辰巳ダム 公聴会の後どうなるのか?
裁判への道とそれを避けるための条件と努力

掲載 2007.9.30

◆公聴会開催と土地収用法

 石川県は辰巳ダム事業に関して未取得用地の強制収用に向けて、今年1月18日、国交省北陸地方整備局長に対して事業認定申請書を提出した。
 これに対し、辰巳の会など土地共有者から異議ありの意見書(Word94KB・A4-12頁)が提出された。土地収用法の規定によって、5月20日(日)、21日(月)、国交省北陸地整建政部が主催する「犀川辰巳治水ダム建設事業に係る公聴会」が開催された(※写真)。2日間で賛否それぞれ10名ほどが意見を述べた。

 この公聴会を主催した国交省北陸地方整備局建政部は土地収用法を担当する部署。一方、河川法を担当する部署は河川部で、「2つの部は対等であり、これによっても公正性、中立性が担保できる」と北陸地整担当者は言うのだが、現行土地収用法は一坪共有地運動などトラスト運動の圧殺をねらって平成13年に改悪されたものである。一坪地主運動は、当時各地に広がった市民運動側の抵抗手段で、当時の代表的な市民運動に東京都日の出町のゴミ処分場反対運動や沖縄米軍基地拡張反対運動などがある。

 改悪とはいえ、日弁連の声明などで住民参加手続の保障、透明性・公正性の確保の規定が盛り込まれた。その一環として公聴会開催が位置づけされ、利害関係人から開催要求があれば義務的に開催されることになった。以前の土地収用法では「必要があれば開催」という規定によって開催されたことがなかった。
 土地収用法によれば異議の申立があれば第三者機関である社会資本整備審議会の意見を聴かねばならないことになっていて、公共用地分科会がその審議をする。分科会のメンバーは次の方々。
 会 長  平井 宜雄(専修大学教授)
 会長代理 磯部 力東(京都立大学名誉教授)
 委 員  岡島 成行(社)日本環境教育フォーラム理事長)
 委 員  小枝  至(日産自動車(株)取締役共同会長)
 臨時委員 小林 重敬(横浜国立大学教授)
 臨時委員 森  有子(弁護士)
 臨時委員 森野 美徳(都市ジャーナリスト)

 仮に委員が公正適格者であっても短期間、おそらく1,2度の会合だけで膨大な資料を理解することは不可能であろう。行政側の説明が優先されることは目に見えている。
 通常、事業認定申請が出されてから、おおむね3カ月で認定の処分が行われる。ちなみに国交省サイトの「土地収用のページ」によれば、過去4年間で事業認定が117件あり、認定までの期間は1カ月半〜3カ月半である。

 辰巳ダムの計画は、今年1月18日に正式の申請された。
 国交省のサイトで見る限り、未だ社会資本整備審議会公共用地分科会が開催された様子はない(9月30日現在)が、分科会が開催されると、異議申立の内容、公聴会の意見を吟味し、北陸地方整備局長に理由を付けて「認定が妥当」との答申が出され、答申を受けて国交省大臣は事業認定を行うスケジュールとなる。

 こう予想されるのは、石川県がこれまで再三にわたり述べているように、辰巳ダム事業は国の指導を受け、同意の手続を経て確定しているものであり、国交省は当事者そのものであり、いまさら、「公益性に疑問、事業認定を拒否」などということはできないからである。
 ただし、国交省は県の計画に躊躇していた気配がある。石川県は当初、昨年1月末にも事業認定申請をする意志を表明していたが、これを国が押しとどめていたのではないかと思われる。読売新聞(07.1.24)によると、谷本知事が新年のある会合で、国に対して「少し腰が引けている面がある。大きな決断をする時期に来ている」と指摘したとある。国がこの事業の公益性についてかなり疑問を感じているのは疑いない。
 これまで辰巳の会や犀川の河川整備を考える会、森の都愛鳥会、ナギの会などが辰巳ダム問題を様々に掘り起こし、県と議論を重ね、この事業の杜撰さが素人にも分かるようになってきたが、技術者集団でもある国交省がそのことに気付かないわけがない。裁判となればその妥当性を立証するのは大変であろう。国が躊躇、逡巡するのは当然と思われる。


