辰巳ダム事業認定に対する意見書

掲載更新 2007.2.7

2007年2月8日に提出する、意見書です。(かなり長文)



「犀川辰巳治水ダム建設事業」
事業認定についての意見書

1.はじめに
 起業者(以下、石川県と呼ぶ。)は、犀川辰巳治水ダム建設事業(以下、辰巳ダム事業と呼ぶ。)に係り、事業用地の強制的な収用のため、土地収用法第16条の規定により、平成19年1月18日付けで北陸地方整備局長宛に事業認定申請書を提出した。これに伴い、法第24条の規定に基づき、当該事業の起業地が所在する市町村(金沢市)において、事業認定申請書の縦覧が行われている。1月25日から2月8日までの2週間の間に、利害関係人は法25条の規定により、石川県知事に対して意見書を提出することが出来る。
 
 内容を列記する前に、意見書の意義について若干整理し、確認しておきたい。
 この意見書は、辰巳ダム事業の起業者である石川県の主張について疑義があり、「公益性があるか」という視点で整理している。その理由は、特定行政庁(北陸地方整備局)が土地収用法に基づき、当該事業について土地を収用するに足るものであるか否か、つまり法二十条三号、四号の認定要件を満たすか否かを具体的に審査するからである。
 
 小澤(注1によれば、
「三号要件(1)土地収用制度は、公共の利益となる事業のために必要とされる土地を強制的に取得するという制度である。事業認定庁は、事業認定に関する処分を行うにあたっては、右の「公共の利益」の大きさ・程度について判断をしなければならないのであるが、その判断過程に、収用を認めるとすればそれによって失われることになる諸々の利益を考慮しないわけにいかないから、結局、事業認定庁としては、「公共の利益」と「失われる利益」との双方を比較衡量したうえで収用を認めるべきか否かを決定するという判断過程をとるのは、自然の成り行きであると思われる。」
 また、
 「三号要件は、「当該土地(起業地)がその事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益」と、「当該土地がその事業の用に供されることによって失われる私的ないし公共の利益」と比較衡量し、前者が後者に優越すると認められることを意味している。そしてこの判断は、事業計画の内容、その事業によってもたらされるべき公共の利益、起業地の現在の利用状況、その有する私的ないし公共的価値等について総合的な判断として行わなければならない。」
 つまり、認定庁の判断は、「得られる公共の利益」と「失われる利益」との双方を比較衡量するということになる。

 「得られる公共の利益」とは、洪水被害の防止、常時の河川流量の維持など(得られる便益:B’)であり、「失われる利益」とは、自然環境への影響など(失われる便益:B'')であり、加えて事業に要する費用(コスト:C)であり、「得られる公共の利益」が「失われる利益」を優越するということを数式にあらわすと、
  B’ > B''+C
 である。B''を左項に移行し、B(総便益) = B'−B''とすると、
  B > C
あるいは、
 B/C > 1
 と表すことができる。
 利益が費用を上回るあるいは費用対効果が1以上であることが、認定の判断基準を満たし、公益性のある事業ということになる。

 ただ、すべての利益を明確な量で測ることに困難な点がある。動植物の生態環境や周辺景観への悪影響などといった環境問題等の公的利益を明確な量で測ることは難しい。しかし、すべて量で測ることができないからといって、全く比較衡量が不可能というわけではない。現に、行政が行っている事業は何らかの判断に基づいているはずであり、やみくもに実施に踏み切っているわけもなく、実施を決断した裁量行為は、実施しない案を含め比較衡量そのものである。量として表し得なくとも、得られる利益、失われる利益について根拠を示し、明解に説明できるはずである。

注1:『逐条解説 土地収用法 上』小澤道一著、ぎょうせい、P.335 〜P.336


2.環境影響評価の実施
 石川県は環境影響評価を実施していない。「得られる利益」、「失われる利益」について具体的な量で示したのは、治水事業による洪水防止便益(プラス面)と治水にかかる事業費用(マイナス面)だけである。環境影響評価を実施しない理由として、「法あるいは条例で義務付けられた規模の対象事業ではない」、「旧辰巳ダム計画で実施した環境アセスメントを流用する」、「全くしないわけではなく法で求められる環境影響評価なみに調査を行う」を挙げている。
 しかし、公益性のある事業であるか否かを判断するためには、事前に科学的な予測を行う環境影響評価を実施し、事業実施に伴い失われる利益の総体を把握しなければ、「得られる利益」と「失われる利益」の比較ができず、公益性がある事業か判断できない。したがって、環境影響評価を実施するべきである。

 そもそも環境アセスメントを実施しないのは環境影響評価法、石川県環境影響評価条例に違反している疑いがある。石川県は犀川水系流域委員会で既存の犀川ダム/内川ダムと新規辰巳ダムをあわせて3ダム連携運用すると説明しており、貯水面積の総計は、144ha(犀川ダム59ha、内川ダム40ha、新辰巳ダム45ha)となり、第一種事業(県条例では第一区分事業)の規模100haを超えることになり、対象規模の事業ではないという判断に疑義がある。
 県条例施行規則第百四十八条の別表第五イの第一区分事業の要件は、「サーチャージ水位における貯水池の水面の面積が百ヘクタール以上であるダムの新築の事業」とある。「サーチャージ水位における貯水池の水面の面積が(連携運用する3ダムで)百ヘクタール以上である(辰巳)ダムの新築の事業」と(連携運用する3ダムで)、(辰巳)を付け加えて解釈すれば、要件を満たした対象事業となる。法律あるいは条例上では、一つのダムで百ヘクタール以上と規定されているわけではない。一体的に運用される3ダム全体が環境へ与える影響を考慮し、環境影響評価を実施することは、法律で求められる責務である。

3.「得られる利益」と「失われる利益」
 辰巳ダム事業に関する公益性を判断するために、比較衡量される「得られる利益」と「失われる利益」の主要項目は以下のとおりである。
 
