な報告ですか。
○加藤(充)委員
たとえば墜落のときに、つり線が二十一本切れておるとか、橋のけたが七本故意にはずれておるとかいうような問題について、墜落の原因というものの、技術的報告というものを、とにかくあなたは上司機関として一応受取つておるはずだと思うが……。
○田中証人
私は出動しましてから、上流ぎわのつり線がはずされた、それから木製のけたがのこぎりで切断された。これが墜落の原因だということを聞きました。
○加藤(充)委員
文書で報告を受けたことはないのか。
○田中証人
文書で報告は受けておりません。詳細に私が知つたのは、県会開会直前に道路課の係員をして、これの実態の報告をしてもらうようにいたしました。これが最初の報告でございます。
○加藤(充)委員
これだけの大事件で、現場関係から墜落原因の一応の技術的の報告というものはないのですか、別に。
○田中証人
それだから今申し上げた上流ぎわのつり線を切断したこと。
○加藤(充)委員
それではこう聞きましよう。あなたはそういう文書に目を通したことはないのだね。
○田中証人
県会直前に文書として道路課からもらいました。
○加藤(充)委員
県会というのはいつ開かれたか。
○田中証人
これは十二月に開かれました。
○加藤(充)委員
十二月ということだが、その直前というのはいつですか。
○田中証人
十二月の初旬と思いますが……。
○加藤(充)委員
そうすると、あなたはその書類をどこで見たのですか。
○田中証人
今の私は……。
○加藤(充)委員
見たという書類ですよ、県会直前に。
○田中証人
県庁でそれを作成いたしました。作成したものを県庁で私は受取りまして、それによつて説明資料といたしたわけであります。
○加藤(充)委員
あなたは十一月十一日にこの事故が起きて、一箇月ほど自宅休養で水虫と敗血症で、県庁へ行かなかつたというのだろう。
○篠田委員長
ジエーン台風の四、五日、前から、あなたは自宅で療養しておるのだね。
○田中証人
ジエーン台風ではないのです。墜落の四、五日前です。
○篠田委員長
墜落はいつですか。
○田中証人
墜落は十一月の十一日と承知しております。
○篠田委員長 十一月の十一日に墜落してその四、五日前からちようど一箇月ですね。そうすると十二月七、八日になりますね。それから半月ばかり外出されなかつた、そうすると、その日にちはわかるでしよう、どこで受取つたか。
○田中証人
それを受取つたのは、県庁の土木部長室で私は報告を受取りました。
○篠田委員長
十二月の初旬ですか。
○田中証人
たしかそうです。
○加藤(充)委員
最後に一点ですが、国庫の補助を申請した箇所が二、三箇所あるやに記憶しておると言つたのですが、この天狗橋の墜落事件をあなたは県庁に出勤しておつて文書で見られたと言われたけれども、敗血症は重症でしようが、それが直つて水虫だということになれば、天狗橋あるいは国庫の補助申請をしたという現場には行つたことはないのですか。
○田中証人
天狗橋の現場にはその当時参りませんでした。それから先ほど委員長の御質問にお答えしたように、ジエーン台風の直後には、能登半島の内浦海岸を土木委員一行とまわりましたが、それ以外にはジエーン台風による被害箇所を特に見に出ておりません。
○加藤(充)委員
おれが聞いておるのは、国庫補助の申請をしたところが、天狗橋のほかに一千万円程度のものが二、三箇所あるやに聞いておると言つたでしよう。そういうところを見てまわつたかと言つておる。
○田中証人
今申し上げた能登半登の内浦海岸は、これはジエーン台風直後に現場を見ております。
○加藤(充)委員
内浦海岸一円を見てまわつたかどうかを聞いておるのではない。国庫補助を申請した箇所を見たかどうかを聞いておる。
○田中証人
ですから内浦海岸の道路の災害を受けた、道路の流失されたところですか。
○加藤(充)委員
その中に含まつておるかもしれぬというのですか。
○田中証人
ええ、含まつておるわけです。
○篠田委員長
加藤君、もういいかげんに……。
○加藤(充)委員