◆裁判へ向けた新段階

 ともあれ、土地収用法の規定による公聴会が終了し、認可直前の状況で、辰巳ダム事業の議論が裁判を視野に入れた新しい段階に入った。
 今までは、市民の異議申立は起業者である県に向けたものであったが、現在では国交省も県と同じ立場におかれている。これまで石川県は、市民側の主張に対して事業手続に瑕疵は無いとし、その言い分は、@全国で一般的な考えにより A全国で用いられている基準に従い B学識経験者の委員会で審議され C国の指導/同意を得て策定されたから妥当だとし、都合の悪いところは答えてこなかった。今後、公益性があるか否かの判断や市民側から提出されたすべての異議・疑問に対して答えざるを得ないし、事業認定の理由も公表しなくてはならない。いいかげんに書けば、理由そのものが将来の裁判の争点ともなる。軽々しい理由は書けない。


◆公聴会での賛成論

 公聴会の議論の中から辰巳ダム賛成論を整理してみたい。これまで行政以外から賛成論をまともに聞く機会がなかったため、公聴会は貴重な機会であった。
 賛成論を展開したのは10名。ほぼ全員が冒頭に「事業の賛成の立場で公述します。」と宣言していた。どこぞの「やらせ質問」に似た状況であった。

 辰巳ダム賛成論は以下のとおり(まとめは中登史紀氏)
@ 先祖伝来の土地を提供して協力をしているのだから、一刻も早くダムを完成してほしい。
A ダム反対の土地所有者は県外のよそものが半分以上ということだが、水害の苦しみも知らない県外のよそものに何がわかるか。
B 福井・新潟水害のような雨が心配であり、いつ、起きるか分からない。起きてからでは遅いので早くダムを建設するべきである。ダム建設が遅れ、その間に洪水が発生したら反対の人は責任をとれるのか。
C 大雨で水が引かないことが度々だが、ダムができれば川の水位が下がり、水はけがよくなる。ポンプ排水がよくなる。
D 安全安心の町づくりのためにダム建設は最優先課題である。
E 年間を通じて河川維持流量が確保され、景観がよくなり、魚類の生息産卵のための環境がよくなり、良い漁場になる。


◆賛成論を整理すると……

 最初の3点(@AB)が感情論。Cはダムと本質的に関係の無いメリット。Dは手段を誤解した主張。Eは矛盾するダムのメリット。
 感情論の中身は、先祖伝来の水没する土地は谷底の零細な田畑で、ほとんど利用価値が無いといって過言でない程の土地であるが、提供した土地が放置されていることが感情的に許せない、と主張する。
 また、過去経験した水害の苦しみを主張。これは戦前、戦後の昔話で現在の犀川の治水整備水準について正確に理解していないこともあり、どれだけ声高に叫んでも感情論でしかない。ビックリなのは「犀川を知らないよそ者がよけいなことを言うな」との主張は情けない。「明日起きるかも知れない」というのもあるがこれも感情論でしかない。
 一見論理的に見える「ダムによる水位低下効果で浸水被害防止」なる賛成論は、都市型水害・内水氾濫という原因と解決策を知ろうとしない。水はけをよくするには下流河川の改修こそ必要で、ポンプ排水をよくするためにはポンプの能力アップが常識的な対策である。

「安全安心の町づくり」なる主張も、本来治水安全度を高める目的でダムを建設することとイコールではなく、目的と手段を混同している。「河川維持用水供給」の主張にも無理がある。河川維持流量は既存の水利用のやり繰り(農業用水の過大な流量を絞る)で行うことで可能となる。下流の河川環境の改善のために上流の河川環境を破壊するという主張も矛盾そのものであろう。