 得られる利益
  T.洪水防止効果による被害軽減(氾濫防止便益)
  U.河川維持用水の供給(堆砂による利水ダム容量の毀損、上水ダム容量の余剰)

 失われる利益
  V.自然環境への影響
  W.文化遺産への影響
  X.地滑り防止の対策
  Y.新方式ダムのリスク
  Z.後世世代への負の遺産
  [.ダム建設の費用

T.洪水防止効果による被害軽減(氾濫防止便益)
 辰巳ダムの主たる目的は治水であり、洪水被害から金沢市民の生命と財産を守るためのものである。辰巳ダムが完成すれば、目標とする100年確率規模の洪水に対して被害はゼロになると、石川県は説明するが過大評価で誤りである。

(内水による氾濫)
 洪水氾濫現象は河川からの氾濫と河川に流入する前の氾濫に大別できる。河川内を流れる水を「外水」といい、外水による氾濫を防止するため、犀川では石川県が治水整備を行っており、辰巳ダムは外水のコントロールを目的としたものである。一方、河川へ到達する前の下水道および水路等を流れる水は「内水」といい、内水氾濫対策のため犀川流域では金沢市が内水整備を行っている。

 辰巳ダムが完成すれば、100年確率の降雨があった場合においても被害がゼロになると想定して、氾濫防止便益を算定しているが、実際は流域全体で被害が発生する。なぜならば、内水の排水を受け持つ、下水道(雨水用)および市街地の水路は7年確率あるいは10年確率以下の整備水準であり、外水についても、犀川本川に合流する支川は50年確率以下の整備水準であるから、100年確率の降雨が発生すれば、すべての下水道および市街地の水路、犀川の支川で氾濫する。

 辰巳ダムによる氾濫防止便益を算定するに当たり、上流の山地域からの流量を調整することにより、犀川本川から外水を氾濫させないのでこの上流からの流水による氾濫被害はゼロとするのは理解できるが、犀川の流域の約半分の市街地の降雨による流量は犀川本川に流れ込み外水になる前に、市街地で氾濫するので、辰巳ダムが整備されれば洪水浸水被害はゼロとする氾濫防止便益の算定は過大である。

 規模の拡大に比例して人的、物的な被害リスクが急激に大きくなるので段階的に整備水準を高くるのは経済合理性から当然であり、100年確率規模の降雨に対して内水や犀川支川で氾濫が起きても河川管理者はなんら責任を問われることはない。だが、辰巳ダムを築造すれば、洪水が起こらず、被害が発生しないとあたかも洪水氾濫が発生しないと説明することは、説明責任を果たしていない上、住民を欺くことになる。

(想定洪水量が過大)
 そもそも、石川県が設定した想定洪水量そのものが過大すぎるのではないかという疑義がある。
 石川県は「犀川水系河川整備基本方針」(平成16年7月)で洪水対策の基本となる犀川大橋基準点での基本高水流量1750m3/秒を設定し、既存ダムの調整後の流量1460m3/秒との差290m3/秒調節のため「河川整備計画」(平成17年3月)において辰巳ダム事業を決定した。それ以前の犀川大橋基準点の基本高水流量は、1600m3/秒であり、計画規模は100年確率であったが新規データで見直したところ、基本高水流量1750m3/秒で新規ダムを築造しなければ金沢市民の生命と財産の安全を確保できないと石川県は説明でする。

 ところで、犀川の洪水氾濫実態はどうだろうか。金沢の中心市街地に近い、犀川大橋の直上流付近で氾濫が起きたのは昭和36年の第二室戸台風時である。そのときの犀川大橋地点の流下能力は615m3/秒であり、洪水量は700±50 m3/秒と見積もられている。過去、20世紀の100年間で発生した最大規模の洪水は、昭和8年の930 m3/秒であり、1000 m3/秒を超えていない。昭和36年当時は治水ダムもなく治水整備水準は劣っていたが、現在では洪水調節目的の犀川ダム、内川ダムがあり、河川の流下能力を上げるために河床の切り下げも行われ、犀川大橋地点での想定洪水に対する能力は1600m3/秒(基本高水流量)にまで高められている。犀川全体の整備水準の格差は残っているものの、犀川の治水整備水準は著しく向上し、昭和36年以降、犀川本川の氾濫は皆無である。

 中登史紀らは1600m3/秒でも大きすぎるのではないかとの指摘をしていたが、今回の河川整備基本方針で設定された基本高水流量1750m3/秒は「100年確率規模の洪水ではなく、有史以来発生したことの無いような洪水ではないか?」と再三にわたり、問題提起してきた。これに対して石川県は「100年確率の降雨にもとづき、河川砂防技術基準に従い、全国で一般的に行われている方法によったものであり、学識経験者からなる委員会で審議され、国土交通省の指導を受けて決定した、妥当なものである」と主張し、主に手続き上の正当性について述べるだけで、中登史紀らが指摘する技術上の問題指摘に対して説明責任を果たしていない。

 洪水被害が頻発して対応する時間が限られているのであればともかく、犀川本川で外水が氾濫したのは、治水施設がほとんど整備されていなかった昭和36年のことであり、現在の整備水準を考慮すれば、十分な調査検討の時間を取ることができる状況にある。今回の見直しでは、犀川大橋基準点の基本高水流量を1600m3/秒から1750m3/秒までわずか150m3/秒の引き上げであり、割合にして10%にも満たない量である。治水の解析の精度を考えると、誤差の範囲と見ても大差ないという程度である。この対策を早急にとらなければ、治水行政の責任を果たすことができないというほどのものと思えない。調査不足の上、十分な説明責任も果たさないで、最終的な行政判断をするのは、行政の裁量権の濫用、逸脱にあたる。