もう一点だけ。二十五年の二月にも予算の流用か何かの問題で、多数の土木所員が、職員が非常に退職をするとかなんとかいう、それに連坐するとかなんとかいう問題が起きて不安があつたというのですが、どういう流用をやつたのですか。そうしてまたその額はどのくらいですか。
○田中証人
これは先ほどの委員長の御質問のときにも申し述べましたように、私の赴任前のできごとでございますから、内容の詳細については、私は存じておりません。
○加藤(充)委員
ぼくが聞いておるのは、内容の詳細ではない。
○田中証人
大体の金額……。
○加藤(充)委員
どういう流用をやつたのか、金額は何ぼかという大体でいい。
○田中証人
いや、これも承知しておりません。申し上げかねます。
○加藤(充)委員
そんなばかな土木部長があるもんか。
○田中証人
赴任前でございますから……。
○加藤(充)委員
赴任前だつて、あとからそういうもたもたが起きておるというようなことになつて、あるいは警察や検事局あたりで調べにかかつたとかいうような状態になつておるときに、今ぼくが聞いた二項目ぐらい全然知らぬ存ぜぬという土木部長がありますか。そんなばかな土木部長だつたら、月給のただどりではないか。おまけに部長として、べらぼうに県民に負担をかけて、こういうばかなことをやつたら、強盗や窃盗よりもべらぼうなやつだよ、これは。しかもそういうことを全然知らないというばかなことでよく月給をもらえるね。
○篠田委員長
ちよつと加藤君に御注意申し上げますが、言葉をもう少し慎んでください。
田中君に申し上げますが、赴任前のことであるけれども、あなたは先ほども言つたように、概略は御存じのはずです。だから何も詳しいことを言わなくてもいい。大体汚職の金額はどのくらいで、どういう内容であつたかぐらいのことは、あなた、説明ができるでしよう。
○田中証人
これは金額についても私は……。
○篠田委員長
全然知らない……。
○田中証人
いや、流用したということは聞いておりますが、金額については私今承知しておりません。
○篠田委員長
かつて聞いたこともない……。
○田中証人
金額については聞いておりません。
○篠田委員長
何人くらいの県庁の吏員が連坐したかも御存じないですか。
○田中証人
これはおおよそでございますが、一応嫌疑なしとなつたようなものを合せて、やはり二十名近くかと思います。
○篠田委員長
二十名ぐらいの土木課員――課員であるか、部員であるか知りませんが、やめたでしよう。
○田中証人
やめたものも、やめないものも、やはり一応関係ありと思われるようなものは二十名ぐらいだと思います。
○篠田委員長
二十名くらいのあなたの部下が関係した汚職事件で、あなたは金額もわからないし、内容もわからない……。
○田中証人
それは私の赴任前にできてしまつたことです。
○篠田委員長
あなたの赴任前であつても、あなたは後任の土木部長として知らないとおつしやるのですか。
○田中証人
これは内容についてはちよつとわかりかねます。
○篠田委員長
わかりかねるということは、あなたは報告を受けておらなかつたというのですか。
○田中証人
報告は受けておりません。
○岡(延)委員
議事進行について。ただいまの加藤君の発言ですが、共産党の加藤君の発言というものは、これは今現に田中君の言動に対して非常に注意を与えている。その同じ委員が非常に何と言いますかこの委員会にふさわしくない言葉を使うということは、これは慎んでもらいたい。私は国会の同じ構成員として、またこの委員会の同じ構成員として、匹夫下郎、町の無頼漢みたいな言葉を使うということは、われわれとして迷惑です。それについて委員長からも注意してもらいたい。
○篠田委員長
それはただいまの岡委員の御意見と同感でありまして、証人の態度というものがあまりにもがんこであるから、多少感情的になるということは、これはやむを得ないかもしれないけれども、岡委員の指摘の通り、まつたく民主主義的でない言葉をもつて証人を威嚇するような態度をとられたということについては、委員長としても一応注意を申し上げましたが、お前は月給のただどろぼうだなどということは、委員会の言論としてはふさわしくないからお取消しを願いたいと私は思います。
