犀川の河川整備に初歩的間違いあり

掲載 2006.3.25

岡本 芳美(をかもと よしはる)元新潟大学教授による
「水害から身を守るために」シンポジウム概要
(平成17年10月10日、JR犀川荘会議室にて)
主催:城南・菊川・新竪の会

◆概要の整理にあたって――
・ 論点を列記し、その論点ごとに整理してあります。
・ シンポジウムでお話になった論点について、シンポジウムの時間外に教えていただいたことを補足して整理してあります。
・ 固有名詞やわかりやすい話にするためにさまざまな例をあげられましたが、話はその場で消えてなくなりますが、文章として残す場合、後々までも残り、誤解の種を生む恐れもありますので、支障がありそうな例え話はのせないように配慮しました。
・ メモと記憶を頼りにまとめていますので、表現の拙さはすべて筆者によります。
                平成17年10月12日 中 登史紀 

(先生の略歴)
 建設省で約10年、利根川下流工事事務所、河川局治水課などいろいろな場所でさまざまな経験をされて、その後、建設大学校を経て新潟大学へ奉職された。
 新潟大学では、雨から川の水の量を計算する研究をされた。河川水文、河川流出解析が専門分野。在職中は基礎研究に集中し、基礎データを集められた。その後、新潟大学を定年退職後、研究所を設立され、独自に自らの開発された解析モデルによる「新洪水流出計算法の計算システム」を作成されている。



【講演内容】

貯留関数法について
 現在、河川の洪水流出計算法は「貯留関数法」が主流である。日本のほとんどの河川で採用されている方法である。韓国、台湾でも使用されている。
 これ以前は、米国から輸入された「単位図法」という方法によっていたが、雨と流出量が線形の関係にならず、非線形の形になる日本では適合性が悪かった。米国のように、草地が多いところでは適合するが、日本のような山地が多いところでは適合しなかった。
 昭和34、5年頃、狩野川で木村俊晃という技術者が開発し、土木研究所で完成した。昭和38年に公式発表した手法である。再現性がよかったので、全国的に普及した。開発されて50年近くたつ。いろいろ欠点があるが改良がなされていない。

犀川と浅川(長野市)の類似性について
 長野市を流れる浅川と犀川の問題がかさなりあう。いずれも、川が山地から平野部へ出てすぐのところに都市が出来ている。長野の場合は、(上流から下流に向かって)右岸、左岸側の両方とも急な勾配で広がっているので、川が氾濫した場合、両方へ拡がる。金沢の場合は、左岸側が壁になっているので、氾濫は右岸側におこる。この違いはあるが、いずれもこの地点で氾濫すれば、氾濫した水は川へ戻らず、金沢中心市街地に大きな洪水被害をもたらす。
 一般的には、山地から平野部にはいったところに、水田が広がっている地域があり、その下流に都市が発達している河川が多い。この場合は洪水が発生しても、まず、水田の地域で氾濫がおきて、下流の都市部での氾濫が緩和される。
(参考)食料が不足していた時代は、現在のように簡単に輸入したりして確保できず、いかに米の生産を確保するかが重要で生き死にかかわる問題で水田地域での氾濫は重大問題であったので、今の河川改修の意義とは違う面があった。

鞍月用水堰地点の計画規模について
 犀川の場合、鞍月用水堰地点までは、川が氾濫しても両側の壁で、氾濫した水は再び川へ戻ってくる。鞍月用水堰地点の右岸で氾濫すると水は川へ戻らず、市街地に氾濫し、重大な影響をもたらすので、計画規模1/100確率でいいかどうか問題である。城南地区の人たちだけが危ないのではなく、市中心部全体が危ない。

基準点の位置について
 犀川では、犀川大橋が基準点になっているが、鞍月用水取水堰付近が基準点としてふさわしい。川の水は上流から、下流に向かうにしたがい、増加してくる。どんどん増加し、臨界点に達するところに基準点を設けるのがよい。犀川の場合、鞍月用水堰地点である。この地点から氾濫し、以後、下流での水量は徐々に減少していくことになる。

鞍月用水堰地点が県の計算では1/3確率であるということについて
 超過確率が1/3ということは、平均して3年待ったら起こるということである。明治以来、100年も氾濫が起きていないにもかかわらず、1/3確率であるのは実態にあわず、現状把握がおかしい。対策を考える出発点にもならない。確率年はもう一回、やりなおして検討するべきである。

前線性の豪雨と台風性の豪雨の統計的な取り扱いについて
 (筆者注:石川県の解析は、台風性、前線性の区別無く、すべての雨を2日、つまり48時間雨量を対象に、過去の実績雨量群にしている。)
台風性の雨は通り過ぎて一日で終わる。一方、前線性の雨は何日も降り続く。3日降り続くことは少なく、2日くらいである。全く、異質なものであるから、ゴチャに計算するのは、日本人の身長の傾向を知るために日本人とアメリカ人の身長のデータを一緒にして統計解析するようなもので誤りである。分けて確率計算するべきである。
 (筆者注:台風が海から上陸する)関東では、大きな洪水をもたらすのは前線型ではなく、台風型だ。また、(筆者注:台風が山脈に遮られて上陸することの少ない)新潟では大きな洪水をもたらすのは前線型だ。台風型は100年待っても1回くるかどうかである。金沢では両方を検討するべきである。

