2002.10.22
「今後の水利行政のあり方について」
平成11年3月 河川審議会の提言
目 次
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1.はじめに
2.我が国の水利使用の変遷
(1)現行水利秩序の形成と水利使用の増加
1) 旧河川法の制定
2) 利水関係事業法の制定
3) 新河川法の制定
(2)水利使用をめぐる社会経済情勢の変化
1) 農業用水
2) 都市用水
3) 水利使用の多様化
4) 河川環境
5) 地域の水環境
(3)水資源開発の進展
3.今後の水利行政のあり方(基本的考え方)
(1)検討の視点
1) 低水管理の実行
2) 地域の特性等の反映
3) 水利使用許可手続の迅速化、透明化等
(2)当面実施すべき施策
1) 河川や流域の特性を反映させた水利使用ルールへの転換と
河川関係者間の問題意識の共有化
2) 真に水利調整・渇水調整を行うべき地域での適切な取水実
態の把握と調整
3) 水利使用許可手続の迅速化等
4) 水資源の有効活用
a) 需要に対応するための既存の水利使用に関する情報交
換・検討
b) ダムの統合運用、ダム群連携等の推進
4.まとめ
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1.はじめに
我が国の河川水の利用の歴史は、沖積平野における水田を中心とした農業開発に始まり、上流から下流に向けての河川水の反復的利用による慣行的農業水利システムが地域ごとに確立されてきた。
そして、明治時代以降の経済の発展と都市化の進展に伴い、都市用水、発電用水等の新しい河川水利用が登場、増大し、これらの新規需要に対応するため、河川法に基づく水利使用許可が行われるようになった。この結果、水利用が大幅に増大する一方で、流域の水循環系を大きく変化させることにもなった。さらに、戦後の食糧増産のため農業の近代化が図られるに伴い、農業水利も変貌し、水の循環利用のシステムも大きく変化していった。
これらの水利使用に伴う水循環系の変化は、第二次大戦後の急速な都市化という外的要因により一層進行し、河川流量の減少、水質の悪化等河川環境への影響をもたらすとともに、地下水利用の増加に伴う地盤沈下等地域の環境にも影響をもたらすこととなった。また、戦後の目覚しい経済復興と人口の増加に対応した新規水需要の増加に加え、河川環境の改善のための新たな水需要も加わって、水資源の一層の開発が求められるようになった。それぞれの水系により河川の流況は異なるが、河川水の理論的な最大利用可能量(河川の全流量から蒸発や浸透、洪水等の利用不可能な流量を差し引いたもの)と現に発生している水需要量等との関係を見ると、前者に対する後者の割合が大きい水系では、河川水の利用度が限界に近い状況になってきている。
一方、社会経済の変化に伴い未利用の水利使用が発生したり、渇水時の安定的取水や地域の環境用水などの新たな水需要への対応が必要となったりするように、河川の実態や水利使用のニーズなど、水利使用を取り巻く状況は水系によって異なっている。
そこで、このような状況下において、いずれの水系においても、水系全体の観点から、必要な水質の確保や河川環境との調和を前提とした適正な水利使用を実現することが必要であり、そのための低水管理のシステムの構築が急務とされるに至っている。
ここでいう低水とは、洪水などを除く通常時の河川の流況を意味する。低水時においては、良好な水環境が確保されるとともに、水利使用その他河川の利用が円滑に行われることが重要であり、低水管理システムはその実現を目指して構築されなければならない。つまり、低水管理は、河川管理者による河川維持流量の確保ばかりではなく、利水者による河川水の利用のあり方等も対象とするものであり、河川管理者と利水者等が共通の認識を持って取り組まなければ、システムを良好に機能させることはできない。
このような認識の下、本審議会の水利調整部会では、低水管理の中で極めて重要な位置を占める水利使用に関連して、早急に取り組むべき当面の方策について検討してきた。その成果が「今後の水利行政のあり方について」としてとりまとめられたので、これを本審議会より、建設大臣に対し、提言する。