○加藤(充)委員
ただどろぼうみたいなものだというのですから、私は取消す必要はないと思うのです。まつたく石川県民が聞いていたら、県会を通じてごあいさつしましたとか言つておりますけれども、こんなばかなことでは、私よりもひどい言葉で感情を爆発させるだろうと思うのです。知らないからいいようなものの……。私は御指摘のような傾向が見られたことについては、私も今はあまり強い言葉を使わなくてもよかつたように思うのですが、事実月給のただどろぼうみたいなものじやないですか。
○篠田委員長
それは事実を調べてみなければわかりませんが……。
○大森委員
議事進行について。私も石川県の県民の一員であります。しかしながら、今加藤君の言われたことは、まことに奇怪千万です。とにかくこの問題は、われわれは内部のことをよく知つておる。もはやあまり言い尽された問題であるから、先ほどから何も言わずにおるのであります。大体この落した原因に対しましても、田中君は遠慮しておるためにこれがはつきりしない。どういうことであるかというと、落したのが宮竹組という……。
○篠田委員長
その説明は聞く必要はありません。証人として呼んでおりませんから。
○大森委員
質問と同時に私は今……。
○篠田委員長
いや、それはあなたから聞く必要はありません。証人に対する尋問をしてください。あるいは加藤君の発言に対する議事進行か……。
○大森委員
加藤君の発言に対して一言意見を加えて結論に入りたい。そういうことであつて、問題は、もうすでにそうした事件がだれそれがやつたのだというような問題がはつきりいたしていることなんです。ところが、それをつるし上げやつておるから、田中君の態度というものはあいまいである、そこでそれをとらえて今加藤君の言われたことは月給どろぼうである、こうはつきり言つた。けれども、どろぼうであろう、どろぼうみたいだというようなことを言つたというてごまかすことは、速記録を見た上でこれをはつきりと処分してもらいたい。私はこれを取消さなければ、この議事進行に対して異議がある。取消してもらわなければ、あるいは本人はどうあるか知らないけれども、やはり石川県の名誉のために、これは名誉毀損であると私は考えます。
○篠田委員長
それは速記録を調べた上でなければ、加藤君が月給どろぼうであると言つたか、月給どろぼうみたいなものであると言つたかということは、それは速記録を見なければわかりませんが、とにかく加藤君の発言は、本委員会における発言としてはふさわしくないということだけは、私は委員長として認めますが、お取消しになりませんか。
○加藤(充)委員
いや、月給どろぼうみたいだ……。
○篠田委員長
月給どろぼうということだけでなしに、たとえばおれというような言葉とか、あるいはお前というような言葉を使われたと思いますが、そういう証人に対して必要以上のお言葉をお用いになつたという点について概括的にお取消しになるかどうか。
○加藤(充)委員
月給どろぼうみたいな感じを持つておりますから、そういう感じを委員会で述べたことは、私はその方がむしろ率直なんだと思うのですが……。
○篠田委員長
あなたの態度、あなたの気持は率直であつたかもしれぬけれども、発言された内容が委員会の品位をきずつけたとしたら、委員としてどうしますか。
○加藤(充)委員
月給どろぼうみたいなものを養つているのはかなわぬという気持を持つた。そういう気持を持つた委員がおつたら、ここでそのことを発言をしても、ぼくは行政監察委員会の威厳ですか品位ですか、きずつけたものだというふうには解釈できないのです。
○篠田委員長
それでは速記録を調べまして、あとで加藤君の善処をお願いするかもしれません。あとで速記録を調べます。島田君。
○島田委員
大事な質問が一点抜けておるように思いますので、簡単にお尋ねいたします。この一千万円の被害査定を申請したということは、天狗橋が全壊しだということが前提にならなければ、この額の申請はなかつたと思いまするが、これは認めますね。――天狗橋がジエーン台風でほとんどこわれたということでなければ、一千万円の被害査定は金額においてされなかつたと思うのですが、これは認めますね。
