知事への新辰巳ダム凍結の申し入れ


掲載 2005.10.1

中 登史紀さん代表の、犀川水系の河川整備を考える会が
次の申入書を知事へ提出した(HTML版)。(ワード版はこちらへ)

平成17年9月28日
谷本正憲 石川県知事 殿

新構想辰巳ダム事業の即時凍結の申し入れ書
無意味なダムで辰巳の自然環境と辰巳用水取水口の景観を
破壊した知事として後世に名を残さないように進言する!

 辰巳ダム事業は、昭和50年に調査開始、昭和58年に犀川治水計画に基づく着手、平成2年(1990)に犀川の工事実施基本計画による着手という経過を経てきた。平成9年の河川法の改正ならびに、平成11年の「住民と県との意見交換会」、公共事業評価監視委員会での審議と付帯意見答申などが契機となり、辰巳ダム事業見直しが進められた。平成14年10月からは学識経験者等による「犀川水系河川整備検討委員会」の審議の後の基本方針(案)作成、さらに平成15年12月からは「犀川水系流域委員会」の審議の後の整備計画(案)作成、本年平成17年、最終的な整備計画にもとづき、辰巳ダム新構想がまとめられた。

 この間、筆者も傍聴し、検討資料を検討し、度々、意見を申し入れてきた。検討段階での計画について明確にその姿を把握することができない点も多々あった。新機軸となる考えの提示もあり、筆者はその評価に時間を要した。県河川課の提示した計画の全容となる情報も入手したので精査の上、筆者の評価を加えた。

 治水、利水いずれに関してもすでに必要不可欠な水準を満たしており、辰巳ダム建設の緊急性、必要性は全く見当たらない。石川県知事は、税の無駄使いは中止し、早急に事業を凍結するべきである。さらに、辰巳ダム計画が足かせとなり、金沢市全体の治水の考えがいびつになっている。事業の賛否を自由に議論できる公開討論会、従来の固定観念にとらわれない、客観的な判断ができる有識者も含めた審議会を実施し、浅野川、犀川の支川を含め、金沢市全体の治水を議論した上で、辰巳ダム計画を廃止し、均衡のとれた治水計画を再作成するべきである。

新構想辰巳ダムについて
 辰巳ダムは治水、利水目的で計画されているが、治水に関しては
「有史以来発生したことの無いような、過大な想定洪水量である!
  ――犀川大橋地点の想定洪水は第二室戸台風と平成10年の台風7号が同時に襲来しても溢れない水準に達している――」、
利水に関しては、
「すでに水余り、ダムで水開発する必要はない!
  ――犀川大橋下流で水が枯れるのは、余分な水をかんがい用水路へ流しているからで役目を終えたかんがい用水を川へもどせば水流が回復する――」
 である。

 ちなみに、辰巳ダムに関して筆者が検討した、犀川の河川整備関係文書は、以下のとおりである。
「犀川水系河川整備検討委員会」の議事録とその検討添付資料
「犀川水系河川整備基本方針(案)」平成16年7月
「犀川水系流域委員会」の議事録とその検討資料
「犀川水系河川整備計画(案)」(流域委員会資料)
「犀川総合開発事業(辰巳ダム建設)犀川水系河川整備計画検討業務委託報告書」2004-11(株)アイエヌエー(以後「報告書」と呼ぶ。)

二つの根本的な誤り
1 有史以来発生したことの無いような、過大な想定洪水量である!
――犀川大橋地点の想定洪水は第二室戸台風と平成10年の台風7号が同時に襲来しても溢れない水準に達している――

(1) 現在の犀川の河川水準
 昭和36年第二室戸台風襲来時、700±50m3/秒の出水があり、犀川大橋基準点の直上流右岸付近で氾濫した。当時の犀川大橋基準点の流下能力は615m3/秒程度であった。昭和40年度の犀川ダム完成後、930m3/秒、内川ダムと河川改修が完成した昭和53年以降、1600m3/秒と想定洪水(基本高水ピーク流量)が二度にわたり著しく拡大された。河川整備の変遷を図F1に示す。同様に浅野川の変遷を図F2に示す。犀川・浅野川の河川整備水準(想定洪水)の推移を棒グラフで表示すると図F3のとおりである。

(2) 想定洪水(基本高水ピーク流量)1750m3/秒と石川県河川課は主張「犀川水系河川整備基本方針」(平成16年)の想定洪水について概要は以下のようなものである。
 「1/100確率の降雨時の犀川大橋基準点の基本高水流量は1750m3/秒となる。既存の2ダムで洪水調整しても1460m3/秒となり、犀川大橋基準点の流下能力1230m3/秒を230m3/秒超過する。この不足を補い、安全に流下させて洪水を防止し、金沢市民の生命と財産を守るために"辰巳ダム"が必要である。」