その視点は、河川管理者と利水者が河川情報及び利水情報等を共有化するとともに、共通の判断ルールである水利使用許可基準の明確化や手続の迅速化等を図ること、また、利水者等の理解を深めるため、水系全体の状況を把握できる環境を、河川管理者が先導的役割を果たして創りあげていくことにある。
本提言に示した施策を実施することにより、国民共通の財産である河川の良好な保全と利用のための低水管理を実現するシステムが各水系において整備されることを期待する。
2.我が国の水利使用の変遷
(1)現行水利秩序の形成と水利使用の増加
1) 旧河川法の制定
我が国の水利秩序は、長い時間をかけて江戸時代までに農業を中心に形成されてきた。しかし、明治時代以降の経済発展と都市化の進展による発電用水、都市用水需要の増大、人口増加等を背景とした食糧増産に対応するための農業用水需要の増大といった要請を受けて、多くの新規利水を行う必要が生じた。こうした新規利水を水争いを起こさずに円滑に水利秩序に組み込んでいくためには、旧来の農業水利権の保護と新規利水の円滑な権利設定の仕組みを設けておくことが必要と考えられ、明治29年に旧河川法により水利使用を許可制とする制度が創設された。
水利使用許可制度の基本的な枠組みは、先行する水利使用を保護しつつ、これを侵さないように河川の自流又は水資源開発によって新規の利水を行うというもので、この枠組みは現在に至っている。先行する水利使用に優先権を認めるという考え方は、慣行水利秩序の形成の歴史と軌を一にする。これは、旧河川法による水利使用許可制度創設後も、ここ20〜30年の間に社会経済情勢が大きく変化するまでは、水需要は増加することはあっても減少することはほとんどなかったことから、ごく自然な考え方として受け入れられてきた。
2) 利水関係事業法の制定
その後、土地改良法(昭和24年)、電源開発促進法(昭和27年)、水道法(昭和32年)、工業用水道法(昭和33年)、電気事業法(昭和39年)などの利水事業関係法が制定された。これにより、戦後の目覚しい経済復興と人口増加、都市への人口・産業の集中に対応した水資源開発による都市用水、農業用水等の新規利水が大幅に増加していった。
その中で、水利権の転用、譲渡に係る制度的な対応は、今後の課題の一つとして残されていた。
3) 新河川法の制定
新河川法(昭和39年)では、水利調整のさらなる円滑化を目指して、水利使用許可制度の大きな改正がなされた。
具体的には、利水者間で調整が図れない場合にも河川審議会の意見を聴くことにより、公益性を判断し、新規利水を求める者と既存利水者の権利調整を行う規定が設けられた。
さらに、渇水被害の深刻化を受けて渇水調整に関する規定が整備された。すなわち、渇水時には利水者間で互譲の精神に基づく渇水調整を行うこととし、利水者間で調整がつかない場合には、原則として利水者の要請を受けて河川管理者があっせん又は調停を行うこととされた。
(2) 水利使用をめぐる社会経済情勢の変化
かつての右肩上がりの経済成長の下では、水利使用も大幅に増加してきたが、近時の状況は以下のように大きく変化してきている。
1) 農業用水
農業用水については、畑地かんがいの増加が見られるものの、耕地面積の大幅な減少や減反政策を踏まえて、慣行水利権を含めた既存の水利使用を見直すべきとの強い世論が出されている。
一方、農業側からは、慣行水利を許可水利に切り替えた場合、期別の取水量等が明記されると、営農形態の変化に伴う取水の前倒し、後ろ倒しや、水路維持用水等の需要に対応することができないとの不満が出されている。
慣行水利権者が許可水利への切り替えに難色を示したり、不満を持ったりするのには、こうした水利使用の自由度がなくなることへの不満もその一因と思われる。
しかし、他方で耕作放棄地の発生等により耕地面積がかつてに比べて大幅に減少していることもまた事実である。
2) 都市用水
工業用水や水道用水といった都市用水の中には、経済発展や人口増加の鈍化により計画需要と実需要が乖離し、計画通りの需要が当面は発生しないところも出てきている。
また、水道水源の水質の悪化により、水道水の異臭味や有害化学物質等の問題に加え、クリプトスポリジウム、環境ホルモン等の新たな問題が発生しており、量の確保から水質の安定に向けた要望が増大している。
3) 水利使用の多様化
農業用水や都市用水のような水消費型、発電のような位置エネルギー利用型の水利使用に加え、新たなタイプが見られるようになっている。
