アイエヌエーの解析は間違い/監査請求の解説

掲載 2006.1.2

紹介した元資料は、中氏のホームページへ


措置請求に添付した事実証明書の説明

1.犀川大橋基準点の石川県が決定した想定洪水量(ダム調節無し、浅野川放水量含まずいわゆる基本高水流量)が過大に算定されている。

(犀川大橋基準点の100年確率の想定洪水量)
 犀川大橋基準点の石川県が決定した想定洪水量(ダム調節無し、浅野川放水量含まず)、いわゆる基本高水流量は、治水計画の前提となる最大の洪水規模を示すものです。石川県が委託した業者は、降雨量データに基づいて洪水量解析を行い、犀川大橋基準点での100年超過確率の基本高水流量を1750m3/秒としました。

(降雨データにより間接的に求める洪水量)
 本来、100年超過確率の基本高水流量は過去の流量観測記録から流量確率解析で求めるのが、直接的で、誤差が少ないと考えられます。河川の流量観測データの蓄積が少ないことなどが理由で、一般的には、雨量データから間接的に洪水量を求める手法が使われています。雨量データは気象台観測記録などから、長期間のデータが容易に得られます。しかし、ほとんどの場合、100年といった長期の洪水解析のために必要十分なデータが得られないので、便宜的に実績降雨を引き伸ばすという操作を施した加工データを用いて洪水量を解析します。犀川においても同様です。

(国の技術基準の考えに適合していない)
 委託業者の解析では、過去に発生した降雨を33ケース選択して、異常値と判断した降雨を棄却し、残った24ケースについてピーク流量を算定し、このうちの最大値1750m3/秒を100年超過確率の基本高水流量と決めています。
 ダムや堤防などの河川管理施設の計画、設計にあたっては、河川法(第十三条)の規定により定められた、技術上の基準「建設省河川砂防技術基準(案)」によっていますが、この規定の解説では、カバー率50%以上としていますが(カバー率50%の意味は中位、つまり上位のデータ数と下位のデータ数が同じになる中間の数値を取ることを意味します。)、最大値を取ることを求めてはいません。

1750m3/秒の根拠)
 石川県が決定した基本高水流量1750m3/秒は平成7830日型降雨が根拠になっていますが、この雨は2日雨量157mmであり、出水はわずか210m3/秒です。この雨を2倍に引き伸ばして、2日雨量314mmとして加工した降雨をもとに計算しています。さらに、降雨地点から洪水発生地点までの流出メカニズムに数々の仮定条件が挿入されており、想定した洪水現象はある程度の信頼性を持って解析されたとしても、あくまでも間接的に洪水量を求めているものであり、相当の誤差は普通であり、この犀川のケースのように実際に発生した出水210m3/秒が基本高水流量の1/8であるのでは根拠薄弱であります。

(過去の洪水による検証)
 したがって、雨量データから解析された想定洪水量は、過去の洪水量と比較し、解析結果の妥当性を検証します。犀川の場合も過去の洪水と比較はしたものの、検証をしてはいません。
 石川県は比較のために、近年の最大流量としてつぎのような数値を上げています。
  表1.基準点犀川大橋における近年の最大流量推定値 

 これは、飽和雨量0mmと仮定し、地表面が飽和して降った雨がすべて流れ出てくる状態を想定した数値です。実際に発生した洪水量は、添付した表1で示したように800m3/秒前後です。


(専門家も基本高水流量1750m3/秒が過大と認識)
 雨量解析で求めた基本高水ピーク流量(基本高水流量と同意)が近年の最大流量に比較して非常な乖離があることについて、「犀川水系河川整備検討委員会第二回河川計画専門部会議事要旨」にはつぎのように記述されています。

辻本部会長「……基本高水流量としてその値に説得性を持たすためには、いくつかの他の計算方法とかデータをみせていただくといいと言ったのですが、そういうデータは出てこなかった。非常に説明力に乏しい、説明するのが難しい基本高水流量となっているの、という結果だったですね。……」

宇治橋委員「……これだけの資料を持って、現在のところ一般的に使われている方法で、手順を踏んでやって決めて、ほぼ決めかかっているような1750m3/秒がどうこうという議論にならない。ただしこれはものすごく確かですよという話にももちろんならないのですが、こういうデータから1700m3/sは過大すぎるというような話にはならないとは思うのですけれども。……」