 基本高水流量が過大ではないかという疑義は、過去の洪水などの実態と比較すると明白となる。
●実態と比較する!
「20世紀の100年間に発生した最大規模の洪水」の規模は、犀川大橋基準点で700±50〜930m3/秒であり(昭和8年の前線豪雨930m3/秒、昭和36年の第二室戸台風700±50m3/秒、平成10年の台風7号842m3/秒)、1000m3/秒を超えていない。
「27年間の流量観測データからの解析」では、最小二乗法で流量確率解析をすると1/100確率値は930m3/秒となる。
「隣接河川(浅野川、手取川)の水準まで犀川を引き上げるという想定」で簡単な試算をしてみると、1200m3/秒程度となる。
 いずれも基本高水流量1750m3/秒と著しい差がある。

 これらの疑義に対して石川県が示したのは、「基準点犀川大橋における近年の最大流量推定値」(飽和雨量0mmと仮定して試算)で、第二室戸台風、台風7号(平成10年)、台風20号(昭和47年)、それぞれ、1211m3/秒、1,192 m3/秒、1,058 m3/秒である。基本高水流量1750m3/秒との差が著しく、妥当性の検証にはなっていない。加えるに、飽和雨量0mmは架空のものであり、現実には数10mmから100mm前後であり、実際の出水量は、それぞれ700±50 m3/秒、389 m3/秒、842 m3/秒であり、石川県が示したものよりもさらに小さい。基本高水流量1750m3/秒の半分以下にしか過ぎない。
 
 調査不足はあきらかであり、調査不足でありながら、行政の判断を行うのは、行政に委ねられた裁量権の濫用に当たる。

●なぜ、このように実態と異なるのか?
 石川県が主張するように基準にしたがい、学識経験者の委員会での審議し、国土交通省の専門官の指導を受けながら、どうしてこのように実態と異なるのであろうか。専門技術的、科学的な手法を用いて予測解析したものが、現実とこのように異なるわけがない。

 科学技術とは、多数の要因が関係した、複雑な自然現象を微少な影響要因を排除し、現象を支配するいくつかの要因を抽出し、その要因で構成された自然現象モデルを理論的に組み立て、実際のデータをこのモデルにあてはめ解析し、将来の自然現象を予測するものといえよう。当然、実際に発生する自然現象との差が発生するが、その差が許容できる範囲内にあって始めて、その解析に信頼性があり、妥当な予測値であると判断できる。ところが、犀川のように予測値と実際に発生する自然現象と差が著しい乖離がある場合は、予測解析手法の再検討が必要である。

 石川県が審議、審査を適切に受けてきた、つまり手続き上の瑕疵は無いと主張するのは首肯できるとしても、現実の自然現象と違っているのは、どこかに判断ミス、あるいは誤りがあるはずである。現実の自然現象が誤っているのではなく、単に理論が誤りで自然現象を説明できないというだけのことである。

 順を追って検討してみよう。
 まず、100年確率の降雨は、2日雨量314mmであることについては、否定しない。
 石川県は、100年確率の洪水量を求めるために、実際の降雨データを100年確率の降雨に引き伸ばして求めた33の洪水量を算定した。このうちの異常値と判断した洪水量を棄却し、24の洪水量を選定した。24の洪水量は、547〜1741m3/秒の間でばらついている。24の洪水量はすべて100年確率の降雨をもとにしたものであり、すべて100年確率の洪水であり、最大値の1741m3/秒を基本高水流量に決定した。

 「河川砂防技術基準(案)」では、100%値(最大値)ではなく、50%値(カバー率50%)を採用するとしているが、この基準に従っていない。これに対して石川県は基準によらず、「カバー率」を用いて計画したのではないと答えている。

 「カバー率」の考え方は、洪水流量群から統計的に最も起こりそうな洪水を選定する統計手法であり、この統計手法を取らないのであれば、石川県が求めた洪水量の確率年は100年ではないのではないかとの疑義が起きる。「河川砂防技術基準(案)」では「計画規模の降雨の年超過確率はそれに起因する洪水のピーク流量の年超過確率と必ずしも1:1の対応をしない」と解説されている。降雨が100年確率であっても、これにもとづいて算定した洪水は100年確率とは言えない。これを何らかの方法で検証する必要がある。一般的には、河川の流量観測記録を統計解析した数値と比較することによって検証されている。ところが、石川県はこの検証を行っていない。学識経験者による河川整備検討委員会においても、この検証に関する議論がなされていない。

 確率についての疑義はつぎのようである。100年確率は100年に1回発生する可能性を意味する。100年に1回の降雨(2日雨量314mm)が発生した時に、この降雨に対応する洪水量が1個であればそれをもって100年確率値である。ここでは100年確率の洪水量が24個あり、そのうちの一つを選択したので確率的に1/24であるから、この洪水量は1/2400つまり2400年確率値になるのではないか?という指摘である。この指摘に対して答えは無い。

(違法であり、裁量権の濫用)
 河川整備基本方針の策定にあたっては、河川法第16条2項において、「河川整備基本方針は、水害発生の状況、水資源の利用の現況及び開発並びに河川環境の状況を考慮し、、、、定められなければならない。」とある。水害発生の状況を無視した、今回の犀川水系河川整備基本方針は、違法である恐れがある。水害発生の状況を考慮することなく、過大な洪水量を設定するのは、行政の裁量の範囲を超え、裁量権の濫用、逸脱にも相当する。


U.河川維持用水の供給(堆砂による利水容量の毀損、上水ダム容量の余剰)

 石川県は、犀川大橋下流において河川維持用水1.19m3/秒の確保するために、既存の2ダムの利水ダム容量では不足するので、新たに水を開発するために辰巳ダムが必要であると説明している。ただし、辰巳ダムの利水ダム容量は犀川ダムの洪水調整ダム容量と交換され、最終の姿は治水専用ダムとなっている。

 ダム容量の振り替えが行われた既存の2ダム(犀川/内川ダム)が有することになる利水ダム容量が、つぎの二点において齟齬があり、必要河川維持用水量と著しく乖離している疑義がある。