○篠田委員長
いや全額ではない、四分の三だ。四分の三こわれたということを、あなたは認めるか認めないか。
○田中証人
これが四分の三以上こわれた場合は、この橋は全部がだめで、かけかえを要するというふうになるわけでございます。
○島田委員
ところが落さなければ、たたき落さなければ、そういう被害査定にはパスしない、通過しないということで、落されたのだと思いますが、そうなるとジエーン台風による被害がほとんどなかつたものを、そこまであつたものとして申請したということは、これは認めなければいかぬと思うのですね。
○田中証人
ちよつとお答えいたします。これは墜落後において建設省の査定官が現地を見まして、墜落したということを前提として、一応査定額を考えてもらつたのが二千五百四十七万六千円という金額で、このうち原形復旧が一千七百十万円、これが一応査定官によつて査定された金でございますが、査定官はこの墜落ということに疑義ありとして、一応保留されて今日に至つております。一千万円というものは、結局補修工事のある程度の完璧を期するという目途のもとにつくられた額と私は考えております。
○島田委員
最初一千万円の被害査定を受ける、その目的は大体天狗橋の被害を受けた現状に基いてその申請がなされたか、それ以上に大破損があつたものとして一千万円を申請するに至つたか、これはどうお考えです。
○田中証人
これはやはりこの事件発生後におきまして、いろいろと技師から私も聞きました。その結果によると、ジエーン台風によつてこの橋の両わきに木で組んだジヨイント――この継ぎ手などが、大体三センチくらいずれておつて、重い荷重がかかれば墜落の危険があるという程度に被害を受けておるということも聞いておりましたので、この結合部その他のものがいたむとその材料はもう使いものにならぬということになりますので、その関係上、ちよつと見たところは折れたり飛ばされたりしなくとも、そういう部面に対しては、新しい材料をさし加えなければならぬことになるものとただいま私も考えております。それで結局一千万円というものは、やはりかけかえのことは考えずに完璧補修という考えのもとになされたものと私はただいまも考えております。
○島田委員
大体台風などの起きた場合に、被害が大してなくても、それに便乗して、いわゆる腐朽した橋梁などを一応修理したいという気持はよくわかる。しかしこの一千万円の被害申請を行う場合に、台風の被害自体は大したことはなかつた。しかしそれに便乗してそういつた修理、修繕を行いたいという気持で、一応主管課長なりあるいは係の者が申請することにしたのだろうと思う。そこで私がお聞きしたいのは、われわれの行政監察の使命からいつて、要は国費の濫費を今後したくないというのが根本なんです。そうすると被害がないものを、被害があつたがごとく申請して、しかも今度はたたきこわさなければならぬような実情に陥つたということ自体が、われわれはこの問題だけでなく全般的に通じて、そういつたことを今後に防ぎたいという気持でおるわけなんです。そこで結局一千万円を申請したその被害の程度というものと、それから橋自体の実情とをにらみ合して、大体その主管課長がやつたことが、いわゆる台風による被害がほとんどないものを、あるがごとく申請したという結果に陥つておるのではないか。そうするとあなたが全幅の信頼を置いておるというその課長のやつたことは、一応従来の習わしから行けばあり得ることには違いない。しかしわれわれから見れば、あまり被害もないものを、あるがごとく便乗して国費を濫費するという建前からいつて、そういつた主管課長なり係のやつたことは責任があるのではないか、こう私は見たいのですが、あなたの立場上どうなんです。
○田中証人