辻本部会長「……先ほどの計算値が1200m3/s1100m3/sが続いて出たみたいに、どうもこういう立っている所がでてるんだなという感覚からしましても、今回計算で1700m3/sがでているのに、既往最大推定1200m3/sがあるからと言って、1700を棄却するわけにはいかないという判断で専門部会としては計画委員会に説明したいと思いますが、委員の先生方いかがでしょうか。確かに既往最大とそういう計画論の流量がピタッと合うところは、説明しやすいのですが、ここのように、差がある所というのは非常に難しくなりますが、専門部会では委員会に、そういう部会の判断でご説明したいと考えております。……」


専門家もこの乖離を認識していたが、最終的につぎのように結論づけられました。
 「この値は、上記の「基本高水」(案)のピーク流量とは差があるが、これは「この流域では幸いなことにこれまで大洪水が出る降り方をしていないため」と判断した。」(3回犀川水系河川整備検討委員会(平成15328日)の資料−2)としています。
 これは比較をしただけで、検証といえるものではありません。

(観測流量をもとにした検証)
 本来、石川県が河川管理者としての職務において、観測流量をもとにした流量確率解析を行い、基本高水流量の妥当性を確認すべき義務があります。請求者は機会あるごとにその重要性を指摘してきましたが、実行されてきませんでした。請求者は、この重要性に鑑み、独自に解析を試みました。

 昭和53年から平成16年までの27年間の犀川の石川県観測流量記録により、統計解析をして100年超過確率の洪水量を算出しました。まず、表1-1では、犀川大橋基準点の毎年の最大値の候補をあげています。表1-2では、犀川大橋基準点における毎年の最大値を1個を選択し、表1-3で、大きい流量から降順にならべてあります。表1-4で最小二乗法による統計解析をして、確率年別流量を求めています。図1-1は、表1-4で求めた確率年別流量を求める近似式を図示したものです。図1-2は、確率年別流量を棒グラフで表示したものです。
 なお、確率年別流量を求める近似直線式は、以下のように設定します。
 各表の各毎年の最大観測流量yを縦軸(線形軸)に確率年xを横軸(対数軸)にそれぞれプロットする。グラフ上にプロットされた点の近似直線を下式のように、yを観測流量(m3/秒)、xを確率年(年)とする直線式で表す。係数a,bを最小二乗法によって求める。

y = alogx + b
 a = nΣ(ylogx)(Σlogx)(Σy)/ nΣ(logx)^2(Σlogx)(Σlogx)
 b = Σ(logx)^2(Σy)(Σlogx)・Σ(ylogx)/ nΣ(logx)^2(Σlogx)(Σlogx)

ここで、
 y:観測流量(m3/秒)
 x:確率年(年)

(流量観測記録によると100年超過確率流量は963m3/秒になる)
 実際に過去に発生した流量(既往洪水量)観測記録による解析では、100年超過確率流量は963m3/秒となり、基本高水流量1750m3/秒の約半分程度、その差は787m3/秒にもなります。計画中の辰巳ダム(調節量230m3/秒)3個分以上に相当します。

(犀川大橋基準点の河川整備水準の現状)
 過去100年間の最大規模の洪水を表1に示してあります。これらの洪水と現在の犀川の河川整備水準と比較したものが図1です。過去100年間の洪水は800900m3/秒前後で、これに対して、現在の犀川の河川整備水準は、犀川大橋基準点で1600m3/秒です。これは、第二室戸台風と平成10年の台風7号が同時に襲来しても対応可能な状況であることを意味します。石川県は辰巳ダム建設により、さらに1750m3/秒まで引き上げようとしています。これ以上、河川整備水準をあげる必要はありません。