例えば、積雪地域では雪の処理に河川水を利用するケースが増えているが、流雪用水は水の運動エネルギーを利用しており、消雪用水や融雪用水は水の熱エネルギーを利用している。
また、ヒートポンプを用いた河川水を熱源とする地域冷暖房も整備されつつある。
これらは、より快適で便利な生活という国民のニーズの高度化に対応したものであり、今後ますます増大していくと考えられる。
4) 河川環境
我が国の河川は、ほとんど農業用水中心に利用されており、その中には、渇水時に河川水のほとんどが利用し尽くされているところもある。
また、水力発電は、戦前・戦後の経済成長期に我が国のエネルギー政策上重要な位置を占め、電源開発が推進された。現在ではCO2等地球環境への配慮から、火力発電と比べて「クリーンエネルギー」であることが再認識されている。しかし、その一方では、河川の維持流量がほとんどなくなる減水区間が問題ともなっている。
そこで、河川維持流量確保のためのガイドラインに基づき、既設の発電所からの放流も順次行われるようになってきている。
近時、環境問題に対する地域の意識が高まる中で、水力発電等の先行する水利使用により取水地点下流の河川維持流量が確保されていない場合はもとより、河川管理者が水
資源開発によりその確保に努めてきた場合についても、地域が増量等を要望し、水利使用許可の更新時期に河川管理者にその対応を求めるという状況も発生している。
このように、先行する水利使用と河川環境との調和が重要視されるようになってきている。
5) 地域の水環境
環境に関するもうひとつの大きな変化は、地域の水環境に対する国民の意識の高まりである。
具体的には、都市・農村地域における水環境改善のため、主として冬期間の水路網への導水要望が強まっている。その背景としては、かつて農業用水路網がその地域の中で担っていた多くの機能が、生活様式の変化等によって次第に失われ、かんがい単一の機能を担うものに変化してきていることや、河川管理者も水利使用許可に当ってその目的を特定してきたこと、都市の排水が流入し、水質が悪化したことなどが挙げられる。
また、阪神・淡路大震災の際の経験から、災害時の河川表流水の存在と利用の重要性も再認識されている。
(3) 水資源開発の進展
水需要の増加に対応して水資源開発が推進され、河川水の利用が進んだ水系では、新たな水資源開発が困難になっているところも見られる。その一方で、平成6年のような異常渇水への対応が困難であったり、地下水からの水源転換等による需要が発生するなど、依然として水需給が逼迫しているにもかかわらず、水資源開発が困難な水系がある。
こうした水系では、ダムなどの個別の水資源開発施設毎に対応する発想を転換することが必要になっている。すなわち、従来の手法に加えて、広域導水や、ダム相互間の調整システムを設けることなど、新たな水資源開発手法を積極的に導入することにより、限りある水資源を維持保全しつつ、一層有効に活用していくとともに、未利用水利権の譲渡・転用等の合理化を円滑に進めることが求められてきている。
以上見てきたように、河川法制定以降、現行の水利秩序が形成されてきた。その基本的枠組みは、新規の利水者が、必要に応じて水利調整を行い、基準渇水流量の範囲内での取水を可能にするという水利使用のルールの下に、水資源開発を行い、水利使用許可を得るというものである。それは、いわば個別対応の時代であった。
しかしながら、現在では、社会経済情勢が変化するとともに、水資源開発も相当程度進行している。その結果、水系や河川によってはこれ以上の開発が困難な状況が生じている一方で、環境などの新たなニーズが生じており、これら複雑かつ多様な課題に対し、総合的で統一的な対応が求められている。
したがって、今後は、限られた水資源について、水系全体の観点に立って、河川環境も含めた水利使用の調整を行う必要がある。同時に、既存の水利使用についても余剰があれば、新規の水利使用や河川維持流量等に充てるといった合理的な水利使用を、関係者の協力を得つつ、実現することが必要な時代へと変化してきている。
3.今後の水利行政のあり方(基本的考え方)
低水管理とは、河川管理者の行う行為のうち、環境面や河川水の利用面の管理を中心としたものである。そして、その具体的な内容は、河川整備計画等の水系全体の計画や個別の施設の管理計画に基づき、河川の正常な機能の維持のために必要な流量の確保を目的として行う情報の収集、監視、施設の操作等の行為から、水利使用の許可のような処分行為、さらには、水質事故や渇水時の対応など幅広い内容を含むものである。
