鴛原の大規模地すべり地の規模は
辰巳ダム容量に匹敵

2006.6.11 辰巳の会ニュースレターに掲載(若干補足した)

穴あきダムの欠陥と際限なく続くムダな支出の構造

【鴛原の斜面は超大規模地すべり地だった】
 計画から30年にもなる辰巳ダム事業(初年度・昭和50年/1975)の議論の中で、これまでまったく触れられなかった大きな問題が最近明らかになりました。鴛原(おしはら)地区の大規模な地すべり地の存在です。
 場所は、金沢市内から上辰巳の県道を犀川上流に少し走り、鷹巣(たかのす)トンネルを抜けると、対岸(右手)に北陸電力の鉄塔がいくつか見えますが、その3本目が建っているところ。鉄塔から尾根への斜面が鴛原の《 超大規模地すべり地 》。 この「超大規模地すべり地」という呼び方は、県の地質調査報告書にも規模を表す言葉として書かれています。

【地すべり地の規模】
 規模をあらわすため土塊の量が150万m3 を「大規模」、200万m3 以上を「超大規模」と分類されていますが、この鴛原の土塊の量は、525万m3です。「超大規模」の2倍以上になりますから、超々大規模な地すべり地といえます。この規模は、新辰巳ダムの洪水調節容量が580万m3ですから、これにほぼ匹敵する大規模なものです。

【橋替わりのダムを証明する地質調査の履歴】
 通常、ダムを計画するとき、適地判定のため地上踏査や地質調査を経て計画地を選び、ダムサイト候補地や湛水地全域をボーリングなどで予備調査を行い、最終的に問題がなければ計画地点として決定するものです。
 辰巳ダムの場合、ダム事業の初年度は昭和50年(1975)で予備調査開始、ダム着工は昭和58年(1983)となっていますが、この間に行われた県の地質調査報告書が2点あります。これを見るとおかしなことがわかります。

@ 昭和51年 辰巳ダム実施調査成果報告書(ダムサイト地質調査、貯水池周辺地表踏査)
A 昭和56年 辰巳ダム実施調査(2号)報告書(原石山地質調査、貯水池内旧採石跡調査)

 この2点の地質調査は、主にダムサイトとなる上辰巳・相合谷の調査で、貯水池周辺の地滑りや法面(のりめん)崩壊など、考慮されるべき地質調査はありません。これは辰巳ダムは橋替わりに計画されたという疑惑のとおり、先に場所が決められたということを裏付けるものです。

【鴛原の地すべり調査は13年後】
 湛水地周辺の地すべり等の調査は、瀬領地区については昭和59年の調査で詳細な記述がありますが、鴛原について記述はなく、わずかに城力地区について「上部に小さな崩壊地形がある」という3行の記述があるだけです(「辰巳ダム貯水池周辺崩壊地調査報告書」)。
 鴛原の大規模地すべり地が調査の対象になるのは、昭和63年の「貯水池地質調査業務委託(2号)報告書」が最初です。ボーリング調査を元にした崩壊地調査報告書で、この中で「鴛原町南西には、幅約300m、長さ400mの緩斜面が認められるが、調査地内にはその末端部が含まれる。」と書かれ、一定の調査が行われていますが、斜面の末端部(犀川に面している部分)の結果として、「サーチャージ水位に達しても想定地すべり土塊の一部が水没するにすぎず、安定は失われない。」と記しています。そして「しかし段丘崖近くに送電鉄塔が設置されているため念のために基盤岩の性状を把握しておくことが望ましい。」と書いていますが、辰巳ダム事業初年度から13年も後の調査です。

【犀川水系流域委員会の無責任】
 この鴛原の超々大規模地すべりは、「環境にやさしいダム」と県が大々的に宣伝している新辰巳ダム計画にどう反映されたのでしょうか。
 実は、この計画を決めた犀川水系流域委員会の議論になったことがありません。委員会に提出される県の資料にも地すべりについての情報は提出されていないため、元々議論されていません。この委員会には金沢工業大学の川村国夫教授が地質分野の専門家として参加されていますから、専門家の立場から地すべりについての指摘や質問があっても良さそうなものですが……。専門家が多数参加しているはずの委員会が極めて無責任にダム計画を容認しています。