(浅野川と比較して、犀川の河川整備水準は過大)
金沢の中心市街地を流れる、もう一つの川である浅野川はどのような状況であるか判断するために、請求者は、犀川と同様に、過去の流量記録から確率年別流量を算出しました。表3-1は、昭和48年から平成16年までの32年間の天神橋基準点の毎年のピーク流量を時系列で並べた表です。毎年のピーク流量を大きい数値から降順に並べ替えたものが、表3-2です。最小二乗法による解析で確率年別流量を求めたものが表3-3です。表3-3で求めた、確率年別流量を求める近似式を表したものが図3-1です。これを棒グラフで表示したものが図3-2です。
 石川県の100年超過確率の想定流量(計画高水流量、浅野川放水路で放水した後の流量)は、「犀川ダム総合開発事業(内川ダム、浅野川〜犀川導水路)全体計画書 付属資料」p.14によれば、460m3/秒です。観測流量による解析値は359m3/秒で、差は101m3/秒、石川県の想定流量は観測流量解析値よりも30%ほど大きいだけです。

 この比較からも、犀川での石川県の基本高水流量が過大であることが明らかです。


2.犀川大橋基準点の石川県が決定した想定流量(ダム調節あり、浅野川放水量含む=いわゆる計画高水流量)が過大に算定されている。

(既設ダム調節後の犀川の流量)
 既存の犀川ダム、内川ダムで流量が調節され、浅野川放水路から放流量が加算される流下量は、下菊橋測水所で観測されています。昭和53年から平成16年までの27年間の記録があり、請求者の解析によると、100年超過確率流量は526m3/秒、以下各確率年別流量は、表2-3のとおりとなり、図示すると図2-2のようになります。図2-2の石川県想定流量は、「平成15年度犀川総合開発事業(辰巳ダム建設)犀川水系河川整備計画検討業務委託報告書2004-11」(株)アイエヌエー、p.2-4によります。(ただし、1/2確率値は平成14年度報告書による)

(観測流量と極端に相違がある)
 委託業者が算定した、100年超過確率の想定洪水量1455m3/秒は、観測流量から求めた流量526m3/秒に対して約3倍という、過大な数値となっています。過去30年間に限って比較しても、県の想定値は1188455m3/秒に対して観測流量による数値は409145m3/秒で約3倍です。観測による最大値は、平成16年の台風23号による洪水量364m3/秒で、これが27年間の最大値です。委託業者による2年超過確率(2年に1回はこの流量を超えることを意味する)流量は455m3/秒となっており、27年間の最大値が、2年超過確率流量にも満たないことになります。委託業者の解析は、あまりにも現実との乖離が甚だしく、ほとんど出鱈目と言っても過言ではありません。

(委託業者解析によれば、鞍月用水堰地点は3年ごとに氾濫する)
 犀川大橋基準点の約2km上流の鞍月用水堰地点で考えると、委託業者解析が過大であることが明確になります。
 鞍月用水堰地点の流下能力は、最も少ないところで500m3/秒(県資料)です。この数値は、委託業者による3年超過確率流量572m3/秒よりも少ない流量です。つまり、3年に1回はこの流量を超え、氾濫することを意味します。ところが、実際は、明治18年の犀川洪水以来、120年間、氾濫が起きていません。委託業者解析が異常に過大であることを重ねて証明するものであります。(請求者注:城南二丁目の藤棚白山神社由緒書きによれば、鞍月用水堰地点にあった神社が、明治184月の犀川洪水の為、社寺過半を流失したとある。)


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用語の説明
基本高水流量:洪水防御計画の目標となる流量で、ダムなどの洪水調節をする前の流量。
計画高水流量:洪水防御計画の目標となる流量で、ダムなどの洪水調節をした後の流量。
超過確率:降雨が平均して何年に1度の割合で起こるかを表現したもので、例えば、10年超過確率の降雨量は、10年に1回の割合でそれを超えるような雨が降ることを意味します。
基準点:水文資料(流量観測記録など)が得られて、解析の拠点となり、全体の計画に密接な関係がある地点。



なお、今回の監査請求と深いつながりがある、新犀川水系の整備計画や辰巳ダム計画について、基礎数字を確定しながら批判した、中 登史紀さんの労作がありますので、紹介しておきます。
新構想辰巳ダム事業の即時凍結の申入書(県知事へ・Word:A4で4頁)
新構想辰巳ダムを考える(県河川課へWordファイル:A4で43頁あります)
◆岐阜大学の藤田教授作成のレポートを批判したダム問題の基本資料