1/100確率の計画規模に関して
 洪水の発生の可能性と言ってもつぎのように分類して考えられる。
@理論的な可能性(Possible maximum flood)
A十分に起こりうる可能性、すなわち蓋然的な可能性(Probable maximum flood)
 例えば、誰もが100億円を手に入れる可能性は、理論的には可能である。1億円であれば宝くじで誰でも十分に手に入れ、起こりうる可能性がある。ミシシッピイ川の計画では、このAの可能性で計画された。1/500確率くらいになる。一般的には、そこまでの可能性を考慮に入れることは財政的にもいろいろな意味で無理なので、1/100とか1/150とかという確率で計画することになる。

ダムによる治水は依存しすぎると危険である。
 ベースをもたせると危ない。最初からダムに頼るのは危ない、最後の切り札である。最後の最後に頼るのが好く、ダムは最後の選択肢であり、抑えのピッチャーである。河道分担量のせいぜい2割である。去年発生した新潟の五十嵐川の氾濫におけるように、ダムは満杯になると調節機能はゼロになる。パンクするという。ダムによる治水は常にパンクという危険がともなう。河道はパンクしない。さらに水防活動により、氾濫を防ぐ対策が可能である。
 犀川の場合、新辰巳ダム構想では、ダム調節量は640m3/秒、河道分担量1230m3/秒(犀川大橋基準点)であるので、52%である。全体の想定洪水量1870m3/秒(=1750+120)に対しては、34%となる。

鞍月用水堰地点から雪見橋までの右岸の堤防高について
 見た目にも右岸は左岸よりも1m程度低い。堤防の高さは右岸、左岸同じ高さにするのが当たり前で右岸が低いのは異常である。左岸が金沢藩で右岸が富山藩であれば、力関係から、左岸が高くなるのはわかるが。堤防の高さは、少なくとも対岸の高さと同じにするべきである。
堤防の道路巾4mは中途半端で役に立たないことがある。対向する車両がすれ違うことができないためである。建設省で河川管理の責任者であった時に人身事故が発生して緊急車両が集まってきた時に5m幅道路では車がすれ違いが出来なかった。道路は造るとすれば6mとした方がいい。

ダムによる治水について
 日本では、一般的に、東北や北海道の河川には治水ダムが多く、西日本の河川では比較的治水ダムは少ない。東北や北海道では比較的、河川改修の整備が遅れていたので長期間かけて堤防を整備していくよりも、上流のダムで一気に治水の安全性をあげる方法を選んだためである。一方、西日本では、河川改修の努力をしてどうしても駄目ならダムを造ろうと考えた。
 山ではクマさんがでてくるが、平野へおりていくと、ハッさんがでてくる。ハッさんよりクマさんの方がいいというので、山にダムを造ることになる。(筆者注:この例えもきわどいのですが、面白いので載せました。(^_^;))

日本の治水にかかる現状認識について
 治水関係者は言わないが、日本の河川の治水安全度は著しく向上している。特に国土交通省が管理している一級河川では大きな雨があってもほとんど氾濫していない。氾濫するのは治水安全度を意図的に小さくしている支川である。支川で氾濫して本川に入ってこないので本川はますます氾濫しない。ある意味、計画通りといえないこともない。

治水ダムを英語でFlood damage mitigation dam(洪水被害軽減ダム)という
昔は、Flood control dam(洪水制御ダム)と言っていた。コントロールするのは神様で人間がコントロールするのはおこがましいということで、Flood damage mitigation damというようになった。

日本にダム適地は多い?
 ダム適地は多いが、地形が急峻であるため、ダムの背後にできる貯水池容量は小さく、貯水池適地は少ない。

欧米の洪水解析について
 毎年の最大流量から流量確率を求める事が望ましい。パリ・セーヌ川などは、300年近い流量データを持ち、的確な流量確率が求められている。

河川の建設コンサルタントについて
(犀川はアイエヌエーというコンサルタントが計画している)。パシコン、建設技術研究所、日本工営、八千代エンジニアリングなどのコンサルタントがある。

カマボコ?
 昔は土を運ぶのは大変だったので途中で足りなくなって困ることが多かった。そこであらかじめ余分に土を運んでおいて堤防の工事をした。だいたい、工事が終わると土があまり、堤防の上にカマボコ状の山が取り残される。川の流下能力を結果として上げる。この分を河川の計画上の余裕をとる。

飽和雨量について
 アスファルト道路なら1−2mmで流れ出し、飽和するということになる。森林で決まる。例えて言えば、1mくらいの土壌の被覆があり30%くらいが水をためることが出来るとすれば、300mmくらい持てるということになる。

治水専用穴あきダムについて
 新潟の水害の時、上流に2つのダムがあったにも関わらず出水が起きた。水害時、一つのダムが満杯になり「ダムがパンク」した。しかしもう一つの大谷ダムは満水時の3分の1、約400万立方メートルの余裕があった。大谷ダムにはゲートがないので調整できないからだ。治水ダムは洪水のピークを一時的に止めるもの。もし大谷ダムにゲートがあったなら、貯水量をフルに使いパンクしたダムからの流量をカバーし、下流で水害はなかっただろう。既にダムのある水系に新しく作るダムが穴あきでは、治水を考えると問題がある。

                           (終り)


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