 また県は、新潟・福井水害を例に「辰巳ダムがあれば氾濫を防止できる」と説明した。これは説得力があるようだが、間抜けな説明である。福井豪雨のように時間80mmを超える雨が広範囲に降れば、犀川と平行している浅野川やすべての支川(伏見川、安原川など)が真っ先に氾濫する。犀川流域においても市街地の水路という水路はすべて氾濫する。これを内水氾濫というのだが、未曽有の被害が発生する。結果として、辰巳ダムは洪水氾濫に何の役にも立たないことになる。7年前の東海豪雨(2000年9月11日-12日)で経験済みのことである。なぜこのような馬鹿なことを思いつくのであろうか。石川県が金沢市民の生命と財産を守るために治水を考えているのではなく、辰巳ダムを正当化するためだけを考えているからに他ならない。


◆問題点が鮮明になった辰巳ダム計画

 公聴会の賛成論の中に「事業が遅れたのは反対派の大量の情報公開が原因」という珍論もあったが、出された賛成論だけを集めても、辰巳ダム建設が妥当だとはとうてい言えない。

 辰巳ダム建設の直接的な動機となった昭和36年の第二室戸台風(※写真)による片町の浸水被害は、犀川ダムや河道掘削などの事業で本質的に解決している。この第二室戸台風の時の洪水量は県の調査で700m3/秒(±50)である。辰巳ダム計画は犀川大橋基準点での洪水量1750m3/秒が100年確率と想定しているが、過去の最大規模の洪水はどのような検討をしても900m3/秒前後。県の想定は有史以来発生したことの無いような数値である。洪水擬装と言わずしてなんと言おう。
 この洪水擬装に加え、地滑りの危険、コンクリート壁による世界遺産の資格を失う懸念、生態系への影響については、県は「できるだけやっています」というだけで結果責任に対する返事は一切ない。

 歴史的遺産の記録保存、地滑りについても学識経験者による委員会に諮っておらず、現行河川法の規定による住民参加手法や法律遵守義務について行政手続が適正に行われていないことが数々指摘される。
 賛成論に根強いのは市内各所の浸水被害。これらの浸水被害の本質はいわゆる内水被害であって、都市型水害といわれるもの。

 また、明らかに過去の河川整備の遅れや誤りも指摘できる。鞍月用水堰付近やJR橋左岸本江町(※写真)での流下能力不足、犀川下流の河床で堆積が進んでいることも見逃せない(※写真)。河川整備の常識「河川整備は下流から」「河川堤防の整備管理」が長年反故にされてきたことが明らかにされてきてもいる。昭和50年に辰巳ダム計画が決められてから、本来、河川管理者がやるべき河川管理がまったく放棄されてきた。逆に辰巳ダムを推進させるために河川管理をやらずにきたことである。

 辰巳ダム計画の推進力を考えてみると、各地区で起きる内水被害防止を求める流域住民の願望である。金沢市長が平成8年の高畠地区の浸水被害を例に持ち出し、辰巳ダム早期着工を求めるのも、原因と対策を考えない住民の願望が県・市の議員を動かしてきたとも言える。それを利用した行政の仕掛けでもある。

 コンピュータ時代に入り、コンサルタント会社から納品される電子データもそのまま公文書請求により入手出来る。県のホームページでも少ないけれどデータが掲載されている。一定の知識がありインターネット環境があれば自宅で確認することが出来る。その一例が、県のホームページにも公開されている犀川の氾濫想定図(※写真)と伏見川氾濫想定図(※写真)であろう。
 犀川の図は100年に一度、伏見川の図は50年に一度の規模の氾濫想定浸水図である。合流点周辺(高畠)では100年確率の犀川より50年確率の伏見川の被害の方が広範囲に浸水被害が起き、水深も深い。深刻だが犀川、伏見川を別々に表示するからおかしな図になる。住民にすれば水害は一つ。伏見川の現在の整備水準(10年確率)を考えると、緊急に整備しなければならないのが辰巳ダムではないことがよく分かる。


◆県の本体着工の意思表示

 反対市民所有の強制収用がまだ始まってもいないのに、最近になってあちこちから「本体着工間近」という情報が聞こえてくる。
 県のホームページに「入札情報サービス」があり、発注見通し、入札予定、入札公告、入札結果などが検索できる。
 発注見通しを検索すると、次のものが表示された(※写真)