ただいまの御質問はごもつともなように思います。この橋梁の災害復旧は、今までの慣行から申しまして、相当年数がたつて、いわゆる腐朽頽廃の状態になつておつて、しかもまだ形は整えておる、それが風害等によつて墜落した場合、あるいは墜落しなくても、もうちよつとの風害によつてまつたく使用にたえない状態になつた場合は、災害査定のしきたりから、これがかけかえ予算を見込めるというのが今日までのしきたりになつております。それでこの天狗橋のごときものも、相当強度の弱い橋で、しかも相当腐朽頽廃しておつたところへ、五十メートル前後の風速でやられたので、先ほど申し上げましたように、ジヨイント等が三、四センチ程度もずれておる。それでこのままでは重量のものは通れないというような状態で、これを補修するために一千万円の金額を掲げたものと思います。要するに災害の状態が、腐朽頽廃していたものでも、それが最後に使用不能になつた原因が結局風害なり水害なりが加われば、これは腐朽頽廃ということはあつても、一応これを全面的に認めるというのが過去のしきたりになつておるようでございます。お含みをいただきたいと思います。
○島田委員
最後に私ちよつと申しますが、要は今言つたような台風などに便乗して、こういう予算をとるということが、いいか悪いかということを私は考えたい。そこで腐朽頽廃したそういつた橋をさらにかけかえるのならばもう一歩さらに別途の方法でやることがいいのだろうと思う。そういうことが台風などに便乗してやらなければやれぬというところに、一つの隘路があるということも考えられる。しかしそれを平気で、台風で大した被害もないのに、あるがごとく見せかけて申請した、そういつた主管課長には何ら責任はないのだ、全幅の信頼を置いていいのだ、こういう習わし自体に、私は国費全般から見て、濫費されやすい原因が伴うのじやないか。こういうところで私はむしろ今一歩、今後そういつた便乗した予算のとり方、被害もないものを被害があるがごとく見せかけるような申請の仕方、こういうことに対しては、あなた方がいわゆる部下のやつたことに対して十分責任を持たし、全幅の信頼などを持たない今後のあり方というものを私たちは要求したいと思う。その責任を、私は問いたかつたのです。
○篠田委員長
岡西君
○岡西委員
田中さんが昭和二十五年の五月二十一日に石川県の土木部長に着任されまして、それから九月の三日にジエーン台風が起つておるのでございますが、この間におきまして、あなたは土木部長として、関係方面にあいさつまわりをし、そのほか土木行政に関しましては石川県の各地を視察されたことがございますか。
○田中証人
その間に地方を歩きましたのは、各出張所地域を一応全部まわりました。それからあとは、先ほど申しました能登地区のジエーン台風に基く現地視察、そのほかは、特別の用務が出てやむを得ない場所について二、三出ておると思いますが、ただいまのところ、いつ、どこに何箇所出ておるかということは記憶いたしておりません。
○岡西委員
九月三日にジエーン台風が起りまして、あなたはすぐに能登方面を関係官を連れて御視察になつたということでありますが、その視察になられました結果、あなたが土木行政の責任者として、専門家として、どのくらいの損害があるかということをそのときお認めになりましたか。
○田中証人
その当時能登は見に参りましたが、そのときは交通網が寸断されておつたので、見に参りましたときには、まだ概算の金額すらも出ておりませんでした。
〔委員長退席、島田委員長代理着席〕
それでその他県下一般の損害額について、先ほど申し上げましたように、出張所の各方面担当技師が概算を出して来るのは相当遅れておりましたので、概算どのくらいというものは、もくろみ書というものをつくるのでありますが、そのもくろみ書の原稿のできるとき初めて全体で幾らぐらいということがわかるので、かなり遅れてから承知いたしました。
○岡西委員
それでは、九月三日にジエーン台風が起りまして、御視察になりまして、あなたは的確にこのジエーン台風による被害は金額において幾らあるかという見積りの算定ができなかつた。その後土木部の道路課長なり、あるいはまた所管の土木出張所から、このジエーン台風による災害の状況とか、あるいはまたその損害の金額等は、いつあなたはお聞きになりましたか。
○田中証人
ただいま申し上げましたように、もくろみ書というものを建設省に出すことになつておりますので、この原稿ができたときに初めて、全体で幾らということを承知いたしましたので、これはかなり遅れてからであります。
