2002.8.7
河北潟自然再生協議会設立総会に150名

 7月28日開かれた「河北潟自然再生協議会」の設立総会は、約150人が参加。これまで準備を進めてきた構想委員会からの「河北潟自然再生構想(案)」「規約」「役員」「当面の活動方針」「総会宣言」の採択がおこなわれた。
 総会を記念して、京都大学大学院教授の松井三郎先生から「世界と日本の湖沼がかかえる問題とその回復」と題して講演をいただいた。
 講演の中で、世界の湖沼や琵琶湖などが抱える問題がその原因と共に紹介され、河北潟の自然再生について多くの示唆をいただいた。中でも「下水道を作れば作るほど水質が悪化する」、「回収有機物に含まれる物質は不明でリサイクルは不可能」など、広域下水道やリサイクルの限界については「目からウロコが落ちる思い」を感じた。


構想委員会に参加した団体・個人
(平成14年7月11日現在)

石川県釣商組合金沢支部
いしかわ水辺再生研究会
石川の水を考える会
エコプロセスエンジニアリング研究所
大浦校下町会連合会
岡山英一郎
金沢漁業協同組合
金沢市校下婦人会連合会
金沢城北ライオンズクラブ
金沢森本ライオンズクラブ
(株)アメニテック
河北潟湖沼研究所
河北潟水質浄化ボランティアスタッフ
河北潟レクリエーションクラブ
河北郡婦連
金城ふれあいカレッジ
KFCふれあいクラブ
湖南地区町会連合会
ナギの会
七塚町勤労者ボランティアセンター
北陸ランカースナイパーズ
ボランティアキャンプ
森の都愛鳥会
森下川を守る会
吉岡勇
  (50音順)

総会で選出された役員

代表世話人/今井 敏彦
(大浦校下町会連合会)
副代表世話人/本間 勝美
(森の都愛鳥会)

――事務局(4名)――
事務局長/高橋  久
(河北潟湖沼研究所)
会計/井口 武久
(七塚町勤労者ボランティアセンター)
書記/櫻井 英二
(いしかわ水辺再生研究会)
事務局員/三ツ井厚子
(河北潟リクリエーションクラブ)

――会計監査(2名)――
会計監査/橘  昭男
(金沢城北ライオンズクラブ)
同/村上 清彦
(金沢森本ライオンズクラブ)

――世話人会――
各団体から1〜3名の世話人で構成

河北潟の自然再生構想(案)
人と自然、農業と野生生物の共生をめざして
〜豊かな湖の再生、生き物があふれ自然とふれあえる河北潟へ〜

平成14年7月18日
河北潟自然再生協議会構想検討委員会

【はじめに】
1.河北潟の特徴と変遷

 河北潟は、かつては東西4km、南北8km の大きさであり、平野部の湖、大小の川の流れ込む河口域の湖、そして汽水湖であるという特徴を持っていた。また、比較的温暖な地域の低湿地でもあった。これらのことは、魚類などの豊富な水生生物群集とともに、高い生物生産性を伴う生態系や、優れた水質浄化能力をもつヨシなどの豊かな湿性植生が存在したことを示している。豊かな湖によって培われてきた潟漁や、舟入川(張りめぐらされた水路)、湿田など潟と人との生活との関わりもまた、河北潟の環境を形成していた重要な要素であった。
 河北潟は、5000年の歴史のなかで堆積と小規模干拓によって徐々に小さくなっていったが、河北潟の環境が大きく変わることはなかった。ところが、1963年に始まった国営河北潟干拓事業は、潟の中だけでなく周辺地域を含めた大事業であり、これにより河北潟と周辺の水域環境は大きく変容した。まず、潟自体が極端に小さくなり淡水化された。湖岸は堤防が築かれ人工化された。周辺の水路や湿地は整備された。このように周辺を含む環境の大きな変化は、河北潟地域に様々な環境問題をもたらした。潟面積の減少と淡水化は、水質の悪化に直接つながるものであった。かつてのシジミやフジツボ、ゴカイなどの汽水性の生物は姿を消し、水の汚れを食べる動物は少なくなった。流域からの負荷の増加もあり、河北潟の富栄養化が一気に進行した。
 河北潟干拓に伴って河北潟の湖岸は、矢板やアスファルトによる護岸が施され、湖岸の自然植生が減少した。これに伴い水辺の野生生物の生息環境が少なくなった。水草の多様性の消失も重要な問題である。干拓前の河北潟には、湖岸に幅広い水草帯が広がり、一方周辺の水路にもオニバスなどのたくさんの水草が生息していたと考えられる。しかし現在ではオニバスは絶滅し、湖岸を被っていたアサザも現在ではわずかな群落が数カ所で確認できるだけとなっている。
 一方、豊かな湖を消滅させた代償として手に入れた干拓地は、現在に至るまで十分には活用されていない。水田耕作を行うことのできない干拓地での農業はきわめて辛いものとなり、離農者も相次いでいる。
 70年の干陸後、干拓地においては暗渠排水工事などはあったものの、大部分は自然植生の状態で放置されていた。そのため、干拓後一時的に生まれた広大な湿原やヨシ原には、多くの猛禽類をはじめとする野生動物が住みついた。しかし80年から始まった本格的な農地造成により、干拓地内の二次的自然の多くは消失し、そこに住んでいた野生生物が安住できることはなかった。
 河北潟周辺においても、92年から始まった大規模な湛水防除事業により農地が整備され、古い形態を保つ小規模河川も次々と消滅したりコンクリート化された。河北潟周辺の農地は近年急速に宅地化が進み、地方自治体による大規模な団地造成も進められている。宅地化にともなって周辺の環境整備もおこなわれた。
 干拓事業により大きくその自然環境が改変された河北潟は、さらに最近20年の変化により、過去の河北潟の面影は完全に失われつつある。これまで、何とか生き残ってきた野生生物の息の根も止められつつある。