一つは、堆砂による利水ダム容量の毀損である。
 内川ダムは比較的、堆砂が少ないので、ここでは犀川ダムに絞って問題点を指摘する。犀川ダムの堆砂に関して実際に堆積した河床の地形調査に基づいて利水ダム容量の算定をする必要があるにもかかわらず、実態と異なった想定のもとに、利水ダム容量を設定しているので必要利水ダム容量を確保できず、欠損がある。必要河川維持用水を確保できない。

一つは、上水ダム容量の余剰である。
 既存の二ダム(犀川/内川ダム)は金沢市の上水道水源になっており、日量20万5千立方メートルの供給能力を有するが、実際の上水使用量は供給能力の半分程度であり、水余り状態にある。これは、上水ダム容量の半分は余剰であることを意味する。この上水の水余りに関して調査検討を全く行っていない。この水余りによる利水ダム容量の余剰は、内川ダムの上水ダム容量(410万m3)にも匹敵する。辰巳ダムで開発する利水ダム容量(310万m3)であり、これを流用すれば辰巳ダムで新規に水開発する必要はない。必要河川維持用水1.19m3/秒を確保できる。

(堆砂による利水ダム容量の毀損)
 まず、前者のダム堆砂に関して、「住民監査請求」(注2で、「犀川ダムにおいて、堆砂は当初の想定とは違った状態で堆積しており、ダム湖容量の見直しをする場合、現状を把握した上で計画の見直しがなされるべきであるのにもかかわらず、実態を無視して行われている。」ことを指摘した。利水ダム容量が毀損し、河川維持用水が確保できない恐れがある。
 当初、ダム湖の堆砂は堆砂区間に水平に堆積するものとして想定されたが、実際には堆砂区間、利水区間に傾斜して堆積していた。利水区間に堆積し利水ダム容量が減少し、堆砂区間は逆に想定よりも少ない堆積のため残りの堆砂ダム容量が拡大していた。計画を見直しする場合、利水ダム容量を拡大し、残りの堆砂ダム容量を縮小する必要があるはずである。
 石川県は実態を無視し、堆砂は堆砂区間の底に水平に堆積しているものと想定して今後の堆砂ダム容量配分を決めた。この理由について監査結果によると、河川砂防技術基準に「多目的ダムの容量配分にあたっては、まず堆砂容量をとる。これは一応水平堆砂として考える。」との記載があり、これによったものであるという。

 この理解は明らかに「河川砂防技術基準(案)」を誤解している。設計編〔T〕p.133で「、、、想定される100年間の堆砂量が水平に堆砂する、、、」とはあるが、すでに傾斜形状に堆積した堆砂を水平形状に堆砂すると考えるとはどこにも表現されていない。

 多目的ダムの容量というのは、水あるいは砂を貯めることができる空間のことであり、空間の底にまず砂を貯める空間(堆砂容量)を想定し、砂の堆積形を予測しがたいことやダム安定計算上、水平に堆積するものと考えておこうとするものであり、すでに傾斜して堆積してしまった堆砂(堆砂容量ではない)を水平と考えろというものではない。ここでいう「堆砂容量」というのはこれから砂を貯めるための空間、入れ物のことである。石川県の考えは堆砂した部分まで堆砂容量と考えた誤解にもとづくものである。

 地形が変化しているにもかかわらず変化していない、堆砂の山ができているのに出来ていないと強弁しているようなものである。ダムが築造されてすでに42年が経過して堆砂により地形が変わっている。この変わった地形をもとに見直しをするべきであるにもかかわらず、42年前に42年後こうなるであろうと予測した架空の地形をもとに見直しをしていることになる。どうしてもこの架空の地形をもとに見直しをしたいのであれば、利水区間と治水区間に傾斜して堆積した53万m3の堆砂を堆砂区間へ運搬しなければならない。こうすれば、42年前に42年後こうなるであろうと予測した地形と一致する。

 中登史紀が「住民監査請求」で示したように、石川県の考えでは、利水空間に堆積した堆砂のため、必要な利水空間を確保できない。必要利水ダム容量710万m3に対して、現時点の利水ダム容量は672万m3で38万m3不足し、100年後にはさらに堆砂が進み利水ダム容量625万m3となり85万m3不足する。これは、有効に活用すべき公共施設の機能を著しく毀損する行政の過失である。さらに、「河川砂防技術基準」の規定を誤解した結果であり、「基準」に違反し、違法である。

(上水ダム容量の余剰)
 後者の上水ダム容量の余剰については、筆者らが再三の指摘したにもかかわらず、検討された形跡もなく、何の説明もなされていない。ダムで開発された利水のうち、工業用水、農業用水については見直しされたが、上水については放置された。犀川/内川ダムの上水ダム容量は909万m3、上水量2.52m3/秒(水利権量)、2.29m3/秒(ダム開発水量)について見直しはなく、何の対応もしていない。筆者の調査では使用量のピークである夏場の7,8月で1.1m3/秒程度であり、水需要はここ30年来、横這い傾向にある。さらに再三延期はしているが、県水の受水の拡大を迫られていることもあり、将来はさらに水余りになる。現在、おおよそ1.4m3/秒の上水の余剰があり、近い将来に解消される見込みは全くない。内川ダムで開発された上水(1.25m3/秒)に相当するとすれば、内川ダムの上水ダム容量410万m3がそっくり余剰である。

 上水は金沢市が持つ権利であるので、石川県(石川県)の権限で左右することはできないが、余剰の水利権量を譲り受けることは可能である。金沢市が持っていた工業用水の水利権量0.46m3/秒(犀川ダムの工業用水ダム容量207万m3)は、河川維持用水に転換するため、金沢市から石川県へ譲渡されることが決定している。工業用水の水利権が譲渡されて、上水の水利権が譲渡できないという理由はない。

 また、基本的な問題として、農業用水の既得水利権がある。石川県は大野庄用水の既得水利権が2.9m3/秒と文書に記載しているが、これは単に昭和36年犀川ダム事業調査時の圃場に対応するかんがい量を試算した数値であり、水利権として確定したものは0.7m3/秒である。犀川七か用水の一つを本来の水利権量に戻すだけで河川維持流量は確保される。