(3) 過去の洪水量との比較
 過去100年間の大洪水は、大正11年の大橋陥没洪水、昭和8年の前線豪雨、昭和36年の第二室戸台風、平成10年の台風7号である。犀川大橋基準点の洪水量は、昭和8年の前線豪雨930m3/秒、第二室戸台風は700±50m3/秒、平成10年台風7号842m3/秒である。大正11年の洪水量は不確かであるが、昭和8年洪水よりも小さいと評価されており、20世紀の最大規模の洪水は昭和8年の洪水930m3/秒である。犀川の河川整備水準(想定洪水)の推移と過去の洪水量の比較を図F4に示す。いずれの洪水も想定洪水を大きく下回っている。

(4) 浅野川との比較
 犀川と平行して河川整備が進められてきた浅野川についても、犀川と同様に過去の洪水と河川整備水準(想定洪水)の推移の比較を図F5に示す。
 犀川、浅野川の想定洪水に対する過去の洪水量の比率を比較して、両河川の治水の安全性を比較してみると、図F6のようになる。浅野川では、過去の洪水は想定洪水の52〜81%である。犀川では、過去の洪水は想定洪水の44〜58%である。浅野川に比べ、犀川の方がかなり治水の安全性は高い。県は浅野川の治水安全度1/100をほぼ概成していると説明しており、浅野川が十分に安全であるならば、それ以上に犀川の治水安全度は高い。
 ところが、県河川課の評価はこれと異なり、浅野川の治水安全度1/100をほぼ概成している一方、犀川の治水安全度は1/2〜1/40程度であると評価している。新辰巳ダムを造り、さらに水準をあげなければ1/100確率の計画規模にならないと県河川課は説明する。

(5)「犀川では幸いなことにこれまで大洪水が出る降り方をしていない」
 過去の洪水と基本高水流量が著しく違うという指摘に対する学識経験者の答えである。県河川課の委嘱を受けた、河川工学の学識経験者による犀川水系河川整備検討委員会河川計画専門部会は、「(基本高水流量と既往の洪水量の)差はあるがこれは、幸いなことにこれまで大洪水が出る降り方をしていないためと判断した。」と結論づけた。科学的な根拠なく、議論するのは科学者ではなく、予言者である。2日雨量314mmの雨が平成7年8月30日型の降雨パターンであれば、基本高水ピーク流量は1750m3/秒になるとしたがつぎの理由により誤りである。

(6) 解析の誤り
 県河川課は、33降雨のうち地域分布や時間分布が異常なものを棄却して24降雨波形を選び出した。1/100の計画対象降雨に対する流出流量は547〜1741m3/秒まで分布している。このうちのピーク流量が最大となるもの(平成7年8月30日型)を「1/100確率の基本高水ピーク流量」と決定した。平成7年8月30日型降雨は2日雨量157mm、実際の出水量は210m3/秒と小さなものである。言い換えると、「平成7年8月30日に2日雨量157mmの小さな雨があった。だから、将来降るであろう1/100確率の豪雨は平成7年8月30日型になる」である。何の科学的因果関係も無いことは誰にでもわかる。

 このような決め方をした場合の確率は1/100ではない。2日雨量314mmは1/100確率であるが、314mmの雨が降り、同時にこの雨が平成7年8月30日型降雨波形となる確率は、単純に考えて1/100×1/24=1/2400となる。有史以来発生したことの無い洪水であると、筆者が主張する所以である。当初、想定していた1/100確率ではなくなるので「解析の誤り」である。
この決定法は、「河川砂防技術基準」の統計的手法である「カバー率」の考え方をとらず、恣意的に決定したものである。(図F7)「河川砂防技術基準」の考え方に従い、統計的な考えにもとづいて24降雨波形からカバー率50%値を選択すると、基本高水ピーク流量は946m3/秒となる。過去100年間の最大洪水量にほぼ匹敵する。(図F8)
(ちなみに、将来の1/100確率の豪雨があった場合に平成7年8月30日型降雨となり流量1750m3/秒になると決めたが、仮に平成9年7月8日型を採用すれば、547m3/秒となる。平成7年8月30日型の1741m3/秒と1194m3/秒の差がある。この差は治水ダム3ないしは4個分に匹敵する。)