近年の社会経済の構造変化や国民の意識の変革を基本的背景として踏まえつつ、昨年の河川法改正の趣旨に則り、「1.はじめに」で指摘した問題状況に対応するためには、限られた水資源について、水系全体の観点から、合理的な水利使用が実現するよう、低水管理のシステムを転換していく必要がある。
こうした認識の下に、前述した水利使用の実態を踏まえ、今後の水利行政のあり方について、以下の視点に基づいて検討することが必要である。
(1) 検討の視点
1) 低水管理の実行
水利使用をめぐる社会経済情勢の変化で述べてきたように、利水者から寄せられている新規水需要に対する水利使用の実行、限られた水資源の維持保全と有効活用、河川の維持流量の確保等、低水管理に関するさまざまなニーズが存する。これらに的確に対応していくためには、河川の取水実態が明確になることが不可欠である。特に、河川水の利用が進み、水資源開発が限界に近づいているような水系では、これらの課題への対応は、現状の水利使用の実態をもとにした水系全体での取り組みの中で進められねばならない。
まず、河川管理者は、利水者の協力を得ながら、取水実態の把握に努めるとともに、将来の水利調整が円滑に進むよう、関係者にこの利水情報に加え、流量等の河川情報を積極的に提供すべきである。この場合、河川情報は一般の人々にもわかりやすい工夫をして提供されるべきである。
そして、河川の正常流量、基準渇水流量等の水利使用許可の基本となるルール等を利水者にわかりやすく提示し、さらに、水利使用等を通じ、河川の利用がより適正に行われるよう利水者と一体となって低水管理を実行していく必要がある。この低水管理に当たっては、高水管理との連携も念頭に置きつつ、河川管理者は、主体的責任を果たせるよう、積極的に取り組んでいくべきである。
2) 地域の特性等の反映
水利使用を安定的、継続的に行おうとする以上、既存の利水者にとっても、新規に水利秩序に参入しようとする者にとっても、利水者相互の利害を調整するためのルールが必要である。また、河川環境への配慮についても、利水者を含めた国民全体の利益のために一定のルールが必要である。
新河川法の制定以来、河川管理者は、全国的な公平性・平等性の観点から、基準渇水流量の範囲内での取水を可能とする全国一律の許可基準を定めたり、全国共通の考え方に従って河川環境を保全するための維持流量等を示し、河川を管理するよう努めてきた。そして、多くの水資源開発が行われ、河川水の利用状況が変化しても、悲惨な水争い、無理な水使用による渇水、河川環境の大幅な悪化等を防ぐことができた。
しかし、今や水需要が次第に安定化傾向に移りつつある中で、地域性に応じた多様な水利使用が求められたり、新規の水資源開発に加えて既存の水利使用の見直しが議論される時代に至っている。そこでは、水利使用のルールも、全国統一・共通のものから、各河川や地域の特性に応じたものへと発展させていくことが望まれている。例えば、雪解け水が豊富にある河川とない河川では、春先の流況が大きく異なるが、こうした河川ごとの特色を現在の基準渇水流量の考え方は反映していない。
河川管理者と利水者や地域との接点をより密なものにしていくためには、まず河川管理者の水利使用許可の考え方を個々の河川の実態に合ったものとする必要がある。
3) 水利使用許可手続の迅速化、透明化等
河川管理者が利水者と一体となって、低水管理に取り組んでいくためには、河川管理者が行う水利使用許可手続についても、その透明化、迅速化等を図り、利水者にとっても申請がどのように取り扱われているのか理解できる状況にする必要がある。
水利使用許可に関する審査については、行政手続法に基づき標準処理期間が定められている。これは、通常の水利使用を念頭に置いて定められたものであり、特に慎重かつ精緻な審査を要する案件については、その例外とされている。具体的には、河川流況への影響評価、関係河川使用者の同意、地域の意向等が、これまで審査に長期を要する案件を生む要因となってきている。
このような例外が認められているにしても、可能な限り例外を減らし、処分を迅速に行える環境を創り出していくことが必要である。