 中登史紀らは、再三、「申入書」などで問題点を指摘してきた。十分な時間な余裕にもかかわらず、調査/分析を怠ってきた。調査不足でありながら、行政判断を行うのは、行政の怠慢であり、行政の裁量権の濫用、逸脱に当たる。

注2:石川県監査委員宛「石川県職員措置請求書」(平成18年1月11日、中登史紀)、犀川ダムの堆砂ダム容量に関する事項等


V.自然環境への影響
 石川県は法に基づく環境影響評価を必要としないにもかかわらず、これを行ったと称しているが、その結果の批判的評価は各方面から行われ、今日まで多くの専門家達による反論が行われている。事業と平行しながら、法に準じた調査を実施すると説明しているが、これは有効なるアセスメントとは評しがたい。法で明記されているように「あらかじめ」行うのが環境影響評価であり、事前に科学的な予測を行い、関係者の意見を聴いて環境に配慮した事業内容にするのが環境影響評価の目的である。石川県が実施しているのは、事業内容を決めた上で影響範囲内の動植物の種類、個体数、場所などのリストを作成したにすぎない。影響を軽減するためと称して、わずかにリストに上げられた植物を移植したり、魚道を作るのが石川県の行っていることである。 

 リストを作成するだけでは、自然環境を細分化し、細切れにしただけであり、相互関連し補完しあって形成されている自然環境への影響を評価しているとは言えない。リストでは一つが欠如しても単に一つが欠如したに過ぎないが、自然環境では一つの欠如が連関した次の一つを欠損し、次々に毀損し回復不可能に至る場合もある。絶滅を危惧される動植物の存在については特に文化財ないし生態学的視野に立って、これを論ずべきであろう。環境影響評価の対象項目として「生態系」が加えられている所以である。

 例えば、当地の生態系を形成する生物群集の上位にあり、自然環境の指標種として、サシバ、ミゾゴイが挙げられる。分解者、生産者、消費者、高次消費者からなる生態ピラミッドを形成し、食物連鎖の頂点に位置する。事業実施により、これらの生息環境がどのように毀損し、その結果、どのような影響を受けるのか、影響を最小限する最善の保全対策はいかなるものか、最善の保全策にかかるコストはどの程度か、保全策にもかかわらず毀損する程度はどれほどのものか、保全策にもかかわらず毀損した状態をどう評価するのかまで検討して「失われる利益」の全体像が判明する。

 同じ文脈から、生物群に対する影響には、湛水池の水位変動によって中小動物、植物の殺戮が繰り返えされたり、魚や川虫類の回遊をダムが遮断し生態系の破壊を招いたりする懸念が考えられるが検討がなされていない。石川県の行っている「法に準じた形での環境影響評価」はリスト作成に止まっているからである。学識経験者で構成された流域委員会においても、石川県からのデータ提供がなされないので、生態系についてほとんど議論されていない。少ない議論の中で、自然環境への影響に関して、委員の一人が「山肌の植生と違い、河道内植生は次々更新され多量の有機物が出て行くのでその生産量を見積もって置き、その対策を考えておくべき」と指摘した。

 また、ダム本体の魚道に関して、平成18年「デザイン検討委員会」では、漁協の方が「以前、トンネル状の魚道にアユが登っていたのを見た」、過去の委員会で「トンネル内に照明をつけると有効である」などの発言があり、辰巳ダムの魚道について問題はなかろうとの結論を導いているが、そのような方策が可能であり有効であるか、アユ以外の遡上する魚も遡上するのかなど調査検討して評価する必要があるのではないか。

 上記にいくつか指摘したが、統括的、全般的に環境影響評価を実施しなければ、影響の全体像が明らかにならない。かけがえのない自然の過小評価をもって「失われる利益」の大きさ・程度を恣意的に表明することは許されない。

 前記で指摘したように、環境影響評価を完全に実施していないのは、法に違反している疑義がある。そもそも、法が制定されたにもかかわらず、善良なる社会通念上、納得すべき環境影響評価を実施していないのは、行政の怠慢であり、環境問題を軽視する行政の後退である。

 加えるに、流域委員会で指摘された「河道内の有機物生産量」とその対策はいかなるものか、石川県から示されたことを確認していない。河川法16条2項第3号により、犀川水系河川整備計画の策定に当たり、学識経験を有する者の意見を聴かねばならないことになっているが、学識経験者からなる流域委員会で指摘されたことを実行しなければ、意見を聴いたことにはならない。違法ではないか。


W.文化遺産への影響
 石川県では、辰巳用水、兼六園、金沢城址を含めた「金沢の文化遺産群」の世界遺産登録を目指して運動が始められている。名勝兼六園の曲水は、築造当時のまま、犀川渓谷の清水を辰巳用水東岩で取水し、自然の流水で維持されている。兼六園に隣接する金沢城址とともに三位一体として文化財的価値を有する。
 この辰巳用水東岩取水口の直前に巨大なコンクリートの壁を築造する辰巳ダム事業は、県民が等しく共有すべき辰巳渓谷の景観及び貴重な動植物資源の絶滅等を含む自然を破壊するうえ、破壊によっては二度と復元することの不可能な文化財をも喪失することになる。世界遺産としての価値を損なう愚行との指摘もある。
 文化財的価値は、長い自然的、時間的推移を経て初めて作り出されるものであり、一たび人為的な作為が加えられれば、前述の如く、人間の創造力のみによっては再び復元することは事実上不可能であることにかんがみれば、県民が等しく共有すべき文化財として、将来にわたり、長く保存が図られるべきものである。
 少なくともいかなる価値の喪失があるか、「失われる利益」の大きさ・程度についてあらかじめ評価する必要がある。

X.地滑り防止の対策
 辰巳ダム湖のほぼ中央の左岸に接して鴛原「超大規模地すべり地」が存在する。規模をあらわすため土塊の量が200万m3 以上を「超大規模」と分類されているが、この鴛原の土塊の量は525万m3である(注3。この規模は、辰巳ダムの洪水調節容量580万m3にほぼ匹敵する大規模なものである。