2 すでに水余り、ダムで水開発する必要はない!
――犀川大橋下流で水が枯れるのは、余分な水をかんがい用水路へ流しているからで役目を終えたかんがい用水を川へもどせば水流が回復する――

(1) 毎年の渇水
 犀川大橋基準点下流の区間で毎年のように水量がゼロとなり、川が干上がることが常態になっている。特に、平成6年の夏は6月から9月にかけて約4ヶ月間水量がほとんどゼロであった。近年では、昭和60年、昭和58年、昭和53年、昭和48年などが渇水年であり、上水の給水制限や農業用水の取水制限などが発生したと県河川課は説明する。

(2) 水余り
 上記のような事実がありながら、犀川ダム、内川ダムで開発された工業用水、上水道用水、かんがい用水はすべて水余り状態である。犀川ダムで開発した工業用水0.46m3/秒は、40年間一滴も利用していない。犀川/内川ダムで開発された上水道用水2.52m3/秒のうち、使用されているのは、1.11m3/秒程度である。かんがい用水は、従来約6m3/秒使用していたが、実態をふまえた県河川課の見直しでは、3.71m3/秒であり、約2m3/秒の余剰が発生している。余剰を合計すれば約4m3/秒にもなる。

 また、過去70年間の最大級の渇水である平成6年(県河川課の解析では1/30確率)時においても犀川/内川ダムは空にならなかった。最も少なくなった時点のダム貯水量は両ダムあわせて287万m3(全利水ダム貯水量1225万m3の23%)であった。かんがい被害はほとんどなく、上水の給水制限もなかった。
県河川課は今回の見直しで、干上がった川に河川維持流量1.19m3/秒を確保するために新辰巳ダムが必要と主張する。一体、水が余っているのか、水が足りないのか、どうなのであろうか?

 犀川の水利用のない段階から、順を追って水の流れを模式的に表したものが図W1である。水利用を自然流量+開発流量と需要流量に分けて経時的に比較したものが図W2である。

(3) 犀川の自然流量
 水利用のない自然状態の段階において、犀川大橋基準点の自然流量は、どれほどだろうか。一般的に、渇水時の流量は「渇水流量」として表現されるが、「1年を通じて355日はこれを下まわらない水量」であり、年間10日はこれより少なくなる。「報告書」のデータをもとに犀川大橋基準点の渇水量を計算するとつぎのようになる。
30年間の平均渇水時流量 3.48m3/秒
  1/10確率渇水時流量時には、2.16m3/秒である。
 平均渇水時流量3.48m3/秒をかんがい用水として水利用できる限界の流量と考えてよいだろう。河川法以前の慣行水利権量を合計するとほぼ一致する。

(4) 全量をかんがい利用
 全量をかんがい利用していた犀川ダム以前の段階では、7月から8月にかけての渇水時のかんがい用水量5.65〜6.05m3/秒である。かんがい補水ポンプが20ヶ所あり、揚水量は1.86m3/秒であり、平均渇水量3.48m3/秒に加えると5.34m3/秒となる。つまり、平均渇水量に対する不足量は補水ポンプでほぼまかなうことはできるが、1/10確率の渇水に対しては番水などの流量調整をしても水不足に悩まされたであろう。

(5) 現在の状態
 昭和40年度、昭和49年度にそれぞれ犀川ダム、内川ダムが築造された。犀川ダムで開発された流量は1.63m3/秒、内川ダムで開発された流量は1.39m3/秒、合計3.02m3/秒である。犀川の自然流量3.96m3/秒(ダムの貯水容量による流量均等化効果により底上げされた数値)を加えると6.98m3/秒となる。
 現在の犀川における水需要量は、かんがい用水5.65〜6.05m3/秒、上水道用水1.11m3/秒、合計6.76〜7.16m3/秒である。水需要量は自然流量に開発流量を加えた流量にほぼ一致する。全量利用され、犀川大橋基準点下流でやはり水は無くなる。

(6) 今回の県河川課の見直し
県河川課の主張は、「現在の状態は渇水安全度1/3だ。30年間の間にダムの貯留量不足の年が8回もある。ダムを造ってダム貯留量を増やす必要がある。したがって新規にダムを建設して貯留容量を確保する必要である。新規のダムで105万m3を確保し、河川維持用水のためのダム貯留容量を362万m3とすることで、河川維持流量1.19m3/秒を確保することができる。」である。県河川課の想定した需要流量は、7.42m3/秒(かんがい用水3.71m3/秒(環境用水を含む)、上水道用水2.52m3/秒、河川維持流量1.19m3/秒)である。