【ダムと地すべり】
 一般に、ダムが完成すると湛水池周辺で地震が起きたり、地崩れや地すべりが起きるのは知られています。これは湛水池の水圧が周辺の斜面へ浸透し、安定していた法面が崩れたり、場合によっては地すべりを引き起こします。有名なダムが起因となった地すべりの例が、奈良県紀ノ川支流で完成した大滝ダムで発生しました。奈良県の川上村白屋地区で、試験貯水が始まり、水位が予定の50%になる前に、地滑りが発生し、住民全員が移転を余儀なくされました。

【穴あきの辰巳ダムと地すべり】
 「辰巳ダムは穴あきダムで、洪水の時だけ水が溜まるので、環境にもやさしい――」。何度も聞かされた県の宣伝文句です。実は、穴あきダムはこれまでの湛水式ダムより危険なのではないか、との指摘があります。
 この問題は、犀川水系流域委員会でも、委員の一人から次のような指摘がありました。
 「一番の懸念は、溜水時の残留間隙水圧上昇による法面崩壊である。貯水池付近について、地形等の調査をすべきではないか?」(第1回総合部会(03.12.26))
 これに対し県は、「当方では、貯水池周辺の現地調査を行い、地滑り等が予見される箇所は調査を行っている。今後は専門家等のご指導を仰ぎたい。」と答弁しています。
 また、昨年11月の土地収用法適用のための事業説明会で会場からの質問(渡辺)に対し、ダム建設室の山本室長は、次のように答弁しています。
 「今後、国の研究機関などとも相談したい。今も国の機関とも相談しており、同じ洪水調節ダムといたしましては島根県で1件、完成間近というものもございます。その中でいろいろ検討されていますので、今の洪水調節ダムであっても、崖崩れ等を起こさないということで万全にしたいと考えております。また崖崩れの調査は別途詳細調査をしておりまして、そのデータに基づいて必要な対策を行うということを考えております。」

【答弁はウソだった】
 今年1月、辰巳ダムに関する地質調査資料14件が公開されました。この資料の中から、今回問題なっている鴛原の超大規模地すべり地の存在などが判明したのですが、同時に県が答弁していた島根県への調査や国の機関との相談などの事実はないことが分かりました。
 まず、島根県で完成した益田川ダムは日本初の本格的治水専用(穴あき)ダムとされていますが、調査に行った県の職員の復命書には、穴あきダムと地すべりに関する記述は皆無。そもそも益田川ダムの資料にも水位変動と斜面崩壊というテーマそのものがありません。
 また、国の機関との相談に関する資料そのものがありません。唯一、新辰巳ダム計画を決めた後、国交省に報告に行った職員の復命書の中に、「了承された」という5文字があるだけで、県はそれをもって「国の機関と相談」と強弁しているにすぎません。事業説明会という法的手続でも重要な場所で県はウソをついていたということです。

【鴛原の地すべりを過小評価する危険】
 新辰巳ダム計画が決定されたあとの地質調査報告書(05.2)で、鴛原の地すべりについて超大規模地すべり地として L3 と符号をつけて認めた上で、次のような結論を出しています。
 「L3については安全率低下が5%未満であることから、原則として対策工の必要はないものと判断した。ただし L3 については規模が大きいことから、末端すべりの可能性について今後詳細な調査・検討を行う予定である。――」
 つまり、大規模な地すべり斜面に比べて湛水する水位は低く、地すべり地全体に比べれば極小さい。だから辰巳ダムとは直接関係ない。しかし地すべり地の規模が大きいから放ってはおけないので、辰巳ダムと切り離して検討しましょう、ということです。
 これは、鴛原の地すべりを過小評価することを意味します。地すべり地があっても現在動いていないのは、末端部の押さえがあって「安定」しているからで、洪水に晒され、水位変動によって末端部の崩壊が進むと、押さえが効かなくなり、次々に小規模な崩壊がおき、その連鎖で次第に上部へ拡がっていくものです。こうした連鎖は地すべりそのものです。その時々の条件によって大規模に動けば地すべりとか山崩れというように呼ばれます。
 鴛原の地すべり斜面は長い期間の間に、こうした現象を繰り返してきて現在の地形が形成されてきたものです。河道の蛇行の様子を見れば何度も地すべりで自然ダムが作られてきた様子が想像できます。
 こうした地すべりの過小評価は、危険性を隠すことにつながります。地すべりとダムの危険性については、規模は違いますが、1963年にイタリアのバイオントダムで起きた地すべりはダム湖に土塊が流れ込み、津波が発生、下流の町を飲み込み、死者2125名という史上最悪の災害を引き起こしました。
 この地すべり災害は、洪水時にダム関係者が放流を急ぎ過ぎ、水位降下が早かったためと指摘されていますが、辰巳ダムの場合は、水位変動は自然に任しているため、地すべりの危険性が分かっても水位操作できないという致命的な欠陥があります。
 もし辰巳ダムが完成し、洪水時に大規模な地すべりが起きた場合、計画の想定を越える水位となり、辰巳ダムの高さを越えるかもしれません。こうした想定は現在の新辰巳ダムにはありません。むちゃくちゃ過大な洪水を計画しているのもムチャなら、超々大規模地すべり地をダムと無関係に放置しているのもムチャな話。