 ダム湛水時にこの土塊が崩壊すれば、ダム湖の水は一気に溢れる。数時間あるいはそれ以上の時間を要して貯水したダムの水が数分で流入する土塊で溢れ出す流量は、ダムが無い場合の洪水量の二桁規模(100倍)の津波となって下流の市街地を襲うことになる。これは全くの空想ではない。1963年にイタリヤのバイオントダムで発生した地滑り災害の津波で二千人以上の死者がでている。

 下流住民の安全のための施設が逆に安全を脅かす危険施設になる可能性がある。石川県はこのリスクに対しては十分すぎるほどの説明責任があるはずである。にもかかわらず、住民に対して全く説明責任を果たしてこなかった。平成15年(2003年)、一住民「渡辺寛」の情報公開請求によって明らかになったものである。

 公開された地質調査報告書から、石川県がこの超大規模地滑り地の存在を明確に認識したのは、昭和63年(1988)であることがわかる。それ以前の報告書に記載が無かったが、昭和63年の「貯水池地質調査業務委託(2号)報告書」に初めて記載されている。この中で「鴛原町南西には、幅約300m、長さ400mの緩斜面が認められるが、調査地内にはその末端部が含まれる。」と記されている。

 通常、ダム計画は「河川砂防技術基準」等により、適地判定のため地上踏査や地質調査を経て計画地を選び、ダムサイト候補地や湛水地全域をボーリングなどで予備調査を行い、最終的に問題がなければ計画地点として決定するものである。ところが、ダム湖周辺の調査がなされないまま、辰巳用水東岩取水口地点にダム立地を想定し、昭和58年に辰巳ダム事業を出発させた。昭和63年に至り、鴛原(おしはら)地区の大規模な地すべり地の存在を認識したが、そのリスクを過小に評価し放置した疑いがある。

 その後、旧辰巳ダム計画を見直し、平成16年(2004)末に犀川水系河川整備計画を確定し、辰巳ダム計画が示されたが、ダム本体の位置が辰巳用水東岩取水口を避け上流へ移動しただけで、ダム湖の形はあまり変わらず、鴛原「超大規模地滑り地」についての配慮がほとんど払われなかった。犀川水系河川整備計画は、地質工学専門家など学識経験者からなる「犀川水系流域委員会」において審議されたが、石川県から地滑りに関するデータが提供されず、地滑りに関する審議がなされないままに適正な審議をする機会が失われた。

 「報告書」(注3によれば、
「L3については安全率低下が5%未満であることから、原則として対策工の必要はないと判断した。ただし、L3については規模が大きいことから、末端すべりの可能性について今後詳細な調査・検討を行う予定である。」と記されている。リスクはゼロではなく、有りと判断している。「超大規模地滑り地」であるだけに、地滑りが発生すれば、2003年に発生した日本ダム史上最大の地滑り災害である紀ノ川の大滝ダムの例のように、対策工費用が際限なく拡大する恐れがある。ダム事業の公益性の是非の判断に重大な影響をもたらす事項である。「今後詳細な調査・検討を行う予定」としているが、この調査・検討を終えた後でなければ、ダム事業の公益性を判断できないはずである。

 ここで、「原則として対策工の必要はない」としているが、現実には、地滑り地末端に位置する北電高圧線鉄塔下で土砂崩壊が進んでおり、対策工が必要なのは明らかである。洪水に晒され、水位変動によって末端部の崩壊が進むと、押さえが効かなくなり、次々に小規模な崩壊がおき、その連鎖で次第に上部へ拡がっていき、こうした連鎖によって大規模な地すべりが起きるとの指摘もあり、この可能性を石川県は否定していない。

 鴛原「超大規模地すべり地」に関して指摘できるのは、つぎの3点である。
 まず、「対策工の必要はない」、つまり「失われる利益」はゼロと結論づけているが、実際はリスクを認識しており、そのリスクについて大きさ、程度を示していない。この点を示さなければ、事業の公益性の判断は不可能である。

 また、ダム地点を決めるときに十分な調査が行われずにダム立地点を決めたという疑義があり、「河川砂防技術基準(案)」に違反している恐れがある。

 さらに、犀川水系河川整備計画の策定に当たり、河川法16条2項第3号により、学識経験を有する者の意見を聴かねばならないことになっているが、学識経験者からなる流域委員会で地滑りに関して審議されておらず、違法である恐れがある。

注3:「平成16年度犀川総合開発事業辰巳ダム建設 ダム基本設計資料作成業務委託報告書」2005-2、石川県辰巳ダム建設事務所


Y.新方式ダムのリスク
(辰巳ダムは穴あきダム)
 当事業で採用された洪水調節専用ダム、いわゆる穴あきダムは、渓流や小河川などにおいて実績はあるが、辰巳ダム規模ではほとんど実績はない新種である。石川県の説明では、島根県の益田川ダムに続いて2例目である。常時はダムを空にしておき、上流からの水流はそのまま下流へ流し続ける。洪水時には下流への水流が大きくならないようにダムで貯留し、一部を放流する。常時は水を貯めないので水質の悪化も起きず、ダム湖となるのは洪水時だけであるので周囲の動植物や生態に負担をかけない、自然環境にやさしいダムということである。