2.河北潟自然再生協議会の結成
「河北潟自然再生協議会」は、このような河北潟地域の現状にあって、かつての優れた水郷の姿を取り戻し、自然生態系を保全・再生・創出するために、地域で活動するさまざまな住民組織や個人が寄り合い結成された。
「再生」の目標についての議論がおこなわれた。再生をもとの湖のそのままの姿の復活と考えるのであれば、自然再生のためには、莫大な費用をかけた湖内及び湖岸域のみならず、流域全体を含めた大土木事業と環境改変を必要とする。さらには、昔ながらの生活スタイルを復活する必要がある。同時にこのことは、新たに生まれた生物生息環境の消失や一時的な減少を伴うことも意味している。一方、持続的な潟縁での暮らしとそのなかでの自然との共生を望む場合、共生可能な潟との関係、地域の重要な産業である農業と自然再生事業の融和による持続的な地域の発展、未来へ莫大な負債を残さない発展方向を展望することが重要である。同時に、新しく生まれた環境要素である干拓地や、その他の優れた環境要素を正当に評価して保全していくことも、責任ある現実的な河北潟再生の立場であると考えられた。
 議論の結果、「河北潟自然再生協議会」は、湖面や湖岸の現実的な再生および改良の提案、農業との協調を図った干拓地における自然再生、住民が主体となった運動を重視することとし、これらの考えを盛り込んだ「河北潟自然再生構想」を作成することとした。
 河北潟自然再生協議会は、地域を構成するさまざまな団体の代表者による協議会である。今後とも個別課題については、参加各団体での協議を経ながら具体案を作成して、国、県、農業団体等、関係当局に強く働きかけ、その実現を図っていくこととする。

【個別課題】
1.干拓地に潤いをもたらす湿地ビオトープの創出を
 干拓地内に湿地ビオトープを造成する。このビオトープは、野鳥等の湿地を生息環境とする野生生物のすみかとなるとともに、希少な水草などの生育場所となることが期待される。このビオトープには通常は大小の池がある状態にしておき、大雨時には潟水を導水できるようにしておく。湿地ビオトープの造成に必要な土地の確保のためには、公有地などを有効に利用する。
 既存のコンクリートマットの排水路を改良して土水路にする。排水路の岸には植生を繁茂させ、野生生物のための水辺ビオトープとするとともに、自然植生による水質浄化装置としての機能を持たせることとする。

2.直線とコンクリートの湖岸から植物と動物の育つ湖岸へ
 河北潟の湖岸のほとんどには、矢板による護岸やアスファルト護岸が施されている。これらの人工護岸を自然に近い形に改良することは、河北潟の湖岸再生にとって重要な課題である。とくに、才田橋より内灘放水路に至る単調で直線的な矢板護岸は、水流や波が激しくぶつかるために水草が定着できない。この部分にワンド状の構造物や消波ブなることが期待できる。同時に、護岸形状の変化と植生の生育によって景観上の向上も期待される。また、水際に人が生き物とふれあう空間がつくられることも考えられる。
 過去に人工化された湖岸でも、現在は植生が発達して野鳥などの重要な生息場所となっている地点もあるため、湖岸の改良には十分な注意が必要である。とくに、重要な環境については自然保護区間を設定するなどして、積極的に現状を保全する対策も求められる。