【辰巳ダムの事業費を誤魔化す謀略】
 鴛原の地すべり対策を辰巳ダム事業と切り離すことは、大きな問題があります。常識的に辰巳ダムと関連した地すべり対策のはずですが、この事業を辰巳ダム事業費の中に組み込むと、辰巳ダム建設費が大幅にふくれることになります。これを避けたいという県の思いが見え見えです。これまで積み上げてきた費用対効果(B/C)の数字を変えることになるため、県は別事業でこの対策工を実施することを表明していることです。しかも 「末端すべりの可能性について今後詳細な調査・検討を行う予定である」 と、この報告書を作成した(株)アイエヌエー(INA)は、新しい業務委託事業をこの中で予約しているというとんでもない報告書です。
 こういった報告が作成されている状態では、今後、辰巳ダムに関連してどれだけの事業費が膨らむかわかりません。コンサルタント業者から別事業としての追加工事の必要性が次々に報告されて、歯止めがありません。
 《参考》15倍にふくれあがったダム建設費
 大滝ダムは約40年かかって完成。当初の建設予算は230億円
(辰巳ダムは240億円)。その後5回にわたって予算を増額し、現在は3480億円と約15倍になった。地すべり対策費がこれから増額されれば、最終的にいくらになるのか見当がつかず、地すべり対策がもし不可能なら、このダムには水をためることができず、巨大なコンクリートの廃墟と化す。◆詳細は「環境会議通信」のレポート

【市民による鴛原の地すべり調査】
 去る5月29日、奈良県の大滝ダムの地すべり問題を調査した国土問題研究会の奥西一夫理事長〔京都大学名誉教授・災害地形学〕ほか3名が、辰巳ダムでの地すべり調査で来沢。辰巳の会、ナギの会、犀川の河川整備を考える会、いしかわ自治体問題研究所が共催して市民による地すべり調査を行いました。
 瀬領では、対岸の鴛原の斜面全体を観察。鴛原では斜面の末端に立つ北電の鉄塔下で、周辺で崩壊が進む様子を視認。また地すべりの最上部まで移動し、地すべり特有の水の流れやため池の確認、盆地状の山相、弓なりに曲がった樹木の様子を確認し、現在でも地すべりが続いている実感を持つことができました。
 現地から戻り、報告・交流会が行われ、大滝ダムと辰巳ダムの地すべりについて様々な情報交換があり、新辰巳ダムは決して環境に優しいものではなく、逆に危険性もあり環境へダメージはこれまでのダムより大きい面もある、との指摘がありました。

【北電の鉄塔と30年間で進んだ地崩れ】
 昭和51年の地質調査時の地図で鴛原地区は、北電の鉄塔周辺の平地は鉄塔より10〜20mほど川の方に広いことがわかります。つまり30年の間に平地が10〜20m地崩れで後退したことがわかります。現在この鉄塔の基礎の壁(鉄塔敷地ののり面保護擁壁の基礎面)がむき出しです。対岸の瀬領から川面まで降りて鉄塔下斜面を見ると、崖崩れの様子がよく分かります。
《追加情報》
北電の鉄塔が危ない/写真解説 pdf 2.9MB=A4

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【穴あきダムの本質的な欠陥】
 これまで様々な取組みや資料収集から、新辰巳ダムの問題点を箇条書きしておきます。
@新辰巳ダムの水面変動は周辺斜面の地崩れをひきおこす。
A既にある鴛原の超大規模地すべりを引き起こす危険。
Bダム上流部では、中小洪水で貯留し冠水する地域の小動物を殺戮する
Cダム下流部では、中小洪水を消滅させ、犀川そのものを激変させる。
D辰巳ダムと切り離された無駄な支出が際限なく続けられる。
E県はウソをついてまで強引に辰巳ダムをすすめている。

以上、地すべり問題を中心に、取り急ぎの報告です。
なお、この大規模地すべりについて現地視察の要望があれば連絡下さい。 (渡辺 寛 kananabe@popolo.org


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