(環境にやさしい「穴あきダム」の構造)
 石川県が移植した学識経験者等による「辰巳ダムデザイン検討委員会」の審議と並行して、構造が検討され、水理模型実験結果も交え、最終案に近い形が示された。委員会は、これらの成果に検討を加え、数回の審議を重ねた上で、辰巳ダムのデザインに関して提言書(案)(平成18年10月4日)をまとめた。提言書(案)の主たる内容はデザインにかかわるもので、穴あきダムの構造については言及してはいないが、参考資料として、水理模型実験結果と放流する穴等の構造を記した図が添付されている。
 ダム構造のポイントは、「小さな穴」(上段に1穴、下段に2.9m角が2穴)と「小さな副ダム」である。辰巳ダム(高さ51m)の場合、特殊な条件として、ダム直下に辰巳用水の取水口があるので、用水への安定的な水供給のために、さらに「小さな副穴」(幅3m×高1m、低水放流口という)が追加されている。「小さな穴」の役割は、上流の水流が大きくなった際にも、下流への水流が大きくならないように絞るためである。「小さな副ダム」の役割は、「小さな穴」から出てくる水流の勢いを弱めて下流の河床の掘り起こしを防ぐためである。

(石川県は実験を根拠に小さな穴は機能すると説明)
「小さな穴」は、根や枝葉の付いた、穴の大きさの何倍もある流木が大量に流れ込めば、アッと言う間に閉塞してしまうだろう。この懸念に対して、県は委託して行った「水理模型実験結果」に基づいて放流能力の減少はないと説明している。実験とは、以下のようなものである。
 実物の縮小模型で流木を模した鉛筆のような物を多数流し、小さな穴の口にスクリーンを設置しない例とスクリーンを設置した例について、放流流量を測っている。スクリーンを設置しない例では、放流流量が24%低下したが、スクリーンを設置した例では、放流流量がほとんど低下しなかった、だからスクリーンを設置すれば問題は解決するというものである。

(実験の問題点は2つ)
 この実験の問題点を2つ指摘できる。第1点目は、流木の量/形状を犀川の実態調査から設定したのではない、第2点目は、流木と流砂を同時に流して実験しておらず実際の洪水とは異なることである。石川県は、全国で一般的な考え方/方法によったもので流木の形状や量の根拠は犀川の実態調査によるものではないと説明している。「デザイン検討委員会」の議論の中で委員が指摘したように、流木は鉛筆形状ではなく、根や枝葉の付いた流木が流れてくる。大量に流れてくればスクリーンの周囲に積み重なり詰まる、詰まれば土砂も堆積し閉塞が進んで完全に詰まってしまうことは容易に想像できる。

 デザイン検討委員会で、玉井委員も「スクリーンをやって、そこにベタッと物がかかってしまうと、また流下能力が減ってしまうので、そこは難しいところですね。上流でやらないといけないと。」という発言をしている。上流で流木対策、土砂対策、さらに山地崩壊(地滑り)対策などの必要性をほのめかしている。

(詰まるのではないかという疑問に石川県は詰まると答えている!)
 ダム本体に小さな穴が複数付いているだけであり、洪水時に詰まったらどうなるのかという疑問に対して、県は、詰まらない(=詰まらないように工夫する)としか、答えていない。何が流れてくるかわからない洪水時に小さな穴は簡単に詰まるだろうと容易に想像できる。石川県の詰まらないという説明は、「小さな穴が詰まらないように上流の口にスクリーンという鉄製の網を付けるから穴はつまらないのです。」。「小さな穴」の口のスクリーンのところで詰まるから、結局は閉塞し、「小さい穴」に水が流れなくなる。「小さな穴」は詰まらないと答えているのは詭弁である。

(穴あきダムのもう一つの欠陥)
 穴あきダムのもう一つの欠陥は本体の前部の「小さな副ダム」である。従来のダムも持っている施設であるが、条件が異なる。従来の貯水ダムでは、堆砂の後の清水が流れるが、穴あきダムでは土砂や岩石の混入した濁水が流れる。条件次第ではアッと言う間に埋没する可能性がある。この懸念に対して、水理模型実験では何も語っていない。副ダムが埋没すれば、辰巳用水取り入れ口への低水放流口も閉塞する。

(山腹崩壊があれば小さな穴は簡単に閉塞する)
 数十年前の例であるが、となりの富山県の称名川で豪雨があり、河床が一気に10m近く上昇したことがある。川の両岸の山腹が豪雨で広範囲に崩壊したためである。犀川水系では、これほどの崩壊はないだろうと考えられるが、犀川上流は急傾斜面であり、時々山地崩壊が発生し、自然のダム湖が発生している。このような事態が発生する豪雨の際には、小さな穴(2.9m角)が簡単に詰まってしまうだろう。

(豪雨災害に対して致命的な欠陥商品か)
 短的に言えば、「流木」、「流砂」に対しての適当な処置がなく、穴あきダムの致命的な欠陥であるということである。小規模で影響する区域が小さい、中小規模の洪水で流木や流砂が少ない、あるいは流域の地形地質等から流木や流砂が明らかに少ないなどの特別の条件がつけば、その有効性も想起できるが、想像を絶するような豪雨災害に対する防災施設としては致命的な欠陥商品ではないかという疑義がある。さらに、ダム湖に接している超大規模の地滑り地が、湛水時に滑り始めた場合、滑りを抑制するためにダムの水位をコントロールするゲートが必要だが、「穴あきダム」にはこれも設備されない。また、小規模な地滑り箇所も複数有り、対策は取られるが、100%万全でリスクがないというわけではない。これが1カ所でも崩壊すれば、ダムの穴は簡単に閉塞される。

 要約すると、 穴あきダムの懸念は3点ある。流木対策、流砂対策、地滑り対策である。石川県が示した内容を吟味すれば、この穴あきダムが実験段階の施設であることは否定できず、100年確率規模の豪雨の際に本当に期待する機能を果たすのかどうか、確かではない。島根県の益田川ダムと異なり、犀川上流域の急峻な地形で豪雨の際の山地崩壊も考えられるので、この事態に対しても備えておかねばならない。