3.流入汚濁負荷の軽減と適切な底泥管理等による水質の改善を
 近年の河北潟の水質の悪化は著しく、また河口付近へのヘドロを含む土砂の堆積により極端に浅くなってしまった場所も見られる。これらは、河北潟水域を健全に保つ上では重大な問題となっている。必要に応じて、潟・流入河川河口の浚渫・ヘドロの除去の実施を求める。
 流域における公共下水道の整備を求めるとともに、干拓地から発生する農業系の汚濁負荷の削減のための対策を求めていく。
 住民の立場からの流入負荷の低減へ向けた努力を継続的におこなう。

4.きめ細かい水位調整の促進と将来の水門開放を見据えた研究の実施
 現在の河北潟は水位の変化が激しく、大雨後の水門開放により多量の魚が流されるなどの問題が起こっている。これは、大根布防潮水門の管理システムに由来する部分が大きい。河北潟の水域の自然環境のために、水生生物に配慮したきめの細かい水門と水位の管理体制を求めていく。
 河北潟へ流れ込む中小河川の滞留を防止するためには、河川の自然流下を達成する必要がある。このためには基本水位を20cm程度低くすることが求められる。同時に、内灘排水門に大型の排水ポンプを設置することも、水域管理と洪水対策として重要な対策と考えられる。
 防潮水門の設置により、潟が淡水化され、同時に閉鎖性の高い水域となったことは、河北潟の環境問題の重大な原点であり、将来の水門開放や再汽水化を見据えた、流体シミュレーションの実施や基礎的研究を推進する。

5.野生生物と共存できる干拓地へ、環境保全型農業への支援
 農地は、野生生物にとって重要な環境であり、河北潟における自然再生において、住民も協力しながら、農業と野生生物の共存を考えることが必要である。具体的には、干拓地農業における有機農業・環境保全型農業の推奨、ヘリコプターによる農薬の散布や野ネズミ駆除の薬剤散布を中止し、天敵防除への切り替えを図ること、農地と隣接した小さなビオトープ地の造成等が求められる。同時に、河北潟の水質への負荷を減らすために、干拓地においては畜産の糞尿処理を徹底することが重要である。

6.ラムサール条約登録湖沼をめざして活動する
 ラムサール条約は水鳥にとって重要な湿地を世界各地が保全し、適正に利用することを目的とした条約である。コハクチョウをはじめ多くの水鳥が飛来する河北潟は、ラムサール条約登録湿地にふさわしい潟湖であり、この条約の登録湿地となることをめざして活動する。

7.適切な自然の活用により、憩いと遊びの場の創出を
 住民参加の下で河北潟を継続的に保全する上では、河北潟を適切に利用することが重要である。そのため、住民が自然の大切さを実感できる場となる水辺ビオトープなどを造成し、誰もが自然に親しめる場、憩いの場を創出することが求められる。また、自然環境と調和した適切なレジャーの振興を図ることも重要である。
 河北潟の自然を紹介するセンターを建設し、河北潟の変遷や生息している生物、環境保全と農業の関係などを学べるようにすることも、持続的な環境保全にとって重要なことと考えられる。

8.住民が主人公、自らが守る河北潟を目指し持続的に活動しよう
 かつては存在した住民と潟との共生関係を再構築することは、住民が主体となる河北潟の自然再生をおこなう上で、最も重要なデーマの一つである。河北潟の適切な利用の推進とともに、釣りマナーの向上の呼びかけや、ゴミ拾い活動、不法投棄対策として地域住民への呼びかけなどを通じて、住民意識の向上を図ることはたいせつな活動である。
 水質や生物の生息状況についてのきめの細かい基礎研究を住民参加型で進める活動などをおこなう。
 (議論の中で、この項に「行政への注文や共同作業」などを入れることになった。)


河北潟自然再生協議会 設立宣言

かつて日本有数の大湖が、
干拓事業によって、わずかな水面を残す湖となった。
かつて海水と淡水が交わる汽水湖が、
防潮水門によって、淡水魚だけしか棲めない湖となった。
かつて多様な生物が棲んだ湖の岸辺は、
コンクリートや矢板護岸となって、生物に大きなダメージを与えた。
かつて清湖と呼ばれた湖が、
排水の流入によって、水質は悪化し富栄養湖となった。
心ない人びとによって、
ゴミが捨てられ汚れた湖となった。

湖の生態系は破壊され、
生物の多様性が失われつつある中で、
河北潟に親しみ、河北潟を愛し、河北潟と深く関わってきた、
多くの仲間たちが、いま、立ち上がった。

私たちはここに結集し、
かつての清らかな湖面に、
野鳥や魚などの多様な生物が生息できる豊かな自然の水辺に、
人と自然、そして農業と野生生物が共存できる大地に、
河北潟の再生をめざし、
取り組むことを固く誓い合います。

そして、私たちは願います。
一日も早く河北潟の再生がなされることを……。
さらに広く、多くの人たちが共に手をたずさえてくれることを……。

        平成14年7月28日  河北潟自然再生協議会一同


  
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