(2) 当面実施すべき施策
1) 河川や流域の特性を反映させた水利使用ルールへの転換と河川関係者間の問題意識の共有化
水利使用許可の運用基準を、これまでの全国一律のものから、河川や流域の特性を考慮した水系ごとのものに転換していく必要がある。とりわけ、河川利用のあり方を示し、水利使用許可の基本となる河川の維持流量、正常流量、基準渇水流量等の「水利使用のルール」について、河川管理者は、河川や流域の特性を踏まえつつ、わかりやすい形で示すとともに、関連する情報も公開し、関係者の理解を得ながら運用していくべきである。そして、この水利使用のルールは、利水者等の意向も踏まえて、適宜見直されることが望ましい。
そのためには、河川管理者、利水者、地方公共団体等が水系単位で水利調整等に関する情報交換や当該水系固有の課題についての意見交換を行い、「地域のためには、どのような水利用をすべきか」ということに関する共通の問題意識を形成する場(以下「流域水利用協議会」という。)が必要になる。
この流域水利用協議会は、情報交換や意見交換を重ねることにより、新たな水需要への対応方針、水利使用の合理化のための水利権の譲渡・転用のあり方など水利用に関する地域の合意形成の場にまで順次発展していくことが期待される。
また、この協議会には、直接利水に関わっていない人々へも分かりやすい形で情報を提供し、より幅広い意見の集約につなげていく機能も期待される。
このようにして利水者等の意向も踏まえた水利使用のルールは、水利使用許可の基準となるばかりでなく、より幅広く、地域の水循環系への配慮とその改善のための計画の策定等に反映されていくことが期待される。その結果、農村地域の環境改善のための用水の確保や、阪神・淡路大震災の経験を踏まえた都市防災や都市の環境改善のための用水の確保などに資することが期待される。
さらに、河川の水質に関しては、その汚濁防止の観点から、必要な河川ごとに、河川管理者と市町村等関係行政機関より構成される水質汚濁防止連絡協議会が設置され、その対策の実施、水質に関する情報の交換、緊急事態発生時における措置等について連絡調整が行われている。水利使用の観点からも、流域水利用協議会において積極的な取り組みが行われることを通じて、必要な河川においては、水量だけでなく、水質も視野に入れ、取排水系統の再構築を含む水利使用許可を行うことが期待される。
2) 真に水利調整・渇水調整を行うべき地域での適切な取水実態の把握と調整
取水実態が不明確な水利権に対しては、河川管理者はこれまで一律に許可水利権並の明確化を図ろうとしてきた。しかしながら、水利調整・渇水調整の必要性から見れば、下流部で大口のものや、域外分水を行うもののように是非とも明確化すべきものもあれば、山間部の渓流取水のように取水量や還流性から見てそれほど厳密な把握を必要としないものもある。また、河川によっても水需給が極めて逼迫しているものもあれば、それほどではないものもある。
したがって、このような状況であることに加えて、全ての水利権の取水実態について、直ちに明確化することが困難である状況も踏まえ、今後河川管理者は、関係者の理解を得つつ、円滑な水利調整や渇水調整のために取水実態の把握や調整のルール化が特に必要な地域から優先的に、その明確化等に努めるべきである。
取水実態を把握した後に問題となるのが、慣行水利権について、利水者が主張する権利量と現時点での取水量の間に乖離があった場合の取り扱いである。取水実態がないと考えられる部分について、単純に権利として認めることは困難であるが、慣行水利権の性質を踏まえた対応も含めて、水利調整・渇水調整に関する議論に参加しやすい環境をまず整えていくことが必要と考えられる。
ただし、慣行水利権については、慣行上の権利と認められる実態があるものが慣行水利権として位置づけられるのであり、実態のない将来の需要増や需要の変化までは慣行水利権として位置づけることは困難である。つまり、旧河川法が制定されて水利使用許可制度がスタートした段階で、慣行水利権は取水の時期や取水量の上限が固定され、その範囲内で慣行上の取水実態が存続する限り権利として保護されることとなっている。現在の状況は、慣行水利権の取水量等を定期的に把握する方法がないため、仮にこれらが変化しても河川管理者として監督することが困難であるにすぎないのであり、このことには十分留意する必要がある。