(新方式ダムのリスクを示す必要がある)
 数々の不安を抱えても、これが現在考えられる最良の方式であるとする、石川県の専門技術的、政策的行政判断が、行政に委ねられた裁量権の範囲内であるとしよう。
 実績の無い新種のダムをどうしても採用するというのであれば、洪水時に想定した効能が実現できない、つまり役に立たないリスクの大きさ・程度について説明しなければならないはずである。仮に、今後、検討を重ねてリスクを小さくするような努力を積み重ねることで、このリスクをほとんどゼロに近い状態まで改善すると主張するかも知れない。その実現には、ダムの上流に地滑り対策工、土砂止め工や流木止め工を多数設置し、これを定期的に管理すれば可能かも知れない。しかし、この場合、膨大な工事費や毎年の管理費が必要となる。この費用はリスクそのものである。これを示さなければ、公益性の判断ができない。

Z.後世世代への負の遺産
 ダムによる治水方式は暫定的な方式であり、負の遺産である。暫定的であるというのは、本来、河川拡幅が永久的な対策であるが、工事区間が長い上、河川下流の市街地区間の用地家屋補償などの対策で数十年あるいはそれ以上の長期間を要することが多い。一方、治水ダムは山間の過疎地域に立地し、用地家屋補償などの障害が比較的少なく、土木技術の発達で短期間に築造できるなどの利点がある。治水整備水準を短期に向上させる方策として河川拡幅に替えて、あるいは平行してダム治水方式が採用されてきた。換言すると、河川拡幅では上流から下流まで延々と工事をする必要が有り長期間を要するので、ダムで短期間に治水整備レベルを上げようというわけである。

 治水ダムの欠点は、ダムが満杯になった後の豪雨には対応できない(パンクするという。)こと、ダムの上流流域の降雨による流水だけしかコントロールできないのでダム地点で流量がなく、豪雨が流域内で偏ってダムの上流域以外で発生した場合は洪水調節できないことである。そして、最大の欠点は、永久にこの施設の管理費用がかかり、施設老朽化とともに定期的な補修費用が嵩むことである。さらに、ダム湖には大量の堆砂が堆積する。核燃料廃棄物と同様に、その後始末は後世世代に先送りされている。「負の遺産である」という所以である。当然ながら、河川拡幅ではこのような欠点は無い。

 利水のためのダムは夏場の渇水のために冬場の水を貯めておくための水瓶という点でその永久的な有効性は明白であるが、ダムによる治水方式は短期に治水整備水準を引き上げる応急策であり、20世紀に普及したあだ花的な存在である。洪水が頻発して短期にその対応を求められる時代ではなくなっており、河川拡幅に要する時間的な余裕ができつつある現在、この暫定的な治水手段は終息期に入っている。

 犀川の場合、昭和40年に犀川ダム(治水を含めた多目的ダム)が完成し、犀川大橋地点の基本高水流量は930m3/秒となり、昭和49年に内川ダム(浅野川の治水を含めた多目的ダム)が完成し、犀川大橋地点の基本高水流量が1600m3/秒に拡大され、ダムは暫定施設であるとは云え、これで犀川の治水対策は万全であったはずである。

 暫定的な施設を造るというのは、長期計画に至る段階的な対応であり、一時的な無駄を許容するものである。昭和36年に本格的な治水事業を始めてすでに46年という時間が経過しているが、いまだに暫定的な施設が造るというのは無駄以外の何物でもない。既存の治水施設で100年確率の洪水に対応できないという石川県の主張が妥当なものであるとしても、時間的な余裕はあるのだから、暫定的な方法は止めて、永久対策である河川拡幅を行うべきである。

 どうしても辰巳ダムを造らなければ100年確率の洪水に対応できず、行政責任を果たすことができない、この事業が行政の裁量権の範囲内の判断であるとしよう。この場合でも、将来的な負の遺産の大きさと程度について示さなければ公益性の判断ができない。少なくとも以下のコストについて示されなければならない。

 @毎年の維持管理費
 A耐用期限までの定期的な改修費用
 B耐用期限後の巨大コンクリート廃棄物処分費用
 Cダム湖に堆積した堆砂の処分費用


[.ダム建設の費用
 石川県は辰巳ダムのダム建設費用を示しているが、既設2ダムの補修費用も示す必要がある。 既設の2ダム(犀川ダム、内川ダム)を含めて3ダム連携をうたい、既設2ダムの堆砂容量について今後100年間を見通して拡大するという文脈からすれば、犀川ダムが42年、内川ダムが33年を経過し老朽化しているのであるから、既設ダムを100年の耐用年数に耐える水準に引き戻すための補修費用が計上されていなければならない。


4.結論
 石川県が主張する事業のプラス面は、治水、利水両面について「得られる利益」はほとんど根拠薄弱なものであるのに対して、事業実施によるマイナス面について、石川県が検討している対策費用に限ってもダム本体建設費以上に費用が拡大する恐れすらある。少なくとも、特定行政庁は石川県に対して環境影響評価を実施するように、指導し、失われる利益の総体を把握させ、その結果にもとづいて改めて判断を行うべきである。このように公益性が不明な事業は、法二十条の認定要件を満たさず、事業認定は拒否されるべきである。


意見書の根拠資料
 以下の資料は、石川県に提出済みである。ただし、「辰巳ダム事業に関する環境影響評価について」(平成19年2月1日)については未提出であり、意見書に添付する。
●石川県知事宛「新構想辰巳ダム事業の即時凍結の申入書」平成17年9月28日、犀川の河川整備を考える会
●石川県河川課長宛「申入書 新構想辰巳ダム事業の疑問点に対する回答ならびに公開討論会での議論」平成17年9月29日、犀川の河川整備を考える会
●上記の別添資料「新構想辰巳ダムを考える」平成17年9月28日、犀川の河川整備を考える会
●石川県監査委員宛「石川県職員措置請求書」(平成17年12月27日、中登史紀)、基本高水流量1750m3/秒が過大
●石川県監査委員宛「石川県職員措置請求書」(平成18年1月11日、中登史紀)、犀川ダムの堆砂ダム容量に関する事項等
●石川県監査委員宛「石川県職員措置請求書」に係る「措置請求の追加事項について」(平成18年2月2日、中登史紀)
「辰巳ダム事業に関する環境影響評価について」平成19年2月1日、中登史紀

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