○岡西委員
それはいつごろですか。
○田中証人
どうも日取りははつきり記憶しておりませんが、十月の末か、十一月の初めではないかと思いますが、はつきり今記憶しておりません。
○岡西委員
そうしますと、あなたは大体十月の末ごろ、このジエーン台風の損害につき部下からの報告を受けられたということでございますが、そのとき実際のジエーン台風による河川の流出とか、たんぼの損害、家屋の倒壊、その他のものについて、ただ書類のみでそれを承知されたのか、特に現地検査した写真、添付書類その他をごらんになりましたか。
○田中証人
これはそのもくろみ書だけを申達いたしましただけで、現地については何も見ておりませんし、またその現地を全部にわたつて見るわけにも行きませんし、このもくろみ書は、先ほども申し上げましたように、検査の一つのよりどころとしての資料と心得ておりますので、もくろみ書ができると、総括で何箇所で、金が幾らだということくらいを一応念頭に入れて、もくろみ書を捺印して、すぐに建設省へ送つております。
○岡西委員
あなたは、ジエーン台風の被害については、もくろみ書だけで、現地を見ていないからよくわからなかつた、また写真等についてはごらんにならなかつたとおつしやいますが、現に先ほどの証言によりますと、九月三日ジエーン台風が起つた直後、あなたは係官を連れて能登半島を視察されたということを言つておられるのですが、これはずいぶん食い違いがあるじやないですか。
○田中証人
お言葉で恐れ入りますが、一応能登半島の方は見ましたけれども、どの箇所が幾らというような金額は、その当時全然わかつておりません。
○岡西委員
金額を言つているのではないのです。あなたは能登半島を視察されたということを先ほどおつしやいましたけれども、その後の私の質問では、その金額その他の要求があつた時分に、現地を知らぬということをあなたはおつしやつたが、その前に事実見ておられるのではないか。
○田中証人
いや、知らぬと申し上げたのではなくて、もくろみ書がまとまつて出るときに、そのもくろみ書について私は各現場については特に見に行つておりません。こういう意味で申し上げましたので、その災害直後に能登半島等を見たということも間違いはないわけであります。
○岡西委員
そうしますと、台風による復旧費の第三次分として一千万円の国庫補助金を要求するとき、あなたはもちろん決裁されたでしよう。建設省に出される時分に、土木部長として決裁をされましたか。
○田中証人
今申し上げました検査申請のもくろみ書は、判をついております。検査申請に添付するもくろみ書というものがございますが、これに閲覧の判をついております。
○岡西委員
そうしますと、この一千万円の国庫補助に対する要求額というものは、すでに十月の末ごろ部下から書類を提出されて、それをあなたが検分されて、判を押して本省に出された以上は、この天狗橋の落橋による問題とは全然関係のないことになりますね。天狗橋の費用とは全然違うわけでしよう。一千万円の国庫補助というものは、ジエーン台風による被害に対する国庫補助を要求されたものであつて、天狗橋の復旧の工事費とは全然関係がない金なんでしよう。
○田中証人
これは県下全体の道路、橋梁、河川、砂防、海岸、これら全部を含めたものの箇所をずつと書いて、箇所別の概算金額を入れたそのもくろみ書というものができます。それに私は捺印いたしまとた。それに知事が知事名をもつて、災害土木工事の検査をしてくださいという申請書が添付されて建設省に出されたわけです。
○岡西委員
その中に天狗橋の工事費として……。
○田中証人
その中に入つておつたわけです。
○島田委員長代理
他に御質問がなければ、田中証人に対する尋問はこれにて終了いたします。証人には長い間御苦労様でした。
議事録本文はこちら↓
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/012/0666/01210220666002c.html
|