3) 水利使用許可手続の迅速化等
これまで、水利使用許可の審査段階では、水利使用に係る計画の適正性を詳細に確認しようとするあまり、申請者の計画内容を前提として判断すれば足りる部分にまで踏み込んでしまっている事例が見受けられた。その一方で、実際に水利使用を行う段階においては、その適正性の確保が十分になされていない事例も見受けられた。
しかしながら、低水管理を的確に実行していくためには、許可審査の段階において、計画レベルの問題について過度に綿密な検討を行うことよりは、実際の水利使用の段階において、適正な水利使用を確保するよう取り組むことの方が基本となるべきである。
したがって、今後は、各種の事業調整が絡んで実質的な調整期間が長期化することのないように、水利使用許可審査の前提となる維持流量、正常流量、基準渇水流量等の水利使用のルールの明確化、水利使用許可の審査と各種事業調整との分離、さらには許可に当たっての暫定的・弾力的な対応などによって、水利使用許可制度の趣旨に沿った迅速な処分に努める必要がある。それと同時に、実際の水利使用の段階における適正性の確保をこれまで以上に重視していく必要がある。
なお、流域水利用協議会の活用等によって、河川管理者と利水者が水利使用のあり方について共通の問題意識を持ち、情報を共有化することは、手続の迅速化等にも資するものと考えられる。
4) 水資源の有効活用
水資源の利用が相当進展した水系では、開発可能性が限界に近づいて、開発単価の上昇と開発効率の低下が進行し、新規の水資源開発には多大な費用が必要な状況となっている。このため、潜在的には、既存の水利権の譲渡・転用への期待が大きいと考えられる。
また、許可水利権に係る利水施設の中には、利用度の低いものも見受けられる。これらの施設はそもそも公費負担を伴う事業により建設されていることを踏まえると、そのような状況が続くこと自体望ましい状況であるとは言えない。
したがって、水資源の有効活用の観点から、既存の水利使用の調整が円滑に行える環境を整備していくことが必要である。
a) 需要に対応するための既存の水利使用に関する情報交換・検討
既存の水利使用を需要に対応したものにしていくためには、水利権の転用・譲渡が円滑に行われることが必要である。このためには、まず、河川情報や利水情報の公開や共有化が前提となる。
さらに、現在行われている利水者間の個別的な調整に代わるシステムが必要である。例えば、水系内の関係者ができる限り参加し、情報交換・検討を行う場を設定する等高い透明性を備えたシステムが考えられる。
b) ダムの統合運用、ダム群連携等の推進
異常渇水時の影響を考慮すると、現況の施設を前提とした水利調整だけでは対応が充分とはいえない水系においては、既存施設の有効活用も含めた多様な水資源開発を積極的に実施していく必要がある。
このうち既存施設の有効活用についてみると、現在、複数のダムをプール運用して利用効率を上げる「ダムの統合運用」が平常時から行われているのは、利根川水系の11のダム(建設大臣管理の7ダムと水資源開発公団管理の4ダム)及び淀川水系の6つのダムと1つの堰(建設大臣管理の1ダム及び1堰、水資源開発公団管理の5ダム)のみであり、他は渇水時にごく一部の水系で緊急対策として行われる程度である。
一方、複数のダムを水路でつなぐ「ダム群連携事業」は、利根川水系鬼怒川の五十里ダムと川治ダム、綾川水系の田万ダムと長柄ダムで行われている。なお、渇水が頻繁に起きている沖縄のように、既に福地ダムほか4ダムを調整水路で連結し、これらのダムを統合運用することにより、利水安全度の向上を図っている例もある。
今後は、他の水系でもダムの統合運用やダム群連携等による水資源のより有効な活用を進めて行くべきである。そのためには、利水者のダムと河川管理者が管理するダムとの統合運用など、管理者が異なるダム同士の統合運用、ダム群連携等が円滑に行われるための合意形成の場が必要となると考えられる。
また、昨年からは、ダムの洪水調節容量等を弾力的に運用し、いわゆる不特定補給量を確保する「ダムの弾力的運用」が全国7ヶ所で試行されており、一定の成果を上げている。この試行の結果を踏まえて、今後さらに弾力的運用が拡大されていくことが期待される。
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