 県河川課はかんがい用水を実態にあわせて見直し、3.71m3/秒とした。ところが上水については従来の2.52m3/秒を見直していない。実際の上水の水利用は1.11m3/秒である。将来とも大きくなる兆候はない。この余剰分を活用すれば、河川維持流量1.19m3/秒を確保することができる。
 正しくは、現実に河川維持流量が確保されている。かんがい用水、上水、河川維持流量をあわせると6.01m3/秒である。これに対して自然流量を加えた開発済み流量は6.98m3/秒である。

 すでに確保されていながら、犀川大橋地点の下流で川が干上がるのはつぎの理由による。ダムは下流での使用の如何にかかわらず、決められた量をダム操作規則に基づいて放流している。自然流量を含めて6.98m3/秒が流れており、うち利用されているのは上水1.11m3/秒、残りの5.87m3/秒は下流へ流れる。流れる水にかんがい用水、上水、工水の区別はない。下流の各かんがい用水取水地点では決められた量を正確にコントロールして取水しているわけではなく、最大取水量の約8m3/秒まで川に流水があれば自然にかんがい用水路へ流れ込んでいく。上水、工水の余剰分で河川維持流量が確保されていながら、下流へ流れていかないのである。
 現状でも0.97m3/秒の余剰があり、新辰巳ダムで新たに水を開発する必要はない。

(7) 将来の姿
 将来の犀川における水需要量は、環境用水1.79m3/秒(かんがい用水含む)、上水道用水1.11m3/秒、河川維持流量1.19m3の合計4.09m3/秒である。上水の1.11m3/秒をダム開発流量でまかなえば、河川維持流量、環境用水は自然流量3.96m3/秒でまかなうことができる。

(8) 役目を終えたかんがい用水を川へもどせば水流が回復する
 従来、犀川の自然流水は全量、かんがいに利用されていたので、夏場、犀川大橋下流は流水が無くなり、枯れるのが常態であった。かんがい面積が減少し、余剰が発生したかんがい用水を河川に戻せば、再び河川流水が回復する。
犀川の場合、犀川の下流に田を約1800ha開発して夏場の渇水となる8月においても、約6m3/秒のかんがい水利用をしてきた。市街地化の進行にともない、田が宅地に変わり、かんがい面積は約600haに減少した。田が市街地に変われば、水のかんがい利用の役目は終わり、また、川へ戻されるのが自然のなりゆきである。これによって徐々にもとの河川が復元される。

追記-1 ダムによる河川維持流量/環境用水の開発は根本的に誤り
 河川維持流量や用水路の環境用水は環境改善あるいは環境回復のためのもので、仮にこのための必要水量をダムで開発することになれば自己矛盾である。ダムで上流の自然環境を破壊して、下流の自然環境を復活させることを意味するからである。

 河川維持流量を確保し、河川環境を整備、改善して達成を目指すところは、元の姿の川とは関係なく、人工の川をつくることではない。元の自然の川の復元であるはずである。河川維持流量や環境水は自然流水の範囲内で行うべきである。

 一方、用水路は人工的に造られたものであり、年間を通じて用水を確保し、景観や動植物の生息環境の改善をするために、人工的に確保した水を使うことは論理的に矛盾しないだろう。しかし、その必要性、緊急性から勘案してダムを築造してまで開発するべきものではないと考える。水利用の余剰を活用して実現するべきものである。

追記-2 河川維持流量/環境用水の利水安全度1/10は過剰
 河川維持流量1.19m3/秒、用水路の環境用水1.79m3/秒をあわせると、計2.98m3/秒 となる。30年間の平均渇水時流量は3.48m3/秒であるが、1/10確率の渇水時流量は2.16m3/秒であり、環境用水と河川維持流量を確保することは厳しいという結果になる。確保するにはダムによる水開発が必要と言うことになる。

 犀川の場合、降雨も多く、流域の森林も保全されており、流水の豊富な河川である。このような川で河川維持用水や環境用水を確保するために、ダムが必要ということになれば、目標値が高すぎるといわざるを得ない。
 犀川の河川維持流量1.19m3/秒、用水路の環境用水1.79m3/秒は、動植物の生息環境の整備や景観を理由に決めた数値である。住民の生活に直接悪影響を及ぼすようなものでない。上水やかんがい用水のように住民の生活に悪影響が直接およぶような利水と同じように利水安全度を1/10と決めるのは過剰である。
 1/10確率の渇水の時にも用水路の環境用水や河川維持用水の確保する必要性や緊急性は少ない。