・工事名:犀川辰巳治水ダム建設事業 辰巳ダム本体建設工事
・工事種別:土木一式工事
・工事場所:金沢市相合谷町〜金沢市上辰巳町地先
・入札方式(契約方式):制限付き一般競争入札
・工事期間:1900
・工事概要:ダム本体工 N=1式
・入札予定時期:第2四半期(注)
・備考:変更(時期・内容)・電入(予)

 つまり、本体着工の入札を今年7〜9月に行うという見通しを表示している。予定の欄から何も表示されないから、まだ本決まりではないかもしれないが、県による本体着工の強固な意志表示と思われる。
(注)今日(9/30)入札情報サービスを確認したところ第3四半期、つまり10〜12月に変更されていた。


◆想定される今後の動き
(法的な手続きを元にした一覧)

【現在〜事業認定まで】
・事業認定の処分(あるいは事業認定の拒否)
・認定理由の公表(官報告示)

【事業認定から権利取得裁決まで】
・認定後、主に補償金の額を確定する収用裁決手続きが行われる。
・土地調書および物件調書作成のための立入調査(3日前までに占有者に通知、起業者/石川県)
・土地調書および物件調書に立会署名押印
 (取り決めは無いが2週間から1カ月程度前に権利者に通知、拒んだ者がある場合は、市長が立ち会い、吏員に署名押印をさせる。)
・裁決申請(起業者/石川県→収用委員会)
・裁決申請の公告(金沢市長)、縦覧、意見書提出
・裁決申請書の縦覧(2週間、金沢市)
・意見書の提出(縦覧期間中、土地所有者及び関係人→収用委員会)
・裁決手続開始決定(収用委員会)
・裁決手続開始登記(収用委員会、この時点まで権利者の変更が可能で起業者に対抗できる)
・収用委員会の審理において意見書に記載した事項について口頭で意見を陳述
・権利取得裁決(収用委員会)
・物件調書の作成、明渡裁決の申立て、明渡裁決(代執行・強制収用開始)


◆裁判提訴への道筋

 事業認定の処分が行政の最終的な判断と考えれば、次の段階は司法の判断を求めることになろう。考えられる提訴は国の事業認定に対してその処分の取り消し訴訟と起業者石川県に対して事業差し止め訴訟の2種類が考えられ、その他に石川県土地収用委員会への取り消し訴訟も可能。
@事業認定取り消し訴訟
 事業認定の処分が出た場合、「行政事件訴訟法」に基づき、処分庁(国)を被告として処分の取り消しを提訴。
A収用裁決取り消し訴訟(収用裁決後、「行政事件訴訟法」に基づき、収用委員会を訴え)
B事業差し止め訴訟
 行政がすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分等をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟で「事業の差し止め訴訟」と「事業の差し止め仮処分申し立て」の2つがある。差し止め訴訟はいわば本裁判。また仮処分申し立ては、本判決を待っていたのでは償うことができない損害を生ずるおそれがある場合に迅速かつ実効的な権利救済を可能にするために提訴するもの。

◆参議院議員選挙の結果をふまえて

 さて、石川県の辰巳ダム建設の意思が明確になっているため、市民側とすれば「裁判覚悟」の態勢づくりと裁判準備は欠かせないが、先の参議院選挙の結果、公共事業をめぐる状況が大きく変化したことは間違いない。石川県でも自民党が負け、参議院は自民党が少数となり、「脱ダム宣言」の田中康夫前長野県知事も当選。
 裁判必死の状況ではあるが、徒労の多い裁判は出来るだけ避けたいと思う。その可能性が残されているうちは「無駄な公共事業辰巳ダムの中止」「危険箇所の整備を進める」とした世論形成への努力が引き続き必要であろう。まだまだ辰巳ダム問題が一般市民に理解されていないことは公聴会の賛成論をみればよくわかる。裁判へ進む前にたくさんのやるべきことが残されていると思う。
  (2007.8.10「いしかわ自治研」掲載原稿を元に更新)


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